環境保健クライテリア 113
Environmental Health Criteria 113

全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類
 Fully Halogenated Chlorofluorocarbons

(原著164頁,1990年発行)

作成日: 1997年2月24日
1. 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
2. ヒトおよび環境の暴露源
3. 環境中の移動・分布・変質
4. 環境中濃度およびヒトの暴露
5. 体内動態および代謝
6. 環境への影響
7. 実験動物および in vitro(試験管内)試験系への影響
8. ヒトへの影響
9. ヒトの健康リスクの評価
10. 勧告

→目 次


 
1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法

物質 CFC 11 CFC 12 CFC 13 CFC 112 CFC 112a CFC 113 CFC 113a CFC 114 CFC 114a CFC 115 a 物質の同定 物質名 CFC 11 化学式 CCl3F 化学構造

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分子量 137.37 一般名 trichlorofluoromethane その他の名称 CFC-11, F-11 および商品名 Freon 11, Frigen 11, Arcton 9 CAS登録番号 75-69-4 換算係数(20℃) 5.71 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性a 物理的状態 液体(23.7℃未満) 色 無色 臭気 微エーテル臭 沸点 23.82℃ 融点 −111℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 5.86g/l 水溶解性(25℃) 0.11(重量%) a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 12 化学式 CCl2F2 化学構造

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分子量 120.92 一般名 dichlorodifluoromethane その他の名称 CFC-12, F-12 および商品名 Freon 12, Arcton, Frigen 12, Genetron 12, Halon, Osotron 2 CAS登録番号 75-71-8 換算係数(20℃) 5.03 ppm(v/v)→mg/m3 b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 気体 色 無色 臭気 ほとんど無臭 沸点 −29.79℃ 融点 −158℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 6.33g/l 水溶解性(25℃) 0.028(重量%) a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 13 化学式 CClF3 化学構造

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分子量 104.46 一般名 chlorotrifluoromethane その他の名称 CFC-13, F-13 および商品名 CAS登録番号 75-72-9 換算係数(20℃) 4.34 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 気体 色 無色 臭気 エーテル臭 沸点 −81.4℃ 融点 −181℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 7.01g/l 水溶解性(25℃) 0.009(重量%) a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用  


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 112 化学式 CCl2F・CCl2F 化学構造

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分子量 203.82 一般名 1,2-difluoro-1,1,2,2-tetrachloroethane その他の名称 CFC-112, F-112 および商品名 CAS登録番号 76-12-0 換算係数(20℃) 8.47 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 固体 色 白色 臭気 微かに樟脳臭 沸点 92.8℃ 融点 26℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 7.02g/l 水溶解性(25℃) 0.012(重量%)飽和圧 a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 112a 化学式 CCl3・CClF2 化学構造

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分子量 203.82 一般名 1,1-difluoro-1,2,2,2-tetrachloroethane その他の名称 CFC-112a, F-112a および商品名 CAS登録番号 76-11-9 換算係数(20℃) 8.47 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 固体 沸点 91.5℃ 融点 40.6℃ 引火性 なし 水溶解性(25℃) 0.011(重量%) a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 113 化学式 CCl2F・CClF2 化学構造

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分子量 187.38 一般名 1,1,2-trichloro-1,2,2-trifluoroethane その他の名称 CFC-113, F-113, および商品名 Freon 113 CAS登録番号 76-13-1 換算係数(20℃) 7.79 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 液体 色 無色 臭気 ほとんど無臭 沸点 47.57℃ 融点 −35℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 7.38g/l a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 113a 化学式 CCl3・CF3 化学構造

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分子量 187.38 一般名 1,1,1-trichloro-2,2,2-trifluoroethane その他の名称 CFC-113a および商品名 CAS登録番号 354-58-5 換算係数(20℃) 7.79 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 液体 沸点 45.8℃ 融点 14.2℃ 引火性 なし a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 114 化学式 CClF2・CClF2 化学構造

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分子量 170.92 一般名 1,2-dichloro-1,1,2,2-tetrafluoroethane その他の名称 CFC-114, F-114 および商品名 CAS登録番号 76-14-2 換算係数(20℃) 7.11 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 気体 色 無色 臭気 ほとんど無臭 沸点 3.77℃ 融点 −94℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 7 .83g/l 水溶解性(25℃) 0.009(重量%)   a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 114a 化学式 CCl2F・CF3 化学構造

