欧州疾病予防管理センター(ECDC)からの大腸菌O104関連情報
http://www.ecdc.europa.eu/


ドイツの大腸菌(STEC)アウトブレイクのリスク評価
Risk assessment on Escherichia coli (STEC) outbreak in Germany
27 MAY 2011
http://ecdc.europa.eu/en/press/news/Lists/News/ECDC_DispForm.aspx?List=32e43ee8%2De230%2D4424%2Da783%2D85742124029a&ID=435&RootFolder=%2Fen%2Fpress%2Fnews%2FLists%2FNews

(報告書PDF)
http://www.ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/1105_TER_Risk_assessment_EColi.pdf

(食品安全情報2011年11号(2011/6/1)収載)

 欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、溶血性尿毒症症候群(HUS:haemolytic uremic syndrome)および出血性下痢を伴う志賀毒素産生性大腸菌(STEC)感染患者がドイツ国内で異常に増加していることを受け、迅速なリスク評価(rapid risk assessment)を行った。

 2011年5月22日、ドイツ当局はSTECによるHUSおよび出血性下痢患者数の有意な増加に関する報告を欧州早期警告・対応システム(EWRS)に掲載した。5月24日、疫学情報共有システム(EPIS)を通じて緊急調査が開始された。

 5月27日、ドイツ当局は4月25日以降のHUS報告患者数を更新し、276人とした。HUS患者は通常5歳未満の小児で観察されるが、本アウトブレイクでは87%が成人で、女性(68%)の比率が高かった。また、学齢期の小児患者も報告された。HUSを発症した患者2人が死亡した。直近の報告患者の発症日は5月25日であった。新規患者の報告は続いている。

 検査機関が実施した患者検体の検査で、O104:H4(Stx2陽性、eae陰性)のSTEC株が分離された。ドイツでの研究ではeae陰性STEC株は一般的に小児より成人に多く感染することが示されている。HesseおよびBremerhavenの患者から分離された2つの分離株は、第三世代セファロスポリンに高度の耐性があり(ESBL)、トリメトプリム/スルホンアミドおよびテトラサイクリン耐性であることが示された。

 患者の大多数はドイツ北部(主にHamburg、Northern Lower Saxony、Schleswig-Holstein)の人またはこれらの地域に旅行した人であった。患者クラスターがHesseから報告され、カフェテリアに食品を提供するケータリング業者に関連していた。これらはサテライトアウトブレイクである可能性が高い。

 アウトブレイクの感染源はまだ特定されておらず、調査が続けられている。ドイツの保健当局は、疫学情報(年齢、地理的分布など)にもとづき、汚染食品がアウトブレイクの感染源である可能性を疑っている。現在は、生の野菜に焦点をあてた調査が進められている。ロベルト・コッホ研究所(RKI:Robert Koch Institute)およびHamburgの保健当局が実施した症例対照研究(症例25、対照96)の予備的結果から、生のトマト、生鮮キュウリおよびレタスの喫食と疾患との有意な関連が示唆された。現在継続中の本アウトブレイクは重篤な経過を伴う患者が多いことから、RKIおよびドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)はドイツ国民に対して、次の通知があるまで、特にドイツ北部地域において生のトマト、生鮮キュウリおよび葉物野菜サラダの喫食を避けるよう勧めている。通常の食品衛生対策は引き続き有効である。

 5月26日、Hamburgの保健・消費者保護当局は、スペイン産キュウリ2検体からSTECを検出した。ドイツおよびスペイン当局は連絡を取り合い、詳細な状況調査を進めている。

 「食品および水由来疾患・人獣共通感染症ネットワーク(Food- and Waterborne Diseases and Zoonoses network)」のEPISフォーラムを通じ、加盟10カ国(オーストリア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ポーランド、スロベニア)が、過去数週間のSTEC患者数の異常な増加は認められなかったことを確認した。

 スウェーデンはHUS患者10人を報告したが、これらの患者はすべて5月5〜15日にドイツ北部に旅行していた。10人のうち8人が検査機関で確定され、非O157およびStx2陽性およびeae陰性であった。分離株の1つはSTEC O104であった。

 その他の加盟国からもHUS患者が報告され、英国(2人)、デンマーク(3人)、オランダ(1人)であった。英国の患者1人からSTEC O104が確認された。英国で報告された患者は2人ともドイツ国籍であった。デンマークのHUS患者からはSTEC株が分離され、eae陰性およびStx1/Stx2陽性であった。デンマークの患者の1人はドイツ国籍であり、いずれの患者もドイツを訪れていた。オランダの患者は、発症3日前の5月15日にHamburgを訪問していた。

 現時点では、ドイツ以外のいずれのEU加盟国からも国内感染例は報告されていない。

 EU域内では2008年以降にSTEC O104患者が8人報告されており、国別の内訳はオーストリア(2010年、1人)、ベルギー(2008年、2人)、デンマーク(2008年、1人)、ノルウェー(2009年、3人)およびスウェーデン(2010年、1人)で、これらのうち3人は国外感染患者であった。また、2004〜2009年には、オーストリアおよびドイツで食品または動物からSTEC O104が検出された。しかし、今回検出されたSTEC O104:H4アウトブレイク株は世界でも報告がまれである。

 わずか数週間のうちにHUS患者が276人、HUSによる死亡が2人という今回のSTECアウトブレイクは特筆すべきものである。患者の多くは成人女性である。通常は、STECに感染した子どもの約15%がHUSを発症し、成人ではこの割合ははるかに低い。英国、デンマーク、スウェーデン、オランダなどドイツ国外でも、15人のHUS患者が報告されているが、いずれの患者もドイツ北部への旅行と関連している。症例定義が統一され、報告方法が整備されれば、数週間のうちにアウトブレイクの正確な規模が明らかになると考えられる。

 分離されたアウトブレイク株STEC O104:H4は非常にまれであり、今回のアウトブレイク以前には文献でわずか1症例あったのみである(韓国の女性1人、2005年)。

 Hamburgにおける症例対照研究で、生のトマト、生鮮キュウリおよびレタスが感染源である可能性が明らかになった。Hamburgで採取された生鮮キュウリの検体はSTEC陽性であったが、汚染の正確な時点と場所はまだ明らかになっていない。Hamburgでの結果がドイツ全体に外挿できるかどうかは不明であり、また、別の食品が感染源である可能性も除外できない。

 今回のSTECアウトブレイクは世界的にみても最も大きいSTEC/HUSアウトブレイクのひとつであり、ドイツではこれまで報告された最大のものである。患者の年齢や性別の分布は通常とは非常に異なっている。HUS患者や疑い例に関する報告は続いており、出血性下痢についての受診も増加していることから、感染源は今も存在していると推測される。

 現時点において、汚染食品がドイツ国外に流通しているとの証拠は未だにない。ドイツ国内で行っている詳細な調査は、感染源やリスクの範囲と規模の特定を目指している。

 ドイツ国内の居住者、または4月中旬/5月初旬以降にドイツに旅行した人について、今回のアウトブレイクに関連する可能性のある患者を迅速に特定することが、重症例の発生を防ぐにはきわめて重要である。人から人への暴露による二次的クラスター発生の可能性もあり、個人の衛生に関する注意喚起も重要である。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部