環境保健クライテリア 128
Environmental Health Criteria 128

ヘキサクロロベンゼン以外のクロロベンゼン類
Chlorobenzenes other than Hexachlorobenzene

(原著252頁,1991年発行)

作成日: 1997年2月24日
はじめに
1. 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
2. ヒトおよび環境の暴露源
3. 環境中の移動・分布・変質
4. 環境中濃度およびヒトの暴露
5. 体内動態および代謝
6. 環境中の水生生物への影響
7. 実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響
8. ヒトへの影響
9. 結論
10.国際機関によるこれまでの評価

→目 次



はじめに 

  本資料は、モノクロロベンゼン(MCB)、ジクロロベンゼン類(DCB)、トリクロロ
ベンゼン類(TCB)、テトラクロロベンゼン類(TeCB)、ペンタクロロベンゼン(PeCB)の
暴露によるヒトの健康および環境のリスクに重点を置いている。
塩素置換は次の通り示されている:
1,2‐ジクロロベンゼン(1,2‐DCB);1,2,3‐トリクロロベンゼン(1,2,3‐TCB)等。

1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法

     物質     MCB  1,2-DCB  1,3-DCB  1,4-DCB  1,2,3-TCB  1,2,4-TCB  1,3,5-TCB
              1,2,3,4-TeCB  1,2,3,5-TeCB  1,2,4,5-TeCB  PeCB

 a 物質の同定

物質名               MCB             
化学式               C6H5Cl          
化学構造 

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分子量 112.6 一般名 Monochlorobenzene その他の名称 chlorobenzene, phenyl chloride CAS登録番号 108-90-7 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 4.55 mg/m3    1 mg/m3 = 0.22 ppm   b 物理的・化学的特性 沸点a 132.0℃ 融点a −45.6℃ 蒸気圧(25℃) 1665 Pa b 比重f 1.1058(20/4) 水溶解性(25℃)g 2.6×10−3 mol/l (293mg/l) オクタノール/水分配係数 2.98 (log Pow)g ヘンリー定数h 0.377 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 466 血液/空気分配係数j 30.8 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 b;蒸気圧は、アントワーヌの式により求めた。     log10p(kPa)=A−B/(T+C)−0.8751     (アントワーヌ定数(A,B,C), Tの単位は℃, Kao & Poffenberger, 1979) f;比重は、液体の温度と、比較した水の温度を併記、水に対する相対比重、あるい は、g/mlの次元を持つ。(Weast, 1986) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出 j;Sato & Nakajima(1979)より


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a 物質の同定(続) 物質名 1,2-DCB   化学式 C6H4Cl2 化学構造

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分子量 147.0 一般名 1,2‐dichlorobenzene その他の名称 ortho‐dichlorobenzene, o‐dichlorobenzene CAS登録番号 95-50-1 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 6.00 mg/m3    1 mg/m3 = 0.17 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 180.5℃ 融点a -17.0℃ 蒸気圧(25℃) 197 Pa b 比重f 1.3048(20/4) 水溶解性(25℃) 6.2×10-4 mol/l (91.1mg/l) オクタノール/水分配係数 3.38 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.198 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc) i 987 血液/空気分配係数j 423 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 b;蒸気圧は、アントワーヌの式により求めた。     log10p(kPa)=A−B/(T+C)−0.8751     (アントワーヌ定数(A,B,C), Tの単位は℃, Kao & Poffenberger, 1979) f;比重は、液体の温度と、比較した水の温度を併記、水に対する相対比重、あるい は、g/mlの次元を持つ。(Weast, 1986) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出 j;Sato & Nakajima(1979)より


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a 物質の同定(続) 物質名 1,3-DCB 化学式 C6H4Cl2 化学構造

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分子量 147.0 一般名 1,3-dichlorobenzene その他の名称 meta‐dichlorobenzene, m‐dichlorobenzene CAS登録番号 541-73-1 換算係数(25℃,101.3kPa)   1 ppm = 6.00 mg/m3    1 mg/m3 = 0.17 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 173.0℃ 融点a -24.7℃ 蒸気圧(25℃) 269 Pa b 比重f 1.2884(20/4) 水溶解性(25℃)g 8.4×10-4 mol/l (123mg/l) オクタノール/水分配係数 3.48 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.366 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 1070 血液/空気分配係数j 201.4 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 b;蒸気圧は、アントワーヌの式により求めた。     log10p(kPa)=A−B/(T+C)−0.8751     (アントワーヌ定数(A,B,C), Tの単位は℃, Kao & Poffenberger, 1979) f;比重は、液体の温度と、比較した水の温度を併記、水に対する相対比重、あるい は、g/mlの次元を持つ。(Weast, 1986) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出 j;Sato & Nakajima(1979)より


