環境保健クライテリア 134
Environmental Health Criteria 134

カドミウム Cadmium

(原著280頁,1992年発行)

更新日: 1997年1月7日
はじめに
1. 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
2. ヒトおよび環境の暴露源
3. 環境中濃度および人の暴露
4. 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝
5. 実験用哺乳類への影響
6. ヒトへの影響
7. ヒトの健康リスク評価
8. ヒトの健康保護のための勧告
9. 今後の研究結論
10. 国際機関によるこれまでの評価

→目 次


はじめに
  本モノグラフ中の用語の定義は、1974年、東京において開催された国際
産業保健学会恒久委員会、金属毒性科学委員会の会合(金属毒性タスク・グ
ループ)に基づいている。臓器中における「臨界濃度*」(critical concentration)
という用語は、「その時点のある臓器中で、細胞中に可逆性あるいは不可逆
性の有害な機能の変化(adverse functional changes)を生じさせる金属の濃度」
と定義されている。これらの最初の有害な変化は「臨界影響」(critical effect)
になるであろう。このように、臨界濃度は個人レベルで確立されており、個
人の間で変動する。「決定臓器」(critical organ)という用語は、「特定の状況
下で、一定の集団において、ある金属の臨界濃度に最初に達する特定臓器」
と定義されている。決定臓器における金属濃度の作用としての特殊な影響の
発生率(反応)を表す用量一反応関係は、個人の臨界濃度の頻度分布を示す。
このため、リスク算出においては、集団あるいは特別なグループ間での臨界
濃度の変動性を決定することが不可欠である。
  人々の特別なグループにおいておこるカドミウムの臨界濃度において、そ
の変動性の予測に選択される用語は、臨界濃度の予測保有率(the predicted
prevalence)である。例えぱ、臨界濃度5(CC5)は、集団の5%が彼等個人の
臨界濃度に達している濃度であり、CC50は集団の限定されたグループの50
%に発生している臨界濃度である。この「臨界濃度」(critical concentration)は、
WHO出版の「特定食品添加物および汚染物質」(1989)で用いられた「集団
臨界濃度」(population critical concentration)と同意語である。
臨界濃度と用量一反応関係は、臨界影響の定義に大きく依存している。カ
ドミウムの腎臓への初期の影響は低分子量タンパク質の尿への排泄増加とし
て測定できる。定義の運用には、タンパク尿が「有客な機能変化」(adverse func-
tional change)を意味する限界点(cut-off point)をつくる必要がある。カドミ
ウムの種々の研究では、データを用量−反応関係に取り入れるのを困難にし
た種々の運用上の定義を用いてきた。用量と種々のタイプの影響、あるいは
同種の影響における種々の程度との関連性は「用量一影響関係」と呼ばれる。
動物研究においては、個体の臨界濃度は算定されなかった。用量および影
響のデータは動物のグループに基づいており、これらのグループは通常は少
ない。少数の動物試験では、このグループ内の用量−反応関係の定量的測定
を試みた。腎臓皮質内のカドミウムの一定濃度においておこる影響の報告は、
50%以上の動物がその影響を受けていることを最もよく説明している。5
〜10%の反応は、低濃度のカドミウムにおいて起こるであろう。
 環境に対するカドミウムの影響は、環境保健クライテリアNo.135「カドミ
ウム−環境面よりの検討」(WHO,1992)において取り上げられている。


