平成9年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告

平成10年12月
厚生省生活衛生局企画課
生活化学安全対策室

はじめに

家庭用品に係る健康被害病院モニター報告制度は、日常生活において使用している衣料品、身の回り品、家庭用化学製品等による皮膚障害ならびに小児による誤飲事故等の健康被害について、専門家の診療を通じて収集し、健康被害の実態を把握するとともに、早急な安全対策に資すること及びその情報を広く公開することを目的として、昭和54年5月から実施しているものである。平成9年度までの19年間に14, 079件の健康被害事例が報告され、その結果は、家庭用品の安全対策に反映されている。
本制度の実施に当たっては、モニター病院として皮膚科領域8病院(慶應義塾大学病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学大幸医療センター及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域8病院(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、社会保険埼玉中央病院、東京医科大学附属病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の協力を得ている。
また、平成8年度からは、(財)日本中毒情報センターの協力を得、主に吸入事故に関して同センターで収集した情報も加えることとした。
今般、平成9年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。

報告結果

平成9年度の報告件数は1, 401件であった。

そのうち家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告は154件であり、報告件数は前年度(274件)より減少した。皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因と考えられた報告が含まれており、家庭用品の種類別の集計では、おのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は168件となった。

小児の家庭用品等の誤飲事故に関する報告は871件であり、報告件数は前年度(823件)より増加した。
また、(財)日本中毒情報センターに寄せられた家庭用品等に係る吸入等による健康被害の報告件数は376件であり、報告件数は前年度(374件)とほぼ同様であった。
なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。
1. 家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)平成9年度の動向

@ 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、前年度同様、装飾品等の「身の回り品」 の報告件数が最も多く76件であり、次いで、洗剤等の「家庭用化学用品」が48件であった (表1)。
A 家庭用品の種類別では「洗剤」が34件(20%)で最も多く、次いで「装飾品」が24件 (14%)、「ゴム手袋・ビニール手袋」が17件(10%)、「時計バンド」が16件
(9.5%)、「眼鏡」が14件(8.3%)、「ナイロンタオル」が10件(6.0%)の順であ った(表3)。
B 平成9年度の報告件数上位10品目については、「洗剤」、「ゴム・ビニール手袋」、「眼鏡」、 「時計バンド」、「ナイロンタオル」、「ベルト」等に関する報告が、前年度より全報告件数に 占める割合が増加している(表3)。

注 「洗 剤」:野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤
「洗浄剤」:トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

C 上位10品目の全報告件数に占める割合について、長期的な傾向をみると、変動はあるものの 「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めている(図1)。

(2)要因別の解析

@ 患者の性別では女性が110件(71%)と大半を占め、特に20代の女性が49件と全体の 32%を占めた。
A 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が71件(42%)と最も多く、次いで 「刺激性皮膚炎」36件(21%)、「湿潤型の手の湿疹」、「KTPP*型の手の湿疹」がそれ ぞれ21件(13%)であった。

*:KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)

手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激によりおこる。まず、利き手から始ま ることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて 角質の肥厚を伴う。

B 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると96件(62%)であった。なお、 「不明」が51件(33%)あったが、このように「不明」が多い理由としては、症状が軽快し た場合、患者自身の判断で受診を打ち切り、途中から受診しなくなることがあるためと考えられ る。

(3)原因製品別考察

1)洗剤
平成9年度における洗剤に関する報告件数は34件(20%)であり、報告件数は前年度65 件(20%)より減少しているが、全報告件数に対する割合は横ばいである(表3)。
洗剤は全て合成洗剤が原因であり、原因製品の種類が判明しているもののうち、台所用洗剤が 10件、洗濯用洗剤が7件、両製品による事例が1件であった。
障害の種類は、湿潤型の手の湿疹、KTPP型の手の湿疹ともに13件(38%)を占めてい る。
症状の発現には、洗剤成分以外にも皮膚の状態、たわしの使用等による物理的刺激、洗剤の使 用濃度、季節、水仕事の頻度等、様々な要因が複合的に関与しているものと考えられる。
防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守 ることが必要である。また、使用に際しては、保護手袋を着用することや、使用後保護クリーム を塗ることなどの工夫も必要と思われる。
症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することが必要と 思われる。

