環境保健クライテリア 140
Environmental Health Criteria 140

ポリ塩化ビフェニル(PCB)およびターフェニル Polychlorinated Biphenylsand Terphenyls

(原著682頁、1992年発行)(第二版)

更新日: 1997年1月7日
はじめに
1. 要約(まえがき)
2. 物質の同定、物理的・化学的特性
3. 分析方法
4. 生産と用途
5. 環境中の移動・分布・変質
6. 環境中の濃度およびヒトの暴露
7. 体内動態および代謝
8. 環境中の生物類への影響
9. 実験動物およびin vitro試験系への影響
10. 生殖・胎児毒性・催奇形成
11. 変異原性
12. 発がん性
13. 特別研究
14. 毒性変更因子と作用様式
15. ヒトへの影響
16. 結論
17. 勧告
18. 国際機関によるこれまでの評価

→目 次

→ 2次元および3次元の化学構造


はじめに
  ポリ塩(素)化ビフェニル類(PCBs)の商業生産は1930年に始まり、その製
造に従事する人々の間での中毒事例が1930年代に報じられた。この職業的
疾患の特性は、ざ瘡(にきび)様の発疹による皮膚疾患が特徴的であり、時に
は肝臓疾患も含まれ、一部の場含では致命的な結呆を生じた。その後の安全
対策により、PCBs製造に関連するこの疾病の発生は大部分が防止されたよ
うに見えたが、1953年以来、日本のコンデンサー製造工場における事例が
報告されている。
  環境中におけるPCBsの分布は、Jensenが1964年に、気一液クロマトグ
ラフィーによる野生生物サンプル中の有機塩素系殺虫剤の分離中に認めた未
知のピークの研究を開始するまでは確認されなかった。1966年、彼と同僚
達は、それらがPCBsの存在から派生すること突き止めるのに成功した。そ
れ以来、世界各地の研究により、環境中サンプルにおけるPCBsの広範囲の
分布が明らかになった。
  PCBsにより偶然に汚染された食物の摂取によるヒトおよび家畜の深刻な
中毒の発生は、動物および栄養上の食物連鎖に対するPCBsの毒性作用の研
究を刺激した。これらによりPCBsおよびポリ塩化ターフェニル類(PCTs)の
商業的利用の制限と、ヒトおよび動物の食物中の残留限界の規制がもたらさ
れた。
  近年に至り、多くの工業国では環境中へのPCBsの流出を抑制する措置を
とっている。
  PCBsおよびPCIB含有の製品は大多数の用途について制限されている(例
外として時には、モノーおよびジクロローPCBsに対して設けられている)。
現在では、それらは変圧器・コンデンサー・その他の電気機器の絶縁油、熱
交換媒体、油圧用液体のような閉鎖系中での使用は殆ど完全に規制されてい
る。これらの規制に最も大きな影響を及ぼしたのはおそらく経済協力開発機
構(OECD)による1973年および1987年の決定・勧告(decision recommenda‐
tions)であろう。
  PCBsおよびPCTsの環境に対する影響は、ATSDR(1989)、DFG(1988)、
IARC(1978)、IRPTC(1988)、Kimbrough(1987)、Lorenz&Neumeier(1983a,b)、
NIOSH(1987)、NTlS(1972)、OECD(1982)、S1orach&Vaz(1983)、WHO(1985
a,b,1986a,b)、WHOIEUR(1987)を含む多数の地域および国際会議において検
討されレビューの対象となった。
  1976年、WHOは環境保健クライテリアNo.2:ポリ塩化ビフェニル類
(PCBs)およびターフェニル類(PCTs)を発行し(WHO,1976)、その時点で入手
し得るPCBsおよびPCTsの暴露データと、ヒトおよび、範囲は上り狭いが、
環境への影響を検討し評価した。
  この時以来、豊富な新しい情報が入手し得るようになった。
  国際化学物質安全性計画(IPCS)では、上記の環境保健クライテリアの最
新版の発行と安全衛生ガイド(HSG:Health and Safety Guide)の作成も決定
し、これを実施するため「PCBs、PCDDs(ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシ
ン類)、PCDFs(ポリ塩化ジベンゾフラン類)の偶発的および環境暴露の予防
と規制」(環境保健クライテリアNo.23WHOIEURO,1987)を作成したWHO
のヨーロッパ地区事務局との緊密な調整を行った。この出版物には、PCBs
・PCDDs‐PCDFsの環境への放出事故の確率と、もし事故が発生した場合
にはその有害影響の程度を低減するための戦略設定について、加盟国を援助
する一連のガイドラインを含まれている。
  それは、特に、PCBsおよび/またはPCBを含む機器を使用している作業
場および環境における作業者の職業上の安全と健康、適当な安全措置、不慮
の事故時の方策、事故に対する要領を得た対応、適切な修復の指針を指向し
ている。
  このPCBsおよびPCTsの環境保健クライテリアの範囲内では、PCDDsと
PCDFsについては関連のあるところで述べた。これらの化合物についての
十分な検討は、IPCSEHC88:ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン類および
ジベンゾフラン類(WHO,1989)に詳しく述べられている。


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l.要約(まえがき) ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)は、今世紀に入る以前に発見され、それら の物理的特性から工業的有用性は早くから認識されていた。PCBsは1930 年以降、誘電体および熱交換流体、その他種々の応用面で商業的に用いられ て来た。それらは世界の環境中に広く分布され、持続性を有し、食物綱中に 入り蓄積されている。 PCBsのヒトヘの暴露は主として汚染された食物の摂取より生じ、また、 吸入、皮膚吸収によっても起こる。PCBsはヒトおよびその他の動物の脂肪 組織内に蓄積し、その双方に毒性作用を発生させ、それは反復暴露の場合に 特に著しい。 皮膚および肝臓は病理学的変化の主要部位であるが、胃腸器官・免疫系・ 神経系も標的である。市販PCB混合物中の汚染物質であるポリ塩化ジベン ゾフラン類(PCDFs)は、それらの毒性に大きく寄与している。薔歯類による 研究結果は、PCBの一部の同族体は発がん性を有し、他の化学物質の発が ん性を促進し得ることを示唆している。 ポリ塩化ビフェニル(PCBs)およびポリ塩化ターフェニル(PCTs)について の入手し得るデータによれば、理想的な状況下では、これらの化合物はいか なる濃度においても食物中に存在しないことが望ましいことは明らかである。 しかし、食品資源へのPCBsあるいはPCTsの暴露をゼロまで低減する、ま たはゼロ濃度に近づけることは、魚類のような重要な食品類、さらにもっと 重大な母乳の大量の排除(摂取の禁止)を意味することも同様に明らかであろ う。各国および国際的な科学委員会は、適切な程度の公衆の健康保護と食品 の必要以上の無駄の回避との間において、適正なバランスがどこに存在する かの決定を下さねばならない。 入手し得るデータでは、安全性を絶対的に保証するPCBsあるいはPCTs の暴露濃度は確定できない。
