デンマーク国立血清学研究所(SSI)からのカンピロバクター関連情報
http://www.ssi.dk


デンマークの人獣共通胃腸感染症(2013年)
Zoonotic intestinal infections 2013
EPI-NEWS, No 12 - 2014
19 March 2014
http://www.ssi.dk/English/News/EPI-NEWS/2014/No%2012%20-%202014.aspx

(食品安全情報2014年15号(2014/07/23)収載)


 デンマーク国立血清学研究所(SSI)は、デンマークの人獣共通胃腸感染症に関する2013年のデータをEPI-NEWS No 12‐2014に発表した。本号には、最も頻繁に発生するカンピロバクター属菌、赤痢菌、エルシニア(Yersinia enterocolitica)およびベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)による胃腸感染症に関してデータが掲載されている。サルモネラに関するデータはすでにEPI-NEWS No 11 - 2014(食品安全情報(微生物)No.9 / 2014)に発表された。

 病原性腸内細菌は、検査機関届出システムにより届出義務がある細菌である。これらの細菌の一部については、届け出と同時にSSIのリファレンス検査機関に分離株を提出する必要がある。また、VTEC感染、溶血性尿毒症症候群(HUS)および赤痢菌感染の各患者についてはForm 1515による医師の届け出も義務付けられている。前回のデータは、カンピロバクター、エルシニア、VTECおよびサルモネラについてはEPI-NEWS No 12 - 2013で、赤痢菌についてはEPI-NEWS No 3 - 2012でそれぞれ報告された。


カンピロバクター

 図1は1980〜2013年のカンピロバクター属菌および非チフス性サルモネラ感染の届出患者数である。サルモネラに関するデータはEPI-NEWS No 11 - 2014ですでに報告されており、ここでは比較データとしてのみ使用されている。2013年に報告されたカンピロバクター属菌感染患者は計3,766人(人口10万人あたり67人)で、2012年と同程度(1%の増加)であった。


図1:カンピロバクター属菌および非チフス性サルモネラ感染の届出患者数(1980〜2013年)


 カンピロバクター分離株は、通常は種の決定や型の判別が行われず、SSIへの提出もまれである。しかし、抗生物質耐性モニタリングのため、Aalborg、OdenseおよびSlagelseの各自治体の臨床微生物検査機関から、年間に合計で約200株の分離株がSSIに提出されている。これらの分離株について2013年の種別分布をみると、96%がCampylobacter jejuniで、4%がC. coliであった。2013年はカンピロバクター感染のアウトブレイクは発生しなかった。

 SSIは2012年までと同様、一部のグループの患者について、国外旅行中の感染に関する情報をできる限り収集した。具体的には、SSIは、OdenseおよびAalborgの臨床微生物検査機関から届け出があった患者に対し、電話での聞き取り調査を継続的に実施した(EPI-NEWS No 12 - 2013)。

 2013年はこれら2自治体のカンピロバクター患者560人について国外旅行に関する情報が得られ、結果として226人(40%)が国外感染であった。国外旅行に関して得られたデータすべてを含めると、最も多くの患者が感染した国はトルコ(92人)であり、次いでスペイン(77人)、タイ(61人)およびインド(29人)の順であった。表1は本報告が対象にしている4種類の人獣共通胃腸感染症の年齢層別の罹患率を示している。


表1:4種類の人獣共通胃腸感染症の人口10万人あたりの罹患率(年齢層別、2013年)


ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)

 2013年に検査機関届出システムを通じて報告されたVTEC感染患者は計192人(人口10万人あたり3.4人)で、2012年の193人とほぼ同じであった(図2)。患者186人の分離株が得られ、このうち4人は異なる2タイプのVTECに感染していた。表2はこれら分離株のO血清群別の内訳である。アウトブレイク探知を目的として、患者分離株はPFGE(パルスフィールドゲル電気泳動)法により継続的に分析されている。2013年にはVTECの一般アウトブレイクは発生しなかった。


表2:ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)患者分離株のO血清群別の内訳(2013年)


 2013年は、医師による届け出のシステムを通じて、計169人のVTEC感染患者の届け出があった。患者の年齢中央値は22歳で、53人(31%)が6歳未満の小児であった。届出患者のうち111人が国内感染と報告された。24人については欧州内のデンマーク以外の国での感染が報告され、このうち6人がスペイン、5人がトルコであった。届出患者のうち22人については欧州外の諸国での感染が報告され、このうち11人はアフリカ諸国での感染であった。残りの届出患者12人については国外旅行先が不明であった。

 HUS患者は計11人の届け出があり、HUSアウトブレイクが発生した2012年(EPI-NEWS No 45 - 2012)より1人多かった。患者の年齢中央値は25歳(年齢範囲は0〜73歳)で、患者のうち4人が2歳未満の小児であった。11人のHUS患者のうち7人でVTEC感染が確認された。これらのVTEC感染患者から得られた分離株のすべてで病原性遺伝子vtx2およびeaeが確認され、分離株の血清型は全部で6種類であった。


エルシニア(Yersinia enterocolitica

 2013年に報告されたエルシニア(Y. enterocolitica)患者は計345人(人口10万人あたり6.2人)で、2012年から19%増加した(図2)。2012年以降、Y. enterocoliticaの分離株はバイオタイプの決定のため、多くの場合SSIに提出されている。表3に、2013年に提出されたY. enterocolitica分離株のバイオタイプ別および血清型別の内訳が示されている。提出された分離株の約60 %でバイオタイプが決定され、その半数をわずかに超える54%がバイオタイプ1Aであった。


表3:エルシニア(Yersinia enterocolitica)分離株のバイオタイプ別および血清型別の内訳(2013年)


赤痢菌

 2013年に検査機関届出システムを通じて報告された赤痢菌感染患者は計109人(人口10万人あたり1.9人)で、2012年(104人)より4%増加したが、2011年(148人)と比べると17%減少した(図2)。2012年までと同様、2013年も患者の大部分(64人)がS. sonnei感染であった。次いで、S. flexneri(20人)、S. boydii(5人)、S. dysenteria(1人)への感染の順で、残りの19人については赤痢菌の種が特定されなかった。年齢層別の罹患率は年齢層によらずほぼ一定であった(表1)。

 一方、医師による届出システムを通じて報告された赤痢患者は、2013年は計94人、2012年は59人、2011年は91人であった。2013年の患者94人の年齢中央値は38歳(年齢範囲は1〜90歳)で、57人(61%)が女性であった。患者94人のうち、16人(17%)が国内感染、76人が国外感染と報告された。患者の国外旅行先としてはエジプト(21%)が最も多く、次いでインド(13%)、タイ(7%)、およびチュニジア(7%)が多かった。

 国内感染患者の大部分はS. sonnei(50%)感染またはS. flexneri(31%)感染であった。S. flexneri感染の患者1人は職業上の感染と推定された。この患者は病院の従業員で、このことと感染とが関連していた。2013年はデンマークで食品由来赤痢菌アウトブレイクの発生は報告されなかった。しかし、S. sonnei感染の患者5人は、チュニジアの1カ所のホテルで発生したアウトブレイクに関連しており、S. sonnei感染の他の1人は、トルコの1カ所のホテルで主にサルモネラ(Salmonella Enteritidis)により発生した北欧諸国からの旅行者における大規模アウトブレイクの患者であった(EPI-NEWS No 38 - 2013)。


図2:エルシニア(Yersinia enterocolitica)、赤痢菌およびベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)感染の届出患者数(2000〜2013年)




国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部