<報告事例>
◎事例1【原因物質:洗濯用洗剤】
患者 33歳 男性
症状 1ヶ月前から、頸部の皮膚が化膿。他院にて湿潤性湿疹として治療す るも好転せず。下着の当たる部分中心に湿疹がある。
障害の種類 刺激性皮膚炎
治療・処置 抗アレルギー薬の内服、ステロイド剤外用
担当医のコメント パッチテストを実施したところ、使用中の洗濯用洗剤で陽性を呈した。
問診により、洗濯洗剤のすすぎ不足、使用量の誤り等不適切な使用に よる皮膚障害と考えられた。

◎事例2【原因物質:台所用洗剤(コンパクト洗剤)】
患者 28歳 女性
症状 台所用洗剤を素手で使用していたところ、1年位前から使用後に右手 に痒みと紅斑が出現。洗剤を変えると、症状は軽快した。
障害の種類 KTPP型手の湿疹
治療・処置 ステロイド剤外用
担当医のコメント 問診により、使用濃度の誤り等不適切な使用による皮膚障害と考えら れた。

2)装飾品
平成9年度における装飾品に関する報告件数は24件(14%)であり、前年度56件(17%)と報告件数は減少しているが、全報告件数に対する割合はほぼ横ばいであった(表3)。
性別・年齢別の報告件数では、男性の報告はなく、20代女性が13件(57%)と最も多く、 前年度30件(54%)とほぼ同様であった。
原因製品別の内訳は、ピアス、ネックレスがそれぞれ6件、指輪、イアリングがそれぞれ4件、 ペンダント、ブレスレットがそれぞれ1件、これらの複数が原因と考えられるものが2件であっ た。
障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が16件(70%)と大半を占めた。原因となった素 材は、すべて金属であった。
パッチテストを行っているものが12件報告されており、その中では、前年度同様、ニッケル が原因と考えられるものが最も多かった(表2)。
金属が汗に溶けて症状が発現すると考えられるので、防止策としては、汗を大量にかくような 運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。特に、ピアスは耳たぶ等に穴を開けて装着 するなど、装着方法が他の製品と異なり、表皮より深部と接触する可能性が高いため、アレルギ ー症状の発現などに対して、より一層注意が必要である。また、症状が発現した場合には、専門 医の診療を受けるとともに、原因製品の装着を避けることや、別の素材のものに変更することな どが必要である。

<報告事例>
◎事例1【原因製品:ピアス】
患者 24歳 女性
症状 受診20日前から両耳に痒みのある紅斑が出現。2年来、ピアスを着 用している。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗アレルギー薬内服、ステロイド剤外用
担当医のコメント パッチテストを実施したところ、ニッケル及び金でアレルギー反応を 呈したことから、当該製品の原材料として使用されているニッケル及 び金によるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。

◎事例2【原因製品:ネックレス】
患者 38歳 女性
症状 2年位前から、眼鏡の当たるところ及び頸部に湿疹が出現。 金属のアクセサリーを着用すると頸部の湿疹が悪化する。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、当該製品の使用中止を指示
担当医のコメント 金属製の眼鏡フレーム、アクセサリーが直接肌に当たる部位に紅斑、 丘疹、痒みを生じていた。パッチテストを実施したところ、ニッケル、 コバルトにアレルギー反応を呈した。当該品の性状から、原材料であ るニッケルが原因物質と考えられた。

3)ゴム、ビニール手袋
平成9年度における報告件数は17件(10%)であり、全報告件数に対する割合は、前年度 (9.7%)とほぼ同じである。
素材別の内訳は、ゴム手袋が15件で、全報告件数に対する割合はやや増加している。
ゴム手袋が原因とされた15件のうち、9件については、パッチテストの結果に基づき報告さ れたものである。
ゴム手袋に含まれるラテックス蛋白が原因となった接触蕁麻疹の症例が、今回初めて報告され た。ラテックスアレルギーは、近年急速に増加している。本症の臨床症状は、主に接触蕁麻疹で あるが、時にアナフィラキシー反応を引き起こし、重篤な場合にはショックとなり生命の危機を 伴う。ゴム、ビニール手袋による障害の防止策としては、布製の手袋を内側に着用するなど、ゴ ム手袋やビニール手袋と皮膚が直接接触しないようにすること、症状が発現した場合には、別の 素材の手袋に変更することなどが考えられる。また、ラテックスアレルギーの発症を予防するためには、製造者において、ラテックス蛋白の含有量を低減し、アレルギーを引き起こす頻度を低 下させた製品の開発を行う必要がある。

