環境保健クライテリア 126
Environmental Health Criteria 126

部分的ハロゲン化クロロフルオロカーボン類
(メタン誘導体)
Partially Halogenated Chlorofluorocarbons
(Methane Derivatives)

(原著97頁,1991年発行)

作成日: 1997年2月24日
はじめに
1. 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
2. ヒトおよび環境の暴露源
3. 環境中の移動・分布・変質
4. 環境中濃度およびヒトの暴露
5. 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝
6 .実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響
7. ヒトへの影響
8. 実験室および自然界の他の生物類への影響
9. 評価と結論
10.今後の研究
11.国際機関によるこれまでの評価 

→目 次

→ 2次元および3次元の化学構造


はじめに

 クロロフルオロカーボン類は冷媒(冷却剤)として約60年前に開発
された。しかし、それらに引火性のないこと、化学的および熱に対する安定性、一般
的に毒性が低いという特性により、間もなく、その応用は著しく多様化した。それら
は、現在、発泡断熱材製造の際の膨張剤・エアロゾル中の噴射剤・金属/電子部品の
洗浄剤として、また小部分は化学物質中間体として用いられている。これらの現在の
生産は100万トン/年以上に達し、その市場価格は15億米ドルに近いと推算されて
いる。
 クロロフルオロカーボン類はきわめて安定な化合物で、大気中ではそのままで残留
し、成層圏に達した時にのみ塩素を放出する。その活性塩素はオゾン分子を破壊し、
これによりヒトの健康と環境に有害な紫外線の自然の障壁であるオゾン層は減少す
る。
 この影響に関する世界的関心の盛り上がりは、1985年に採択された「オゾン層保
護に関するウィーン会議」の開催と、1987年9月に24か国により調印された「オゾ
ン層破壊物質についてのモントリオール議定書」を生むに至った。その合意では、1986
年レベルの全ハロゲン化クロロフルオロカーボン11、12、113、114、115の生産と
使用を1989年半ばまでに凍結し、それらの使用の20%削減を1993年7月1日まで
に、またさらに30%の削減を1998年7月1日までに実現することを要求している。
本議定書は1989年1月以降発効し、世界の67か国および欧州経済共同体が1989年
7月までに調印した。その後の発展として、ヘルシンキ宣言では、1989年4月に非
拘束同意として、全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類の全廃を求めている。欧州
経済共同体・北欧諸国・カナダ・米国・その他の諸国は、全ハロゲン化クロロフルオ
ロカーボン類の単なる削減よりも、その完全な段階的廃止を要求している。1990年7
月、議定書の調整が議定書締約国会議において同意され15種類の全ハロゲン化クロ
ロフルオロカーボン類、ハロン1211、1301、2402、四塩化炭素の全面的な段階的廃
止が2000年までに実施されることになった。さらに、メチルクロロホルムについて
は2005年までに段階的に廃止しなければならなくなった。
 これらの進展は、許容し得る代替化学物質に対して緊急の必要性をもたらした。こ
れらには、モントリオール議定書に含まれるクロロフルオロカーボン類に類似した物
理的・化学的特性と安全特性が要求され、商業規模での生産が技術的・経済的に可能
で、オゾン破壊および地球温暖化の可能性が相当に低い、という現実的な見通しが必
要であった。
 クロロフルオロカーボン類の段階的廃止は、代替技術の採用によっても達成できる
であろう。
 世界の化学工業は、すでにモントリオール議定書に含まれるクロロフルオロカーボ
ン類の代替物質の開発に乗り出している。健康あるいは環境への危険性のある化学物
質類の導入によるリスクを避けるためには、代替となる可能性のある物質の毒性学的
および環境上の評価は最大の重要性と緊急性をもっている。すでに、国際的に企業支
援による2件の努力が進行中である。それらは「代替フルオロカーボン毒性試験計画」
(Programme for Alternative Fluorocarbon Toxicity Testing:PAFT)および「代
替フルオロカーボン環境受容性研究」(Alternative Fluorocarbon Environmental 
Acceptability Studies:AFEAS)である。
 有害なクロロフルオロカーボン類の使用を防止し、それらの代替物がヒトの健康あ
るいは環境に不条理なリスクをもたらさないためには援助が必要である。また、製造
会社にとっては、適切な時機に、受容可能の代替物の生産の決定も必要である。環境
保健クライテリア113:全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類(WHO,1990)で
は、10種類の全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類を評価している。これらの中
の5種類の化合物は、主としてそのつよいオゾン破壊力と大気中での長期の滞留時間
に基づいて、モントリオール議定書に含まれている。部分的ハロゲン化クロロフルオ
ロカーボン類のオゾン破壊と地球温暖化の潜在力はかなり低く、それらの大気中滞留
時間はより短い。従って、毒性評価で不条理な健康あるいは環境のリスクは示唆され
ず、技術的・経済的に可能な、これらの部分的ハロゲン化クロロフルオロカーボン類
の一部は、全ハロゲン化誘導体類の代替物となり得るであろう。本モノグラフにおい
ては、2種類の部分的ハロゲン化クロロフルオロカーボン類(メタン誘導体)の評価
が示されている。この他の6種類の部分的ハロゲン化クロロフルオロカーボン類(エ
タン誘導体)の評価は、すでに開始されており、この環境保健クライテリア・シリー
ズとして近く発行されるであろう。国際化学物質安全性計画(International 
Programme on Chemical Safety:IPCS)の評価プログラムのための化学物質の選定
は、代替化学物質としての保証を意味するものではない。十分な毒性学的および環境
上の評価のみが、そのような結論の基礎となり得る。