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2.物質の同定、物理的・化学的特性 a物質の同定 化学式 Cl2Hl0-nCln(n=1から10) 化学構造

C12Cl10 の2次元および3次元の化学構造

3次元の化学構造の図の利用

図の枠内でマウスの左ボタンをクリック → 分子の向きを回転、拡大縮小 右ボタンをクリック → 3次元化学構造の表示変更

分子量 モノ塩化ビフェニル188 高塩素化ビフェニル(Cl2Cl10)494(USEPA,1980) 一般名 polych1orinatedbiphenyls(PCBs) CAS登録香号 1336-36-3 RTECS登録香号 TQ1350000


PCBsは芳香族化学物質の混合物であり、適当な触媒の存在下でのビフェ ニルの塩素化により製造される。PCBsの化学式はC12Hl0-nClnにより表され、 nは1−10の範囲の塩素原子数である。 理論的には、209種類の同族体が可能であるが、市販品中には約130種の 同族体が存在するようである。さらにPCBsには、ポリ塩化ジベンゾフラン 類(PCDFs)と塩化クォーターフェニル類が不純物として含まれている。これ らの不純物は、正常な条件下では化学反応に対し比較的安定である。PCBs のすべての同族体は親油性で、水への溶解性は極めて低い。その結果、これ らは食物連鎖に容易に入り、脂肪組織に蓄積される。 市販のPCB混合物には、数mg/kg-40mg/kgの濃度範囲のPCDFsが含ま れている。ポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン(PCDDs)は、市販PCBsの中 には見出されていない。しかし、PCBsが変圧器中に用いられているクロロ ベンゼン類のような他の塩素化合物と混合された場合には、PCDDsは火災 事故や焼却の場含に見出される。 市販PCB混合物の色は淡黄色あるいは暗黄色である。それらは低温にお いても結晶化せず、固体の樹脂に変化する。PCBsは、むしろ高い引火点を 有し、実際には耐火性である。その蒸気は空気よりも重いが、空気と共に爆 発性の混合物を生成することはない。また、それは極めて低い導電率と比較 的高い熱伝導率を有し、熱分解に対し極度に高い抵抗性を示す。PCBsは通 常の条件下では化学的に極めて安定しているが、加熱された場合にはPCDFs のような毒性をもつ化合物を生成する。
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3.分析方法 1966年における環境中サンプルよりのPCBsの発見は、これら化合物の 分析と、ヒトおよび環境に対する毒性への関心を呼び起こした。 使用された分析方法が異なるため、現存データは直接的な比較はできない。 それにもかかわらず、これらはこの化学物質の規制と予防手段の確立、健康 および環境リスクの予備的なアセスメントヘ利用し得る。 PCBsの測定には、電子捕獲検出器つきのガスクロマトグラフィー(GC)、 充填カラムが多用されてきた。近年では、毛管カラム、ガスクロマトグラフ ィー/質量分析法(GC一MS)のようなより高度の手法が、個々の同族体の同 定、異なるサンプル源の分析データの相互比較性の向上、毒性アセスメント の基礎の確立のために用いられている。 これらの分析には広範囲の精度管理プログラムが必要とされ、相互比較の 研究が実施され勧奨されてきた。分析データの精度と有用性は、サンプルの 有効性と適切なサンプリングに大きく依存する。さらに、計画性のある、十 分に考証されたサンプリング・プログラムが不可欠である。詳細なサンプリ ング手法についてはWHOIEURO(1987)に記載されている。
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4.生産と用途 PCBsの商業生産は1930年に開始された。それらは電気設備に広く使用 され、少量は閉鎖系中の難燃性流体として用いられた。 1980年末までのPCBsの世界での総生産量は100万トンを越え、その後 の生産は一部の国々において続けられている。使用停止の増加と生産規制に もかかわらず、これらの化含物は大量に、使用過程にあるかあるいは廃棄物 として環境中に存在し続けている。 近年に至り、多くの工業国はPCBsの環境中への放出を規制し制限する措 置をとった。これらの制限に最も大きな影響を与えたのは、おそらく宝済協 カ開発機構(OECD)の1973年の勧告であろう(WHO,1976;IARC,1978; OECD,1982)。その時以降、OECD加盟の24カ国ではPCBsの製造、販売、 輪入、輸出、使用を制限し、それらの表示方式を確立させた。 現在のPCBsの放出源には、変圧器、コンデンサー、その他のPCB廃棄 物、下水汚泥、麦深土を含む埋立地からの蒸散、野外への不適切(あるいは 不法)な投棄が含まれる。汚染は、産業および自治体の廃棄物焼却の際にも 発生するであろう。自治体の焼却設備の大多数はPCBsの分解には有効では ない。変圧器やコンデンサーの爆発・過熱によって大量のPCBsが局地環境 中へ放出されるであろう。 PCBsは、熱分解の状況下ではPCDFsに変換され得る。実験室の条件下で の最大量のPCDFsの生成は、550−700℃の間で得られた。このようにpCBs の無統制な焼却は、危険なPCDFsの重要な発生源となる。従って、PCBs汚 染廃棄物の分解には、特に焼却温度(1,000℃以上)、焼却時間、乱流などの十 分なコントロールが勧告される。
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5.環境中の移動・分布・変質 環境中においては、PCBsは主として蒸気状態で存在し、微粒子上に吸着 する傾向は、その塩素化の程度に伴い増加する。PCBsの普遍的な分布の事 実は、空気中での移動を示唆している。 現在では、一般環境中でのPCBの主要暴露源は、以前に環境中に導入さ れたPCBsの再分布(redistribution)のように見える。この再分布には環境中 の土壌および水からの蒸発を含み、これらは大気中に移動し、湿潤/乾燥堆 積物(PCBsは微粒子に結含し)を経て環境中から除去され、次いで再蒸発さ れる。降雨中のPCBsの濃度は0.001−0.2μg/lの範囲である。PCBsの蒸 発および分解の比率は個々の同族体により異なるため、この再分布は環境に おけるPCB混含物の構成に変化をもたらす。 水中では、PCBsは堆積物および有機物質に吸着され、実験およびモニタ リング・データは、堆積物および浮遊物質中のPCB濃度は水分中よりも高 いことが示されている。堆積物への吸着は高度に塩素化されたPCBsにおい て特に強く、その蒸発比率を減少させる。それらの水への溶解性とn一オク タノール/水分配係数に基づくと、より低塩素化のPCBは高塩素化の同 族体よりも吸着の程度は低い。