Morbidity and Mortality Weekly Report(CDC MMWR)からのカンピロバクター関連情報
http://www.cdc.gov/mmwr/


加熱不十分な鶏レバーに関連して米国北東部の複数州にわたり発生したカンピロバクター(Campylobacter jejuni)感染アウトブレイク(2012年)
Multistate Outbreak of Campylobacter jejuni Infections Associated with Undercooked Chicken Livers ― Northeastern United States, 2012
Morbidity and Mortality Weekly Report, November 8, 2013 / 62(44);874-876
http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/wk/mm6244.pdf (PDF版)
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6244a2.htm?s_cid=mm6244a2_w

(食品安全情報2014年13号(2014/06/25)収載)


 2012年10月、バーモント州保健局(VDH)は、PFGEパターンが相互に区別できないカンピロバクター(Campylobacter jejuni)株に感染した同州居住の確定患者3人を特定した。PulseNet(食品由来疾患サーベイランスのための分子生物学的サブタイピング全国ネットワーク)への問合せを通じ、ニューハンプシャー、ニューヨークおよびバーモントの各州から直前6カ月以内に報告されていた1人ずつ計3人の患者が本アウトブレイクの追加患者として特定された。VDHが中心となって実施した調査から、これら6人の患者は全員がバーモント州の1カ所の家禽関連施設(施設A)で製造された鶏レバーを生または軽く加熱して喫食していたことが明らかになった。この施設Aで採取されたレバー検体からC. jejuniアウトブレイク株が検出された。これを受け、施設Aは2012年11月9日に鶏レバーの出荷を自主的に停止した。米国農務省食品安全検査局(USDA FSIS)が施設Aで食品安全性評価を実施したが、重大な違反は確認されなかった。本アウトブレイクは、鶏レバーに関連して米国で複数州にわたり発生した初めてのカンピロバクター症アウトブレイクであった。公衆衛生の専門家、食品業者および消費者は、鶏レバーはカンピロバクターによりしばしば汚染されており、鶏レバー製品を安全に喫食するための調理方法は十分な加熱のみであるという点に注意しなければならない。


疫学調査

 2012年10月2日、VDHは、PFGEパターンが相互に区別できないカンピロバクター(C. jejuni)株の感染患者2人が検査機関で特定されたことを報告した。患者1は9月16日に下痢症を呈した。この患者はバーモント州の家禽関連施設(施設A)の従業員であることを報告した。施設Aでの作業内容は、生きた/とさつ後の鶏・七面鳥の取扱いなどであった。患者2も同じく9月16日に発症し、その4日後に入院した。この患者は、バーモント州のレストランAで前菜の肉の盛り合わせ料理(charcuterie)と主菜のウサギ肉料理を発症2日前に喫食したと報告した。前菜の肉の盛り合わせには、施設Aで製造された鶏レバーを使用したムースが含まれていた。

 患者3は9月20日に発症し、患者2がレストランAで喫食した日の翌日に同レストランで同じ料理を喫食したと報告した。患者3の検便検体から分離されたC. jejuni株のPFGEパターンはアウトブレイク株のパターンと区別できなかった。

 確定患者2、3が食事をしたのと同じ2日間にレストランAで食事をした客を対象に、後ろ向きコホート研究が実施された。患者2および3の他に、同レストランの利用客計42人に、同レストランで喫食した料理、および喫食後10日以内の下痢症状の有無について質問した。その結果、患者2、3以外に下痢症状を報告した利用客はおらず、疑い患者は特定されなかった。

 19種類の料理について疾患との統計学的関連を分析するため、相対リスク値(RR)を算出した。喫食による疾患のRRが統計学的に有意であることが示されたのは2種類の料理のみで、鶏レバーのムースを含む肉料理(RR = 52.5、95%信頼区間(CI)[3.0〜914.8])とウサギ肉料理(RR = 33.3、95% CI [1.8〜613.5])であった。肉の盛り合わせ料理の喫食に関連して高いRR値が示されたこと、および鶏レバーを製造した施設Aの従業員1人からC. jejuniアウトブレイク株が分離されたことから、調査の焦点は鶏レバーに絞られた。