<報告事例>
◎事例1【原因製品:ゴム手袋】
患者 29歳 女性
症状 受診の2ヶ月前から、両手背に痒み、紅斑、丘疹が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用、抗アレルギー薬の内服、当該品の使用中止を指示
担当医のコメント ゴム手袋によるアレルギー性接触皮膚炎であるが、原材料中の何が原 因物質かは不明である。

◎事例2【原因製品:ゴム手袋】
患者 31歳 女性
症状 3年位前から手に湿疹が出現。
障害の種類 接触蕁麻疹
治療・処置 ステロイド剤外用、手袋の変更を指示
担当医のコメント 当該製品を着用すると数分で痒くなるということから、当該製品の抽 出液でスクラッチテストを実施したところ、紅斑、膨疹を認めた。さらに、ラテックス抽出液による同テストを実施したところ、強陽性 反応を認めたことから、当該製品中のラテックス蛋白による接触蕁麻 疹(ラッテクスアレルギー)と診断した。当該品の着用中止により 蕁麻疹症状は消失した。

4)時計バンド
平成9年度における時計バンドに関する報告件数は16件(9.5%)であり、前年度11件 (3.3%)と比べると報告件数、全報告件数に対する割合ともに増加している(表3)。
原因となった素材別の内訳は、革バンド7件、金属バンド3件、プラスチック・ビニールバン ド2件、布1件、不明3件であった。
障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎12例、刺激性皮膚炎3例、色素沈着1例であった。
防止策としては、症状が発現した場合には、別の素材のものに変更することなどが必要である。

また、金属バンド等でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス等 の他の金属製品についても注意することが必要である。

<報告事例>
◎事例1【原因製品:腕時計バンド(革製)】
患者 22歳 女性
症状 革製の時計バンドの着用部に湿疹が出現。 障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗アレルギー薬の内服、ステロイド剤外用
担当医のコメント パッチテストを実施したところ、クロムでアレルギー反応を呈した。 革製品はクロムを含有する薬剤でなめしていることが多いことから、本症例も、革製の時計バンドのクロムが、関係しているものと考えられた。

◎事例2【原因製品:腕時計バンド(ビニール製)】
患者 58歳 女性
症状 ビニール製バンドの時計を着用した2週間後に、左手首に痒み、発疹 が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用
担当医のコメント 当該製品を右腕に半日着用したところ、数時間後に痒み、発疹が出現 したため、装着テストに陽性と判断し、アレルギー性接触皮膚炎と診 断したものである。

5)眼鏡
平成9年度における眼鏡に関する報告件数は14件(8.3%)であり、前年度14件 (4.3%)と比べると報告件数、全報告件数に対する割合ともに増加している(表3)。
原因となった素材では、フレームの金属部分によるもののほか、つるの先端部分(先セル)や 鼻あて部分(ノーズパッド)のプラスチック素材に原因があると考えられる事例が4件あった。
障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎11例、刺激性皮膚炎3例であった。
防止策としては、症状が発現した場合には、別の素材のものに変更することなどが必要である。 また、フレームの金属部分でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネッ クレス等の他の金属製品についても注意することが必要である。

<報告事例>
◎事例【原因製品:眼鏡(耳にあたるつるの先頭部分)】
患者 46歳 女性
症状 1ヶ月前に右耳後部に紅斑が出現。左耳後部にも波及。痒みが時々あ る。眼鏡を常時使用している。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用
担当医のコメント 眼鏡のつるの先端があたる部分に症状が出現しており、つるを構成す る金属、先端部分のプラスチック、その色素(茶色)のいずれかによ る皮膚炎が疑われる。
6)その他
<報告事例>
◎事例1【原因製品:ベルトの留め具】
患者 31歳 女性
症状 1年位前から、臍上部に痒みのある紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗ヒスタミン薬内服、ステロイド剤外用、ニッケル製品の使用中止を指示
担当医のコメント パッチテストを実施したところ、ニッケルでアレルギー反応を呈した ことから、留め具の原材料として用いられているニッケルによるアレ ルギー性接触皮膚炎と診断した。