水生環境において、吸着作用はPCBsを比較 的長期間固定させるが、水中における脱着は、非生物的および生物的経路に より起こることが示されている。従って、水生堆積物中のPCBsの実質的な 量は、生物類にとり、PCBsの環境中の汚水槽(sink)(訳者注:廃棄する所) と貯水池(reservior)(訳者注:蓄積する場所)の両方の役割を果す。PCBsの 環境負荷の大部分は、水生堆積物により推定されて来た。 PCBsの低い水溶性と、土壌微粒子への強い吸着作用は、土壌中での洗脱‡ により制約され、低塩素化PCBsは高塩素化PCBsよりも多く洗脱される傾 向を示す。 環境中におけるPCBsの分解は、ビフェニルの塩素化の程度に依存してい る。一般的には、PCB同族体の持続性は、その塩素化の増加に伴い増強さ れる。環境中においては、PCBsとヒドロキシ・ラジカル(太陽光線により 光化学的に生成される)との蒸気相の反応が有力な変質プロセスであろう。 この反応による環境中における半減期はモノ塩化ビフェニルの約10日間か ら、ヘプタ塩化ビフェニルの1.5年の範囲にわたっている。 水生環境においては、加水分解および酸化作用はPCBsの分解に大きく寄 与することはない。光分解は、水中における唯一の可能性のある非生物的分 解過程のように見えるが、入手し得るデータは、環境中におけるその比率あ るいは重要性を決定するには不十分である。 微生物類による分解は、モノ−、ジ−、トリ塩化ビフェニル類においては 比較的迅速であるが、テトラ塩化ビフェニルでは遅い。一方、高度に塩素化 されたビフェニル類は生分解に抵抗性を示す。ビフェニル環の塩素置換位置 は、生分解比率の決定に重要のように見える。パラの位置に塩素原子を含む PCBsは選択的に生分解される。高度に塩素化された同族体は、嫌気性条件 下で、還元性脱塩素化により低塩素化PCBsに生物変換され、さらに好気性 プロセスにより生分解される。 脂肪組織中の生物濃縮・の程度は、暴露の期間と濃度、その化含物の化学 的構造、塩素置換の位置とパターンなどのいくつかの因子により決定される。 一般的には、塩素化の程度の高い同族体ほど容易に蓄積される。 水生生物種(魚類、エビ、カキ)において、実験的に決定された各種PCBs の生物濃縮係数(訳者注)の範囲は200−70,000以上の範囲を示した。外海で のPCBsの生物濃縮は高順位の食肉動物において、高塩素化ビフェニル類の 割合が高く、高栄養レベルで存在している。 土壌から植物へのPCBsの移動は、主として陸生植物の外部表面への吸着 により起き、その転流(translocation)はわずかである。
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6.環境中濃度およびヒトの暴露 PCBsは、その高い持続性とその他の物理的・化学的特性のため、全世界 の環境中に存在している。 地球的に見ると、PCBsは大気中に0.002−15ng/m3の濃度で見出される。 工業地域においては、その濃度はより高い(μg/m3まで)。雨水および雪の中 では、不検出(1ng)−250ng/lの範囲で検出されている。 職業上の条件下では、その空気中の濃度はさらに高いであろう。ある条件、 例えば変圧器やコンデンサーの製造においては、1,000μg/m3以上の濃度が 観察されている。緊急の場合には、16mg/m3以上の濃度が測定された。火 事および/または爆発の場合では高濃度のPCBsを含む煤(すす)が生成され、 8,000mgPCBs/kg煤の濃度が発見されている。爆発の場合にはPCDFsも存在 しているであろう。塩化ベンゼン類やPCBsを含む変圧器の事故においては、 ポリ塩化ダイオキシン類(PCDDs)も見出されるであろう。 このような緊急事態の場合、摂取、皮膚汚染、煤微粒子の吸入が起こり、 千の結果個人に重大な暴露を生じさせるであろう。しかし、一般集団の空気 経由の暴露は極めて低いであろう。 表層水は、点発生源あるいは廃棄物投棄場から直接排出される大気落下物 中のPCBsにより汚染されているであろう。ある条件下では、100−500ng/l までの濃度が測定されている。また、海洋においては0.05−0.6ng/l の濃度が見出されている。 非汚染地域においては、飲料水は1nlgll以下のPCBsを含んでいるが、5 ng/lまでの報告も見られる。各地の土ナ棄および堆積物中では、地域の条件に 依存し、0.01mg/kg以下から2.0mg/kgまでの範囲のPCBs濃度を含んでい る。汚染地域においてはずっと高く、例えば500mglkgという測定値もある。 過去においては、いくつかの国において、PCBsを含む汚染物質を対象と して、各種の食品類の数千のサンプルが分析された。大多数のサンプルは個々 の食品類より採取され、とくに魚類、肉・牛乳などの動物由来の食品が多か った。ヒトの食品は、次の3種の経路により汚染されていた。 (a)魚類一鳥類、家畜(食物連鎖を経由して)、農作物など環境よりの取り 込み。 (b)包装材料から食品への移動(多くは1mg/kg以下、但し、ある場合で は10mg/kgまで)。 (c)工場事故による食品および動物飼料の直接的汚染。 最も重要なPCB汚染の食品中の濃度は、動物脂肪20−240μg/kg、牛乳5 一200μg/kg、バター30−80μg/kg、魚類10−500μg/kg脂肪であった。特定 の魚種(ウナギ)あるいは魚製品(魚類の肝臓および油)には10μgkgまでの 高濃度が含まれている。また、野菜・穀類・果物・その他の多数の製品は10 トglkg以下の濃度が含まれていた。PCBs汚染への配慮が必要な主要な食品 は、魚類、貝類、肉類、牛乳その他の酪農製品である。各国から報告されて いる魚類の中央値は、100卜tglkg脂肪の水準である。これらを比較して見る と、魚類中のPCBs濃度は徐々に減少しているように見える。 PCBsは、ヒトの高脂肪組織および母乳中で濃縮される。各種の臓器およ び組織中のPCBs濃度は、脳を除き、それぞれの脂質含有量に依存する。工 業国の一般集団の高脂肪組織中のPCB残留量は、1mg/kg脂肪以下から5mg /kgまでの範囲である。 ヒトの母乳脂肪中のPCBsの平均濃度は、資料提供者の居住地、ライフス タイル、用いられた分析方法に依存する。工業化の進んだ地区や都市部に住 む、あるいは魚(とくに高汚染水域からの)を多く食べる女性の母乳中のPCBs 濃度は高いであろう。 環境中のサンプルからの大多数のPCB抽出物の組成は、市販PCB混含物 のそれとは似ていない。高分解能ガスクロマトグラフィー分析を用いた結果 でも、高脂肪組織および母乳の同族体の組成と各成分の相対濃度は、市販 PCIBsの組成とは著しく異なることが示されている。ヒトの脂肪組織および 母乳中のガスクロマトグラフィーのパターンには、2,4,5,3∴4’一ペンタ塩化 ビフェニル、2,4,5,2',4',5,- へキサ塩化ビフェニル、2,3,4,2',4',5,- ヘキサ塩化ビフェニル、2,3,4,5,2',4',5,-ヘプタおよび2,3,4,5,2',3',4,−ヘプタ塩化ビフェニルのような、主として高度に塩素化されたPCBsが含まれている。