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分子量 170.92 一般名 1,1-dichloro-1,2,2,2-tetrafluoroethane その他の名称 CFC-114a, F-114a および商品名 CAS登録番号 374-07-2 換算係数(20℃) 7.11 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 気体 沸点 3.6℃ 融点 −94℃ 引火性 なし a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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a 物質の同定(続) 物質名 CFC 115 化学式 CClF2・CF3 化学構造

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分子量 154.47 一般名 1-chloro-1,1,2,2,2-pentafluoroethane その他の名称 CFC-115, F-115, Freon 115 および商品名 CAS登録番号 76-15-3 換算係数(20℃) 6.42 ppm(v/v)→mg/m3   b 物理的・化学的特性(続)a 物理的状態 液体 色 無色 沸点 −39.1℃ 融点 −106℃ 引火性 なし 飽和蒸気密度(沸点) 8.37g/l 水溶解性(25) 0.006(重量%) a Du Pont(1980), Smart(1980), Hawley(1981), Windholz(1983)より引用


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 本モノグラフは、メタンおよびエタンの水素原子の、フッ素および塩素の双方の完 全な置換により誘導されたクロロフルオロカーボン類(CFCS)のみを扱っている。  これらの化合物類の多くは商業的に重要であり、一部はオゾン破壊への寄与で知ら れている。本報告で検討される化合物類には、トリクロロフルオロメタン(CFC‐11)、 ジクロロジフルオロメタン(CFC‐12)、クロロトリフルオロメタン(CFC‐13)、 1,2‐ジフルオロ−1,1,2,2‐テトラクロロエタン(CFC‐112)、1,1‐ジフル オロ−1,2,2,2‐テトラクロロエタン(CFC‐112a)、1,1,2‐トリクロロ−1, 2,2‐トリフルオロエタン(CFC‐113)、1,1,1‐トリクロロ−2,2,2‐トリフ ルオロエタン(CFC‐113a)、1,2‐ジクロロ−1,1,2,2‐テトラフルオロエタ ン(CFC‐114)、1,1‐ジクロロ−1,2,2,2‐テトラフルオロエタン(CFC‐ 114a)、1‐クロロ−1,1,2,2,2‐ペンタフルオロエタン(CFC‐115)が含ま れる。塩素を含まない化合物類は検討されなかった。水素を含むこれらの化合物類は、 今後の報告で検討されるであろう。  市販のクロロフルオロカーボン類は入手し得る有機化学物質類の中で最高の純度 に分類される。これらは通常、高い蒸気圧・比重と、低い粘性・表面張力・屈折率・ 水中での溶解性を特徴としている。フッ素置換の程度はその物理的特性に大きく影響 し、一般には、フッ素置換の増加に伴い蒸気圧は上昇し、沸点・比重・水中での溶解 性は低下する。  本モノグラフで検討されたクロロフルオロカーボン類は適度な化学的安定性を示 し、金属触媒のない場合にはその加水分解率は低い。これらは200℃以下の温度にお いては、通常の酸化物質による作用には強い抵抗性を示す。一般に、クロロフルオロ カーボン類は高い温度安定性を示し、ほとんどすべての化学物質試薬類に対する抵抗 力はきわめて強い。しかし、これらは化学的に反応性の高い金属類とは激しい相互作 用を示す。  各種の媒体中のクロロフルオロカーボン類の測定には、いくつかの分析方法が使用 できる。これらには、分光光度法、数種の定量方法を有するガスクロマトグラフィー、 質量分析法が含まれる。大多数の方法としては、各種の検出技術の付いたガスクロマ トグラフィーが用いられ、その検出限界はしばしば1兆分の1(ppt)の桁であろう。 サンプル収集の方法は、より高度の選択性と感度を達成するため改良されてきた。