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a 物質の同定(続) 物質名 1,4-DCB 化学式 C6H4Cl2 化学構造

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分子量 147.0 一般名 1,4-dichlorobenzene その他の名称 para‐dichlorobenzene, p‐dichlorobenzene CAS登録番号 106-46-7 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 6.00 mg/m3    1 mg/m3 = 0.17 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 174.0℃ 融点a 53.1℃ 蒸気圧(25℃) 90 Pa c 比重f 1.2475(20/4) 水溶解性(25℃)g 2.1×10−4 mol/l (30.9mg/l) オクタノール/水分配係数 3.38 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.160 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 1470 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 c;液体から固体への相転移を考慮して、25℃より高温の実験値を外挿して25℃の 蒸気圧を求めた。(MacKay et al. 1982より) f;比重は、液体の温度と、比較した水の温度を併記、水に対する相対比重、あるい は、g/mlの次元を持つ。(Weast, 1986) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出


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a 物質の同定(続) 物質名 1,2,3-TCB 化学式 C6H3Cl3 化学構造

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分子量 181.5 一般名 1,2,3-trichlorobenzene その他の名称 vic‐trichlorobenzene, v‐trichlorobenzene CAS登録番号 87-61-6 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 7.42 mg/m3    1 mg/m3 = 0.13 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 218.5℃ 融点a 53.5℃ 蒸気圧(25℃) 17.3 Pa d 水溶解性(25℃)g 6.7×10−5 mol/l (12.2mg/l) オクタノール/水分配係数 4.04 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.306 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 3680 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 d;蒸気圧は、次の式により求めた。    log10p(10−3torr)=−(A/T)+B    (Tは絶対温度、定数A, BはSears & Hopkeにより与えられている、1949) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出


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a 物質の同定(続) 物質名 1,2,4-TCB 化学式 C6H3Cl3 化学構造

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分子量 181.5 一般名 1,2,4-trichlorobenzene その他の名称 1,2,6-trichlorobenzol,1,2,4-triichlorobenzene CAS登録番号 120-82-1 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 7.42 mg/m3    1 mg/m3 = 0.13 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 213.5℃ 融点a 17.0℃ 蒸気圧(25℃) 45.3 Pa d 比重f 1.4542(20/4) 水溶解性(25℃)g 2.5×10−4 mol/l (45.3mg/l) オクタノール/水分配係数 3.98 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.439 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 2670 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 d;蒸気圧は、次の式により求めた。    log10p(10−3torr)=−(A/T)+B     (Tは絶対温度、定数A, BはSears & Hopkeにより与えられている、1949) f;比重は、液体の温度と、比較した水の温度を併記、水に対する相対比重、あるい は、g/mlの次元を持つ。(Weast, 1986) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出


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a 物質の同定(続) 物質名 1,3,5-TCB 化学式 C6H3Cl3 化学構造

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分子量 181.5 一般名 1,3,5-trichlorobenzene その他の名称 s‐trichlorobenzene, TCBA, sym‐trichlorobenzene CAS登録番号 108-70-3 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 7.42 mg/m3    1 mg/m3 = 0.13 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 208℃(761mmHg) 融点a 63.5℃ 蒸気圧(25℃) 24.0 Pa d 水溶解性(25℃)g 2.2×10−5 mol/l(3.99mg/l) オクタノール/水分配係数 4.02 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.233 kPa m3/mol  a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 d;蒸気圧は、次の式により求めた。    log10p(10−3torr)=−(A/T)+B    (Tは絶対温度、定数A, BはSears & Hopkeにより与えられている、1949) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より


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a 物質の同定(続) 物質名 1,2,3,4-TeCB 化学式 C6H2Cl4 化学構造

