Eurosurveillanceからの大腸菌O104関連情報
http://www.eurosurveillance.org/Default.aspx


2011年5月初旬からドイツで発生中の大規模な溶血性尿毒症症候群アウトブレイク
LARGE AND ONGOING OUTBREAK OF HAEMOLYTIC URAEMIC SYNDROME, GERMANY, MAY 2011
Eurosurveillance, Volume 16, Issue 21, 26 May 2011
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19878

(食品安全情報2011年11号(2011/6/1)収載)
 2011年5月初旬以降、ドイツで非常に多数の溶血性尿毒症症候群(HUS: haemolytic uraemic syndrome)患者が報告されている。本報告は、このアウトブレイクについての調査の5月26日付け暫定結果である。

アウトブレイクの概要

 表は、地域の保健所に届出があり、その後、各連邦州からロベルト・コッホ研究所(RKI: Robert Koch Institute)に報告された疑い例を含むHUS患者の数である。疑い例は通常、数日後にHUSの典型的な臨床像に進行する。

 表:2011年5月2日以降に下痢症を発症したHUS患者(疑い患者を含む)の数(ドイツ、n=214)

 これまでに判明したHUS患者214人の下痢症の発症日は2011年5月2〜24日であった。患者119人(56%)が北部の4連邦州から報告された(ハンブルク都市州、シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州、ニーダーザクセン州およびブレーメン都市州)。累積発生率が高かったのはハンブルクとブレーメン都市州であった。ヘッセン州で発生した患者31人は、会社や福祉施設の食堂向けに食品を提供する業者と関連しており、サテライトアウトブレイクの患者であると考えられた。

 地理的集積以外に、患者の年齢と性別にも特徴がみられ、214人のうち186人(87%)が18歳以上(ほとんどが若年〜中年)で、146人(68%)が女性であった。2006〜2010年のHUS患者についての届出データによると、成人の割合は毎年1.5〜10%であり、患者数は男女間で差がなかった。

 欧州の他の国からも本アウトブレイクに関連した複数の患者が報告された。2011年5月25日、欧州早期警告・対応システム(EWRS: European Warning and Response System)を介してスウェーデンからHUS患者9人が報告された。このうち4人は5月8〜10日に30人のグループの一員としてドイツ北部を訪れていた。デンマークは志賀毒素産生性大腸菌(STEC: Shiga toxin-producing Escherichia coli)感染患者4人を報告し、このうち2人がHUSを発症していた。患者4人全員が最近ドイツ北部を訪れていた。当該期間にドイツ北部へ旅行しHUSを発症した患者が更に2人おり、それらはオランダ人と英国人であった。

 2011年5月26日までにドイツのHUS患者2人が死亡した(2人とも女性、年齢は80歳代と20歳代)。

微生物学的調査

 RKIによる調査でヘッセン州およびブレーマーハーフェン市(Bremerhaven)の患者2人から、志賀毒素2型(vtx2a)産生、インチミン(eae)陰性、enterohaemolysin(hly)陰性の大腸菌血清型O104が分離された。この分離株は、CTX-M型の基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)を産生することにより第三世代セファロスポリンに対し高度の耐性を示し、またトリメトプリム/スルホンアミドやテトラサイクリンをはじめ広範な抗菌剤に対し耐性を示した。さらにMuenster、Paderborn、ハンブルクおよびフランクフルトで分離された13株がMuenster大学病院のHUS関連検査施設で分析され、これらは全て塩基配列型がST678(stx1-stx2+eae-、フラジェリン遺伝子flicH4)で、HUSEC 41グループに属し、O104血清型を示す大腸菌であった。

感染源の調査

 多くの人が突然発症していること、患者の地理的、人口統計学的な分布および患者への初期の聞き取り調査の結果からSTECに汚染された食品からの感染が示唆された。これまでのSTECアウトブレイクで原因食品とされることが多かった生乳や生肉は今回のアウトブレイクには関与していないと考えられる。RKIおよびハンブルク市の保健当局による症例対照研究の予備的な解析結果から、疾患と生トマト、キュウリ、および葉物野菜のサラダの喫食との有意な関連が示された。この症例対照研究では2011年5月9〜25日に発症した入院患者25人(HUS患者20人と検査機関でSTEC感染が確認された血便患者5人)について、発症の前週の喫食歴を調査した。年齢、性別および居住地で症例とマッチさせた対照96人については聞き取りの前週の喫食歴を調査した。喫食調査の対象とした食品は過去のHUS患者の詳細な聞き取り調査で頻繁に取り上げられたものとした。上述したそれぞれの食品の喫食を症例群の約90%、対照群の約60%が回答し、オッズ比は約4〜7で全て統計的に有意であった。しかし、上記以外の食品が感染源である可能性や、上記に加えて別の食品も感染源である可能性がある。本症例対照研究はハンブルクの患者のみを対象として行われたことから、その結果をドイツ全体に必ずしも適用できない。

 これまでに得られた知見にもとづき、疑いのある食品の追跡調査が進行中である。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部