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2.ヒトおよび環境の暴露源  本モノグラフで検討されるクロロフルオロカーボン類 は、環境中で天然に存在することは知られていないが、化学的中間物質として用いら れるもの以外は環境中に放出される。オゾンを破壊させる重要なクロロフルオロカー ボン類(CFC‐11、CFC‐12、CFC‐113)の1985年における世界の生産量は、少 なくとも100万トンと推定されている。主要工業国においてはその生産は制限されて おらず、その生産は少なくとも16か国で行われている。モントリオール議定書の実 施に伴い、現在のこれらクロロフルオロカーボン類生産の増加傾向は、おそらく逆転 するであろう。  主要なクロロフルオロカーボンの最も重要な製法は、無水フッ化水素との反応によ るフッ素を有するクロロカーボンからの塩素の触媒置換である。環境中への放出の大 部分は冷却剤(冷媒)を内蔵する廃物機器の投棄期間中に発生し、製造・保管・取り 扱いの段階では起こらない。噴射剤のクロロフルオロカーボン類の放出は、多くの 国々でのそれらの使用の法的制限の結果として減少し、膨張剤(訳者注:発泡断熱材 製造時に使用)の放出は少量である。環境温度におけるこれらの化合物の高い蒸気圧 のため、環境中に放出された大部分は、結局大気中に蓄積する。1985年におけるCFC ‐11およびCFC‐12を主体とする年間総放出量は約100万トン、これらのクロロフ ルオロカーボン類の1931〜1985年の累積放出量は約1,350万トンと推算されてい る。  世界における1985年のクロロフルオロカーボン類の使用パターンの概略は、冷却 剤(冷媒)…15%、発泡膨張剤…35%、エアロゾル噴射剤…31%、雑用途…7%、そ の他…12%である。米国においては、エアロゾル噴射剤の使用は規制のためずっと低 率である。
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3.環境中の移動・分布・変質  市販クロロフルオロカーボン類は、それらの化学的安定性のため、環境中で蓄積性 を示す。その大気中での平均滞留時間は、次の通り推定されている。    CFC‐11… 65年、 CFC‐12… 110年、 CFC‐13… 400年、    CFC‐113… 90年、 CFC‐114… 180年、 CFC‐115… 380年。  これらの長い滞留時間は、光化学的に生成された塩素原子を介して、クロロフルオ ロカーボン類がオゾン層と反応する成層圏中への拡散を確実にするであろう。さらに、 これらの化合物は温室効果にも寄与するであろう。 4.環境中濃度およびヒトの暴露  クロロフルオロカーボン類の地球上での分布は、 数名の研究者により報告されている。最近のクロロフルオロカーボン濃度の緯度別に よる測定では、CFC‐11およびCFC‐12の濃度は、北と南半球の間でわずかな差し かないことが示されている。また、地球表面から6kmの上層においても著しい差異 は存在しない。都市部/近郊のクロロフルオロカーボン類の測定濃度は地域の排出源 の寄与のため、辺鄙/田園地帯よりも高い数値を示した。  CFC‐11およびCFC‐12の大気中濃度は、1985年以来間断なく増加し、これら 2化合物を合わせた濃度は、米国の都市部/近郊において9,120ng/m3、辺鄙/田 園地帯では2,720ng/m3であった。これらのデータから、ヒトによるこれら2種の 化合物の吸入取り込みは、それぞれの地区において182および54mg/日と推算された。  互いに離れた3地点における海水表層中のCFC‐11およびCFC‐12の平均濃度 が測定され、0.2ng/lの桁の数値が報告されている。しかし、1982年、グリーンラ ンド海では0.62ng/lのCFC‐11が、また、日本沿岸の海水中からは0.54ng/lま での数値が測定されている。CFC‐12の最高値は同じ場所での0.33ng/lであった。 さらに高い濃度はオンタリオ湖(訳者注:カナダ・オンタリオ州南境の湖で五大湖の 一つ)の淡水から測定され249ng/lのCFC‐11と、572ng/lのCFC‐12が記録され ている。クロロフルオロカーボン類は飲料水中からは検出されていないが、アラスカ の雪と雨水・オンタリオ湖・ナイヤガラ河においては発見されている。CFC‐11は、 魚類や軟体動物の各種の臓器中から0.1〜5μg/kg(ppb)(乾重量ベース)の濃度 が検出されている。しかし、加工食品中からのクロロフルオロカーボン類の存在は報 告されていない。