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分子量 215.9 一般名 1,2,3,4-tetrachlorobenzene その他の名称 benzene,1,2,3,4-tetrachloro- CAS登録番号 634-66-2 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 8.83 mg/m3    1 mg/m3 = 0.11 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 254.0℃ 融点a 47.5℃ 蒸気圧(25℃) 5.2 Pa c 水溶解性(25℃)g 5.6×10−5 mol/l (12.1mg/l) オクタノール/水分配係数 4.55 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.261 kPa m3/mol   a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 c;液体から固体への相転移を考慮して、25℃より高温の実験値を外挿して25℃の 蒸気圧を求めた。(MacKay et al. 1982より) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より


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a 物質の同定(続) 物質名 1,2,3,5-TeCB 化学式 C6H2Cl4 化学構造

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分子量 215.9 一般名 1,2,3,5-tetrachlorobenzene その他の名称 benzene,1,2,3,5-tetrachloro- CAS登録番号 634-90-2 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 8.83 mg/m3    1 mg/m3 = 0.11 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 246.0℃ 融点a 54.5℃ 蒸気圧(25℃) 9.8 Pa c 水溶解性(25℃)g 1.3×10−5 mol/l (2.81mg/l) オクタノール/水分配係数 4.65 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.593 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 8560  a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 c;液体から固体への相転移を考慮して、25℃より高温の実験値を外挿して25℃の 蒸気圧を求めた。(MacKay et al. 1982より) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出


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a 物質の同定(続) 物質名 1,2,4,5-TeCB 化学式 C6H2Cl4 化学構造

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分子量 215.9 一般名 1,2,4,5-tetrachlorobenzene その他の名称 benzene tetrachloride; benzene,1,2,4,5-tetrachloro-; s‐tetrachlorobenzene CAS登録番号 95-94-3 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 8.83 mg/m3    1 mg/m3 = 0.11 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 243.6℃ 融点a 139.5℃ 蒸気圧(25℃) 0.72 Pa c 水溶解性(25℃)g 1.0×10−5 mol/l (2.16mg/l) オクタノール/水分配係数 4.51 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.261 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 6990 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 c;液体から固体への相転移を考慮して、25℃より高温の実験値を外挿して25℃の 蒸気圧を求めた。(MacKay et al. 1982より) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出


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a 物質の同定(続) 物質名 PeCB 化学式 C6HCl5 化学構造

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分子量 250.3 一般名 Pentachlorobenzene その他の名称 1,2,3,4,5- pentachlorobenzene, QCB CAS登録番号 608-93-5 換算係数(25℃,101.3kPa)    1 ppm = 10.24 mg/m3    1 mg/m3 = 0.10 ppm   b 物理的・化学的特性(続) 沸点a 277.0℃ 融点a 86.0℃ 蒸気圧(25℃) 133 Pa(98.6℃)e 比重f 1.8342(16.5℃) 水溶解性(25℃)g 3.3×10−6 mol/l (0.83mg/l) オクタノール/水分配係数 5.03 (log Pow)g ヘンリー定数 h 0.977 kPa m3/mol 土壌収着係数(Koc)i 58700 a;沸点は、特記しない場合は、常圧(760mmHg)の値。融点は、範囲0.1℃以内 の最も近い値で表した(Weast, 1986)。 e;Stull(1947)より f;比重は、液体の温度と、比較した水の温度を併記、水に対する相対比重、あるい は、g/mlの次元を持つ。(Weast, 1986) g;Miller et al. (1984)より h;MacKay & Shiu(1981)より i;Karickoff et al. (1979)より導出


