デンマーク工科大学食品研究所(DTU Food)からのカンピロバクター関連情報
http://www.food.dtu.dk/english


デンマークにおけるカンピロバクター症の感染源推定
Source attribution of Campylobacter infections in Denmark (Technical Report)
October 2017
http://www.dtu.dk/english/-/media/Institutter/Foedevareinstituttet/Publikationer/Pub-2017/Report-Source-Attribution-Campylobacter-FINAL.ashx?la=da (技術報告書PDF)

(食品安全情報2018年2号(2018/01/17)収載)


技術報告書要旨

 カンピロバクター属菌(Campylobacter spp.)は、デンマークにおける食品由来病原体で最も多く報告され、2016年のカンピロバクター症の報告患者数は4,677人、疾患実被害推定値は約2,000 DALY(Disability Adjusted Life Years:障害調整生存年)であった。カンピロバクター属菌は多くの感染源から検出されており、食品生産動物や環境中に蔓延していると考えられる。住民レベルでのカンピロバクター症の公衆衛生実被害の低減という観点では、ブロイラー生産におけるカンピロバクター汚染の低減プログラムは期待通りの成果を収めていない。可能性があるすべての感染源の相対寄与率を特定することは、食品安全介入対策の優先順位決定に極めて重要である。本研究プロジェクトの目的は、1)主な動物および環境由来の感染源に起因し得るカンピロバクター症患者の割合を推定すること、および2)カンピロバクター症患者への種々の伝播経路の相対寄与率を推定することであった。さらに、これらの目的のために以前開発された既存のモデルを1つに統合できるか否かを検討し、また、その推定結果が政策決定にとって適切かつ有用であるかどうかを評価することを第3の目的とした。

 カンピロバクター症の感染源の相対寄与率を推定するため、微生物学的サブタイピング法(microbial subtyping approach、レゼルボアレベルでの寄与率推定)および相対的曝露評価法(comparative exposure assessment approach、曝露レベルでの寄与率推定)を適用した。データは2015年1月〜2017年3月に収集され、すべてのヒト由来分離株および一部の動物由来株についてMLST法(多座塩基配列タイピング法)によるサブタイピングが行われた。対象はカンピロバクター症の最大の原因菌種であるCampylobacter jejuniに限定した。

 微生物学的サブタイピング法を用いて、MLST法によりサブタイピングが行われたヒト由来分離株731株について、MLST型分布が得られた食品・動物・環境由来の8種類の感染源への帰属が特定された。C. jejuni感染の最も重要な感染源は国産鶏肉(患者338人、95%信頼区間(CI)[263〜411])、次いでウシ(同139人、95% CI [84〜200])、輸入鶏肉(同69人、95% CI [43〜100])で、これらの寄与割合はそれぞれ46%、19%、9%であった。輸入カモ肉の寄与割合は2%未満と推定され、国産カモ肉に起因すると推定された患者はいなかった。患者の約13%については感染源が推定できなかった。患者30人(95% CI [8〜62])がイヌ、27人(95% CI [4〜46])が汚染された海水への曝露に起因すると推定された。国産鶏肉について異なるデータソースを使用(ベースラインモデルで使用した食鳥処理場または小売由来の鶏肉検体に代わり、食鳥処理場で採取された盲腸便検体由来のデータを使用)して実施したシナリオ解析では、国産鶏肉に起因する患者の割合の低下、およびそれに伴うウシに起因する患者の割合の上昇が示唆された。この代替シナリオに使用されたデータは比較的少ない検体数にもとづいているため、ベースラインモデルの結果の方が頑健性が高いと判断された。

 相対的曝露評価法により、食品・動物・環境由来の10種類の感染源および伝播経路についてそれぞれの相対寄与率が推定された。環境としての砂を介したカンピロバクターの伝播については、著しいデータ不足と曝露モデルの不確実性の大きさにより、モデルの対象から除外された。さらに、家畜(ブロイラー、ウシ、ブタ)との直接接触を介したカンピロバクターへの曝露も、日常的に病原体の同一株に曝露する人における免疫という大きなバイアスのため検討対象とはならなかった。これら2種類のカテゴリーは環境レゼルボアとして重要であるため、両カテゴリーの除外はモデルの結果の有用性を低下させる。推定の結果、C. jejuniへの最も重要な曝露源として鶏肉の喫食が示唆され、無作為抽出の1食分で約0.8 CFU(95% CI [0〜5.655])のC. jejuniへの曝露、および住民レベルでは全曝露の約70%への寄与が示された。2番目および3番目に重要な感染源は、カモ肉の喫食および未殺菌乳の喫飲であった。食品以外の伝播経路で最も大きく曝露に寄与したのはイヌとの接触であったが、寄与割合の推定値は1%未満であった。

 2つのモデルに共通して、デンマークのカンピロバクター症の最も重要な感染源として鶏肉が特定された。しかし、レゼルボアとしてのウシの場合にのみ、両モデルの結果を統合することにより当該レゼルボアからの種々の伝播経路のそれぞれの寄与割合を説明することができた。この場合、相対的曝露評価法により、牛肉の喫食による曝露と未殺菌乳の喫飲による曝露とを区別することができ、モデルの結果はそれぞれの伝播経路に沿ったものとなった。その他の感染源および伝播経路については、データ不足または不確実性の大きさ(曝露人口、リスクグループの感染感受性、免疫によってもたらされるバイアスなどに関する知識の不足に由来する)により、主なレゼルボアからの種々の伝播経路を区別して推定することは不可能であった。

 この研究プロジェクトの目的の1つは、2種類のモデルを統合し、感染源推定の精度を上げることであった。モデルの達成度およびその固有の不確実性を慎重に評価することで、両モデルの統合により新たな情報は得られなかったこと、および、微生物学的サブタイピング法による推定は種々の感染源への相対的曝露をある程度説明しており、かつ統合モデルの結果と比べ頑健性が高いことが結論付けられた。さらに、微生物学的サブタイピング法では対象に食品、動物との接触、環境因子など多様な感染源を含めることができたことから、同アプローチは以前より包括性が増しており、正確な曝露経路を示すことは無理でも、当該病原体の最も重要な感染源に関する有用なエビデンスを提供することはできた。


(関連記事)

鶏肉は依然としてデンマークのカンピロバクター症の主な感染源である
Chicken still main source of Campylobacter infections in Denmark
13 DEC 17
http://www.dtu.dk/english/news/nyhed?id=b84f48ef-7df4-4a8a-b111-23f35562196b



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部