◎事例2【原因製品:水泳用ゴーグル】
患者 12歳 男性
症状 受診の1年前から、眼瞼部に落屑性紅斑が出現。ゴーグルを使用している
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
推定原因物質 水泳用ゴーグル(パッチテストは行っていない)
治療・処置 ステロイド剤外用、ゴーグルの使用中止を指示。
担当医のコメント ゴーグルが皮膚に接触する部分のアレルギー性接触皮膚炎であるが、 パッチテストを行っていないため、原因物質等は不明である。

◎事例3【原因製品:パンティーストッキング】
患者 20歳 女性
症状 パンティーストッキングを着用すると臀部、大腿部に紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗ヒスタミン薬内服、ステロイド剤外用、製品の変更を指示
担当医のコメント パッチテストを実施したところ、パラアミノフェノール、パラトルイ レンジアミンで陽性反応があったことから、当該製品の使用されてい る染料が原因と考えられる。他の製品に変更したところ、障害は出現 していない。
(4)全体について
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんど であり、家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原 因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。

 症状がおさまった後、再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明で あり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけることが必要である。

 また、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質 について認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。<

2. 小児における家庭用品等の誤飲事故に関する報告

(1)平成9年度の動向

@ 小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が402件(46%)で最も多く、次いで 「医薬品・医薬部外品」が112件(13%)、「玩具」が54件(6.2%)、「金属製品」が が42件(4.8%)、「電池」が34件(3.9%)、「化粧品」が31件(3.6%)であった (表4)。
平成9年度の報告件数上位10品目までの原因製品のうち、上位2品目については、小児科の モニター報告が始まって以来変わっていない。
また、それ以外の原因製品においては、最近、電池の報告件数が増加している。
A 上位品目の全報告件数に占める割合について、長期的な傾向をみると、変動はあるものの「タバコ」の割合が依然多い(図2)。

(2)要因別の解析

@ 発現症状については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが68件 (7.8%)と最も多く、次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが40件(4.6 %)となっている。これらを含め、症状の発現がみられたものは全体で143件(16%)であ った。 事故後、摘出術等が必要であることから「入院」、「転科」及び「転院」となったものは33件 であった。それ以外で、転帰が不明以外のものは全て「帰宅」していることから、重篤な事例は 少なかった。
A 誤飲時の保護者の処置としては、吐かせる、水を飲ませる等の応急処置を行った事例が388件(45%)あったが、その中には、水または牛乳を飲ませてはいけないと考えられる事 例(タバコまたは吸殻の誤飲時)で、水または牛乳を飲ませたり、吐かせてはいけない事例(灯 油の誤飲時)で吐かせたという不適切な処置もあった。
B 誤飲事故発生時刻については、午後6時〜10時までの発生件数が多く、この時間帯だけで340件(40%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)の発生があった。また、誤飲事故発生曜日については、日曜日に発生する場合が157件(18%)と若干多い が傾向にあった。
C 平成9年度の報告では、食品に関する報告が16件(1.8%)あり、ピーナッツの誤嚥事故の ように重篤な事故につながるような事例が数例あった。
(3)原因製品別考察
1)タバコ
平成9年度におけるタバコに関する報告件数は402件(46%)であり、前年度395件 (48%)とほぼ同様で、依然全報告の約半数を占めている(表4)。
タバコに関する報告の内訳は、タバコ*243件、タバコの吸殻**150件、タバコの溶液***9件であった。
年齢については、ハイハイやつかまり立ちをする6〜11ヶ月の乳児による事故が301件(75%)であり、12〜17ヶ月の幼児とあわせると94%を占めた。この中には、保護者が 近くに居ながら発生した事例も多くみられた(図4)。
症状の認められた49件中、消化器症状が認められていたものが30件と最も多かったが、402件中特に重篤な事例はなく、ほとんどが受診後帰宅している。
応急処置を行った事例は、245件(61%)であり、何も飲ませずに「吐かせた」及び「吐 かせようとした」事例が、あわせて129件と最も多かった。
タバコの誤飲事故の大半は、自分で動き回り始める1歳前後の乳幼児にみられることから、こ の年齢の子供をもつ保護者は、タバコ、灰皿及び灰皿に使用した飲料の空き缶等を、子供の手の 届く床の上やテーブルの上等に放置しないことなど、その取り扱いや置き場所に細心の注意を払 うことが必要である。