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1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法 a 物質の同定 物質名 HCFC 21 化学式 CHCl2F 化学構造

3次元の化学構造の図の利用
図の枠内でマウスの左ボタンをクリック → 分子の向きを回転、拡大縮小 右ボタンをクリック → 3次元化学構造の表示変更

分子量 102.92 一般名 dichlorofluoromethane その他の名称 methane, dichlorofluoro‐; fluorodichloromethane; F‐21; R‐21; Freon 21; および商品名 Genetron 21; dichloromonofluoromethane; monofluorodichloromethane CAS登録番号 75-43-4 換算係数(20℃) 4.276 ppm→mg/m3 0.234 mg/m3→ppm   b 物理的・化学的特性 a 物理的状態 気体 色 無色 沸点(103kPa) 8.9℃ 凝固点 −135.0℃ 液体比重(9℃) 1.405 g/ml 蒸気密度(沸点) 4.57 g/l 蒸気圧(21℃) 1.57 atm 屈折率(9℃) 1.3724  a Grasselli & Richey(1975), Hawley(1981), Horrath(1982), Sax(1984), Weast(1985)より引用


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物質名 HCFC 22 化学式 CHClF2 化学構造

3次元の化学構造の図の利用
図の枠内でマウスの左ボタンをクリック → 分子の向きを回転、拡大縮小 右ボタンをクリック → 3次元化学構造の表示変更

分子量 86.47 一般名 chlorodifluoromethane その他の名称 Algeon 22; Arcton 22; Chlorofluorocarbon 22; difluorochloromethane; difluoromonochloromethane; および商品名 ElectroCF 22; Eskimon 22; F‐22; FC‐22; Flugene 22;Fluorocarbon 22; Forane 22; Freon 22; Frigen 22; Genetron 22; HFA 22; Hydrochlorofluorocarbon 22; Hydrofluoroalkane 22; Isceon 22; Osotron 22; Khladon22; methane, chlorodifluoro‐; monochlorodifluoromethane; Propellant 22; R‐22; Refrigerant 22; UCON 22 CAS登録番号 75-45-6 換算係数(20℃) 3.54 ppm→mg/m3 0.282 mg/m3→ppm   b 物理的・化学的特性 a 物理的状態 気体 色 無色 沸点(103kPa) −40.8℃ 凝固点 −146.0℃ 液体比重(−68℃) 1.49 g/ml 蒸気密度(沸点) 4.82 g/l 蒸気圧(21℃) 9.33 atm 表面張力(−41℃) 15 dynes/cm  a Grasselli & Richey(1975), Hawley(1981), Horrath(1982),  Sax(1984), Weast(1985)より引用  このモノグラフにおいてレビューされる2種のクロロフルオロカーボン類(ジクロ ロフルオロメタン、HCFC21およびクロロジフルオロメタン、HCFC22)は、ハイ ドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)で、メタンの中の水素原子をフッ素およ び塩素原子の双方により部分置換して誘導された化合物である。HCFC22のみが商 品として重要である。HCFC21とHCFC22は双方とも非引火性のガス(常温常圧に おいて)で、また無色でほとんど無臭である。水に対しては、HCFC21は軽度に、 HCFC22は中等度に溶解し、両者とも有機溶剤と混和する。HCFC22は液化ガスと して入手できる。  これら2種のHCFCsの測定には数種類の分析方法がある。これらには、電子捕獲 及びフレームイオン化検出器付きのガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィ ー/質量分析法、輻射熱偏向分光光度法が含まれる。