その他の3,4,3',4'−テトラ−、3,4,5,3',4,−ペンタ−、3,4,5,3',4,,5,-ヘキサ塩化ビフェニルのような少数の最も毒性の強いコプラナ(注:共平面性の化学構造を有する)PCBs同族体の量はずっと少い。 乳児が母乳から摂取する1日のPCBs量は4.2μg/kg体重の水準と算定さ れている(100Kcalの消費につき5.2μg)(WHO/EURO,1988)。生後6カ月間 の母乳よりのPCBsの平均摂取量は、その後の生涯での摂取算定量の375mg (70kgの体重の人が70年間、食事からのl日当り摂取量を0.2μg/kgとして) であるのに対比し4.5mgである。従って、育児期間の摂取量は生涯期間の 約1.3%の寄与であり、母乳育児の恩恵から見て大きくはない(WHO/EURO, 1988)。 バックグラウンド・データの評価に基づくと、成人が食事から摂取する PCBsの平均量は1週間当り最大100μgあるいは約14μg/人/日である。 これは、体重70kgの人の場合、最大0.2μg/kg体重/日の摂取となる(WHO /EURO,1988)。
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7.体内動態および代謝 動物試験は、PCB混合物および各同族体の双方を対象とし、主として経 口、吸入、皮膚暴露が報告されている。一般には、PCBsは急速に吸収され、 特に経口暴露後の胃腸器官では著しい。この吸収はヒトにおいてもおこるの は明らかであるが、ヒトにおけるPCBsの吸収比率についての情報は限られ ている。 入手し得る研究データによれば、血液からの迅速な排除と、肝臓と各種臓 器の脂肪組織内での蓄積という、二面的な体内動態プロセスが示唆されてい る。また、胎盤通過、胎児への蓄積、乳汁への分布の証拠も存在する。ある ヒトの研究においては、皮膚は高濃度のPCBsを含むが、脳内では脂質含有 量に基いて予想された量よりは少なかった。 脂肪からのPCBsの移動は、各PCB同族体の代謝比率に大幅に依存する。 排泄は、さらに極性の高い、例えばフェノール化合物との代謝に依存し、チ オール化含物およびその他の水溶性誘導体と結合する。代謝経路には、ヒド ロキシル化およびチオール類その他の水溶性誘導体との結合を含み、その一 部にはアレーン(訳者注:芳香族炭化水素)酸化物のような反応性のある中問 生成物を含むことがある。代謝比率は、PCBの構造および塩素置換の程度 と位置の双方によって異なる。高度に塩素化されたPCBsの極性代謝産物は 主として糞便中に排出されるが、尿中への排泄も多い。重要な排出経路の一 つは乳汁経由である。ある種のPCB同族体は毛髪中へも排出される。 入手し得る体内動態研究は、各同族体間の生物学的半減期に大きな開きが あり、これが化学構造に依存する代謝や組織の親和性の差異に反映し、その 他の要素が蓄積部位からの移動に影響を及ぼすことを示している。 組織内での持続性は必ずしも毒性の強さに関連せず、PCB同族体の間に おける毒性の差は特定の代謝産物おょび/または中間生成物に関係するので あろう。
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8.環境中の生物類への影響 PCBsは普遍的な環境汚染物質で、全世界にわたり、非生物的および生物 的の双方の環境媒体に存在している。多くの国々では、その使用と放出を規 制しているため、環境への移入は過去と比較すると減少の傾向にある。しか し、入手し得る証拠によると、PCBsの循環によるある種の同族体は海洋環 境への徐々に再分布していることを示唆している。最も高度に塩素化された 同族体は選択的に蓄積される傾向がある。PCBの大部分は堆積物中の微粒 子に吸着されるとはいえ、生物類にとってはなお生物学的利用性(bioavai1 ability)があり、より高い栄養レベルまで蓄積し続けるであろう。 8.1実験室研究 PCB混含物の微生物類への影響は、ある種においては0.1mgllで悪影響が 見られるが他の種類では100mg/lでも影響がないなど大きく変わり、種々 の生物種への影響はPCB混合物の塩素化の程度に応じて一走の変化を示す わけではない。水生生物類へのPCBsの影響に関する研究のほとんどすべて はアロクロール(Aroclor)(訳者注:PCBの商品名)混合物に関するものであ る。その結果は、たとえ近隣種であったとしても、塩素化のパーセントある いは環境条件と毒性との間の関連性は乏しい。96時間の静的状態における LD50(50%致死量)値は、各種水生無脊椎動物種と各種のアロクロール混合 物においては、12μg/l一10mg/l以上の範囲を示した。流水(flow−through)条 件ではPCBsの毒性は増強された。 一般的に、最も毒性の強いのは中等度に塩素化されたアロクロール類であ り、低および高度の塩素化混合物はより低い毒性を示した。これはミジンコ の繁殖のような亜致死的(sub一lethal)な影響についても同様である。甲殻類 は、脱皮期間中にはPCBsの影響を受け易いように見える。アロクロール 1254の暴露により河口生物種の社会構成のモデル個体数に変化をもたらし た。端脚類動物のハマトビムシ、コケムシ類、カニ類、軟体動物(貝類、イ カ、タコなど)は減少し、環形動物(ミミズ、ヒルなど)、腕足類(シャミセン ガイなど)、腔腸動物(クラゲ、ヒドラなど)、車束皮(きょくひ)動物類(ヒトデ、 ウニ、ナマコなど)は影響を受けなかった。 PCBsに対する感受性の変化なのか、あるいは生物種の間の相互作用の差 なのかを決定するには、急性試験に含まれるグループが極めて少なかった。 PCB混合物の魚類に対する毒性には、96時間のLC50は0.008mg/l−100mg /1以上の間を変動し、同様の変化が見られる。長期試験は、急性暴露では(と くに静的状態において)PCBの毒性を著しく過小評価することを示している。 ニジマスはとくに感受性が高く、胚一幼生期において、アロクロール1254 に対する22日間のLC50で0.32μg/lを示し、影響の認められない濃度 (NOEL:no−observed-effect level)は、アロクロール1016、1242、1254に対 し、22日間で0.01μg/1であった。 淡水産のコイ(fathead minnow)では、アロクロール1242、1248、1254、1260 に対するNOELは、それぞれ5.4、0.1、1.8、l.3片gllであり、また、河口産 のコイ(sheephead minn。w)では、アロクロール1016および1254に対し、そ れぞれ3.4、0.06μg/lを示した。 野生で蓄積されたPCBsを含有する魚類で飼育されたアザラシについて、 その繁殖障害を立証するフィールド観察が実験的証拠で確認された。その影 響は生殖の後期におこり、胚の子宮壁への着床を妨げた。 短期試験において、アロクロールの鳥類に対する毒性は、塩素化のパーセ ントにより増強し、5日間の食餌のLC50の範囲は604−6,000mg/kg食餌の 範囲であった。鳥類の繁殖に対するPCBsの主な影響は、卵の鵬化率の低下 と胎児毒性である。これらの影響はPCBの投与終了後も持続し、メスドリ は産卵によりPCB負荷を軽減した。