FAO/WHOの第47回合同食品添加物専門家会議(JECFA)審議概要

病理部 三森国敏

開催場所、時期: ローマ(イタリア)、平成8年6月4日ー6月13日

参加者:JECFA正委員、FAO/WHO事務局、FAO顧問、WHO臨時顧問、計32名

会議内容:

A. 審議品目の内容

今回の会議では、クレンブトール、サイパーメスリン、α-サイパーメスリン、ネオマイシン、チアンフェニコール、チルミコシン、キシラジンが審議され、これらの毒性と残留データに関する評価に基ずき、キシラジン(遺伝子毒性発癌物質)を除くそれぞれの物質について一日許容摂取量(ADI)の設定と最大残留基準値(MRL)案の勧告がなされた。また、アバメクチン、テトラサイクリン系抗生物質、スピラマイシン、モキシデクチンについては、更に残留データが提出されたため、これらに対して新MRL案が勧告された。

B. 審議上での問題点

 以下の問題点について審議がなされ、次のような勧告がなされた。

(1)JECFAの評価原則についての見直し

 今までに評価された動物薬の中で、JECFAの評価原則に比較して一貫性のないと考えられる評価例がいくつかみられるとの指摘が第21回Codex委員会(CAC)においてなされた。この指摘に対して、誤解をなくすための討議がなされ、JECFAとして適切な評価がそれらの物質に対してなされたことが確認され、その旨をCACに報告するとともに、その評価原則をすべてまとめ直し、別添としてWHO Technical Report Seriesに発刊することが合意された。

(2)食品中に残留する抗菌製剤のヒト腸内細菌叢への影響についての評価法

 第38回JECFAにおいて提案された微生物学的ADI算定式にていては種々の解明されていない点が多かったことから、今回のJECFAにおいて、それらの問題点を明確にした上での改訂算定式が提案された(別紙A)。さらに、抗生物質や抗菌剤の安全性評価における微生物学的リスク評価法に関するその開発手順のフローチャートが提案された。その評価の優先順位は(a)ヒトボランティアーからのデータ、(b)ヒト腸内細菌叢移植実験動物からのデータ、(c)MIC50等のin vitroデータの順であるが、(a)については動物薬であることからそのデータの入手が困難であること、(b)については検証が終了した適切な動物モデルがないことがあげられ、今後の研究に負うところが大であることが指摘され、(c)のMIC50のデータが今後も主流を占めるであろうことが確認された。

(3)チアンフェニコール

 この物質については、慢性毒性発癌性試験データがスポンサーから提出されていなかったため、当初ADIの算定はできないとされていた。しかし、我国の厚生省でこの物質についての発癌性試験が佐々木研究所に依託され、その最終概要報告書が日本側から提出されたことから、そのfull reportの提出を待って1999年に再度審議されることが合意され、それまでは暫定ADIを設けることが決定された。

(4)アバメクチン

 この物質については、JMPRで農薬として既にADIとMRLが設定されていたが、第45回JECFAにおいて動物薬として再度審議された。その結果、催奇形性が懸念された植物由来食品中での△-8,9異性体は動物由来の畜産物中には存在しないことが明らかとなり、ADIは1μg/kgと設定された。この設定値はJMPRのADI(0.2μg/kg)と異なり、規制値に一貫性がないことが指摘された結果、JECFAとJMPRが再度討議をし、JMPRはJECFAの決定に同意した。その経緯から、今回のJECFAでは、このADI値をもとにMRL案が提案された。

(5)テトラサイクリン系抗生物質

 第36回JECFAでは、オキシテトラサイクリンの脂肪組織でのMRLを10μg/kgと設定し、第45回JECFAでは、クロルテトラサイクリンとテトラサイクリンの脂肪組織でのそれについても同様のMRLを設定した。今回の審議では、スポンサーから追加の残留試験データが提出され、審議された結果、これらの物質は投与後急激に消失することが明確となった。その結果、今回、これらの物質については脂肪組織中でのMRLは要求しないことが決議された。