平成11年度 厚生科学研究費補助(生活安全総合事業)

分担研究報告書

チトクロームP450誘導能を指標とするin vitro毒性系の確立

分担研究者 横井 毅 (金沢大学 薬学部教授)

研究要旨

  環境内の内分泌かく乱物質の生体に及ぼす影響を調べることを目的に、ディーゼル排気粉塵抽出物のヒトチトクロームP450に及ぼす影響とそれらの代謝的活性化について検討した。ディーゼル排気粉塵(DEP)のベンゼン・エタノール抽出物(DEPE)と大気浮遊粉塵に検出される1-ニトロピレン(1-NP)、ジニトロピレン(DNP)、ニトロフルオランテン(NF)および6-ニトロクリセンを対象としてこれらの遺伝毒性を、ヒトチトクロームP450ファミリー1に属するP450酵素とP450還元酵素(NPR)との大腸菌を用いた共発現系を利用して調べた。3種のDEPEに、Salmonella typhimuriun TA1535/pSK1002に対する直接的なumu遺伝子発現作用が認められた。調べた4種のDEPEはさらにP450 1B1/NPRによって代謝的活性化された。DEPE-1と命名したサンプルは、P450 1B1/NPRの他に、P450 1A2/NPRによる活性化も認められたが、P450 1A1/NPRまたはNPRでは活性化されなかった。1-NPはP450 1B1/NPRによって強く活性化され、さらに1,8-DNPがP450 1A1/NPRと1B1/NPRに活性化されて最も高い値を示した。一方、1,3-DNPはP450 1A1/NPR、P450 1A2/NPRおよびP450 1B1/NPRによって不活性化されたが、NPRによってわずかに活性化反応を受けた。2-NFと3-NFはP450 1B1/NPRによって1-NPと同程度活性化されたが、6-ニトロクリセンの活性化は弱かった。見かけのDEPEの遺伝毒性はニトロアレン標準品と比較して弱かった。この理由のひとつとして、DEPEがヒトP450 1B1/NPRの阻害作用を示すことが示唆された。以上の結果から、近年発見されたヒトP450 1B1が、浮遊粉塵中に存在する化学物質、ディーゼル排気粉塵抽出物や、1-NP、1,6-DNP、1,8-DNP、2-NF、3-NFなどのニトロ芳香族炭化水素類の代謝的活性化に関与することが判明した。ニトロアレン類や大気汚染物質のヒトの肝外臓器、とくにP450 1B1が発現している組織に対する生体影響に関心が持たれる。

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