アロクロールには直接卵殻を薄くする との証拠はないが、食餌摂取量および体重への影響は卵殻を薄くする問接的 な影響を有する。行動およびホルモン分泌に対する亜致死的な影響も報告さ れている。 アロクロール類のミンクに対する急性毒性は、塩素化の増加に伴い低下し、 急性経口のLD50は750−4,000mg/kg体重の間を変動し、シロイタチの場合では、 より低い感受性が認められた。また、アロクロールは食餌摂取量を減少させ、 、 若いミンクの成長率を低下させた。ミンクの繁殖への影響では、餌の魚への アロクロールの直接投与あるいは自然汚染の魚のいずれの場合においても、 その低下あるいは停止が認められた。塩素化の高いアロクロール類(特に 1254)では、より大きな影響が認められた。繁殖割合は、アロクロール含有 の給餌の中止後には正常に回復した。 コウモリは、移住期間中に脂肪から放出されたアロクロールにより影響を 受けるであろう。 水生および陸生生物類についての実験室試験の大多数はPCB混含物を用 いて実施されたため、その影響に対し、混含物中のどの成分が原因であるか は確定できない。同様に、試験は環境の面で実際的でない状況下(例えば、 同族体の溶解性が実際よりも高い、また水生試験で堆積物がない点など)の ため、実験室からフィールドヘの外挿は困難である。しかし、生物類の個体 数への影響は、過去において高濃度のPCBに暴露された一地方で既に観察 されたように、将来においては環境中でもっと一般的に起こりそうである、 と推測するのは妥当である。 8.2フィールド研究 フィールドにおける魚類の個体数に対するPCBsの影響を示唆する結呆は、 決定的とはいえない。多種類の有機塩素類の残留物が存在するため、鳥類の フィールド・データの解釈は難しい。大多数の研究報告者は、影響(胎児毒 性)と有機塩素残留物の総量との間の関連性を示している。現存の有機塩素 化合物のうちでは、PCB残留物が胎児への影響と最もよく大きな関連を示 すが、その結果をPCBsのフィールド影響の証明と見なすことはできない。 PCBsには海洋哺乳類の繁殖能力を低下させるとの証拠(実験室の試験で 確認された)が存在する。この影響は胚の着床に対するものであるが、メス の生殖器官の肉体的変化もあり得る。 実験室の急性短期試験より、フィールドの個体数段階の影響を外挿するの は不可能である。PCB混合物のどの成分が影響の原因なのか、環境中に存 在する特定の同族体、生物類のPCB成分の生物学的利用能(bioavailability) などに関する不確走性のすべてが、環境暴露と影響の評価を困難にしている。 海洋哺乳類の個体数への影響は立証されたと見なされるが、その原因のPCB 混含物の成分は未だに知られていない。 海洋環境の汚染増加の傾向が認められるとしても、重点は海洋生物類への 影響に集中しなければならない。高度汚染海域における海洋哺乳類の個体群 の繁殖への影響については明らかな実験室およびフィールドの証拠が存在す る。海洋哺乳類のその他の個体群に対するPCBsの残留物とその影響は、将 来において増加するであろう。 鳥類のように、海産食物を摂取している他の生物類への影響はあまり明ら かではない。 低級生物類、植物プランクトン、動物プランクトンの個体数および社会へ の影響は、実験室の研究に準拠しておこるであろう。しかし、このような変 化の範囲と重要性の双方についての評価は難しい。魚類は食魚性哺乳類や鳥 類の暴露経路ではあるが、現在入手し得る情報からは魚類個体群への影響は おこらないであろう。 陸生生物類、食魚性淡水哺乳類、移動性コウモリについて以前に報告され た影響は、再分配された残留物としては明確ではないであろう。現在の陸生 生物相内の残留物は全体としてはやや減少を示しているが、同族体中の変化 についての情報は稀有あるいは皆無である。高度に塩素化された同族体残留 物の減少速度は遅いと予想される。
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9.実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響 9.1単回暴露 ラットにおけるアロクロール類の単回暴露後の急性毒性は一般には低い。 若齢動物(LD50:1.3−2.5g/kg体重)では、成獣(LD50:4−11gkg体重)より も感受性は高い上うに見える。成獣ラットにおいて、アロクロール1254で 報告された最低のLD59は1.0g/kg体重であった。また性別による差は認 められなかった。 ウサギの経皮によるLD50は、アロクロール1260(コーンオイル中)につい てはI.26g以上2g/kg体重以下、また、ある種の未希釈のPCB混含物に対 しては0.79gから3.17g/kg体重以下の範囲であった。ラットに対する静脈 内投与においては、アロクロール1254のLD50は0.4g/kg体重が示され、ま た、マウスにおける腹膜内注射後のLD50は0.9−1.2g/kg体重の間を変動し た。 9.2短期暴露 哺乳類に対するPCB混含物あるいは同族体の短期経口暴露の主要な標的 は、肝臓、皮膚、免疫系、生殖系である。試験された動物種の中ではアカゲ ザルが最も高い感受性を示し、メスはオスよりも鋭敏であった。成獣アカゲ ザルのメスが、2.5mg/kgの濃度のアロクロール1248を含有する食餌に、ま た1日当り0.09mg/kg体重に6カ月暴露された結呆、死亡率の増加、成育 の遅滞、禿頭病、ざ瘡(にきび)、眼のマイボーム腺の腫脹、免疫機能低下の 可能性が示された。顕微鏡的には、病巣の壊死を伴った脂肪肝の拡張、上皮 の肥厚、毛嚢の角質化が認められた。より高濃度の暴露においては、脂腺、 マイボーム腺、胃粘膜、胆嚢、胆管、爪床、エナメル芽細胞のようなその他 の上皮組織において顕微鏡的変化が観察された。総脂質トリグリセライド類 およびコレステロールの血清濃度は低下した。市販PCB混含物の短期暴露 は、総脂質濃度、トリグリセライド類、コレステロールおよび/または刊蔵 中のリン脂質の増加を誘発した。PCB同族体のうち3,4,3’,4,−テトラ塩化ビ フェニル、3,4,5,3’,4’,5,-および2,4,6,2’4’,6,−ヘキサ塩化ピフェニルは最も強い影響を示した。アロクロール1254の0.2mg/kg体重/日の用量レベルにおいては、リンパ結節網状組織損傷、指爪剥離、歯肉影響のような他の影 響も示されたが、ざ瘡と禿頭病は見・られなかった。アカゲザルにおける、ア ロクロール1242の一般毒性についてのNOELは0.04mg/kg体重/日が確立 されている。高用量のアロクロール1248の35mgkg体重/日に暴露された アカゲザルの哺乳仔では、比較的軽度の影響が示された。ラットにおいて最 もよく研究されている肝臓への影響には、その肥大、脂肪変性、内質綱状質 の肥厚、ポルフィリン症、腺線維症、胆管肥厚、嚢胞、前がん状態および新 生物形成(訳者注:腫瘍性の異常組織の発生)の変化が含まれる。ラットおよ びマウスにおける試験では各PCB同族体は肝臓・脾臓・胸腺に影響を与え、 プラナ(planer)(訳者注:平面構造本)の同族体は最も強い毒性を示した。サ ルにおいて、プラナ同族体は1−3mg/kg食餌の用量により、アロクロール 1242の100mg/kg食餌およびアロクロール1248の25mg/kg食餌の場合と類 似した特性と症状程度を有する影響を誘発した。 ウサギおよびマウスに対するPCB混合物およびある種の同族体の皮膚暴 露後においては、経口暴露後に見られるのと同様な皮膚や肝臓への影響を発 生させた。ウサギにおいては、胸腺萎縮、リンパ節胚中枢の減少、白血球減 少症も観察された。