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 クロロベンゼン類は、ベンゼン環に1〜6個の塩素原子の付加により生成される環 状芳香族化合物である。これにより12種の化合物類が生成され、それらはモノクロ ロベンゼンと、ジ−・トリ−・テトラのベンゼン類の3種類の異性体とペンタ−およ びヘキサクロロベンゼン類である。  クロロベンゼン類は、無色の液体であるMCB、1,2‐DCB、1,3‐DCB、1,2, 4‐TCBを除いては、室温で白色結晶性の固体である。一般的には、クロロベンゼン 化合物類の水溶性は低く、それは塩素化の増加に伴い低下する。また、引火性は低く、 オクタノール/水分配係数は中程度から高度で、それは塩素化の増加と共に増加する。 また蒸気圧は低度から中程度であり、それは塩素化の増加で低下する。味覚および臭 気の閾値は低く、特に低塩素化化合物ではさらに低い。  市販のクロロベンゼン類は、精製されていても、種々の量の、密接に関連する異性 体を含んでいる。例えば、純品のMCBでは0.05%のベンゼンと0.1%のDCBs を含有し、一方、工業製品原体の1,2‐DCBには19%までの他のDCBs、1%のTCBs、 0.05%までのMCBが含まれるであろう。ポリ塩素化ジベンゾ−p‐ダイオキシン類 (PCDDS)およびジベンゾフラン類(PCDFs)による汚染の証拠は報告されていな い。  クロロベンゼン類のサンプリングには、媒体に応じて多くの手法が開発されている。 これらの範囲は、水性媒体からの溶媒抽出方法から気中化合物類に対する吸着剤類の 使用にまで及んでいる。環境中サンプルの分析手法にはガス−液体クロマトグラフィ ー(GLC)が選択される。
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2.ヒトおよび環境の暴露源  2.1 生産量  1980〜1983年の期間のクロロベンゼンの生産量についての入手し得るデータでは (この時期以降、一部の国においてはクロロベンゼン類の使用が減少しているが)、 568×106kgと推算されている。この約50%は米国内で、また、残りは西欧と日本 で生産された。MCBは世界生産量の70%を占め、1,2‐DCB、1,4‐DCB、1,2, 4‐TCBはそれぞれ22×106、24×106、1.2〜3.7×106kgが生産された。  MCBとDCBsは、液相状態において、触媒を用いてベンゼンの直接塩素化により 製造され、一方、TCBsとTeCBsは、金属触媒の存在下で、適当なクロロベンゼン 異性体の直接の塩素化により製造される。   2.2 用途  クロロベンゼン類は、主として殺虫剤およびその他の化学物質の合成における中間 体として用いられ、1,4‐DCBは部屋の消臭剤および衣類防虫剤として使われてい る。より高度に塩素化されたベンゼン類(TCBsおよび1,2,3,4‐TeCB)は、絶 縁流体の成分として用いられている。   2.3 クロロベンゼン類の環境中への放出  クロロベンゼン類の環境への放出は、主として製造中と、それらの種々の利用を通 じて起こる。例えば、米国においては、1983年のMCBの生産量130×106kgの0. 1〜0.2%が環境中で消失したと推定されている。自治体の廃棄物焼却を含む廃棄物 処理からのクロロベンゼン類の放出は極めて低い。しかし、クロロベンゼン類の焼却 はPCDDsおよびPCDFsの排出をもたらすであろう。 3.環境中の移動・分布・変質 3.1 分解  クロロベンゼン類は、主として生物学的、そしてより少ない範囲では非生物学的メ カニズムにより除去されるが、それらは水・空気・堆積物中では中等度の蓄積性を有 すると考えられる。その滞留時間は、河川の水中では1時間、地下水中では100日以 上が報告されている。大気中では、クロロベンゼン分解の主要経路は、化学的および 光分解反応と推定され、MCB・DCBs・非特定のTCB異性体の滞留期間は13〜116 日と報じられている。 3.2 環境中の運命  水生環境に放出されたクロロベンゼン類は、大気および堆積物(特に有機物質に富 む堆積物)に選択的に再配分される。限られた情報では、特に高度に工業化された地 帯において、堆積物中では水中の1,000倍の濃度が検出されている。土壌中でのク ロロベンゼン類の滞留は土壌の有機成分の増加とともに長期化し、化合物の塩素化の 程度とその有機物質への吸着との間には明確な相関性がある。入手し得る限られた証 拠は、堆積物に結合した残留物は生物により利用され、水生無脊椎動物は堆積物から、 植物は土壌から取り込むことを示している。
