医薬安全科学部 第2室

スタッフ

室長  

主任研究官  荒川 憲昭 (あらかわ のりあき、Arakawa Noriaki

主任研究官  齊藤 公亮 (さいとう こうすけ、Saito Kosuke

派遣研究員  豊島 克子、小島 舞、飯地 亮太、土本 佳奈

 

 

業務紹介

1、疾患・副作用に関するメタボローム解析

メタボローム解析とは、生体内の低分子代謝物を網羅的に解析する技術である。代謝産物は、ゲノム

情報の最終的表現である形質発現に寄与していることから、メタボローム情報は、他のオミックス

情報と共に、疾患や副作用の発症機序の解明や早期診断のバイオマーカーとして有用と考えられる。

本研究では、健康長寿社会実現の障害となっている主要11疾患について、疾患発症や病態形成に

係わる新しい分子や分子メカニズムに基づいた創薬標的候補、及び発症早期の診断マーカ候補を

見出すことを目的に、それぞれ病変組織、及び血液等を用いたメタボローム解析を行う。これまでに

拡張型心筋症モデル動物の心筋におけるリン脂質代謝物の変化や、アルツハイマー病モデルマウスの

脳におけるコレステロールエステルの変化等を明らかにした。今後、ヒトの検体を用いて解析を進め

ると共に、他の国立高度専門医療センターと共同で、ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、

プロテオーム、メタボロームの3−5層の多層的解析を行い、確度の高い創薬標的を同定するとともに、

その結果を多層的疾患オミックス統合データーベースとして広く創薬研究者に公開する予定である

 

 

 

 

2、薬物性肝障害の発現に関連するバイオマーカーの探索研究

 薬物性肝障害は、医薬品の開発中止や市販後における販売中止に至る原因となることが多い重篤副作用

である。本研究では、全国の連携病院で収集された薬物性肝障害発症患者の生体試料を用いて、発症に関連

するバイオマーカーを探索している。すなわち、ゲノムDNAを用いて、網羅的及び候補遺伝子多型探索を

行い、発症に関与する遺伝子多型を探索するとともに、薬物性肝障害発症時・回復時の血漿を用いて、メタ

ボロームバイオマーカーの探索を行う。現在までに、ヒトHLAの特定のタイプと薬物性肝障害の発症の間に

有意な関連を見出している。本研究の遂行により、発症に関連する感度・特異度の高いゲノムバイオマーカー

が同定されると、薬物性肝障害の発症を医薬品の投与前に予測し、未然に防ぐことが可能となると期待される。

 

 

 

3、血液・尿中バイオマーカーの非臨床・臨床適用に関する評価要件の確立に関する研究

 バイオマーカーは、臨床的な最終評価指標(エンドポイント)を早期に、簡便に、かつ頑健に反映する

サロゲート(代替え)マーカーとして、医薬品開発の効率化に資することが期待されている。バイオマーカー

の適格性(確立)に関する評価要件のガイドラインは、医薬品開発における遅延や混乱を防ぐために早急に

作成される必要がある。ゲノムに比して、血液や尿中のバイオマーカーに関する試料品質や外挿性に関する

知見は乏しい。本研究では、血液・尿中バイオマーカーの探索・妥当性確認のために、測定用試料の採取

条件・保管条件が代謝物レベルに与える影響、および非臨床動物で見出されたバイオマーカーのヒトへの

外挿性に関する検討を行い、医薬品開発におけるバイオマーカーの利用を促進するための評価要件として

必要な事項を明確化する。現在までに、メタボロームバイオマーカーの探索・適格性確認において、親水性

代謝物を対象とする際は血清が、疎水性代謝物(脂質)を対象とする際は血漿がよいこと、また、ヒト血液中

には性差や年齢差を示す代謝物が存在するため、それらをバイオマーカーとして使用する際には、注意を要

すること等を明らかにしている。

 

 

 