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10.10.生殖・胎児毒性・催奇形性 10.1生殖およぴ胎児毒性 総合的な生殖および催奇形性試験は実施されていない。ラットの二世代生 殖試験では、生殖パラメータに基づき、アロクロール1254のNOELとして 0.32mg/kg体重、また、アロクロール1260のNOELは7.5mg/kg体重が確定 している。しかし、試験された最低用量の0.06mg/kg体重において、離乳 仔の肝臓に相対的重量の増加を生じさせた。アロクロール1016に暴露され たアカゲザルでは、生殖パラメータに準拠し、0.03mg/kg体重のNOELが確 立している。しかし、この濃度において、出生時の体重減少が認められ、0.01 mg/kg体重では皮膚色素の過剰沈着が生じた。 アロクロール1248(PCDFs:ポリ塩化ジベンゾフラン類を含む)では、ア カゲザルの暴露中止後1年において、0.09mg/kg体重のNOELが確立されて いる。 10.2催奇形性 動物に対し器官発生期間中に経口投与した場含、入手し得る研究では、ラ ットおよびサルに催奇形性は示されなかった。ラットの仔獣の体重に関して、 アロクロール1254のNOELとして50mg/体重kgが、また、そのLOEL(訳 者注:影響の認められる最低のレベル)は胎児毒性(甲状腺濾胞細胞の損傷) に基づき2.5mg/kg体重と推定できる。 各同族体を用いたマウス、ラット、アカゲザルについての催奇形性テスト においては、NOELは示されなかった。アカゲザルにおける0.07mg/kg体重 の用量では、母性に対する毒性影響を生じさせた(3,4,3’,4’,−テトラ塩化ビフエニル)。
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11.変異原性 PCB混合物は、各種の試験系において変異原性あるいは染色体損傷を生 じさせることはない。染色体切断は、3,4,3’,4,-テトラ塩化ビフェニルによ りin vitro(試験管内)においてヒトのリンパ球で誘発された。高濃度のPCB 混合物は、アルカリ溶出試験におけるDNA一本鎖切断により立証されてい る通り、主としてDNA損傷を引き起こすであろう。
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12.発がん性 市販PCB混含物について入手し得る動物データの解釈は、不純物の塩素 化ジベンゾフラン類の存在あるいは寄与、同族体の組成中の変化などに関す る情報が欠落しているため、しばしば複雑である。 多数の長期発がん性試験がマウスおよびラットについて実施された。用い られたPCB混含物はカネクロール300、400、500、アロクロール1254、1260、 クロフェンA30、A60である。クロフェンはPCDPsは含まないと報告さ れているが、その他のPCB混合物の純度についてのデータは示されていな い。 カネクロール500およびアロクロール1254の約15−25mglkg体重の用量 レベルを含む食餌により飼育されたマウスにおいて、肝細胞腺腫および/ま たはがん腫の有意の増加が認められた。カネクロール300および400を投与 されたマウスにおいては、新生物は検出されなかった。 ラットにおいては、肝細胞腺腫および/またはがん腫の増加は、アロクロ ール1254および1260、クロフェンA30への1年間以上の暴露により認め られた。これらの試験における腫瘍保有動物の発生率の増加は、統計学的に 有意とは見なされなかったが、有意の増加は2件のその他の研究において認 められ肝細胞(線維柱)がん腫および腺がんの発生の増加は、アロクロール 1260およびクロフェンA60の約5mglkg体重の用量濃度の投与により立証 された。 これにより発生した肝腫瘍の特性は非攻撃的(良性あるいは悪性度が低く、 転移なし)であり、寿命を短縮しない、と考えられている。一部の研究では、 肝臓内の腺線維症、前がん様損傷および/またはがん小結節が報告されてい る。アロクロール1254を用いた1件のテストでは、ラットにおいて、腸管 の化生(metaplasia)および胃の腺がんの用量関連の増加が例証された。 肝発がん物質を予め投与された薔歯類において、PCBsが肝発がん性の増 強作用をサポートする実質的な証拠が存在する。また、PCBsには曹歯類に おいて弱いがん誘発作用が存在する。報告されている遣伝毒性試験から、PCB 混合物には遣伝毒性はないとの結論を下すことができる。これらの結果は、 薔歯類におけるPCBsの投与と肝臓腫瘍との関連性において、閾値アプロー チがPCB毒性の評価に随伴するため、肝臓内の細胞増殖の促進とその他の 肝臓毒性の発現を含むある種の後成説のメカニズムに由来することを意味し ている。各種の組織特有の発がん物質に事前暴露された動物において、PCBs が組織内の発がん性を増強する可能性については、さらに研究が必要である。 一部の研究においては、動物への発がん物質の投与期間中あるいはその以前 においてPCBsの抗発がん作用が示されているが、これは解毒作用を増強さ せるPCBsのミクロソームの酵素誘発特性に関連するためであろう。 総合的には、PCBsの発がん性については、入手し得る動物データをヒト へ外挿する場合には、留意すべき理由が存在する。 総合的には、PCBsの発がん性については、入手し得る動物データをヒト へ外挿する場合には、留意すべき理由が存在する。
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13.特別研究 PCB混含物および各同族体への暴露後の損傷は、肝臓・皮膚・免疫シス テム・生殖システム・胃腸器官の浮腫と障害・甲状腺に影響を及ぼす。 PCBsは肝臓内において、各種の酵素を誘発する。これはアロクロール1248、 1254、1260、カネクP一ル400(チトクロームP450およびP448の誘発)に ついて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、イヌ、サルにおいて立証さ れている。誘発能力は、分子内の塩素含有量に伴い増加する。それは、同族 体の構造、P450酵素を誘発するパラおよびメタの位置に塩素を有する同族 体にも依存する。アリル炭化水素水酸化酵素(AHH)の誘発については、塩 素の位置は塩素化の程度よりも重要のように見える。パラおよび少なくとも 2つのメタの位置の双方が塩素により置換されている同族体は、AHH誘発 が最も強力である。また、動物の種差間の変動も立証されている。アロクロ ール1260に対するNOELの最低値(0.025mglkg体重)は、オズボーン・メン デル系ラットにおいて見出されている。 