ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)からのノロウイルス関連情報
http://www.bfr.bund.de/


ドイツ連邦リスクアセスメント研究所の年次報告書(2012年)
BfR annual report 2012
02.10.2013
http://www.bfr.bund.de/cm/364/bfr-annual-report-2012.pdf

(食品安全情報2013年23号(2013/11/13)収載)

 ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は2012年の年次報告書を発表した。その中の「主なトピックス」の部分から「冷凍イチゴによるノロウイルス感染アウトブレイク」の記事を紹介する。

概要

 2012年秋、ドイツ東部の5州(ベルリン、ブランデンブルク、ザクセン、ザクセン・アンハルト、チューリンゲン)で小児および若年者の計11,000人が重度の嘔吐および下痢を呈し、ロベルト・コッホ研究所(RKI)によると38人が入院治療を要した。検査を受けた患者から高い割合でノロウイルスが検出された。小児患者の多くが、同一の食品提供業者が食品を納入していた複数の公共施設で発症前に食事をしていた。このため、関係当局は本アウトブレイクが汚染された食品由来であると推定した。疫学調査により、原因食品として冷凍イチゴが速やかに特定された。このアウトブレイクはドイツ史上最悪の食品由来疾患アウトブレイクであった。冷凍ベリー類の喫食によるノロウイルス感染アウトブレイクは過去にも頻繁に発生しており、感染予防のためには喫食前にベリー類を90℃以上に加熱する必要がある。

冷凍イチゴが感染源

 RKIによる疫学調査により、原因食品として冷凍イチゴが速やかに特定された。汚染された冷凍イチゴは、食品提供業者の大規模な施設で主にコンポートやフルーツヨーグルトに加工されていた。患者の症状、食品の喫食と疾患の発生の時間的間隔、および患者の最初の検査結果により、ノロウイルスが可能性の高い病原体として推定された。冷凍ベリー類は、過去にも頻繁にノロウイルス感染アウトブレイクの原因となっていた。

ノロウイルスの熱安定性の評価

 当該食品提供業者の大規模な施設の一部ではイチゴのコンポートが加熱されていたことから、BfRはこのような加熱に対してノロウイルスが耐性であるかどうかを確認する必要があった。ヒトノロウイルスの安定性は評価が非常に困難であることが知られている。ヒトノロウイルスはヒト個体にのみ感染し、検査機関の実験条件下では増殖しないため、検体中のノロウイルスが感染力を維持しているか、あるいは既に失活しているかを判断するのは困難である。ボランティアを用いた過去のいくつかの研究ではノロウイルスの高い熱安定性が示され、さらにこの結果はノロウイルスに類似のウイルスを用いた他の研究でも確認されているが、熱による不活化に関する研究結果は極めてバラツキが大きい。データの状況にもとづき、BfRは、ノロウイルスはイチゴのコンポートを調理する際の短時間の加熱に耐性であると考えられるため、本アウトブレイクの病因物質として考慮されるべきであるという結論に至った。ノロウイルスを完全に不活化するには、食品の中心部を90℃以上まで加熱することが必要と考えられる。BfRはリスク評価の結果として、十分に加熱していない冷凍ベリー類は、特に疾患に罹患しやすい人たちに供すべきではないと助言している。

検査機関でのノロウイルスの検出は容易ではなかった

 コンポートのノロウイルス汚染を示すエビデンスは増えていったが、当初は疑いのあるイチゴの検体からノロウイルスは検出されなかった。検査機関での検出は以下の二つの理由により困難であった。第一の理由は、ノロウイルスは通常、食品中に非常に少量しか存在しないことである。疾患の誘発には少量で十分であるが、検査機関での検出を可能にするには、まずウイルスの増殖が必要である。しかし、ヒトノロウイルスの培養を可能にする実験技術はない。第二の理由は、食品中の物質が検出の妨げになることである。特にベリー類には、検査機関でのノロウイルスの分子遺伝学的検出を強く妨げる物質が含まれている。このため、ベリー類由来の少量のウイルスを高度に濃縮し、同時に阻害物質を除去しなければならない。

 調査の過程で、ザクセン・アンハルト州の消費者保護庁の検査機関は、巧妙な実験プロトコルを用いて疑いのある冷凍イチゴの検体から初めてノロウイルスを検出した。その後、BfRは内部のウイルス研究室で独自にイチゴの検体の検査を行い、上記の結果を確認した。イチゴ由来のノロウイルスと患者由来のノロウイルスが同一であるかを確認するため、BfRはRKIのノロウイルス研究室に処理済みのノロウイルス試料を送付した。RKIは、受け取ったウイルスの遺伝子型が患者の検便検体由来のウイルスと同じく遺伝子組換え型II.16/II.13であることを明らかにした。

イチゴは中国で汚染された可能性が高い

 本アウトブレイクで確認されたこの型のノロウイルスは、それまではアジア諸国からのみ報告されていた。冷凍イチゴは中国から輸入されていたことから、この事実はイチゴが原産国ですでにノロウイルスに汚染され、後にドイツでアウトブレイクを引き起こしたという仮定と符号した。たとえばベリー畑への灌漑や施肥の際に、ノロウイルスとイチゴの接触が起きた可能性がある。

 今回のドイツ最悪の食品由来疾患アウトブレイクは、食品の国際貿易において衛生管理に関する新規の困難な問題があることを示している。本アウトブレイクへの対応として、欧州連合(EU)は、2013年以降、中国から輸入される冷凍イチゴに関しノロウイルス検査のための無作為サンプリングを課している。しかし、さらに重要なことは、同様のアウトブレイクの将来の発生を防ぐため、国際的に同一の基準を食品生産の場に導入し監視する必要があることである。今回の一連のアウトブレイク調査は、連邦州および国の当局間の緊密な協力関係によって初めてその全容が明らかにされたことを示している。

本アウトブレイクの詳細はBfR Opinion No. 038/2012「Tenacity (resistance) of noroviruses in strawberry compote」に記載されている。このOpinion、および食品由来ウイルス感染の予防に関する消費者および専門家向けの情報はhttp://www.bfr.bund.de/en/home.htmlの「Publications」の項目から入手可能である。


国立医薬品食品衛生研究所安全情報部