米国疾病対策センター(US CDC: Centers for Disease Control)からのノロウイルス関連情報
http://www.cdc.gov/


食品由来疾患患者、入院患者および死亡者の各種食品への帰因(attribution):アウトブレイクデータの使用による推定(米国、1998〜2008年)
Attribution of Foodborne Illnesses, Hospitalizations, and Deaths to Food Commodities by using Outbreak Data, United States, 1998-2008
Emerging Infectious Diseases, Volume 19, Number 3, March 2013

http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/19/3/pdfs/11-1866.pdf(PDF版)
http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/19/3/11-1866_article.htm

(食品安全情報2013年6号(2013/03/19)収載)

要旨

 米国では、主要な病因物質への国内での曝露により食品由来疾患の患者が毎年900万人以上発生すると推定されている。調査能力に限界があり、アウトブレイク以外の場合では各患者と特定の食品とを関連付けることはほとんど不可能なため、これら食品由来疾患すべての予防は困難である。そこで本研究では、単一品目の食品および複数の品目を含む食品によるアウトブレイクのデータを用いて、食品由来疾患の各品目への帰因(attribution)を推定する方法を考案した。1998〜2008年のアウトブレイク関連の患者数のデータを用い、17種類の品目のそれぞれに帰因し得る、年間の食品由来疾患患者数、入院患者数および死亡者数を推定した。患者の46%に生鮮農産物が関与しており、死亡者については家禽肉が他のどの品目よりも関与の程度が大きかった。

方法

○データソース

 州および地域の保健局は、食品由来疾患アウトブレイクサーベイランスシステム(FDOSS)を介して米国疾病予防管理センター(US CDC)に食品由来疾患アウトブレイクの情報を報告している。報告項目には、患者数、病因物質、媒介食品、その原材料、汚染された原材料などが含まれる。本研究では、原材料に関する詳細な報告が始まった1998年から2008年までに発生し、2010年10月までにCDCに報告された全アウトブレイクのレビューを行った。これらより本研究における解析の対象として媒介食品が特定された単一の病因物質によるアウトブレイクを選択した。

 1998〜2008年に米国では食品由来疾患アウトブレイクが計13,352件発生し、これに伴い患者271,974人が報告された。これらのうちのアウトブレイク4,887件(37%)およびその患者128,269人(47%)では病因物質が単一であり、媒介食品が特定された。しかし4,887件のうちの約300件については、媒介食品に関する情報が十分ではなく原材料の品目が不明だったので、以後の解析から除外した。

 媒介食品または病因物質が確定ではなく推定であるアウトブレイクを解析対象に含めた場合にはバイアスが生じる可能性がある。これを評価するために、モデルによる解析に推定のアウトブレイクも含めた患者数を用いた場合と、病因物質および媒介食品が確定したアウトブレイクの患者数のみを用いた場合とで、17品目のそれぞれについて疾患への関与の程度の順位を比較した。その結果、帰因された患者数が多かった上位8品目の順位は両者でほぼ同じであった(5位と6位の入れ替えのみ)。そこで、順位の低い品目に関する入手可能なデータ量を最大限にするため、推定のアウトブレイクも含めることにした。

 病因物質ごとの年間の国内曝露食品由来疾患患者数、同入院患者数、同死亡者数の推定値は、例外(化学物質、アニサキス)を除いて、すでに論文(Scallanら、Emerg Infect Dis. 2011;17:7-15)として発表された数値を用いた。化学物質、アニサキスについては現時点で入手可能なデータから推定した。

 今回、既知の主要な病因物質による推定で年間9,638,301人の患者、57,462人の入院患者、および1,451人の死亡者について、各食品(品目)への帰因を試みた。実際にはこのうち、アストロウイルス、ウシ結核菌、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)およびVibrio vulnificusによる食品由来疾患については、これらによるアウトブレイクが報告されていなかったことから各品目への帰因は行われなかった。これら4種類の病因物質はあわせて、上述の患者の1.1%、入院患者の8.1%および死亡者の25.2%に関連すると推定された(関連した死亡者のほとんどはトキソプラズマ症による)。

○食品の分類

 食品の分類として、水生動物(aquatic animal)性の3品目(魚、甲殻類、軟体動物)、陸生動物(land animal)性の6品目(乳製品、卵、牛肉、狩猟動物肉、豚肉、家禽肉)、植物(plant)性の8品目(穀類・豆類、油脂・砂糖(精製された植物性食品)、果物・ナッツ、キノコ、葉物野菜、根菜、発芽野菜、つる性・茎野菜(トマト等:vine-stalk vegetables))を定義した(図1)。アウトブレイク報告に含まれる原材料リストによるか、または原材料リストがない場合にはインターネット上のレシピを利用し、媒介食品を相互に独立した17品目のうちの1品目以上に分類した。一部の解析では品目をグループ化した。

 アップルジュース(果物・ナッツ品目)のように原材料が1品目の媒介食品を単一品目媒介食品(単一食品)と定義した。このカテゴリーにはフルーツサラダのように、原材料の種類が複数であってもそれらが1品目に該当する食品が含まれる。一方、アップルパイ(リンゴは果物・ナッツ、小麦粉は穀類・豆類、砂糖は油脂・砂糖、バターは乳製品)のように、2品目以上に該当する複数の原材料を含む媒介食品を複数品目媒介食品(複合食品)と定義した。水は原材料から除外した。

図1:食品の17品目への分類(斜体字は品目グループを表す)