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2.ヒトおよび環境の暴露源  本モノグラフでレビューされた2種類のHCFCsは、天然産物としての存在は知ら れていない。HCFC21は非業務用として少量が製造されるだけである。1987年における HCFC22の世界での生産量は246,000トンと推算されている。  HCFC22の主な消失(ロス)は、冷蔵庫・空調機器の修理・使用・廃棄の間の放 出により発生する。世界における現在の最大推定消失量は、年間120,000トン程度 である。漁船におけるHCFC22の偶発的な放出が報告されている。  HCFC22は、冷媒、テトラフルオロエチレン製造の中間体、ポリスチレンの膨脹 剤として使用される。少量はエーロゾルの噴射剤として用いられる。 3.環境中の移動・分布・変質  HCFC22のオクタノール/水の分配係数の対数は1.08であり、生物濃縮は起こり そうにない。対流圏における半減期は、HCFC21では約2年、HCFC22では約17年と 推定されている。対流圏中での水酸基との反応は分解の主要経路のようである。 HCFC21および22のごく小部分が成層圏に達し、主として酸素基との反応により、 それらはオゾンを減少させる塩素を放出する。しかし、HCFC22は成層圏における オゾン破壊塩素の1%以下に責任があると推算されている。HCFC22のオゾン破壊 潜在力(ODP:ozone‐depleting potential)は0.05と推定されている一方、 HCFC21のそれはさらに低いと見られる。  地球温暖化潜在力(GWP:global‐warming potential)をCFC(全ハロゲン化ク ロロフルオロカーボン)11と比較するとHCFC22は約1/3〜1/4で、HCFC21はさ らに低い。 4.環境中濃度およびヒトの暴露  HCFC22は多くのポリスチレン食品容器の製造に用いられているが、これらの化合物 の水中における濃度あるいは食品中での存在についてのデータは入手できない。 HCFC21のヒトへの暴露データはないが、HCFC22を17〜65%含んだ実験用スプレーを 用いた2件の研究では、その短期暴露(10〜20秒)においては5,000〜8,000mg/m3 の範囲の最高濃度が生じた。美容院の従業員では、8時間の時間荷重平均濃度の90〜 125mg/m3への暴露があるが、これらは現行のドイツにおける規制値MAK、あるいは 米国・オランダのLTV(許容濃度)の1,800〜3,540mg/m3よりもはるかに低い。  HCFC22は大気中で速やかに混和する。1986年には約326mg/m3が報告されて おり、その濃度は毎年約11%までの増加があると考えられている。
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5.実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  HCFC21の吸収・分布・排泄についてのデータは限られている。HCFC21が吸入によっ て吸収されることは、ラットの毒性学的実験中で見られる全身症状と尿中フッ化 物の増加により推測できる。HCFC21は、腹腔内注射後に呼出(呼気中に排出)され、 体内動態データとフッ化物排泄の証拠の双方は、HCFC21が代謝されることを示唆して いる。しかし、代謝の範囲は未知であり、フッ化物以外の生成物は確認されていない。  HCFC22は、ラット・ウサギ・ヒトにおいて、吸入後速やかに、そして十分に吸 収され広く分布される。高濃度のHCFC22が、暴露中に死亡したウサギの血液・脳・ 心臓・肺・肝臓・腎臓・内臓脂肪から、また、HCFC22の暴露事故の犠牲者の脳・ 肺・肝臓・腎臓の死後の試料において見出された。その排出ははやく、ウサギでは1 分、ラットでは3分の半減期でHCFCの大部分は排出される。ヒトにおいては、限 定された量が3段階で排出される(3分、12分、2.7時間の半減期)。  ラットおよびヒトにおいては、吸入あるいは腹腔内投与のHCFC22は、無変化の まま、そのほとんどすべてを呼出する。ラットのin vivo(生体内)あるいはラット の肝臓からの調製試料では、顕著な代謝は起こらない、との十分な証拠が存在する。 6.実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響  HCFC21およびHCFC22の急性経口毒性についての十分なデータはない。  