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1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法 a 物質の同定 元素記号 Cd 原子番号 48 原子量 112.40 天然の同位体 106(1.22%),108(0.88%),110(12.39%),111(12.75%), 112(24.07%),113(12.26%),114(28.86%),116(7.50%) CAS登録番号 7440-43-9 RTECS登録番号 b 物理的・化学的特性(EHC No.135 カドミウム−環境面からの検討−参照)
生物試料中におけるカドミウムの測定については数種類の方法が可能であ る。原子吸光分析法は最も広く用いられているが、低濃度のカドミウム・サ ンプルの分析においては、サンプルの慎重な取り扱いと干渉の補正が必要で ある。その分析法は、精度保証プログラム(a quality assurance programme)に よる同時実施を強く勧告する。現在、理想的な状況下では、尿および血液中 においては約0.1μg/l、食品および組織サンプル中では1〜10μg/kgの濃度 測定が可能である。
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2.ヒトおよび環境の暴露源 カドミウムは比較的稀な元素で、現在の分析方法では、この金属の環境媒 体中の濃度は以前の測定値よりもずっと低いことが示されている。現在のと ころ、人問の活動が極地の万年雪の中のカドミウム濃度を歴史的に増加させ たかどうかについて決定することはできない。  カドミウムの商業的生産は今世紀の初期に始まった。近年、カドミウムの 消費パターンは、電気メッキ分野での著しい減少および電池と電気分野での 特殊用途の増加により変化した。カドミウムの主要な用途の大部分では、低 濃度の化合物としてカドミウムを用いている。その利用の特徴は、リサイク ルを抑制している。少数の国での特定の用途へのカドミウムの使用制限は、 これらの利用に大きな影響を与えている。  カドミウムは、人問の活動により、空気、土地、水中に放出される。一般 的には、二つの主要な汚染源は、カドミウムとその他の非鉄金属の生産と消 費およびカドミウム含有廃棄物の投棄である。非鉄金属鉱山や製錬所に近い 地区では、しばしば高いカドミウム汚染が示されている。  土壌中カドミウム含量の増加は、植物への取り込みの増加を生み、農作物 からヒトへの暴露経路は土壌カドミウムの増加による影響を受け易い。土壌 から植物への取り込みは、土壌pHの低い場合ほど多い。そのため、土壌酸 性化のプロセス(例えば、酸性雨による)は、食料品中の平均カドミウム濃度 を増加させる。リン酸肥料の施用および環境中での蓄積は、世界の一部の耕 作に適する土壌へのカドミウムの重要な暴露源であり、下水汚泥も地方レベ ルでの大きな発生源となるであろう。将来においては、これらの暴露源は土 壌中ひいては農作物中のカドミウム濃度を増加させ、次いで食品によるカド ミウム暴露を増加させることになろう。ある地区では、食品中のカドミウム 含有量の増加の証拠が存在する。  貝類、甲殻類、キノコ類(fungi)などの自由生活性の食用の生物類は、自 然界におけるカドミウムの蓄積者にある。カドミウムの増加は、ヒトの場合 では肝臓で、また、ウマおよび一部の野生陸生動物では腎臓において認めら れる。これらの食品の定常的な摂取によって、カドミウムの暴露増加を生じ させる。特定種の海洋脊椎動物では、その汚染源は自然界と考えられるが、 背臓損傷の徴候に関連する著しく高いカドミウム濃度が腎臓内で認められた。
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3.環境中濃度およびヒトの暴露  ノンスモーカーの一般集団については、カドミウム暴露の主要経路は食品 経由であり取り、込み総量に対する他の経路の寄与は小さい。喫煙者にとって は、タバコはカドミウム取り込みの重要な暴露源である。汚染地域においては、 食品を通じてのカドミウム暴露は数百μg/日以上であろう。暴露された作業 者では、作業場の空気吸入後のカドミウムの肺吸収が暴露の主要経路である。 取り込み量の増加は、食品の汚染およびタバコの影響としてもおこりうる。