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5.体内動態および代謝  クロロフルオロカーボン類は、吸入・摂取・皮膚接触によ りヒトの生体内に侵入する。吸入は最も一般的で重要な侵入経路であり、呼出(息を 吐く)は身体からの排出の最も顕著な経路である。ボランティアの被験者と実験動物 による研究では、多数のクロロフルオロカーボン類の暴露からのデータが得られてい る。これらのデータはクロロフルオロカーボン類の体内動態と代謝について、次の諸 点を示している。  ・肺胞膜・消化管・皮膚を通して吸収される。  ・吸入後速やかに血液中に吸収される。  ・血中濃度の増加に伴い、血液への吸収率は低下する。  ・ひとたび血中に入ると、種々の生体組織により吸収される。  ・暴露が長期の場合には安定した血中濃度に達し、クロロフルオロカーボン類と血 液に含有する空気との間の均衡が示される。  ・当初の血液濃度の安定後においても、生体組織により吸収され、生体への侵入が 継続する。  動物を用いた実験では、クロロフルオロカーボン類は吸入後速やかに吸収され、血 液により生体内の実質的にはすべての組織に分布されることを示している。その最高 濃度は、通常、脂肪性あるいは脂質含有組織内で見出される。しかし、クロロフルオ ロカーボン類は血液供給の良好な臓器、すなわち心臓・腎臓・筋肉においても発見さ れている。  動物およびヒトの代謝研究の結果から、クロロフルオロカーボン類には、生物学的 組織中での分解あるいは代謝に対する抵抗性が立証されている。これらの結果は、暴 露後のクロロフルオロカーボン類は、一般的には、代謝の程度はきわめて少ないか、 あるいは全くないことを示唆している。  侵入経路に関係なく、クロロフルオロカーボンはほとんど呼気を介し呼吸器管を通 じて排出される。尿あるいは糞中へ排出される代謝変換生成物の同定を試みた研究で は、クロロフルオロカーボン類とそれらの多量の代謝産物の回収は報告されていない。
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6.環境への影響  CFC‐11、12、113、114、115を含むある種のクロロフルオロカーボン類は、大気の 低層中ではきわめて安定している。これらのガス類は成層圏上部の高エネルギー輻射 環境中に移動し、光分解プロセスがクロロフルオロカーボン類から塩素を分離放出させる。 これらの塩素基は触媒作用によりオゾンを破壊する。成層圏オゾンは太陽の紫外線 (UV‐B:波長280〜320nm)を吸収し、減弱化されたUV‐Bのみを地球表面に到達させる。  実験的証拠は、オゾンの破壊より生じる地球表面上の紫外線の増加は、陸生および 水生の生物相(biota)に対し有害影響を与えることを示唆している。野外実験の複 雑さから生じる不確定性にもかかわらず、現在では、農作物の収穫量および森林の生 産性は太陽紫外線の増加により被害を受けやすいことを示唆するデータの入手が可 能である。また、現存のデータは、紫外線の増加は植物の分布と種類および生態系の 構造変化を示唆している。  海洋生態系の各種の研究では、紫外線は食物網に不可欠の幼魚・エビやカニの幼 生・カイアシ(橈脚類の動物)・植物類への障害が立証されている。これらの障害作 用には、増殖性や成長の低下と生存が含まれる。実験的証拠は、環境中の紫外線暴露 の少量の増加でさえ著しい生態系の変化を生じさせることを示唆している。
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7.実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響  クロロフルオロカーボン類の急性吸入毒性は広く研究されている。このモノグラフで 検討されたクロロフルオロカーボン類は低い急性吸入毒性を示している。急性中毒の 症状には、中枢神経系への影響、心臓血管系への二次的影響、呼吸器官の刺激を含ん でいる。クロロフルオロカーボン類の急性経口毒性について入手し得る限られた情報 では、低い毒性が示されている。CFC‐112、112a、113の高用量の皮膚への塗布は、 各種の段階の刺激を発生させたが、その他の著しい影響はなかった。  CFC‐11、12、112、113、114、115の短期吸入実験が報告されている。その結 果は低毒性を示しており、その影響は主として中枢神経系・呼吸器官・肝臓に関連し ていた。経口毒性実験ではその低毒性を確認した。  CFC‐113の0.2、1、2%(15.3、76.6、183g/m3)の濃度による、6時間 /日、5日/週、2年間までのラットの長期吸入実験においては、組織病理学的影響 あるいは変化は観察されなかった。報告者が投与量に関連する唯一の知見とみなした のは、2種類の最高投与量に暴露されたグループにおける体重の減少であった。  このモノグラフで評価された全ハロゲン化クロロフルオロカーボン類の入手し得 る情報では、それらの変異原性あるいは発がん性はほとんどない、あるいはないこと を示している。細菌および哺乳類細胞を用いたin vitroの試験で代謝活性の有無双方 の場合および優性致死試験においては陰性(negative)の結果が得られた。  ラットとマウスを用いたCFC‐11とCFC‐12の長期発がん性実験(経口および 吸入の経路による)は陰性の結果を示した。CFC‐113吸入のラットにおいて鼻腔内 に腫瘍性の反応が観察されたが、この反応は不明確と見なされた。この腫瘍は種々の 形態を示し、その発生率は用量との関連性を示さなかった。  本資料で検討された8種類のクロロフルオロカーボン類のうち、CFC‐11、12、 113の入手し得る科学文献中で発生毒性の研究が報告されている。これら3種類のク ロロフルオロカーボン類については、胚毒性・胎仔毒性・催奇形性の証拠は報告され ていない。
