(3)新素材の安全性評価:ナノマテリアルの吸入毒性試験
新素材の安全性評価:ナノマテリアルの吸入毒性試験
工業的ナノマテリアルは、化学組成が同じバルク状の物質とは異なった物理化学的性質を示すため、幅広い産業分野において有用な基盤技術として期待されている。
ナノマテリアルの産業応用が急速進展する中、製造者及び製品利用者の健康被害防止のための規制決定及び、産業界における安全面からの国際競争力保持の観点から、基礎的定量的な毒性情報を得る評価法の確立が急務である。
ナノマテリアルのヒトで想定される現実的かつ重要なばく露経路は吸入であることから、毒性部では、小規模全身吸入ばく露装置の開発を進め、カートリッジ直噴式ダスト発生装置を独自開発した(A)。
これに先立ち、ナノマテリアルの高分散乾燥検体を得る必要があった。そこで、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)をモデル物質として、凝集体を除去した検体調製方法(Taquann法)の開発を行った(B)。
Taquann法処理したMWCNT(T-CNT)は、未処理検体(U-CNT)に比較して、肉眼的には嵩高い外観を示し、単離した繊維成分が殆どを占め、液相に高度に分散する性質を有している(C)。
Taquann法処理検体をカートリッジ直噴式ダスト発生装置により発生させたMWCNTのエアロゾルは、その殆どは単離した状態であり、繊維長の分布も原末と同様である(D)。
Taquann法とカートリッジ直噴式ダスト発生装置の組み合わせは汎用性が高く、少量の検体で実験が可能であるため、ナノマテリアルの吸入毒性評価の迅速化・効率化に貢献することが期待される

A:独自に開発したカートリッジ式ナノマテリアル全身ばく露吸入装置
B:高分散検体調製方法(Taquann法)のフローチャート
C:多層カーボンナノチューブ(MWCNT)をTaquann法処理した検体(T-CNT)と原末(U-CNT)の比較
D:Taquann法処理検体をカートリッジ式ナノマテリアル全身ばく露吸入装置によりエアロゾル化した粒子の形態