* :「タバコ」 :未服用のタバコ
** :「タバコの吸い殻」:服用したタバコ
***:「タバコの溶液」 :タバコの吸い殻が入った空缶、空瓶等にたまっている液

<報告事例>
◎事例1【原因製品:タバコ】
患者 1歳 女児
症状 なし
誤飲時の状況 居間のテーブルにタバコが置いてあり、気付くと口の周りにタバコの葉 をつけていた。
来院前の処置 口の中をすすいだ。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅(経過観察)

◎事例2【原因製品:タバコ吸殻】
患者 7ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 母親が別室にいった隙に、少し吸った後のタバコを食べた。
来院前の処置 口の中のものを出し、吐かせた。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅(経過観察)

◎事例3【原因製品:タバコを浸した溶液】
患者 1歳7ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 空き缶に水を入れ灰皿にしていたところ、その水を患児が飲んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅(経過観察)

<担当医のコメント>
タバコの誤飲事故は運動発達と対応しており、ハイハイやつかまり立ちが可能になって移動範囲 が広がり、また指先で小さなものをつまむことができ、いろいろなものに興味をもって口に入れて しまう6〜17ヶ月ごろに起こりやすい。また、1歳6ヶ月くらいになるとかなり早く移動するこ とができるようになるので、家族がそばにいても少し目を離した隙に事故が起こる可能性がある。 タバコの誤飲事故は親が注意すれば防げる事故なので、この年齢の子供をもつ親は十分注意する必 要がある。また、灰皿代わりに空き缶を利用し、その水を子供が飲んでしまった事例があるが、生 後11ヶ月以後では、コップを両手に持って飲水できるようになるので注意する必要がある。

2)医薬品・医薬部外品
平成9年度における医薬品・医薬部外品に関する報告件数は112件(13%)であり、前年 度120件(15%)を下回っていた(表4)。
症状の認められた28件中、11件について傾眠などの神経症状が認められている。入院を必 要とした事例は、10件であった。
年齢については、前年度同様各年齢層においてみられているが、特に1〜2歳児にかけて多く みられている(64%)。
原因となった医薬品・医薬部外品の内訳は、精神安定薬が16件で最も多く、次いで循環器用 薬、一般用外用薬、殺虫剤、一般感冒薬がそれぞれ7件となっており、一般の家庭に常備されて いる医薬品・医薬部外品だけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生している。
医薬品・医薬部外品の誤飲事故の大半は、医薬品の保管を適切に行っていなかった場合や保護 者が目を離したすきに発生していることから、家庭内での保管・管理には十分注意する必要があ る。また、昨年多く報告されたゴキブリ駆除用のホウ酸ダンゴを食べた事例は今年度は報告され ていないが、自家製のホウ酸ダンゴは食品と間違えやすいことから、使用にあたっては、子供の 目につかない場所や手の届かない場所に置くなどの配慮が必要である。

<報告事例>
◎事例1【原因製品:睡眠薬】
患者 4歳 女児
症状 ろれつが回らない、話す内容がおかしい。
誤飲時の状況 保護者が不在中に、睡眠薬6錠を飲んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 6時間〜12時間未満
処置及び経過 胃洗浄、点滴処置、血液検査
転帰 入院(1日)

◎事例2【原因製品:気管拡張薬 】
患者 3歳 男児
症状 なし。
誤飲時の状況 気管拡張薬3日分を一度に飲んだ。 来院前の処置 水を飲ませた。
受診までの時間 3時間〜4時間未満
処置及び経過 血液検査、点滴処置
転帰 入院(3日)

<担当医のコメント>
医薬品の場合、錠剤は、家族が服用しているのをみて、子供はおいしいお菓子だと思って口に する可能性があるので、保護者は保管、取扱いに十分注意する必要がある。