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4.環境中濃度およびヒトの暴露  4.1 環境中のクロロベンゼン類  大気中におけるクロロベンゼン類(モノ−からトリ−までの)の平均濃度は0.1 μg/m3のオーダ−であり、最高濃度は100μg/m3までである。これらの化学物 質は自治体焼却場のフライアッシュ(飛灰)から検出されているが、大気中における TeCBおよびPeCBの濃度のデータは入手できない。屋内空気中のクロロベンゼン類 の濃度は大気中のそれに近いが、高度汚染地域およびクロロベンゼン含有製品を使用 中の閉鎖的な場所での気中濃度はずっと高い。  クロロベンゼン類(モノ−からペンタ−までの)は、表層水中でng/l〜μg/lの範 囲で検出されており、時には工場発生源近くでは、その10倍の1mg/lが報告されて いる。産業廃水中のクロロベンゼン類の濃度はより高く、用いられた処理方式の特性 により変化するであろう。  すべてのクロロベンゼン同族体は分析された飲料水サンプルにおいて検出されて いる。低塩素化化合物は最も頻繁に、そして最高濃度で発見され、特に1,4‐DCB 異性体が支配的であるが、検出されたいずれのクロロベンゼンも、その平均濃度は、 一般には1μg/l以下であり、50μg/l以上の値はまれであった。  食品中のクロロベンゼン濃度について、適切に計画されたモニタリング・プログラ ムは見出せない。入手し得る情報は、主として工業発生源近くの魚類中の濃度と、離 れた場所での肉製品汚染の事例に限られている。すべてのクロロベンゼンの異性体 (モノ−からペンタ−までの)は淡水産のマスで検出され、その濃度は0.1〜16μ g/kgの範囲であった。他の研究では、淡水産魚類中の全体のクロロベンゼン類の濃度 は、軽度汚染地域の平均0.2mg/kg脂肪から工業地帯の1.8mg/kg脂肪までの範囲 の変化を示した。淡水産魚類中のクロロベンゼン類の濃度は、化合物の塩素化の増加 に伴い増えるという傾向が示されている。入手し得るごく少ない研究では、ある種の 海産魚類における1,4‐DCBの0.05mg/kg(湿重量)の濃度が示されている。  肉および牛乳中のクロロベンゼン濃度についての入手し得る研究は、汚染地区から のサンプルに限られており、0.02〜5μg/kgの濃度が報告されている。  2件のヒトの乳汁についての調査において、MCBを除くすべてのクロロベンゼン 同族体の濃度が定量された。1件の研究では、DCBs濃度の平均は25μg/kg乳汁で あったのに対し、TCB・TeCB異性体類・PeCBでは5μg/kg乳汁以下の平均濃度 が発見された。第二の調査においては、その濃度はずっと低く、平均濃度は1μg/kg (1,2,3‐TCBおよびPeCB)から最高濃度6μg/kg(1,3‐および1,4‐ジク ロロベンゼン)の範囲を示した。 4.2 ヒトの暴露  4.2.1 一般集団  限られたデータによれば、一般集団におけるクロロベンゼン類の毎日の取り込みは、 空気からが最大であり、特に低級で揮発性のより高い化合物の場合には著しい(0.2 〜0.9μg/kg体重)。食品からの取り込みは、他の汚染源と比較した場合、塩素化 の程度の増加に伴って増え、TeCBとPeCBの毎日の摂取総量は空気より大きな割合 で寄与する。しかしそのような同族体への暴露レベルは0.05μg/kg体重以下のよ うである。数少ない研究では、体重ベースで、授乳期の乳児は成人の集団メンバーよ りも多量のクロロベンゼン類を取り入れることを示している。   4.2.2 職業的集団  入手し得るデータに基づいた場合、クロロベンゼン類の職業上の暴露の正確な定量 は不可能である。しかし、ある工場においては42〜288mg/m3の範囲の1,4‐DCB の濃度が、また他の化学工場では18.7mg/m3までのMCBの濃度が見出されてい る。