 PulseNetにより、PFGEパターンに関し本アウトブレイク株と区別できないC. jejuni株の感染患者1人(患者4)がバーモント州で新たに追加、確認された。聞き取り調査で、この患者はバーモント州の別のレストラン(レストランB)で鶏レバーの炒め物料理を2012年6月の発症数日前に喫食したことを報告した。レストランBの従業員への聞き取り調査により、2012年6月には鶏レバーは施設Aから供給されていたことが明らかになった。

 VDHは、施設Aが製品を供給しているニューイングランド地方の各州に通知し、鶏レバーの喫食を報告したC. jejuni感染患者、およびPFGEパターンがアウトブレイク株と区別できないC. jejuni株に感染した患者に関する情報を要請した。PulseNetにより、2012年4月にニューハンプシャー州の居住者(患者5)から分離されたC. jejuni株のPFGEパターンが本アウトブレイク株のパターンと区別できないことが確認された。患者5(女性)は、同州の食料品店で生の鶏レバーを購入し、自宅で軽く加熱して家族と共に喫食していた。この家族メンバーのうちの女性1人(患者6)はニューヨーク州の居住者で、同年4月にC. jejuni感染で入院していた。アウトブレイクの通知を受け、ニューヨーク州当局が患者6由来の分離株を解析した結果、PFGEパターンがアウトブレイク株と区別できなかった。

 これら6人の患者の年齢範囲は19〜87歳(年齢中央値は53.5歳)で、3人が女性であった。患者のうち2人が入院したが、最初の聞き取り調査時までに6人全員が回復した。


環境調査

 VDHはレストランAおよびBへの立ち入り検査を実施した。両レストランとも特に重大な違反は認められず、検査結果は合格であった。レストランAの8人のどの食品取扱者の検便検体からもカンピロバクターは検出されなかった。両レストランとも生鮮鶏レバーを施設Aから仕入れ、使用するまで冷凍していたことを確認した。両レストランのシェフへの聞き取り調査から、鶏レバーは質感を維持するため加熱は短時間であったことが明らかになった。食品提供施設向けのVDHの衛生規則に定められたとおり、両レストランのメニューには、生および加熱不十分な家禽肉の喫食によって食品由来疾患の感染リスクが上昇するとの消費者向けの一般的な注意書きが記されていた。VDHの規則では、食品提供施設に対し、潜在的にリスクがあり生または加熱不十分で提供される食品をメニュー表で具体的に示すことは義務付けていないため、レストランAおよびBの鶏レバー料理が加熱不十分であることは個別表示されていなかった。

 ニューハンプシャー州保健福祉局(NHDHHS)は食料品店の販売記録を調べ、患者5が報告した購入日より、患者5および6が喫食したレバーの供給元を施設Aと特定した。

 USDA FSISは施設Aで食品安全性評価を実施し、家禽製品への抗菌洗浄剤の使用など、同施設の食品安全システムが適切にデザインされていることを確認した。安全性評価時の観察では、これらの洗浄剤はすべての家禽のとたいおよびその各部位の表面汚染を低減するために使用されていた。食品安全性評価では、鶏レバー汚染の原因となる可能性が高い交差汚染などの外部要因は示されなかった。


検査機関での検査

 レストランAで採取した冷凍鶏レバー検体がVDHの検査機関に送付され、ミンチにされたあと25 gずつ13検体に分けられ、カンピロバクター免疫測定法に従って増幅培養が行われた。検査した13検体のうち2検体でカンピロバクター陽性が示されたが、培養液からカンピロバクター株は分離できなかった。

 そこで、VDHは次に、施設Aで生鮮鶏レバー検体を採取し、これらを検査機関に送付、検査法に従い検査を行った。これらの鶏レバー検体からC. jejuni株が分離され、1分離株はアウトブレイク株と区別できないPFGEパターンを示した。

 抗菌剤感受性試験により患者由来の6分離株と鶏レバー由来1分離株の性状解析を行った結果、本アウトブレイク株が米国疾病予防管理センター(US CDC)の全米抗菌剤耐性モニタリングシステム(NARMS)パネルの9種類の抗菌剤のうちの8種類への感受性とテトラサイクリンへの耐性を有することが確認された。MLST法により本アウトブレイク株は1212型であると確認された。

 施設Aには2012年11月9日に調査結果が通知され、同施設は同日より鶏レバーの販売を停止した。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部