環境保健クライテリア 151
Environmental Health Criteria 151

合成有機繊維 Selected Synthetic Organic Fibers

(原著100頁,1993年発行)

作成日: 1997年2月24日
はじめに
1. 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
2. ヒトおよび環境内での暴露の発生源
3. 環境中濃度およびヒトの暴露
4. 蓄積・クリアランス・滞留・耐久性・移動
5. 実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響
6. ヒトに対する影響
7. 評価の要約
8. 結論およびヒトの健康保護のための勧告
9. 今後の研究

→目 次


はじめに 

本資料は、特定の合成有機繊維の職業上および環境上
の暴露のレビューである。本資料中で取り上げた特定繊維の選定理由は、それらが毒
性学的データを入手し得る物質であること、また、それらが生産量とヒトの暴露の可
能性の点でおそらく最も重要であろうと考えたためである。将来における合成有機繊
維の用途と適用の可能性、第二次製品の暴露影響の可能性、燃焼生成物などに関する
検討は加えられていない。タスク・グループは、ある範囲の化学物質および非繊維性
塵埃への暴露を含む合成有機繊維の製造と使用の作業環境の複雑さを認めた。

1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法

a 物質の同定および物理的・化学的特性

 1) カーボン/グラファイト繊維

商品名            WCA, CCA‐4, Magnamite, Thornel‐T, Celion, Panex, HITEX, 
                     Fortafil, Thornel‐P, Carboflex(ITA,1985;ICF, 1986)

表 カーボン/グラファイト繊維の物理的・化学的特性 a
        ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
        レーヨン系炭素繊維      レーヨン系炭素繊維    PAN系炭素繊維      ピッチ系炭素繊維
        (ローモジュラス)      (ハイモジュラス)                      (繊状体)
密度      1.43〜1.7(g/cm3)      1.65〜1.82(g/cm3)     1.7〜1.8(g/cm3)    2.0(g/cm3)
抗張力    345〜690(MPa)          ―                 2400〜2750(MPa)    2000(MPa)
ヤング率  21〜55(GPa)           345〜517(GPa)         193〜241(GPa)      345(GPa)
        ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 a:Volk(1979)より

 2) アラミド繊維

商品名            Kevlar, Nomex, Conex, Fenilon, Arenka, Twaron, Arimid

表 アラミド繊維の物理的・化学的特性 b
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          Kevlon/twaron          Nomex
密度      1.44〜1.45(g/cm3)      1.38(g/cm3)
抗張力    2790〜3000(MPa)         ―
比強度    2000(MPa/d)             ―
ヤング率  120〜124(GPa)           ―
室温における引火損失(LOI)
          24.5                   26
おおよその熱劣化点
          >400(℃)              >370(℃)
 ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 b:Hodgson(1989)より

 3) ポリオレフィン繊維

商品名            BDH Low Density, Courlene C3, Courlene X3, Courlene Y3,
                     Downspun 82, Dyneema, Fibrite MF, Meraklon BCF, Meraklon DO,
                     Novatron, Polyolefine, Sanylene, Spratra(Hartshorne & Laing,1984)

表 ポリオレフィン繊維の物理的・化学的特性 c
      −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
             低密度            高密度             ポリエチレン         ゲル・紡糸
             ポリエチレン      ポリエチレン                            ポリエチレン
繊維型       モノフィラメント  モノフィラメント   高密度フィラメント   フィラメント
密度         0.92(g/cm3)       0.95〜0.96(g/cm3)  0.96(g/cm3)          ―
ヤング率     0.8〜1.0(GPa)     1.7〜4.2(GPa)      1.7〜4.2(GPa)        44〜77(GPa)
抗張力       ―              ―               290〜570(MPa)        2580〜5500(MPa)
破壊時の伸び  ―              ―               10〜45(%)           ―
      ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

表 ポリオレフィン繊維の物理的化学的特性 (続)
      ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
             ポリプロピレン      ポリプロピレン      ポリプロピレン
繊維型       ステープル&トウ     モノフィラメント    マルチフィラメント
密度         0.90〜0.96(g/cm3)   0.90〜0.91(g/cm3)   0.90〜0.91(g/cm3)
ヤング率     0.28〜3.3(GPa)      1.6〜4.8(GPa)       1.2〜3.2(GPa)
抗張力       ―                ―                ―
破壊時の伸び  ―                ―                ―
      ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