○帰因の推定方法

 以下に示す3段階からなる方法により各品目への帰因を推定した。(1)各病因物質について、アウトブレイク関連患者の品目別の分布を求めた。具体的には、単一食品によるアウトブレイクの場合は、その全患者を単一の当該の品目に割り当てた。複合食品によるアウトブレイクでは、すべての単一食品によるアウトブレイクでの患者数の品目別分布に従い、患者数を複数の品目に分割して割り当てた。次に、以上により各品目に割り当てられた患者数を合計し、品目ごとの患者数の全患者数に占める割合を求めた。(2)病因物質ごとに、(1)で求めた品目別患者数割合を、当該病因物質による年間の全患者数、全入院患者数、および全死亡者数の推定値に乗じた。(3)最後に、特定の品目に帰因する患者数、入院患者数、および死亡者数の推定値のそれぞれについて、すべての病因物質の数値を合計した。このようにして得られた値を最確推定値(most probable estimate)とした。

結果

 最終データセットには、単一の病因物質に起因し、媒介食品が特定されたアウトブレイク4,589件が含まれ、関連の患者数は計120,321人で、病因物質は36種類であった。このうちノロウイルスが最も多くのアウトブレイク(1,419件)と患者(41,257人)の原因となっており、この件数および患者数は36種類の病因物質における中央値(29件、1,208人)を大幅に上回っていた。ウシ結核菌、Vibrio vulnificus 、アストロウイルスおよびトキソプラズマについてはアウトブレイクが報告されていなかった。複合食品を媒介食品とするアウトブレイクは2,239件(49%)で、それらの品目数の中央値は4品目であった(範囲は2〜13品目)。

 病因物質ごとに求めたアウトブレイク関連患者の品目別分布を年間960万人の推定患者に適用することにより、約490万人(約51%)が植物性品目に、約400万人(約42%)が陸生動物性品目に、また約60万人(約6%)が水性動物性品目に帰因された。生鮮農産物(produce)関連の品目(果物・ナッツ、および野菜関連の5品目)が患者の46%、食肉・家禽肉(meat-poultry)関連の品目(牛肉、狩猟動物肉、豚肉、家禽肉)が患者の22%に関与していた。品目別では、葉物野菜が他の品目に比べより多くの患者(210万人、23%)に関与していた。葉物野菜に帰因する推定患者数の上限値は下限値の何倍にもなっており(図2、パネルA)、葉物野菜が複合食品に含まれることが多いことを示している。葉物野菜に次いで帰因される患者数が多かった品目は、乳製品(130万人、14%)、果物・ナッツ(110万人、12%)および家禽肉(90万人、10%)であった。ノロウイルスは全推定患者の57%の原因となっていた。

図2:各食品(品目)に帰因された年間の食品由来疾患患者数(パネルA)、入院患者数(パネルB)、死亡者数(パネルC)の最確推定値(◆)、上限推定値(○)、および下限推定値(・)(米国、1998〜2008年)

 推定で年間26,000人(46%)の入院患者が陸生動物性品目に、24,000人(41%)が植物性品目に、そして3,000人(6%)が水生動物性品目に帰因された。生鮮農産物関連の品目が入院患者の38%、食肉・家禽肉関連の品目が22%に関与していた。品目別では、乳製品が最も多くの入院患者(16%)に関与し、次いで葉物野菜(14%)、家禽肉(12%)、つる性・茎野菜(10%)であった(図2、パネルB)。

 推定で年間629人(43%)の死亡者が陸生動物性品目に、363人(25%)が植物性品目に、そして94人(6%)が水生動物性品目に帰因された。食肉・家禽肉関連の品目が死亡者の29%、生鮮農産物関連の品目が23%に関与していた。品目別では、家禽肉が最も多くの死亡者(19%)に関与し、次いで乳製品(10%)、つる性・茎野菜(7%)、果物・ナッツ(6%)および葉物野菜(6%)であった(図2、パネルC)。家禽肉に帰因された死亡者278人のほとんどは、リステリア(Listeria monocytogenes)感染(63%)またはサルモネラ属菌感染(26%)が原因であった。

 細菌感染患者の多くは、乳製品(18%)、家禽肉(18%)および牛肉(13%)に帰因された。化学物質による患者の60%には、魚(ほとんどの場合、海産毒のシガトキシン(ciguatoxin)が病因物質)が関与していた。寄生虫感染の患者の多くは軟体動物(33%)および果物・ナッツ(29%)に帰因された。これは、単一食品(軟体動物)によるGiardia intestinalisのアウトブレイクが1件、また果物・ナッツによるクリプトスポリジウム属のアウトブレイクが1件発生したことを反映している。ウイルス感染患者の多くは、葉物野菜(35%)、果物・ナッツ(15%)および乳製品(12%)に帰因された。乳製品を単一食品とするノロウイルス感染アウトブレイク20件のうち14件(70%)はチーズ製品が媒介食品であった。

 植物性品目はあわせて、ウイルス感染患者の66%、細菌感染患者の32%、化学物質曝露患者の25%および寄生虫感染患者の30%に関与していた。セレウス菌、ボツリヌス菌、腸管毒素原性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)O157、O157以外のSTEC、Salmonella Javiana、S. Newport、サルモネラ属菌(Javiana、Newport、Enteritidis、Heidelberg、Typhimurium、Typhi以外の血清型)、Shigella属菌、マイコトキシン、化学物質(海産毒およびマイコトキシンを除く)、クリプトスポリジウム属、サイクロスポラ(Cyclospora cayetanensis)、A型肝炎ウイルス、ノロウイルスおよびサポウイルスについては、植物性品目に帰因される患者数が陸生動物性品目や水性動物性品目より多かった。カンピロバクター属菌、ウェルシュ菌、リステリア属菌、S. Enteritidis、S. Heidelberg、A群溶連菌、エルシニア(Yersinia enterocolitica)およびトリヒナ属については、陸生動物性品目に帰因される患者数が植物性品目や水性動物性品目より多かった。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部