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8.ヒトへの影響  CFC‐11およびCFC‐12を用いたボランティアによる管理され た研究では、臨床上の血液および生化学データ・脳波・神経学的パラメータについて は認め得る影響は示されなかった。  高濃度においては、被験者は刺激的な感覚・耳鳴り・不安感を経験した。また、脳 波の変化・不明瞭な発音・心理テストにおける機能低下も認められた。11%(原著注) の濃度(545g/m3)のCFC‐12の11分間の暴露は、記憶喪失を伴う意識低下の10 分後に、著しい不整脈を発生させた。  濃度1%(50g/m3)のCFC‐12の150分間の暴露後では、精神運動性試験 (psychomotor test)の採点において7%の低下が認められたが、0.1%(5g/m3) の濃度では影響は認められなかった。  10人の被験者が、CFC‐11、CFC‐12、CFC‐14、CFC‐11とCFC‐12の2 種類の混合物、CFC‐12とCFC‐114の1種の混合物に(呼吸濃度の範囲は16〜 150g/m3)15、45、60秒間暴露された実験において、肺換気量(努力性呼気量50% および25%)の著しい急性の低下、徐脈、心拍数の変化の増加、心房室ブロックが 各ケースにおいて報告された。  CFC‐113の0.15%(12g/m3)、0.25%(19g/m3)、0.35%(27g/m3)、 0.45%(35g/m3)の濃度による165分間暴露を用いて、精神運動性機能が評価さ れた。最低濃度では影響はなかったが、精神集中の困難と試験採点のある程度の低下 が0.35%(27g/m3)において始まった。  少数の研究では、CFC‐11あるいはCFC‐12を含む消臭スプレーに対する皮膚反 応の前歴のある個人では、特定のクロロフルオロカーボン類の皮膚への塗布により感 作(訳者注:過敏状態の誘発)された。5名の非喫煙者における気管の粘液線毛機能 は、CFC‐11の暴露による障害は受けなかった。  2件の研究は、CFC‐113への正常な職業的暴露は、健康に重大な危険をもたらさ ないことを示唆している。平均濃度が0.07%(5.4g/m3)の職業的暴露濃度0. 47%(36.7g/m3)においては有害影響は起こらなかった。  クロロフルオロカーボン類は50年以上使用されているが、唯1件のコホート(特 定の集団)疫学研究(暴露作業者539名)のみが入手できる。それによれば、死亡総 数あるいは腫瘍による死亡の増加は認められなかった。  数件の研究では、クロロフルオロカーボン含有のヘアスプレーを使用中の美容師に おいて、肺換気量の急性の著しい減少が観察されている。クロロフルオロカーボン類 の職業的暴露に由来する神経学的影響の症例が報告されている。クリーニング作業者 における神経疾患の1例では、テトラクロロエタンと濃度不明のCFC‐113に6年 間暴露されたと報告されている。  非職業的暴露と、偶発的および濫用によるエアロゾルの吸入も報告されており、そ の主な症状は中枢神経系の抑制と心臓血管系の反応である。不整脈は、ストレスある いは中程度の炭酸過剰によるカテコールアミン類の濃度上昇のため悪化し、これらの 死を招く悪影響が原因であることが示唆されている。  紫外線(UV‐B)放射量の増加は、ヒトの健康に顕著な有害影響を与えると予測さ れるが、現在の知識では、その影響は大きく変わってきている。悪性黒色腫(訳者注: 色素細胞の悪性腫瘍)以外の皮膚がんの発生の増加は実質上明白である。最近のデー タに基づいた予測では、オゾンの1%の破壊は、非黒色腫皮膚がん発生率の3%まで の増加を示している。これをベースとすると、数十年後にはオゾンの破壊は5%にま で達し、世界における非黒色腫皮膚がんの新規発生数は、1年当り約24万人になる であろう。UV‐B放射は、さらに危険な皮膚黒色腫の形成にある役割をも果たすよ うに見える。しかし、正確な用量−反応関係を決定するための知識は不足している。  免疫組織はUV‐B放射により種々の点で影響を受ける。ヒトの健康に対するオゾ ン破壊の影響を予測するために入手できる知識は不十分であるが、ある種の感染症の 増加はその影響の一つであろう。  ヒトの眼に対するもっとも重要な影響は、水晶体を永続的に曇らせ(現在の紫外線 レベルでも起こる)、視力を障害し多くの人々を盲目にする白内障の増加であろう。  UV‐B放射の増加は光化学スモッグの増加を招くと予想され、これは都市部や工 業地帯に関連する健康問題を悪化させるであろう。