表 ポリオレフィン繊維の物理的化学的特性 (続)
      ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
             ポリプロピレン      ポリプロピレン
繊維型       フィラメント        高強度
密度         0.91(g/cm3)          ―
ヤング率     1.6〜4.8(GPa)       ―
抗張力       270〜540(MPa)       811(MPa)
破壊時の伸び 14〜30(%)          ―
      ―−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 C:Hodgson(1989)より


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 カーボン/グラファイト繊維は、レーヨン(再生セルロース)、ピッチ(コールタ ールあるいは石油残留物)、ポリアクリロニトリル(PAN)の三種類の前駆物質の、 何れか一つの高温処理により製造される繊維状の炭素である。炭素繊維の直径は5〜 15μmである。炭素繊維は柔軟で電気および熱の伝導性を有し、高性能品種は高い ヤング率(物質の柔軟性と硬直性を測定する弾性係数)および伸展性をもつ。これら には腐食抵抗性があり重量が軽く、化学的に不活性(酸化作用を除き)で、牽引力に 対する高度の安定性を有し、熱による膨張と密度変化が低く、摩滅と摩耗への抵抗性 は高い。  アラミド繊維は、芳香族ジアミン類と芳香族二価酸塩化物類との反応により形成さ れる。それらは連続状の紡織繊維(filaments)、短繊維(staple)、軟塊(pulp)と して生産される。アラミド繊維には、パラおよびメタの二種類の主要なタイプがあり、 それらの直径は、12〜15μmである。パラ−アラミド繊維は、中心繊維表面に付着 した吸入可能サイズの(直径1μm以下)細い巻毛状のもつれた原繊維(tangled fibrils)をもっている。これらの原繊維は、製造あるいは使用期間中に摩滅し、分離 されて空気中に放出されるであろう。一般に、アラミド繊維は、中程度からきわめて 高度の伸展性をもち、低レベルから中程度の伸長性を有し、中程度から非常に高度の ヤング率を示す。それらは、熱・化学物質・摩耗に対して抵抗性を示す。  ポリオレフィン繊維は、重量で少なくとも85%のエチレン、プロピレン、あるい はその他のオレフィンで構成された長鎖状のポリマー(重合体)であり、ポリエチレ ンおよびポリプロピレンは商品として用いられている。微小繊維のような一部の種類 以外では、大多数のポリオレフィン繊維の直径は大きく、吸入可能のサイズ (respirable size)の範囲にはほとんど入らない。  ポリオレフィン繊維は、きわめて疎水性が高く、反応性が低い。その伸展性は、炭 素あるいはアラミド繊維よりもかなり低く、比較的可燃性であり、融点は100〜200℃ の間である。  鉱物性繊維の計測のために開発された方法が、合成有機繊維の産業衛生的モニタリ ングに用いられてきた。しかし、この目的に対するこれらの方法の妥当性は確認され ていない。このような方法を使用する際には、静電特性・封入剤の溶解度・屈折率が 問題となるであろう。
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2.ヒトおよび環境内での暴露の発生源  カーボンおよびグラファイト繊維の世界で の推定生産量は、1984年においては4,000トンを越えている。アラミド繊維は1989 年には30,000トン以上に達し、ポリオレフィン繊維は182,000トンを上回った(米 国のみで)。カーボンおよびアラミド繊維は、主として、宇宙、軍用およびその他の 産業の先進的合成材料として、強度・硬度・耐久性・導電性・耐熱性を向上させるた めに用いられている。ポリオレフィン繊維は、典型的な使用例は織物への適用である。  合成有機繊維への暴露は、職業環境について調査されてきた。合成有機繊維は、合 成品の生産・加工・焼却・廃棄の過程で環境中に放出される。これらの物質の環境中 への実際の放出について入手し得るデータはきわめて少ない。  自治体におけるカーボン繊維含有合成物の焼却拒否による生成およびカーボン繊 維とアラミド類の熱分解生成物を同定するための、環境中における有機繊維の移動・ 分布・変質について入手し得るデータは限られている。自治体焼却場のシミュレーシ ョンにおいては、カーボン繊維の直径と長さの双方は減少している。