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4.実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  実験動物およびヒトのデータは、肺吸収は胃腸器官の吸収よりも多いこと を示している。その化学的特性、粒子サイズ、体液中での溶解度に依存性が 認められ、吸入されたカドミウム化合物の50%までが吸収されるであろう。 カドミウムの胃腸器官による吸収は、食餌のタイプおよび栄養状態に影響さ れる。栄養素としての鉄の状態が特に重要と見られる。平均的にはカドミウ ムの経口摂取総量の5%が吸収されるが、個体の数値は1%以下から20% 以上の範囲を示す。カドミウムには母親から胎児への移行が認められる。カ ドミウムは胎盤に蓄積されるにもかかわらず、その胎児への移行は遅い。 肺あるいは胃腸器官より吸収されたカドミウムは、主として、その半分以 上が肝臓および腎臓に蓄積される。暴露程度が増強されるに伴い、吸収され たカドミウムの肝臓内蓄積が増加する。その排泄は通常では遅く、生物学的 半減期は、ヒトの筋肉、腎臓、肝臓、全身においては極めて長い(数十年)。 大部分の組織中のカドミウム濃度は、年齢と共に増加する。最高濃度は一般 には腎皮質において見出されるが、過度の暴露では肝臓内でより高濃度をも たらすであろう。腎臓の損傷を有する暴露者においては、カドミウムの尿中 への排泄が増加し、全身の半減期は短縮される。腎臓の損傷は、腎臓からカ ドミウムを消失させるため、腎臓のカドミウム濃度は、腎臓に損傷がなく同 様の暴露を受けている人よりも実際は低いであろう。  メタロチオネインは、カドミウムおよびその他の金属類の重要な輸送手段 であり、タンパク質を貯える。カドミウムは、肝臓や腎臓を含む多くの臓器 においてメタロチオネインの合成を誘発する。細胞中のカドミウムの組織中 メタロチオネインとの結合は、カドミウムの毒性に対して防護作用を示す。 従って、メタロチオネインと結合しなかったカドミウムは、カドミウム関連 組織の損傷の病因の役割を呆すのであろう。組織中あるいは体液中のその他 のカドミウム錯体類の特性は知られていない。  カドミウムの尿中への排泄は、生体負荷、時間的に新らしい暴露、腎臓の 損傷に関連している。低濃度暴露のヒトでは、尿中のカドミウム濃度は主と して生体負荷に関連する。カドミウム誘発の腎損傷が起こった場合、あるい は暴露が過度であるにもかかわらず腎損傷のない場合は、尿中への排泄は増 加する。タンパク尿をもつカドミウム暴露者では、一般に、タンパク尿のな い人よりもカドミウム排泄は多い。高濃度暴露の中止後では、腎障害が持続 されていても尿中のカドミウム量は減少するであろう。このように、尿中の カドミウム量の解釈は多数の要因に依存している。胃腸管からの排泄は尿中 排泄とほぽ同量であるが、その測定は容易ではない。授乳、発汗、胎盤移動 などの他の排泄経路は重要ではない。  糞中のカドミウム濃度は、吸入暴露がない場合の食品からの毎日の取り込 み量の良い指標である。血液中のカドミウムは主として赤血球に存在し、血 漿中の濃度は極めて低い。血液には少なくとも2つの区分(compartments)が あり、そのユつは約2〜3カ月の半減期をもつ新しい暴露に関連し、その他 の1つは半減期が数年の生体負荷に関連するのであろう。
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5.実験用哺乳類への影響  高濃度の吸入暴露は致命的な肺浮腫を生じさせる。単回の高用量の注射は、 精巣および無排卵の卵巣の壊死、肝臓損傷、微細血管の損傷を発生させた。 多量のの経ロ投与は胃と腸の粘膜に損傷を与えた。  長期吸入暴露および気管内投与は、肺の慢性炎症性変化、線維症、肺気腫 を示教する外観を生じさせた。長期の非経口および経口投与では、主として 胃臓のほか、肝臓、造血、免疫、骨格、心臓血管系システムにも影響を及ぽ した。骨格系への影響および高血圧は、限定した条件下において、特定の動 物種に誘発された。催奇形性作用および胎盤の損傷は、暴露発生時の妊娠ス テージに左右され、亜鉛との相互作用が含まれるであろう。  ヒト暴露への最大の関連性は、肺についての急性吸入作用と腎臓への慢性 影響である。