内分泌システムヘの影響は、ホルモン・レセプター結合とステロイド・ホ ルモン・バランスの変化として見られる。各種のアロクロールについて、弱 いエストロゲン(訳者注:女性発情ホルモン)作用の直接的および間接的証拠 が認められる。アロクロール1242の75mglkg食餌に36週間暴露されたラ ットにおいては、生殖腺ホルモン・レベルの減少と精巣の相対重量の増加が 見出された。アロクロール1254(25mglkg食餌)に3週間暴露されたメスの マウスでは、副腎重量の増加のない血漿コルチコステロイド濃度の減少が見 られた。200mglkg含有の食餌を2週間与えられた他の系統のマウスでは、 副腎重量の増加が認められた。 PCB混含物は各種の動物において免疫低下作用を示し、サルおよびウサ ギは最も鋭敏である。サルにおける最低のNOELは0.l mglkg体重、ウサギ では0.18mg/体重kgである。 アロクロール1254の500mg/kg体重を経口によって単回投与されたマ ウスにおいては運動量の低下が見られた。これはおそらく、神経的伝達物質 (neurotransmitters)の受け入れと放出の阻害に関連するのであろう。 PCB混合物には、ラットの血中および肝臓のビタミンAおよびB1濃度の 低下作用が認められている。ビタミンA、Bl、B2、B6の濃度の減少はPCB 混合物に暴露されたラットおよびマウスにおいても見られた。
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14.毒性変更因子と作用様式 市販PCBsは、部分的にPCDDsおよびPCDFsに似た毒性反応の変動範囲 を示す。さらにPCB同族体の化学構造類似性と作用の関連は、それらの毒性反応 の大半とP448依存性のAHH誘発の強さの点から、2,3,7,8-TCDDの 近似の立体異性体のPCB同族体が最も高い反応性を示した。これらの知見 は、反応の一般的メカニズムは、シトソル(訳者注:ミトコンドリアおよび 小胞体を除いた細胞質)のアリル炭化水素水酸化酵素レセプター・タンパク に対するこれらの化合物の親和性に基づくことを示唆している。2,3,7,8− TCDDの毒性と等価となる因子は、これらのコプラナ(訳者注:共平面性化 学構造の意)PCB同族体であると提言されてきた。PCBs、PCDFs、PCDDs の間の相互作用の特性については十分に研究されてはいない。PCBsはミク ロゾーム酵素活性を刺激するため、それらはミクロソームの代謝を受ける他 の化学物質の作用に影響を及ぼし得る。その他のいわゆる非平面的化学構造 のPCB同族体はさらに複雑な毒性を生じさせるであろう。さらに、PCB同 族体、とくに低塩素化化合物はアレーン(芳香族炭化水素)酸化物の中間生成 物質を通じて代謝されるであろう。
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15.ヒトヘの影響 PCBの毒性学的評価は多くの問題を提起している。PCBsは通常多数の 同族体の混合物として存在し、PCBsの毒性のデータの多くは、これらの混 合物試験に基づいている。混合物のある種の成分は、環境中において他成 分より容易に分解する。従って、一般集団が暴露される混合物はPCBs作 業者が暴露される混合物とは異なる。 一般集団は、主として汚染食品(水生生物類、肉類、酪農製品)を通じてPCBs に暴露される。毎日のPCBsの取り込みは、大半の工業国において、一人当 り数マイクログラムのオーダであり、このような暴露は疾病には関連しない。 また、乳児は母乳を通じてPCBsに暴露され、1日当りの摂取量は、数マイ クログラム/kg体重程度であろう。 PCB混合物にはPCDFsを含むことが非常に多いため、ヒトヘのPCBs、 PCDFs、PCDDsの健康影響を分離して評価するのはたいへん困難である。 PCDDsの存在も、特定混合物の事故時には時々認められる。市販PCBsは PCDFsによる汚染があると示されているため、多くの場含、その影響がPCBs そのものによるのか、あるいはより毒性の強いPCDFsによるのかは明らか ではない。そのため、ヒトの大規模の中毒、「ユショウ」(Yusho)(油症)「ユ チェン」(Yu一Cheng)その他の中毒事件より得られたデータの多くは、PCDFs とPCBsの双方の暴露を反映しているのであろう。 ユショウおよびユチェンの患者の中毒の徴候には、眼のマイボーム腺の分 泌過剰、眼瞼の膨張、爪および粘膜の色素沈着、それに関連する疲労、悪心、 嘔吐がある。次いで、通常は濾胞状腫脹とざ瘡(にきび)様の発疹を有する皮 膚の過角化症と黒化が発症する。さらに息者には、腕および足の浮腫、肝臓 の肥大と機能不全、中枢神経系障害、気管支炎様の呼吸困難、免疫状態の変 化も観察された。小児のユショウおよびユチェン患者においては、成長の遅 滞、皮膚および粘膜の暗色色素沈着、歯肉の肥厚、異物性結膜炎の水腫様の 眼症状、出生時の歯牙発生、頭蓋骨の石灰沈着異常、舟底踵、低体重新生児 の出生増加などが観察された。これらの息者における暴露と悪性新生物(訳 者注:腫瘍状の異常組織)の発生との間の関連性の有無については、死亡例 が余りにも少数であるため、決定的な結論を下すことはできない。しかし、 男性患者のすべての新生物、肝臓および肺のがんによる死亡率においては、 統計学的に有意の増加が認められた。 職業的条件下では、急性暴露の数時間後に皮膚発疹が発生した。さらに、 高濃度のPCB暴露後には、痒感、熱傷感、結膜の刺激、指および爪の色素 沈着、塩素ざ瘡が見られた。塩素ざ瘡はPCB暴露作業者の暴露後に最も多 く見られる所見の一つである。これらの中毒による皮膚の徴候に加えて、多 くの研究者は、肝臓障害、免疫機能低下、呼吸器粘膜の一過性の刺激、頭痛、 めまい、機能低下、睡眼および記憶障害、神経質、疲労、インポテンスなど の神経的かつ非特異的な精神あるいは身体上の影響が見出されている。全体 的な結論としては、「高濃度のPCBおよびPCDFの継続的職業暴露は皮膚 と肝臓に影響を生じさせる」ということである。 2件の大規模の死亡率研究が作業者のコホート(訳者注:疫学研究におけ る特定の集団)について実施された。アロクロール1254、1242、1016の暴 露により、1件の研究では肝臓および胆嚢のがんにより、また別の研究では 胃腸器官の新生物およびがんによる死亡率の増加が認められた。入手し得る 疫学研究では、暴露集団における死亡例が少数であること、用量一反応関係 を欠くこと、PCB混含物中の汚染物質の問題のため、PCB暴露とがん死亡 率の増加との関連性についての決定的な言正拠は示されていない。