カーボンおよび アラミド繊維の主要な熱分解生成物には、芳香族炭化水素・二酸化炭素・一酸化炭素・ シアン化物が含まれている。 3.環境中濃度およびヒトの暴露  合成有機繊維の粉塵は、繊維の形成・巻き取り・ 切断・織布・裁断・機械加工・合成品の形成および取り扱いのような操作中に作業場 に放出される。  カーボン/グラファイト繊維の場合には、吸入される繊維濃度は、一般には、0.1 繊維/ml以下であるが、繊維の切断および巻き取り作業の近くでは0.3繊維/ml 以上の濃度が測定されている。繊維は、カーボン繊維合成物の機械処理(穴あけ・縫 製その他)中にも放出されるが、これにより発生する呼吸可能物質の大部分は繊維状 ではない。  作業場におけるパラ−アラミド原繊維の空気中平均濃度は、紡織繊維操作において は0.1原繊維/ml以下、綿状の塊の切断作業(floc cutting)と軟塊取り扱いでは0. 2原繊維/ml以下と報告されている。原繊維紡糸加工においては、原繊維の空気中平 均濃度は典型的の場合では0.5原繊維/ml以下であるが、約2.0原繊維/mlの高 濃度も報告されている。その他の最終利用の作業場では、平均0.1原繊維/ml以下 で、0.3原繊維/mlのピーク暴露を伴うのが典型的である。合成物のウオーター・ ジェットによる切断では特別の暴露の可能性を立証し、その濃度は2.91原繊維/ mlを示した。アラミド繊維補強のエポキシ・プラスチックのレーザー切断中に発生 した微粒子の直径の平均は0.21μmであったが、粉塵中の繊維の含有量は報告さ れていない。このような作業中では、ある種の揮発性の有機化合物類(ベンゼン・ト ルエン・ベンゾニトリル・スチレンを含む)およびその他のガス類(シアン化水素・ 一酸化炭素・二酸化窒素)も生成される。  ポリプロピレン繊維の製造設備からの、限られた空気モニタリングデータでは、5 μmより長い繊維において0.5繊維/mlの最高空気中濃度が示されたが、大多数 の数値は0.1繊維/ml以下であった。走査電子顕微鏡では、空気中の繊維の大きさ は、0.25〜3.5μmの直径と、1.7〜69μmの長さを示した。カーボン繊維織 物工場近くで採取された空気の1サンプルにおいては、0.0003繊維/mlが検出さ れた。その繊維の寸法の平均は706μm×3.9μmであった。2機の軍用航空機の 衝突場所において、その製造に用いられたカーボン繊維の炎上後の放出も報告されて いる。その他の環境中の濃度についての関連情報は確認されていない。
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4.蓄積・クリアランス・滞留・耐久性・移動   特殊な合成有機繊維について確認さ れたデータは極めて少ない。パラ−アラミド繊維(ケブラー)(訳者注:Kevlarは du Pont社の商品名)についてのデータでは、これらの繊維は吸入された場合、肺胞 管分岐に蓄積することを示している。また、気管支リンパ節への移動の証拠も存在す る。 5.実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響  ここでレビューされた合成有機繊維については、適切な実験的研究からの良質の データが不足している。  カーボン/グラファイト繊維の線維症発生あるいは発がん可能性についての十分 な研究は実施されていない。吸入可能サイズのピッチをベースにした繊維の短期吸入 暴露後のラットへの影響には、実質細胞の交代とタイプU肺胞細胞のわずかな過形成 を伴う炎症性反応が含まれていた。気管内注入および腹腔内注射による研究から入手 し得るデータは、被験物質の特定についての記述および実験方法(protocol)と結果 の十分な記述がないため、適切ではないと見なされた。ベンゼン中に懸濁させた4種 類の繊維を用いたマウスの皮膚塗布試験(訳者注:皮膚発がん性試験)は、発がん性 の評価には不適切であった。  パラ−アラミド繊維のケースでは、データの大多数はケブラーについての実験から 得られている。ケブラー粉塵の短期(2週間)吸入実験は、肺マクロファージ反応を 起こしたが、暴露中止後にはその程度は低下した。極微サイズのケブラー原繊維の短 期実験においては、同様のマクロファージ反応と肺胞管の不均一の肥厚が示された。 これら双方の損傷は暴露後には減少したが、3〜6か月後にはごく軽度の線維組織増 殖が発生した。