長期暴露後においては、腎臓は「決定臓器」(critical organ)であ る。腎臓に対する影響は、糸球体の機能障害も起こるが、細管機能障害と細 管細胞損傷がその特徴である。腎細管の機能障害の影響は、カルシウムおよ びビタミンDの代謝の阻害である。いくつかの研究によれば、これは骨軟 化症および/または骨粗鬆症を発症させるとしているが、これらの影響は他 の研究では確認されていない。カドミウムの骨の鉱物化(mineranization)に対 する直接の影響は無視できない。実験動物におけるカドミウムの毒性作用は、 遺伝学上および栄養上の要因、他の金属との相互作用(とくに亜鉛との)、メ タロチオネインの誘発に関連すると考えられるカドミウムの事前投与により 影響される。  1976年および1987年、国際がん研究機関(IARC)は、カドミウムの塩化 物、硫酸塩、硫化物、酸化物はラットの注射部位に肉腫の発生を、また最初 の2化合物ではラットとマウスにおいて精巣の間質細胞腫瘍を誘発する、と の証拠は十分であると認めた。しかし経口投与による研究は、評価には不十 分であることがわかった。カドミウム硫酸塩エアロゾル、酸化カドミウム蒸 気、カドミウム硫酸塩粉塵に暴露したラットの長期吸入試験においては、用 量−反応関係の証拠をもつ原発性肺がんの高発生率が立証された。しかしこ れは他の動物種においては、現在まで実証されていない。カドミウムの遺伝 毒性作用についての試験の結果は一致していない。
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6.ヒトへの影響  高濃度のカドミウム酸化物の蒸気による吸入暴露は、致命的な肺浮腫を伴 う急性肺炎を生じさせる。商用量の可浴性カドミウム塩類の摂取暴露は急性 胃腸炎を発生させる。  カドミウムの長期職業暴露は、肺および腎臓を主とする重篤な慢性影響を 生じさせる。慢性的な腎障影響は一般集団中にも見られる。  高濃度の職業暴露後の肺の変化では、最初の特徴は慢性閉塞性気道疾患で ある。換気機能テストにおける初期の軽度の変化は、カドミウム暴露の継続 により換気不全に進展するであろう。高濃度暴露の作業者では、過去におい ては、閉塞性肺疾患による死亡率増加が見られた。  腎皮質におけるカドミウムの蓄積は、タンパク質類、グルコース、アミノ 酸などの再吸収阻害をともなう腎細管機能障害に移行する。細管機能障害の 特徴的な微候は、尿中への低分子量タンパク質の排泄増加である。ある場合 では、糸球体の濾過率が減少する。尿中のカドミウムの増加は低分子量タン パク尿に関連し、カドミウムの急性暴露のない場合には、腎臓への影響の指 標として役立つであろう。より重症の場合において、一部の症例では血液ク レアチニンの増加をともなう細管と糸球体への合併影響が存在する。作業者 および一般の環境中の人々において、カドミウム誘発のタンパク尿は不可逆f 的である。  その他の影響の中には、カルシウム代謝の阻害、高カルシウム尿、腎結石 の生成がある。高濃度のカドミウム暴露の大多数は栄養上の欠陥などの他の 要因と共存し、骨粗鬆症および/または骨軟化症を発症させる。  カドミウムの長期職業暴露は肺がんの発生に寄与するとの証拠は存在する が、暴露作業者の観察による解釈は交洛因子(confounding factors)(攪乱要因) のため困難である。前立腺がんについては現在までその証拠は結論に至って いないが、初期の因果関係の研究ではその示唆は支持されていない。  現在のところ、カドミウムが本態性の高血圧の(訳者注:明瞭な原因の認 められない、の意)病因物質である、との納得できる証拠はない。大部分の データは、カドミウムによる血圧上昇に異を唱えており、心臓血管系あるい は脳血管系疾息による死亡率増加の証拠はない。  職業的に暴露されたグループと一般環境に暴露されたグループの研究から のデータは、暴露濃度、暴露期問と腎臓影響の発生率との間に関連性のある ことを示している。 う急性肺炎を生じさせる。商用量の可浴性カドミウム塩類の摂取暴露は急性 胃腸炎を発生させる。  カドミウムの長期職業暴露は、肺および腎臓を主とする重篤な慢性影響を 生じさせる。