3)電池
平成9年度における電池に関する報告件数は34件(3.9%)であり、前年度32件(3.9%)と同様である(表4)。
年齢については、6〜11ヶ月の幼児による事例が15件(44%)で最も多く、次いで12〜17ヶ月の幼児による事例が7件であった。
誤飲した電池の大半は、ボタン電池であるが(31件)、乾電池を誤飲した事例も3件報告さ れている。最近、幼児や子供が遊ぶ玩具にボタン電池を使用した製品が多数出回っており、誤飲 事故も、幼児が玩具で遊んでいるうちに、電池の出し入れ口のフタが何らかの理由で開き、中の 電池が簡単に取り出すことができたために起こっている場合が多い。
製造業者は、これらの製品について、幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計 を施すなどの配慮が必要である。また、保護者も、電池の出し入れ口のフタにある留め具等が機 能しているか確認するとともに、未使用及び使用済みの電池等は子供の目につかない場所や手の 届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。

<報告事例>
◎事例【原因製品:ボタン型電池】
患者 10ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 ゲーム用ボタン型電池を2個置いてあったもののうち1個を飲んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査で異物確認、摘出術実施
転帰 帰宅(経過観察)

<担当医のコメント>
8ヶ月ぐらいの幼児では、親指と人差し指でボタン電池のような小さなものを摘むことが可能に なるので保護者の注意が必要である。
4)食 品
食品類に関する報告では、ピーナッツによる誤嚥で重篤な症状を呈した事例が3例みられた。 ピーナッツや枝豆は、気道に入りやすい大きさ、形状及び堅さを有しているので、特に2歳未満 の乳幼児においては、誤嚥事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入った場 合、摘出が困難であるため十分注意をする必要があり、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁 忌とされている。平成5年度にはこれらによる死亡事故の報告もあり、保護者自身が十分に注意 する必要がある。
また、酒類については16件の報告があり、そのうち子供に飲料を与える際に、誤って酒類を 与えてしまった事例が5件あった。アルコール飲料の誤飲事故では循環器症状がみられることも あり、重篤な事故につながる可能性もあるので、子供に飲料を与える前には親が確認することも 必要である。
モニター報告では報告がないが、過去にこんにゃくゼリーの誤嚥による死亡事故が発生してい るように、こんにゃくのようなものは、噛み切りにくく、いったん気道へ詰まってしまうと、重 篤な呼吸器障害につながるおそれもある。食品とはいえ、乳幼児等に与える際には、保護者は十 分に注意を払う必要がある。

◎事例1【原因製品:ピーナッツ】
患者 2歳3ヶ月 男児
症状 呼吸器症状(咳、喘鳴、呼吸困難)、チアノーゼ、不機嫌、異常な泣き方
誤飲時の状況 ピーナッツを食べているところを叱られ、誤嚥した。
来院前の処置 逆さにして背中をたたく
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査、異物除去術の実施
転帰 入院(3日)

◎事例2【原因製品:日本酒】
患者 1歳6ヶ月 男児
症状 顔面紅色様、アルコール臭
誤飲時の状況 外食先で、ジュースに酒類が入ったものを誤って飲ませた。
来院前の処置 茶を飲ませた
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 点滴処置
転帰 帰宅(経過観察)

5)その他
代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるものは、そのほとんどが子供の誤飲の対象物と なる可能性があり、子供のいる家庭においては保護者の配慮が必要である。
また、誤飲後、誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題 はないとする考え方もあるが、ボタン型電池が腸内壁に張り付き穿孔してしまったり、硬貨が胃 内から排泄されない場合もあることから、確実に排泄されたことを確認することが必要である。

<報告事例>
◎事例1【原因製品:磁石】
患者 11ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 肩こり治療用の磁石をシールからはがし、食べた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査、摘出術実施。
転帰 帰宅(観察不要)

◎事例2【原因製品:芳香剤】
患者 1歳8ヶ月 女児
症状 咳
誤飲時の状況 兄が芳香剤をジュースと思い、妹に飲ませた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅(経過観察)