HCFC21およびHSFC22の単回吸入暴露の主要な影響は、多種類の動物種におい て本質的には類似している。この両物質はこの経路では低い毒性を示す。クロロフル オロカーボン類の典型的な影響は、運動協調機能(coordination)の喪失と麻酔作用 である。高濃度(106.7g/m3以上)においては、心臓の不整脈および肺への影響が 起こるであろう。  HCFC21およびHCFC22は皮膚と眼に刺激を生じさせると主張されてきたが、こ れらの作用はこの化学物質の特性というよりも、熱放散(heat loss)の結果に関連す るのであろう。本物質は、皮膚感作(訳者注:過敏状態の誘発)を起こすことはなか った。  HCFC21の唯一の短期毒性試験が実施され、吸入経路が検討された。ラット・モ ルモット・イヌ・ネコにおける主な影響は肝臓の損傷であり、無影響量(no‐observed ‐effect level)は決定されなかった。ラットにおいては、投与濃度0.213g/m3/6 時間/日、5日/週、90日間暴露により肝臓の組織病理学的損傷が認められた。膵臓 の間質性浮腫と輸精管上皮の変性も、この濃度において発生した。HCFC22の17. 5g/m3(13週間)〜175g/m3(4または8週間)の範囲の濃度による暴露では、 病変は実質的には発生しなかった。  HCFC21について、動物を用いた長期実験は行われていない。HCFC22による長 期実験で認められた腫瘍発生以外の唯一の首尾一貫した知見は、投与濃度175g/m3 /5時間/日、5日/週の生涯吸入実験のオス・マウスにおける活動性昂進 (hyperactivity)であった。  HCFC21の繁殖力への影響について、従来方式による(conventional)研究は実施 されていない。ラットの胎仔毒性研究(42.7g/m3、6時間/日、妊娠6〜15日の 間)においては催奇形性は観察されなかったが、胚子着床の高率の失敗が認められた。 HCFC22では(175g/m3/日、5日/週、8週間)、オス・ラットの生殖能力に影 響はなかった。3件のラットの催奇形性研究においては、軽度の眼の欠陥の増加が、 統計学的有意差のない程度で見られた。その結果、HCFC22が眼の奇形を生じさせ るか否かの大規模の研究が実施された。この研究では、母獣への175g/m3、6時間 /日、妊娠6〜15日間への暴露により、同産群(訳者注:同一の母体から生まれた仔 の一群)中に小眼球症あるいは無眼球症(眼球欠如)の胎仔が見出された。それらは 少数ではあったが統計学的に有意の増加として認められた。この暴露濃度は軽度の母 体毒性(対照群と比較して軽い体重)を与えた。その他の影響は見られず、本実験に おける無影響量は3.5g/m3であった。類似の暴露条件によるウサギの従来方式の 実験では、催奇形性は認められなかった。  HCFC21は、2種類の細菌と1種類の酵母菌を用いた試験では変異原性は示されな かった(これ以上のデータは入手できない)。HCFC22は、サルモネラチフィムリ ウム菌(S.typhimurium)を用いた細菌テストで変異原性が認められたが、他の微生 物類あるいは哺乳類試験系ではin vitroまたはin vivoのいずれにおいても活性は示 されなかった。これらの試験には、ラットとマウスの双方の、in vitroにおける遺伝 子突然変異性と不定期DNA合成、in vivoの骨髄細胞遺伝試験、優性致死試験を含ん でいる。  In vivoの発がん性実験がHCFC22について実施された。2グループの研究者が、 ラットおよびマウスの双方についての生涯吸入実験を行った。オス・ラットに175g/m 3の濃度を5日/週、131週間投与した1件の実験において、腫瘍の過剰発生の唯一 の証拠が得られた。唾液腺部分およびZymbal腺の線維肉腫のわずかな過剰発生が認 められた。これらの影響はより低い濃度(35g/m3まで)では認められず、この高用 量は第二の実験では用いられなかった。これは腫瘍発生作用がないことの十分な立証 ではないが、ラットについての経口食餌研究においては腫瘍の過剰発生は認められな かった。これらの動物にはHCFC22が300mg/kg/日、5日/週、52週間投与され、 実験は125週間で終了した。