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5.体内動態および代謝  すべてのクロロベンゼン類は、ヒトおよび実験動物の胃腸 管と呼吸器官から容易に吸収されるように見え、その吸収は同族体の種々の異性体に おける塩素の位置により影響されるようである。クロロベンゼン類は皮膚を通しては 吸収されにくい。  実験動物においては、高度に潅流されている臓器への急速な分布の後、吸収された クロロベンゼン類は主として脂肪組織に、そして小部分は肝臓やその他の臓器に蓄積 される。クロロベンゼン類は胎盤を通過することが示され、それらは胎児の脳内でも 見出されている。一般的には、蓄積は高度に塩素化した同族体においてより大きい。 しかし、同一の同族体中の異なる異性体の蓄積にはかなりの差異がある。  ヒトおよび実験動物の双方において、クロロベンゼン類の代謝は、相応するクロロ フェノールへのミクロソーム(訳者注:細胞質内の微粒体)の酸化を介して進行する。 これらのクロロフェノール類は、メルカプツル酸、グルクロン酸、硫酸塩結合物とし て尿中に排泄される。TeCBおよびPeCBの代謝の速度はより遅く、モノクロロから トリクロロまでの同族体類よりも長い期間にわたり組織中に残留する。クロロベンゼ ン類の一部は、酸化・還元・結合・加水分解経路を含む広範囲の酵素システムを誘発 する。  一般には、より高度に塩素化されたベンゼン類の排出はMCBやDCB同族体より も遅く、トリからペンタまでの同族体類のより大きな部分は未変化のまま糞中に排出 される。例えば、1,2,4‐TCBの用量の17%が7日後に糞中に排泄されるが、一 方、1,4‐DCBの91〜97%が代謝生成物として5日後に尿中に排出される。ベンゼ ン環の塩素原子の位置も、代謝と排出の重要な決定要素であり、2個の隣接した非置 換の炭素原子をもつ異性体類はより速やかに代謝され排出される。 6.環境中の水生生物への影響  環境へのクロロベンゼン類の影響について入手し得 る情報は、主として水生生物への急性影響に集中している。一般的に、毒性はベンゼ ン環の塩素化の程度に伴い増加する。MCB、1,2‐DCB、1,3‐DCB、1,2,4‐ TCB、1,3,5‐TCB、1,2,4,5‐TeCBのすべては微生物に低毒性を示す一方、 1,2,4,5‐TeCBを除いてTCBsとTeCBsの毒性は他の化合物よりやや高く、単 細胞水生藻類においては、96時間の細胞成長あるいはクロロフィル生成に対するEC 50(50%効果濃度)は、MCBの300mg/lから1,2,3,5‐TeCBの1mg/lの範 囲を示した。一部の無脊椎動物ではクロロベンゼン類に対する感受性がより高いが、 48あるいは96時間中の死亡に要する濃度は上記の1mg/lに近い(ミジンコ属 Daphnia magnaに対しては、1,2‐DCBで2.4mg/l、1,2,4,5‐TeCBにおい ては530mg/l)。  クロマス科のスズキに対する96時間のLC50(50%致死濃度)は、PeCBでは0. 3mg/l、MCBでは24mg/lの範囲であった。胚−幼生期試験の慢性毒性限界では、DCBs の場合にはコイ科の魚に対し0.76〜2.0mg/lの範囲を示し、1,2,4‐TCBおよ び1,2,4,5‐TeCBでは河口域のタイ科の魚に対し、それぞれ0.22および0. 13mg/lであった。新たに孵化した金魚やスズキでは、最も影響を受け易い時期にお けるMCBのLC50(96時間)はそれぞれ1mg/lおよび0.05mg/lであった。  陸生生態系に対するクロロベンゼン類の影響についてのデータは入手できない。
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7.実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響  少数を除いて は、クロロベンゼン類は実験動物に対し中程度の毒性を示すに過ぎず、急性の場合の 経口LD50は1,000mg/kg体重より大きく、入手し得る限られたデータからの経 皮LD50はさらに高値を示す。致死量の摂取は呼吸麻痺をもたらし、一方、高用量 の吸入は局所の刺激と中枢神経系の抑制を生じさせる。非致死量のクロロベンゼン類 への急性暴露は肝臓・腎臓・副腎・粘膜・脳・代謝酵素類に毒性作用を誘発する。  クロロベンゼンによる皮膚と眼の刺激の研究は、1,2,4‐TCBおよび1,2‐DCB に限られている。ウサギの眼への直接適用後では重篤な不快(severe discomfort)を 生じさせたが、固定した障害は認められなかった。1,2,4‐TCBは皮膚に軽度の刺 激を与え、反復あるいは長期の接触では皮膚炎を発生させる。感作(訳者注:過敏状 態の誘発)の証拠は見出せない。  