◎事例3【原因製品 化粧品(除光液)】
患者 1歳8ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 目を離した隙に除光液を飲んだ。
来院前の処置 水と粉ミルクを飲ませた。
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 血液検査、胃洗浄
転帰 入院(2日)

◎事例4【原因製品:台所用漂白剤】
患者 1歳4ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 台所用漂白剤の入った水で麦茶をつくり飲ませた。
来院前の処置 牛乳を飲ませた。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅(経過観察)
◎事例5【原因製品:肥料】
患者 1歳9ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 台所に置いてあった鉢植えの肥料を食べた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅(経過観察)

◎事例6【原因製品:ゲーム用コイン】
患者 3歳 男児
症状 悪心・嘔吐、不機嫌、異常な泣き方
誤飲時の状況 ゲーム用コインで遊んでいたところ、飲み込んだと本人が訴えた。
来院前の処置 背中をたたく、水を飲ませて吐かせようとした。
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 X線検査、摘出術実施
転帰 入院(1日)

(4)全体について
子供の誤飲事故は、午後6時から午後10時までの間の家族の団らんの時間帯に頻発している。
保護者が近くにいる・いないに関わらず、乳幼児は、身の回りのものを分別なく口に入れてしま うので、乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力物を置かないようにすることが 必要である。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。また、食品類で あっても、状況次第では非常に危険なものになるということを保護者は認識し、子供の周囲の環 境に気を付けなければならない。
最近、製造物責任法の施行に伴い、様々な誤飲防止対策を施した製品が販売されているが、口 に入る大きさの玩具等で子供が遊んでいるときには、そのものを誤飲する可能性が考えられるこ とから、保護者は目を離さないように注意する必要がある。
さらに、兄弟・姉妹に誤飲事故歴があったり、患児自身に誤飲事故歴があったりと、同一家庭 内で繰り返し誤飲事故が発生している事例が多い。このような家庭では、保護者の認識や生活習 慣にも問題があると思われるので、保護者は子供の誤飲事故に対する認識や生活習慣を改善する ことが必要である。
誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為である。 しかし、保護者が誤った処置をしている事例もみられていることから、応急処置に関して正しい 知識を持つことが重要である。
なお、平成9年度には、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故防止に係る啓発 パンフレットが作成され、全国の保健所あて送付されている。
3.(財)日本中毒情報センターからの吸入事故等に関する報告

(財)日本中毒情報センターは、一般消費者もしくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち最も多いのが幼少児のたばこの誤食で、これのみで年間6,000件に達する。
この報告は、これら問い合わせの事例の中から、家庭用品等による吸入事故に限定して、収集・整理したものである。

(1)平成9年度の動向
@ 原因と推定された家庭用品等をカテゴリー別にみると、カテゴリーが明確にされているもの のうち「洗剤・洗浄剤類」の報告件数が最も多く102件(27%)であった。次いで「防虫 剤、殺虫剤類」が84件(22%)であった。
A 家庭用品の種類別では、「殺虫剤(医薬部外品も含む)」62件(16%)、「洗浄剤」49件(13%)、「消火器」41件(11%)、「漂白剤」35件(9.3%)、「防水スプ レー」17件(4.5%)の順であった(表5)。
B 製品の形態別の事例数では、「噴霧式」112件(ハンドスプレー式19件を含む)、「液状」99件、「粉末状」64件、「固形」41件、「蒸散型」18件で、不明が42件あ った。

(2)要因別の解析
@ 一般消費者からの問い合わせ事例が212件に対し、受診した医療機関からの問い合わせ事 例は164件であった。
A 問い合わせ者の性別では、女性が199件(53%)、男性が142件(38%)、不明が 35件(9.3%)であった。特に、9歳以下の子供に関する問い合わせが169件と全体の45%を占めた。
B 発現症状では、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を呈したものが108件(29%)と 最も多く、次いで、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を呈したものが81件(22%)となってい る。これらを含め、症状の発現があったものは240件(64%)であった。その後の転帰に ついては、不明である。

(3)原因製品別考察
1)殺虫剤
殺虫剤(医薬部外品を含む)に関する事例は、62件であった。大量使用後や燻煙後に換気 をせずに室内に入ったために健康被害が発生した事例が多くみられた。