ラットにおけるケブラー原繊維の2年間の吸入実験では、暴露関連の 肺線維症(25繊維/ml以上において)および異常なタイプの肺新生物(嚢胞性角化扁 平上皮がん)(メス・ラットでは400繊維/mlにおいて11%、100繊維/mlで6%、 オス・ラットでは400繊維/mlにおいて3%)を誘発した。肺毒性による死亡率の増 加は最高濃度において認められ、これは最大耐容量(Maximum Tolerated Dose)を 越えることを示した。これらの損傷の生物学的な影響およびヒトへの関連については 多くの議論がある。本研究は24か月で終了されたため、この原繊維の完全な発がん 可能性は示されていない。  直径2〜30μmの繊維を含有する、細断されたノーメックス・ペーパー(Nomex paper)の気管内注入による単回投与(2.5mg)では非特異的な炎症反応を生じさせ た。暴露後2年においては、肉芽腫様反応が発生した。ケブラー25mgの単回気管内 注入投与では、1週間内に軽快した非特異的炎症反応を生じさせた。後になって、肉 芽腫様反応とごく軽度の線維症が観察された。  3件の研究において、ケブラー繊維の腹腔内注射(25mg/kgまで)は肉芽腫反応を 生じさせたが、新生物(訳者注:腫瘍のような異常組織の発生)の発生に有意な増加 はなかった。著者は、これらの研究において新生物反応を欠くのは、腹腔内でのケブ ラー繊維の凝集作用による可能性を示唆している。  ポリオレフィン繊維の線維症発生あるいは発がんの可能性を検討した十分な研究 はない。吸入可能のポリプロピレン繊維(46%が1μm以下)のラットにおける90 日間の吸入実験(50繊維/mlまで)では、細胞充実性(cellurarity)の増加と細気管 支炎により特徴づけられた投与量および期間に相関した変化を示した。気管内注入に よる適切なデータは存在しない。ラットにおけるポリプロピレン繊維あるいは塵埃の 腹腔内注射の研究では、腹腔内腫瘍の有意な増加は見られなかった。  合成有機繊維のin vitro(試験管内)毒性および遺伝毒性を評価するための十分な データはない。アラミド類についての研究では、短く細いパラ−アラミド繊維は細胞 毒性を有している。ポリオレフィン繊維については、ポリプロピレン繊維においてあ る程度の細胞毒性の証拠が存在する。ポリエチレン細粒抽出物の変異原性テストの結 果は陰性であった。
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6.ヒトに対する影響  ポリアクリロニトリル(PAN)をベースにした連続状カーボ ン繊維生産工場における110名の作業者中の88名の疫学断面(横断)研究(cross ‐sectional study)(訳者注:ある時点における仮説因子の存在状況と特定の疾病の 有病状況との類似性を調査し、それらの間の関連性を確認する方法)において、レン トゲン写真、肺気量測定法検査、呼吸器症状についての質問紙調査法による評価では、 呼吸器への有害影響はなかった。その他のやや不十分な研究では、カーボンとポリア ミド繊維の双方の生産作業員において有害影響が報告され、そのデータはこれらの中 で示されているが、その関連性についての妥当性の評価には不十分である。 7.評価の要約  大多数の合成有機繊維の暴露濃度についてもデータは限られている。 これらのデータは、一般には、職業的環境における低い暴露濃度を示している。しか し、将来における用途と使用においては、より高い暴露の可能性がある。環境中での 運命・分布・一般集団の暴露に関するデータは、実質的には入手できない。  実験動物における限られた毒性学的データに基づいた場合、職業環境中での合成有 機繊維の吸入暴露後の健康への有害影響の可能性が存在する。現時点では、一般環境 中でのこれら合成有機繊維の暴露に関連する健康リスクは知られていないが、それは きわめて低いでようである。 8.結論およびヒトの健康保護のための勧告  本報告でレビューされたデータでは、 吸入可能な丈夫な有機繊維には健康への懸念がある。ヒトの健康を保護するため、次 の措置を提案する。   1. 生産される有機繊維は、可能なかぎり、非吸入性(non‐inspirable)あるい は少なくとも非呼吸性(non‐respirable)にすべきである。それらの加工・使用・ 廃棄の過程において、繊維の分裂・摩耗により呼吸可能(respirable)の繊維を生じ させてはならない。   2. もし、直径が小さく、吸入されやすい繊維が特殊な製品や用途に必要な場合 には、これらの繊維は生物への蓄積(biopersistent)あるいはその他の毒性を示して はならない。   3. 呼吸可能および生物に蓄積するすべての繊維は、それらの毒性と発がん性の 試験が実施されなければならない。