ラットおよびマウスに対する数百mg/kg体重のMCBとDCBSの短期暴露(5〜21 日)では、肝臓損傷と骨髄損傷を示す血液組成の変化を生じさせた。これよりわずか に低い投与量において、他のクロロベンゼン類(TCB‐PeCB)のラットあるいはウ サギへの短期暴露でも、肝臓損傷が主要な悪影響として認められた。研究されたいく つかのクロロベンゼンの異性体においては、ポルフィリン症(訳者注:肝性ポルフィ リン症ともいわれ、通常は先天性異常により、ポルフィリンが血液および組織中に沈 積する疾患をいう)を誘発したが、パラの位置に塩素を有する異性体(1,4‐DCB、 1,2,4‐TCB、1,2,3,4‐TeCB、PeCB)が最も強い反応性を示した。短期暴露 後に認められたTeCBsとPeCBの毒性の強さの順序は1,2,4,5‐TeCB>PeCB >1,2,3,4‐および1,2,3,5‐TeCBの通りで、脂肪および肝臓中に見出され る濃度と強い相関を示した。  数種の実験動物による長期暴露実験(6ヵ月までの)では、クロロベンゼン類の毒 性は環の塩素化の増加に伴い増える傾向を示している。しかし、同一の同族体の異な る異性体の長期毒性にはかなりの差異が存在する。例えば、1,4‐DCBは1,2‐DCB よりも毒性はずっと低いように見える。毒性と体内組織中におけるこの化合物の蓄積 の程度とは十分な関連性があり、メスの感受性はオスよりも低い。主要な標的臓器は 肝臓と腎臓であり、より高用量では造血機能への影響が報告され、1,2,4,5‐TeCB およびPeCBの研究では甲状腺への毒性が認められている。  MCBの発がん性試験において、肝臓の腫瘍性結節の発生増加がオスのF344系ラ ットの高用量群(120mg/kg体重)で認められたが、メスのF344系ラットおよびオ ス・メスのB6C3F1系マウスでは投与に関連する腫瘍の増加はなかった。1,2‐DCB の発がん性の証拠は、メスF344系ラットあるいはB6C3F1系マウスにおいては(60 または120mg/kg体重)存在しない。  1,4‐DCBの発がん性の生物試験では、メスのF344系ラットにおいて腎尿細管 の細胞腺がんの用量関連性の増加が、また両性のB6C3F1系マウスでは肝細胞がん 腫および腺腫の増加が認められた。両性のウイスター系ラットまたはメスのスイス系 マウスにおいては、やや高い用量(400mg/kg/日/ラットおよび790mg/kg/日/マウス と推定)の1,4‐DCBの短期間の吸入後において発がんの証拠はなかった、と報告 されている。しかし、入手し得るデータによれば、オスのF344ラットにおいて、1, 4‐DCBによる腎腫瘍と、それに関連する重篤な腎症とアルファ−2−ミクログロブ リンの再吸収に関係するヒアリン(訳者注:硝子質ともいい、半透明のアルブミン様 の物質でアミロイド変性産物の一つ)滴の生成が、動物種と性に特異的な反応として 誘発される。  より高度に塩素化されたベンゼン類(トリ−からペンタ−まで)の発がん性の評価 についての入手し得るデータは不十分である。  1,4‐DCB以外の異性体についてのin vitro(試験管内)およびin vivo(生体内) の試験から入手し得るデータは限られているが、クロロベンゼン類は変異原性を示す ようには見えない。1,4‐DCBのより広いデータベースに基づいた場合、この化合 物はin vitroとin vivoのいずれにおいても変異原性はない、との結論を下すことが できるであろう。  クロロベンゼン類が、ラットおよびウサギにおいて催奇形性を示す証拠はない。 MCBとDCBsのラット・ウサギに対する2,000mg/m3以上(約550mg/kg体重/ 日)の濃度の吸入投与と、500mg/kg体重以上の濃度の経口投与では、軽度の胚毒性 と胎児毒性作用が発生した。しかし、このような用量は明らかな母体毒性を示した。 TCBs、TeCBs、PeCBには母体毒性を示さない用量において胚毒性および胎仔毒性 を発現する、との一部の証拠があるが、入手し得るデータには一貫性が認められない。