慢性的な腎障影響は一般集団中にも見られる。  高濃度の職業暴露後の肺の変化では、最初の特徴は慢性閉塞性気道疾患で ある。換気機能テストにおける初期の軽度の変化は、カドミウム暴露の継続 により換気不全に進展するであろう。高濃度暴露の作業者では、過去におい ては、閉塞性肺疾患による死亡率増加が見られた。  腎皮質におけるカドミウムの蓄積は、タンパク質類、グルコース、アミノ 酸などの再吸収阻害をともなう腎細管機能障害に移行する。細管機能障害の 特徴的な微候は、尿中への低分子量タンパク質の排泄増加である。ある場合 では、糸球体の濾過率が減少する。尿中のカドミウムの増加は低分子量タン パク尿に関連し、カドミウムの急性暴露のない場合には、腎臓への影響の指 標として役立つであろう。より重症の場合において、一部の症例では血液ク レアチニンの増加をともなう細管と糸球体への合併影響が存在する。作業者 および一般の環境中の人々において、カドミウム誘発のタンパク尿は不可逆f 的である。  その他の影響の中には、カルシウム代謝の阻害、高カルシウム尿、腎結石 の生成がある。高濃度のカドミウム暴露の大多数は栄養上の欠陥などの他の 要因と共存し、骨粗鬆症および/または骨軟化症を発症させる。  カドミウムの長期職業暴露は肺がんの発生に寄与するとの証拠は存在する が、暴露作業者の観察による解釈は交洛因子(confounding factors)(攪乱要因) のため困難である。前立腺がんについては現在までその証拠は結論に至って いないが、初期の因果関係の研究ではその示唆は支持されていない。  現在のところ、カドミウムが本態性の高血圧の(訳者注:明瞭な原因の認 められない、の意)病因物質である、との納得できる証拠はない。大部分の データは、カドミウムによる血圧上昇に異を唱えており、心臓血管系あるい は脳血管系疾息による死亡率増加の証拠はない。  職業的に暴露されたグループと一般環境に暴露されたグループの研究から のデータは、暴露濃度、暴露期問と腎臓影響の発生率との間に関連性のある ことを示している。  約20〜50μg/m3のカドミウム濃度に10〜20年間暴露されたカドミウム関 連作業者に、低分子量タンパク尿の発生率の増加が報告されている。  カドミウムの取り込みが140〜260μg/日の一般環境の汚染地区において、 長期暴露後の個人の何人かに、低分子量タンパク尿の増加という形の影響が 見られた。
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7.ヒトの健康リスク評価 7.1 結論  一般集団および職業上暴露された集団にとって、腎臓は重要な標的臓器と みなされる。慢性閉塞性気道疾患は、吸入による長期高濃度の職業暴露に関 連している。このようなカドミウム暴露が肺がんの発生に寄与するとの証拠 はあるが、交絡因子のため暴露された作業者の観察から解釈するのは困難で ある。 7.1.1 一般集団  大多数の人々にとっては、食品由来のカドミウムは主要な暴露源である。 カドミウム非汚染地域における食品からのカドミウムの1日平均摂取量は 10〜40μgである。汚染地域においては、1日当り数百μgであることが見 出されている。非汚染地域においては、過度の喫煙からの取り込みは、食品 からのカドミウム摂取と同量程度であろう。  生物学的モデルに基づくと、カドミウム暴露と低分子量タンパク質の尿中 排泄増加との間の関連は、ヒトにおいては、カドミウムの生涯にわたる1日 摂取量が約140〜260μgあるいは蓄積摂取量が2,000mg以上の場合におこ ると予測されている。 7.1.2 職業上の暴露集団 カドミウムの職業上の暴露は主として吸入によるが、食品およびタバコに よる加算的な取り込みも含まれる。空気中のカドミウムの総濃度は、産業衛 生的な施策および作業場のタイプにより変動する。気中カドミウム濃度とタ ンパク尿との間には、暴露−反応関係が存在する。作業者中での低分子量タ ンパク尿の発生率増加は、約20〜50μg/m3のカドミウム濃度の10〜20年間 の暴露後に起こるであろう。さまざまな暴露濃度の人々における肝臓および 腎臓内カドミウムのin vivo(生体内)測定では、腎皮質レベル200mg/kgの作 業者の約10%が、また同じく300mg/kgの人々の約50%が腎細管タンパク 尿を示した。