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7.ヒトへの影響  ヒトにおけるHCFC21とHCFC22の影響については、きわめて限られたデータしか入手 できない。  高濃度のHCFC22の事故によるあるいは意図的な暴露後に死亡例が発生している。 これらの犠牲者の一部の生体組織の組織病理学的検索では、肺の浮腫と主として肝臓 周辺細胞における細胞質の脂肪性小滴が認められた。  質問調査による研究では、HCFC22に職業的に暴露された人々の間で心悸亢進の 訴えが増加しているが、これはHCFC21あるいはHCFC22への、ボランティアまた は職業的暴露が健康への悪影響をもたらす、との良くない証拠である。HCFC22を 含む数種類のクロロフルオロカーボン類の職業的暴露の死亡率の研究はきわめて少 ないため、この問題に対する結論を下すことはできない。 8.実験室および自然界の他の生物類への影響 環境中の生物に対するHCFC21およびHCFC22の影響についてのデータは入手できない。 9.評価と結論  HCFC21およびHCFC22の双方の環境中濃度はきわめて低く、ヒトの健康に直接の影響 を与えるとは考えられない。管理された職業的暴露も、ヒトに重大なリスクを生じさ せることはないであろう。  HCFC21とHCFC22は、全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類よりもオゾン破 壊力は低く、大気中の滞留時間も短いため、直接の健康リスクはより低いであろう。 これらの地球温暖化の潜在力は、全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類よりも相当 に低いことは、環境への影響がより低いことを示唆している。  HCFC22の毒性は低く、全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類と比較すると、 オゾン破壊と地球温暖化の潜在力はより低く、大気中の滞留時間もより短い点から、 モントリオール議定書に含まれるCFCsの暫定的な代替品と見なすことはできる。し かし、HCFC21の環境への影響は低く、健康リスクは間接的ではあるが、肝臓毒性 による直接的な健康リスクの可能性のため、モントリオール議定書に含まれるクロロ フルオロカーボン類の代替品としては推奨できない。
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10.今後の研究 1. 一般集団への暴露について入手し得る情報と地球環境への影響との間のギャップ を埋めるため、次の諸点が勧告される。 ・ 食品包装材料と包装された食品中のHCFCsの濃度を測定すべきである。   ・ 世界各所におけるHCFCsの大気中濃度のモニタリングを維持すべきである。   ・ HCFCsのオゾン破壊潜在力の低減の有用性を実証するため、極地の外的要因 による大気現象の研究をさらに実施すべきである。 2. HCFC21はきわめて限定された規模で用いられており、モントリオール議定書に含ま れるクロロフルオロカーボン類の代替品にはならないと考えられる。もし将来 において、その使用が実質的に増加が予想される場合には、次のような健康影響の情 報が必要とされる。   ・ 肝毒性に注目した動物における慢性毒性。   ・ 肝毒性に関連する作用のメカニズム。   ・ 遺伝毒性および発がん性。   ・ 暴露下の集団における目標を定めた健康サーベイランス(訳者注:健康異常に 影響する諸要因の継続的観測システム)の結果。 3. HCFC22の暫定的使用を考慮して、そのヒトと環境への影響に関する知識の現 存のギャップを埋めなければならない。そのため、次の領域の研究が勧告される。   ・ 遺伝毒性および発がん性を明らかにするため、作用のメカニズムの研究。   ・ 高濃度の本物質に暴露されやすい集団における目標を定めた健康サーベイランス。 11.国際機関によるこれまでの評価  HCFC22に対する国際がん研究機関による発がん性の評価(IARC,1987)は,次の通りである。  「ヒトにおける発がん性の証拠は不十分であり、実験動物における発がん性の証拠 は限定的である。本物質をヒトに対する発がん物質とは分類できない(グループ3)」。
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Last Updated :24 August 2000 NIHS Home Page here