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8.ヒトへの影響 8.1 一般集団  クロロベンゼン類の一般集団への影響についての報告は、低塩素化ベンゼン類 (MCB、1,2‐DCB、1,4‐DCBおよびTCBの不特定の異性体)を含有する製品 による事故および、または誤用の報告に限られれている。その用量、化学的純度、用 量−時間関係、また、骨髄芽球性白血病・鼻炎・糸球体腎炎・呼吸器肉芽腫症・めま い・振戦(ふるえ)・運動失調症・多発性神経炎・黄疸などの観察された影響につい ての情報はほとんどない、あるいは全くないため、定量はできない。  一般集団におけるクロロベンゼン類の健康影響に関する疫学研究は報告されてい ない。   8.2 職業的暴露  クロロベンゼン類の製造と使用中における過剰暴露の臨床症状と徴候には、中枢神 経系への影響・眼と上部呼吸器官の刺激(MCB)、血液学的疾患(1,2‐DCB)、 中枢神経系作用・皮膚硬化・貧血を含む血液学的疾患(1,4‐DCB)が含まれる。 しかし、これらの症状は症例報告のみによるため、実際の濃度・化学的純度・用量− 時間関係については少ない情報しか入手できないため、定量は難しい。  クロロベンゼン類に暴露された作業者についての少数の疫学研究では、MCB、1, 2‐DCB、1,4‐DCB、1,2,4,5‐TeCBのみの問題が報告されている。MCB暴 露後の神経系・胎児の成育・皮膚への影響が報告されているが、3件の研究は、暴露 評価・混合暴露・対照群の欠落などの方法論的の問題のため、リスク評価は不適切で あった。1,4‐DCBによる眼および鼻の刺激、また、不特定の濃度の1,2‐DCB および1,2,4,5‐TeCBの暴露による染色体異常を報告した研究に対しても、同 様の批判がなされるであろう。 9.結  論  もし適切な製造規範が遵守されている場合には、クロロベンゼン類の 職業的暴露に関連するリスクは極めて少ないと考えられる。現在のリスク・アセスメ ントにおいても、クロロベンゼン含有の製品の誤用あるいは環境中への野放しの放出 以外では、環境中のクロロベンゼン類の現在の濃度が一般集団にもたらすリスクは非 常に少ないことを示している。しかし、このアセスメントは限られたモニタリング・ データに基づいており、この結論を実証するためには追加的な情報が必要である。ク ロロベンゼン類の広範囲の使用と廃棄の減少は、次の理由により考慮すべきである。  a) クロロベンゼン類は焼却過程において、ポリ塩素化ジベンゾダイオキシン/ ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDDs/PCDFs)生成の前駆物質として作用する。  b) これらの化学物質は、飲料水および魚類において、味覚と臭覚の問題を起こ す。  c) 残留物は、有機質に富む嫌気性堆積物・土壌・地下水に存続する。  大多数のクロロベンゼン類についてのリスク・アセスメントは、非腫瘍性の影響に 基づいている。しかし、MCBおよび1,4‐DCBのリスク・アセスメントにおいて は、腫瘍への影響が検討されている。入手し得るデータでは、1,4‐DCBにより生 じるラットの腎腫瘍の増加は、動物種と性に特異的な反応で、ヒトには関連はないよ うである。マウスの肝臓におけるDNA合成の増加、またマウスの肝細胞腺腫とがん 腫発生率増加の証拠に基づいた場合には、1,4‐DCBは齧歯類の肝臓中で非遺伝毒 性的発がん物質として作用するのであろう。発がん性試験における高用量投与群のオ ス・ラットにおいて観察された肝臓の腫瘍性結節の発生率増加は、MCBも非遺伝毒 性的発がん物質であることを示している。
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10.国際機関によるこれまでの評価  1,2‐DCBおよび1,4‐DCBの発がん性が、国際がん研究機関により評価された (IARC,1982,1987)。これら両物質のヒトに対する発がん性データは不十分と 見なされた。動物に対する発がん性として、1,2‐DCBには不十分な証拠が、 また1,4‐DCBには十分な証拠が存在する。  飲料水の質についての指針(WHO,1984)では、クロロベンゼン類について次の 指針値が設定されている。MCB,3μg/l;1,2‐DCB,0.3μg/l;1,4‐DCB, 0.1μg/l。すべての数値は、味覚及び臭覚の閾値の10%を表している。  各国の国家機関および欧州経済共同体により設定された規制基準は、国際有害化学 物質登録制度(IRPTC:International Register of Potentially Toxic Chemicals)の 法規集に要約されている(IRPTC,1986)。
Last Updated :24 August 2000 NIHS Home Page here