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8.ヒトの健康保護のための勧告  a)カドミウムのリサイクル増進の方法をシステム的に検討すべきであり、   有望なアイディアを奨励すべきである。  b)カドミウムの廃棄物投棄(とくに表層水への)を最小にすることは重要 であり、これに関する情報が各国に堤供されるべきである。  c)カドミウム暴露を防止するための公衆衛生上の手法は、次の方法によ り改善されるであろう。   ・食品および環境中のカドミウム濃度について、さらに多くのデータ    を各国から収集する。   ・非暴露集団、鉱山あるいは製錬所の近くの任民、食品中の上昇した    金属濃度に暴露される人々において、組織中カドミウムの測定と健    康パラメータのモニタリングを実施する。   ・開発途上国のスタッフ訓練に対する技術援助(特にカドミウム分析に    ついて)を行う。   ・カドミウム暴露の低減方法を開発する。例えば、作業条件の改善、    肥料(時には高濃度のカドミウムを含む)の適切な使用、カドミウム    含有廃棄物の技棄技術等についての情報を普及させる。
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9.今後の研究  a)各種カドミウム化合物および種々の媒体中のβ2−ミクログロブリンの ような生物学的指標測定のための進歩した分析方法が求められている。 また、測定精度の保証およびトレーニングのための国際センターが必 要である。  b)環塊中カドミウム濃皮のモニタリングの強化により、ヒトに対するす   べての環境媒体からのカドミウム暴露アセスメントの改善が必要であ   る。  c)β2−ミクログロプリン尿をもつ集団(作業場および一般環境における)   に対して、この知見に関連する特性、症状の程度、健康への悪影響の   予後を決定するため、経時的に調査すべきである。また、暴露と影響   の生物学的指標としてのβ2−ミクログロブリンについて、さらに研究   が必要である。  d)ヒトの発がん過程におけるカドミウムの役割についてさらに研究する   ため、国際的な共同の努力が奨励されるべきである。その分析、デー   タのt提示、カドミウムとタバコの暴露についての追加的情報の収集、   その他の交絡各因子についての共通フォーマットの開発に重点をおき、   一般集団および産業労働者の双方について研究すべきである。複合暴   露についても考慮すべきである。国際機関(例えば、国際がん研究機関)   により調整が計られた共同研究が提案されており、これにはより良い   暴露データを得るため現存のコホート*を含めるべきである。また、   各種の研究結果をより容易に比較し得るように、暴露と影響の双方の   データを規格化された方法により収集しなければならない。将来のア   プローチとしては、腎臓にカドミウムの影響の証拠が認められるすべ   ての作業者と、異常に高濃度の暴露を受けていると見なされる人々を   確認するため、共同の前向き研究*を遂行することになろう。その研 究においては、有病率と死亡率の双方が収集される。その結果は、が    んのみでなく腎機能障害の後遺症についても検討されよう。  e)カドミウム暴露との関連において、前立腺がんの発生率(死亡率)を決   定するため、可能な場合には、現存の職業上のコホートを地区のがん   登録制度にリンクさせるべきである。  f)がん誘発のメカニズム解明のためには、標的部位におけるカドミウム   の生物学的利用能(bioavailability)および亜鉛とカドミウムの間の相互   作用についての実験的研究は価値があろう。呼吸器官の標的細胞にお   けるメタロチオネイン誘発の役割と、そのDNAの損傷と修復のよう   な現象およびがん遺伝子のタンパク質構造との関連性は興昧深い。 g)一般環境における腎憐能障害、その他の神経毒性・免疫毒性のような 結果に重点をおいたカドミウム暴露の長期健康影響について、追加的   情報が絶対に必要である。  