4、副作用と関連する遺伝子多型のタイピング系の開発

 医薬品による重篤副作用の発現は、医療上および社会経済上の重要問題である。本研究は、副作用との関連が

報告されている多型のうち、アジア人で重要な役割を果たすとされる多型を取り上げ、簡便・迅速なタイピング系

を開発することを目的としている。特に、医薬品による重症薬疹には、HLA(ヒト白血球抗原)の特定のタイプが

発症に強く関連していることが知られているが、HLAのタイピングには、ゲノム上の数座位の遺伝子多型を決定

する必要があり、高度な技術を要するため、HLAタイプと絶対連鎖不平衡にあるサロゲートマーカー多型を利用し、

PCR-RFLPPolymerase chain reaction – restriction fragment length polymorphism)法等を用いて安価なタイ

ピング法を開発している。現在までに、アロプリノール誘因性のスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮

壊死融解症の発症に関連するHLA-B*58:01と絶対連鎖不平衡を示すサロゲートマーカー多型につき、迅速タイピ

ング系を開発した。本研究により確立されたタイピング系は、日本人における医薬品による副作用の回避に、有用

な方法の一つと考える。

 

5、バイオマーカーを活用した分子標的薬の有効性、安全性の効率的評価法の確立(革新的医薬品・医療機器・再生

医療製品実用化促進事業、名古屋市立大学)

分子標的薬ボルテゾミブは、多発性骨髄腫の化学療法に用いられるが、本剤の感受性・有害事象を予測するバイオ

マーカーの探索および薬剤耐性の機序の解明が求められている。本研究では、多発性骨髄腫患者に対する

Bortezomib+DexamethasoneBD療法)治療開始前の血清及び腫瘍細胞を用いて、投与後の奏効性や末梢神経

障害等の副作用の発症と相関するメタボロームバイオマーカーを探索するとともに、薬剤耐性の機序を解明する

ことを目的とする。現在までに、ボルテゾミブの奏功性との関連を示す脂質代謝物候補を見出している。本研究の

遂行により、有効性と安全性についての新規評価法を確立し、分子標的薬開発の迅速化へのバイオマーカーの応用

例が示されると期待できる。

 

 

 

6、抗がん剤の薬物応答予測法の開発と診断への応用 

 医薬品に対する患者の反応性(薬物応答性)、すなわち薬剤の効果や副作用の発現の程度には、著しい個体差が

認められる。このような個体差の原因の一つとして、まず、薬物応答性を規定する薬物動態関連分子や薬物標的

分子の遺伝子の多型が考えられ、また、環境要因も薬物応答に大きく関わっていることが知られている。本研究

では消化管間質性腫瘍(GIST)患者のイマチニブによる白血球減少症等や、進行肝がん患者のソラフェニブによる

手足症候群等の副作用発症に関与するバイオマーカーを同定するとともに、発症機序の解明を行う。現在までに

薬物トランスポーターABCB1の遺伝子多型が、イマチニブの白血球減少症に関連し、減薬の原因の一つになって

いる可能性が示唆されている。

 

 

7、薬物代謝酵素P450及びオーファンP450の構造活性相関に関する研究

 CYP2C9は現在市販されている医薬品の約15%の代謝に関与するP450分子種である。本酵素には酵素活性の低下

を引き起こす多型が、日本人で認められるが、基質により活性の低下の程度が異なることが明らかになっている。

組換え酵素を用いてX線結晶構造解析により、医薬品とCYP2C9の結合様式を同定し、多型によってもたらされる

基質依存性の活性変化のメカニズムを解明することを目的としている。また、生体内での機能が不明なオーファン

P450について、その内在性基質を同定し、生理学的意義を解明するとともに、基質結合様式をを明らかにすること

を目的としている。現在までに、抗高血圧薬のロサルタンに対するCYP2C9の変異型の活性低下機構に関して、X

結晶構造解析結果からの解明を行っている。

 

 

8、医薬品開発における薬物相互作用の検討方法等に関する新ガイドライン作成のための研究

 医薬品の薬物相互作用の検討方法については、現行のガイダンスの通知から10年以上経過しており、海外での

ガイドライン改訂の動向や、トランスポーターが関与する薬物相互作用等の科学的知見の集積をうけ、新たなガイ

ドライン策定のための案の作成のための研究を行っている。

 

平成26年3月4日改定