2)洗浄剤
洗浄剤に関する事例は、49件であった。そのうち最も多かったのは、次亜塩素酸系の噴霧 式の製品によるものであった(27件)。
発生状況では、風呂場やトイレのような密室で十分な換気をせずに使用している事例が多くみられた。屋内で使用する際には、換気状況が良好であることを確認したうえで、適正量を使 用する必要がある。
3)漂白剤
漂白剤に関する事例は35件であった。このうち次亜塩素酸系が最も多く26件と大半を占めた。
発生状況では、適用量以上に使用した事例、他の洗剤と混ぜて使用した事例が多くみら れた。特に、次亜塩素酸系の漂白剤の場合、酸性の洗剤や洗浄剤との併用あるいは混合によっ て塩素ガスが発生し、非常に危険であるので、酸性の洗剤や洗浄剤との混合等は禁忌である。

4)防水スプレー
防水スプレーに関する事例は17件であった。
今回の報告の中で、同一業者が同一処方で製造した種々の製品による事故に関する報告が多 数あった。
当該製品について動物を用いた吸入毒性試験を実施したところ、これらの製品は、呼吸器障害 を起こしやすい製品であると考えられ、自主回収措置が講じられた。原因として、開発時の製 品の安全性評価試験の不備が考えられた。防水スプレー製品にかかわらず、今後、同様な事故 事例を引き起こさないよう、製造者にあっては、有用性が確認された方法で安全性を十分に確 認した製品を消費者に供給することが重要である。
また、消費者も、防水スプレーを使用する時には、必ず、屋外で風下に向かって使用するこ と、短時間に大量使用をしないこと等の使用上の注意が必要である。
(4)全体について

 この報告は、医師や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、そ の発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたも のである。したがって、一部の事例については、追跡調査を行っているが、大部分はその後の健 康状態等の把握は行っていない。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情 報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。

 今回、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。事故の発生時の状況は様々であるが、子供は、成人よりも化学物質に対する防御機能が十分に発達していない場合が多く、健康被害を 受けやすいと考えられる。保護者は家庭用化学製品の使用や保管には十分注意するとともに、事業者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような方策を施した製品開発が重 要である。

 製品形態別では、噴霧式の製品による事故が多く報告された。噴霧式の製品は、内容物が霧状 となって空気中に拡散するため、吸入による健康被害が発生しやすい。使用にあたっては、換気 状況を確認する、一度に大量を使用しない等の注意が必要である。

 主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害が比較的多くみられた。次亜塩素酸系 の成分は刺激性が強く、使用方法を誤ると事故が発生する可能性が高い製品となりうることから、 事業者にあっては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等につ いて表示等により継続的な注意換気と適正な使用方法の推進を図る必要がある。

 また、事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の 発生を防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には必 ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、 症状の有無にかかわらず、専門医の診療を受けることが必要である。

おわりに

 本モニター報告は平成9年度で19回目となったが、報告件数において上位を占める家庭用品の種類は、ここ数年ほとんど変動していない。

 現在のモニター報告は、治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品について情報を収集するシステムであるため、その家庭用品に含まれる化学物質を特定することは、必ずしも容易ではない。また、(財)日本中毒情報センターに問い合わせのあった事例に関する情報は、主に電話によって収集されたものであり、医学的により詳細な内容を把握したり、予後を明確にすることは困難である。

 しかしながら、時代に応じて快適な生活を求める消費者ニーズに応えるため、新しい化学物質や素材が家庭用品に次々と使用されてきていることから、常にそれらの情報を入手し、新たに生じる問題点を早急に発見することが必要である。また、最近では、抗菌剤を使用した家庭用品や、コンパクト洗剤などが数多く出回っており、その安全性について引き続き注目していく必要がある。

 家庭用品による健康被害を未然に防止するためには、消費者が使用上の注意をよく読み、製品情報に注意するとともに、自己の体質を認識したり、子供が誤飲しないように周囲の環境に配慮することが必要である。また、事業者は、製造物責任法の趣旨を踏まえ、製品の供給に先立って安全性の確認を行いより安全な製品の供給に努めるとともに、販売時には製品の適切な使用方法について、消費者に確実に伝えるよう努めることが必要である。