h)女性作業者が職業環境内で特別なリスク状態にあるか否かを解明する   ため、カルシウム−リン代謝および骨密度へのカドミウムの影響の研   究を実施すべきである。カドミウムの胎盤への影響とそれに統く胎児   への影響、特に多胎妊娠の場合について、今後の研究が必要である。  i)カドミウムの移行、蓄積、毒性に及ぼす種々の栄養不足と他の金属暴   露への影響については、骨毒性に対する特別な関連性により検討すベ   きである。これらの研究は、年齢、性別、用量依存性、生物学的半減   期、危険濃度の推測に関して、ヒトおよび実験動物により実施しなけ   ればならない。  h)カドミウム暴露によるヒトの健康リスク・アセスメントについての追   加的でかつ科学的サボートを得るためには、実験動物を用いて、次の   問題に対応する研究を開始すべきである。   ・カドミウムの細胞中における移行メカニズムと、その過程をコント    ロールする因子。   ・とくに腎臓および骨に重点を置いたカドミウム誘発の毒性メカニズ    ムと、これらの過程における非メタロチオネイン結合のカドミウム    の役割。   ・カドミウムによって誘発される結石のメカニズムと、この現象と細    管タンパク尿および骨軟化症との関連性。
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10.国際機関によるこれまでの評価  カドミウムの発がん性については、国際がん研究機関により1976年に評 価され(IARC,1976)、さらに1987年に再評価された(IARC,1987a)。再評価に おいては、カドミウムおよびその化合物は、ヒトにおいて発がん性を示す限 られた証拠が存在する、との結論を下した。カドミウムおよび特定のカドミ ウム化合物は、実験動物においてがんを発生することを示す十分な証拠が入 手し得る。カドミウムはヒトに対して発がん性を示す可能性が非常に高い物 質(aprobable human carcinogen)(グループ2A)に分類された(IARC,1987a,b)。 肺および腎臓への有害影響を防ぐため、カドミウム蒸気および吸入可能粉 塵への職業暴露に対する健康準拠の限界値(health-based limits)がWHOによ り提案された(WHO,1980)。短期暴露については250μgCd/m3、時間荷重平均 (40時間/週)では10μgCd/m3が勧告された。さらに、個人の尿中および血 液中のカドミウム濃度が、それぞれ5μgCd/gクレアチニンおよび5μgCd/l 全血を越えた場合にはコントロール方法の適用が勧告された。 カドミウムについての飲料水のガイドラインの数値は、世界保健機関によ り0.005mg/lと設定されている(WHO,1984)。 カドミウムについては、大気質ガイドライン(air quality guidelines)(WHO,1987) を作成したWHOワーキング・グループにより、評価が行われた。その非発 がん性影響に基づき、次の勧告がなされた。 a)田園地方においては、1〜5ng/m3以上は許されない。 b)農業活動のない都市部および工業地帯においては、10〜20ng/m3の範 囲は許容される。しかし、現在の濃度以上への大気中カドミウムの増 加は許されない(WHO,1987)。 第33回の食品添加物・食品汚染物質に関する世界食料農業機関(FAO)/ 世界保健機関(WHO)合同専門家委員会において、成人におけるカドミウム の暫定的な週間耐容摂取量(TWI:tolerable weekly intake)は400〜500μgを越 えてはならない、との以前の暫定勧告値が再承認された(WHO,1989)。  各国機関および欧川経済共同体(EEC)により設定された規制基準は、国際 有害化学物質登録制度(IRFTC)の法規ファイルに要約されている(IRPTC, 1987)。
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Last Updated :10 August 2000
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