欧州食品安全機関(EFSA)からの大腸菌O104関連情報
http://www.efsa.europa.eu/


欧州で発生した志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O104:H4感染アウトブレイク
Shiga toxin-producing E. coli (STEC) O104:H4 2011 outbreaks in Europe: Taking Stock
EFSA Journal 2011;9(10):2390 [22 pp.]
Published: 3 October 2011, Approved: 16 September 2011
http://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/2390.htm

(食品安全情報2011年21号(2011/10/19)収載)

 2011年5月21日、ドイツ政府は、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O104:H4感染アウトブレイクの発生を報告した。このアウトブレイクに関連し、7月27日時点でSTEC O104:H4感染による下痢症患者(可能性および確定)3,126人(うち死亡者17人)がEU内(ノルウェーを含む)から欧州疾病予防管理センター(ECDC)に報告された。また、EU内で溶血性尿毒症症候群(HUS)患者773人(うち死亡者29人)も報告された。本報告書の作成時点で、このアウトブレイクに関連して、さらに119人の疑い患者(うち死亡者4人)がいる。また、国際保健規則(IHR)を介して、EU外のSTEC患者8人およびHUS患者5人(うち死亡者1人)が米国、カナダおよびスイスから報告されており、全員が発症前にドイツに旅行していた。最新の情報(2011年7月26日)によると、ドイツのアウトブレイク関連の最後の患者の発症日は7月4日であった。

 ドイツでアウトブレイクが発生してまもなく、ロベルト・コッホ研究所(RKI)が症例対照研究を行い、患者と生鮮サラダ野菜の喫食に統計的に有意な関連があることを示した。成人女性の患者の割合が高いことも、生鮮サラダ野菜が感染源であることに合致した。その後の詳細なコホート研究により、スプラウトとの関連が明らかになった。

 前向きおよび後ろ向きの調査により、患者の大部分および詳細な食品喫食データが得られた患者全員について、ドイツの1生産業者が栽培したスプラウトの喫食が原因である可能性が示された。生産場所の調査では、環境汚染のエビデンスは得られなかった。従業員の中に何人かの感染者がいたが、アウトブレイク前に発症していたとの報告はなかったことから、従業員は汚染源ではないとされた。これらの情報から、最も疑いの強い感染源はスプラウトの生産に使用された種子であると考えられた。しかし、スプラウトの生産には数種類のスプラウトの種子の混合製品が使用されていたため、単一の種類の種子を特定することはできなかった。

 フランス当局は、ボルドー近郊のBèglesでの行事(6月8日)参加後に出血性下痢症を発症した患者集団がいる旨を、6月24日に食品および飼料に関する早期警告システム(RASFF)に報告した。本報告書作成時点で、STECの確定患者2人とHUS患者9人がECDCに報告され、HUSを発症していない疑い患者が他に4人存在した。このうち11人(女性7人、男性4人)は年齢が31〜64歳でこの同じ行事に参加していた。患者15人中12人で大腸菌O104:H4感染が確認された。このフランスのアウトブレイクでも、疫学調査により原因食品としてスプラウトの関与が指摘された。

 ドイツとフランスのアウトブレイクで分離された大腸菌O104:H4株は、表現型および遺伝子型が同じであった。このため、両国のアウトブレイクの原因株は同じで、汚染源が共通であると考えられた。

 両国のアウトブレイクの追跡調査により、フェヌグリーク種子が2つのアウトブレイクにおいて共通であることが判明した。種子に関する追跡情報の比較により、エジプトから輸入された特定のロットのフェヌグリーク種子がアウトブレイクと最も関連が強いとの結論に至った。ただし、同じ業者が輸入した他のロットが関与していた可能性も除外できなかった。

 RASFFを介して前向きおよび後ろ向き調査のデータが交換され、加盟各国および欧州の各機関は最新の情報を入手することができた。

 種子の汚染源や汚染経路は現在も不明である。しかし、EU内の疫学調査、微生物調査、過去のスプラウト関連のアウトブレイクの調査結果によれば、種子の生産時に汚染が発生した可能性が高い。このため、調査をEUへの輸入後だけでなく生産地域へ拡大する必要がある。

 欧州に限らず世界的にみてもSTEC O104感染患者は非常に少ないため、データが少ない。ECDCの情報によると、2004〜2010年のEU加盟国およびノルウェーのSTEC O104感染患者は10人で、国ごとの内訳はオーストリア(2010年に1人)、ベルギー(2008年に1人)、デンマーク(2008年に1人)、フィンランド(2010年に1人)、フランス(2004年に1人)、ノルウェー(2006年に1人、2009年に3人)およびスウェーデン(2010年に1人)である。また、2009年にイタリアで発生した小児のHUS患者1人がSTEC O104に関連していることがわかったため、STEC O104感染患者は合計11人である。

 2004〜2010年の患者10人中5人はEU外への旅行に関連しており、感染した国はアフガニスタン(2008年)、エジプト(2010年)、チュニジア(2009年、2010年)およびトルコ(2009年)であった。これらの患者から分離されたSTEC O104株のうち血清型O104:H4は3株のみであった(2010年のフィンランド、2009年のイタリア、2004年のフランス)。イタリアおよびフィンランドで分離されたSTEC O104:H4株は両者とも腸管凝集付着性の遺伝子マーカーが陽性であったが、2011年の流行株と異なり、基質特異性拡張型βラクタマーゼの産生は陰性であった。フィンランドの患者は旅行関連でエジプトで感染し、イタリアの患者は発症前にチュニジアへの旅行歴があった。フランスの患者の感染源の由来は報告されなかった。

 ECDCに報告された患者のほか、文献には2001年にドイツで2回、2005年に韓国で1回、STEC O104:H4が分離されたことが報告されている。ドイツの株は2011年のアウトブレイク株と異なっていた。

 疑われたフェヌグリーク種子のいずれのバッチからも大腸菌O104:H4は分離されなかったが、これは予想外のことではない。汚染されている種子が検体採取時に残っていない場合や、汚染が低レベルで検出不可能な場合がある。しかし、検出されなかったことは、種子およびスプラウトに腸内細菌が存在しなかったことを示すものではない。これまでの研究で、腸内細菌が植物の組織表面および内部に存在しうることが示されている(一次生産時に汚染水で灌漑したり、処理が適切でなく腸内細菌が残存している有機肥料を使用した場合等)。食品中で病因物質が不均一に分布して汚染が低レベルの部分がある場合もあり、検査機関での検査結果が陰性となっても病因物質が存在しないことの証明にはならない。このことは、種子のように粒子状の食品の場合、粒子が個別に汚染されて大量のロット中に拡散するため特に重要である。また、病因物質の生残または増殖に有利な物理化学的条件が食品中で均一でない場合もある。

 生鮮スプラウトの調理に、菌が死滅するような過程はほとんど含まれていない。生鮮スプラウトは、そのまま喫食可能(ready-to-eat)な食品、または最小限の調理で喫食可能な食品として販売されているという理解のもとに調理される。生鮮農産物に関しては、その生産過程で汚染が防止され、また汚染された場合はそれを検出できると想定されている。今回のケースでは、これらの想定が満たされていなかったことが証明された。検体採取や細菌検査法でSTEC O104:H4やサルモネラ属菌のような病因物質を検出できない可能性があることから、適正な生産や取り扱い規範の重要性が強調される。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部