これらの繊維への暴露は、より低い規制レベルを 支持するデータが入手されるまで、アスベストにおいて要求されていると同程度にま で規制されるべきである。入手し得るデータは、パラ−アラミド繊維はこのカテゴリ ーに入ることを示唆している。さらに、他の呼吸可能の有機繊維は、データがより低 い危険性を示すまでは、この種類に属すると見なすべきである。   4. 吸入されやすい有機繊維に暴露される可能性のある集団については、暴露濃 度と規制措置追加の必要性を評価するため、それらの暴露のモニターを実施すべきで ある。   5. 吸入されやすい有機繊維への暴露が確認された集団は、呼吸器系に重点を置 いた予防医学計画に登録すべきである。これらのデータは、有害な健康影響の初期の 徴候を見出すために定期的にレビューすべきである。
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9.今後の研究 9.1 サンプリングおよび分析方法  合成有機繊維に対するサンプリングと分析方法は、一般的には、アスベストに用い られた方法が適用されてきた。これらには濾過膜サンプルを用いた位相差光学顕微鏡 あるいは限定的な走査型および透過型電子顕微鏡の使用が含まれる。さらに、合成有 機繊維に対するこれらの方法の信頼性確認が必要であり、そのためには特に次の諸点 に留意すべきである。(1)サンプリングと分析に対する有機繊維の高い静電気充電 の影響(2)繊維の完全性(integrity)(訳者注:損なわれていない状態)について のサンプル調製の影響(3)位相差顕微鏡における有機繊維の鮮明度に対する繊維の サイズと屈折率との合併影響。これらのパラメーターは、空気サンプルの結果におい て否定的なのバイアス(偏り)を導入することがある。  さらに、生物組織中の合成有機繊維のサンプリングと分析方法については、今後に おける開発と評価を必要としている。   9.2 暴露測定と特性解明  合成有機繊維の生産工場内と使用中における暴露の特性と濃度に関して、さらに多 くの情報が必要である。特に直径約3μm以下の合成有機繊維に注目した完全なサ イズ分布が求められている。一部のデータは繊維生産企業から入手可能であるが、こ れらの繊維を使用あるいは利用している企業においては、吸入可能の繊維暴露につい ての情報は極めて少ない。  合成有機繊維の環境への放出あるいは環境媒体中の繊維濃度に関する情報も、きわ めて限られている。これらの物質の環境中での運命と分布、その結果として生じる非 職業的暴露についてのデータの収集が必要である。   9.3 ヒトの疫学  合成有機繊維暴露の慢性影響についての信頼し得るデータはない。疫学研究につい て適当な対象者数のコホート(cohort)(訳者注:属性(例えば、年齢・職業・民族 など)や外的条件(例えば、被爆など)を同じくする集団)を設定するため、マルチ センター研究(multi‐center study)(訳者注:研究結果の比較検討のため、同一の テーマとプロトコール(実験計画)により数カ所の研究機関が独立的に研究を実施す る体制)が必要である。呼吸器疾患の有病率・がん死亡率・がん発生率についてのの 断面的研究(cross‐sectional study)および縦断的研究(longitudinal study)(訳 者注:ある事象がある期間内に発生した状況を調査する方法)が必要である。   9.4 毒性学的研究  パラ−アラミド繊維および原繊維を除き、その他の合成有機繊維については適切な 毒性データはない。これらのデータは非常に必要とされている。その重点は、これら の物質の吸入性の繊維を用いた慢性吸入実験に置かねばならない。これらの研究では、 数種の動物に吸入可能のサイズの繊維を用い、その濃度は最大耐容量、あるいはそれ に近くなければならない。また、推定された生体組織内の量を確認するため、組織負 荷(tissue burden)の研究を含めるべきである。蓄積作用に影響を与える合成有機 繊維の特性(すなわち、微粒子の発生、凝集作用)についても、さらに良く理解する 必要がある。    合成有機繊維の生物蓄積性(biopersistence)について、さらに多くのデータが必 要である。有害影響が生ずるために必要な肺内滞留の臨界期間(critical period)は 未だ決定されていない。生物蓄積性を測定するためのより良い実験試料が必要とされ ている。
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