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9.ヒトの健康リスクの評価  クロロフルオロカーボン類の暴露によるヒトに対する 最も重要な直接的影響は、工場での事故や劣悪な作業実施状態、また、本化学物質を 溶剤あるいは噴射ガスとして使用する際の誤用あるいは濫用による過剰暴露から生 じている。クロロフルオロカーボン類の使用・廃棄物の投棄・移動・貯蔵の期間中に おける地球環境への野放しの放出は、主として成層圏オゾンの破壊を通じて、将来の 人類の健康に衝撃を与えるとの懸念は増大している。 10.勧  告  1. 一部のクロロフルオロカーボン類、特に水素を含む種類の毒性 データベースは、定量的リスク・アセスメントには不十分である。これらの化合物類 の慢性毒性・発がん性・催奇形性/生殖影響についての追加情報、特に吸入暴露によ る影響が必要である。  2. 紫外線(UV‐B)放射増加の影響のアセスメントは次表に要約した。 表 成層圏オゾンの減少により生じる紫外線増加の影響a 影響 知識の現状 全体的影響 皮膚がん 中等度から高度 中等度 免疫組織 低い 高い 白内障 中等度 低いb 植物c 低い 高い 水生生物c 低い 高い 気候への影響d 中等度 中等度 対流圏オゾン 中等度 低いe a SAB‐EC‐87‐025・米国環境保護庁科学諮問委員会成層圏オゾン小委員会「成 層圏の変化によるリスクのEPA(米国環境保護庁)のアセスメントのレビュー・1987 年3月」を修正。 b 白内障発生に対するオゾン減少の影響についての最近の検討では、その影響はさ らに深刻であろう、と示唆している。(米国環境保護庁:成層圏に変化を及ぼす微量 ガス類のリスクアセスメント、第10章、1987年12月) c 第6章参照。 d 成層圏オゾン破壊そのものとガス類の減少の双方が、海面上昇を含む気候変動に 寄与する。 e 地域あるいは地方規模の地表のオゾン大気汚染問題を抱える特定の都市部あるい は田園地帯ではつよい影響があり得るであろう。    知識の欠けている領域および地球につよい影響のある分野についての研究がさら に必要である。ヒトの健康に対する成層圏オゾン破壊の影響の解明と対応のためには、 次の8項目の特定領域について、将来の研究と評価が特に重要である。   ・ 動物モデルおよびヒトにおける免疫低下のメカニズムの研究。  ・ 紫外線放射への暴露により悪化する段階と過程を含む感染性疾患の確認と、これ らの疾患を説明するためのモデルの開発。   ・ 感染症の発生率に対する紫外線暴露の影響について、波長依存性およびヒトにつ いての暴露量−反応情報の開発の研究。   ・ ワクチン効果に対する紫外線の免疫抑制影響の決定。   ・ 紫外線放射による黒色腫および非黒色腫皮膚がん誘発における免疫学的変化の 役割の解明。  ・ 紫外線放射による各種の黒色腫誘発に対する作用範囲および用量−反応関係の 決定。   ・ 紫外線放射による扁平上皮がん、特に基底細胞がん腫誘発の作用範囲のより正確 な決定。  ・ 白内障の生物学的および疫学的研究、眼疾患のリスク減少方法の研究。  3. 一部の国においては、現在も、航空機内散布用の殺虫剤にCFC‐11および CFC‐12を噴射剤として用いたエアロゾル・スプレーの使用が推奨されている。こ の古いタイプの噴射剤は、すでに多くの国々において禁止されているため、この用途 のため、オゾンを破壊せず、非引火性で安全、非刺激性の新しい噴射剤が緊急に必要 である。  4. 将来、成層圏のオゾン破壊を低減させるため、効果的な国際協力が必要であ り、この目的のためには、オゾン破壊のクロロフルオロカーボン類の少なくとも80 〜90%の削減が必要である。第一に優先すべきことは代替品の開発にあり、その第二 は、現存の使用済みクロロフルオロカーボン類の適切な廃棄方法の開発である。すべ ての国々に対し、成層圏オゾン破壊の高いクロロフルオロカーボン類の使用削減のた めの手段をとることを勧告する。
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Last Updated :24 August 2000 NIHS Home Page here