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16.結論 16.1分布 PCBsはその物理的・化学的特性のため、地球全体に分散され、環境中の いたるところに存在する。 PCBsは、生物類中にほとんど普遍的に存在し、容易に蓄積される。食物 連鎖における生物学的拡大(biomagnification)も立証されている。 より高度に塩素化された同族体は選択的に蓄積する。 16.2実験動物への影響 動物研究の結果では、PCBsは免疫機能の全体の変化(脾臓重量、胸腺重 量、リンパ球数)で評価された通り、免疫作用を低下させる。サルにおける NOELは、アロクロール1248では100μg/kg体重、アロクロール1254につ いては100μg/kg体重以下と推算されている。免疫低下作用は、同族体に特 異的な影響のように見える。 生殖毒性は、一般には、母獣に全身的影響を発生させる用量においてのみ 見られる。汚染された母乳により飼育された新生仔は、とくにPCBsに感受 性が高く、その他の毒性症状による成長低下を示した(サルおよびその他の 動物はモデルとして用いられた)。アロクロール1016のサルの生殖影響への NOELは30μg/kg体重であるが、アロクロール1248の生殖影響のNOELは 確定されていない。 PCBsには遣伝毒性は認められず、腫瘍誘発作用についての証拠は不明確 である。しかし、PCBsは腫瘍イニシエーターとして作用する。PCB混合物 の毒性は、閾値を基礎とした評価が可能であろう。 16.3ヒトへの影響 一般集団のPCBsへの暴露は主として食品を通じてである。乳児は母乳を 通して暴露されると息われる。 2件の大規模なヒトの中毒事件が日本(油症)と台湾(ユチェン)において発 生した。ユショウおよびユチェンの息者の主な症状は、しばしばPCB混含 物の汚染物質、特にPCDFsに由来している。タスク・グループは、これら の症状はPCBsとPCDFsの複含暴露により生じたものとの結論を下した。 しかし、症状の一部、特に慢性呼吸器影響は、特定のPCB同族体のメチル スルフォン代謝産物により発生したものであろう。
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17.勧告 ・モニタリング・プログラムの結果の相互比較性を向上させるため、分析 手法の国際的合意を勧告する。同族体に特異的な分析手法の開発は、確 認された混合物に基づいて継続すべきである。 ・分析データの信頼性を保証するため、研究室相互間の精度管理研究を強 く勧告する。開発途上国のモニタリングヘの参加を可能にするため、技 術的援助と監督の国際ネットワークの確立についても勧告する。 ・PCBsのリスクアセスメントの精度を向上させるため、特定の同族体を 用いた長期研究およびPCIBs混含物の成分の作用メカニズムの、特に腫 瘍誘発を重視した研究を勧告する。 ・乳児は母乳による高い暴露を受けるため、一般集団中では最も脆弱のよ うに見える。この点から、新生児へのリスクをより良く評価するための 疫学研究が必要である。 ・将来における疫学研究での利用のため、より複雑なタイプのPCB毒性 (生殖、免疫、神経毒性などのような)の一部について、鋭敏で特異的な バイオマーカー(生物学的指標)を開発すべきである。 ・PCBの廃棄については、適切に計画された焼却施設により、完全な分 解を確実にするために必要な一定高温(1,000℃以上)の維持、焼却時間、 乱流を保証し得る設備を用いて実施しなければならない。 ・既に埋立地に含まれているPCBsの除去方法を研究すべきである。 ・既に存在している残留物の再配分を追跡調査するため、環境中および野 生生物中におけるPCBsの世界規模でのモニタリングが勧奨されるべき である。 ・海洋哺乳類はPCB汚染により、生殖面での影響を受け易い。鯨類の個 体群数と繁殖状況についての研究は、どの同族体がそれらの影響の原因 であるかを確証する将来の研究と共に奨励されるべきである。
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18.国際機関によるこれまでの評価 PCBsは、1978年と1987年に国際がん研究機関(IARC)によって評価され ている。1987年IARCは、発がん性におけるPCBs中の不純物の役割は無視 できず、また用量一反応関係の知見を欠くため、疫学研究からの証拠は限定 されている、との結論を出した。しかし、実験動物における証拠は十分であ る。これらの諸点より、ヒトおよび実験動物からの証拠を結含させ、IARC グループは、PCBsは、ヒトに対して発がん性を示す可能性が高い」(prob‐ ably carcinogenic for humans)との結論を下した(IARC,1987)。 多くの国および国際機関は、PCBsおよびPCTsの生産・使用・取り扱い・ 廃棄について、禁止あるいは厳重な制限を決定した。これらの方法と規制 を概観して、我々はPCBsおよびPCTsについての「安全衛生ガイド」(the Health and Safety Guide)を作成した(WHO,1992;IRPTC,1986)。 食品添加物に関するFAO(国連食料農業機関)/WHO(世界保健機関)合同 専門家委員会(JECFA)の会含(WHO,1990)においては、母乳経由のPCBs 取り込みによる乳児の健康影響に特別の注意が払われた。しかし、大方の意 見は、母乳の摂取による健康への悪影響が起こるとは予想されない、という ものであった。また、乳児が母乳を摂取するのは短期間(生涯のl−2%)で ある点にも留意すべきである、とされた。さらに、次のような、その他の要 素も考慮されるべきである。 ・母乳の栄養、免疫、その他の特性および生理学的利点を含む授乳の恩恵 を無視すべきではない。 ・伝染性要因による汚染の可能性、不正確な調製、不適切な衛生状態など による母乳代替品の不利な点。 これらの理由により、FAOIWHO合同専門家委員会は、母乳による哺育は、 母乳のPCB含有量によるいかなる有害な可能性よりも優位であり、これを やめることは絶対に正当化されない、との意見を持つに至った。 現在までのモニタリング・データは、母乳中のPCBsの存在は、多少の増 減はあるが、特定の国では、同一濃度で数年間は持続することを示している。 ヒトの母乳中のPCBs濃度は現在でも余りにも高く、環境へのPCBsの侵入 を極力防止し、食品中での存在をコントロールするために、あらゆる努力を 尽くさねばならない。委員会はPCBsの生産の大部分が中止されたことを監 視により再確認した。従って、環境および食品中、次いで、母乳中のPCBs 濃度は、時間と共に減少することが期待されている(WHO,1986)。 バックグラウンドのデータの評価に基づいた場含、成人のPCBsの食事か らの平均取り込み最大量は100μg/週、あるいは約14μg/日である。これ は70kgの体重の人では、最大量0.2μg/kg体重/日の取り込みと同等であ る(WHO/EURO,1988)。 上記のデータは、一般集団の・PCBsの主要な暴露は食品を通しておこるこ とを示唆している。乳児が母乳から取り込むこれらの化合物の1日当りの量 は、体重あるいはエネルギー消費で比較すると、他の人々よりも約1−2桁 高い。しかし、生涯期間での取り込みを比較すると、6カ月の授乳期間は生 涯暴露による生体負荷総量の5%以下の寄与である(WHO/EURO,1988)。
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Last Updated :10 August 2000
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