Eurosurveillanceのノロウイルス関連情報
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ノロウイルス患者数の急増と新しい組換え株GII.P16-GII.2の出現(ドイツ、2016年冬)
Steep rise in norovirus cases and emergence of a new recombinant strain GII.P16-GII.2, Germany, winter 2016
Eurosurveillance, Volume 22, Issue 4
26 January 2017
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=22698

(食品安全情報2017年5号(2017/03/01)収載)


背景

 ドイツでの2016年冬期のノロウイルス届け出患者数の増加は予想より早く始まり、かつ大幅なものであった(図1)。連邦の公衆衛生当局に報告された11月の検査機関確定患者数は、2011〜2015年の中央値が7,810人であったのに対し、2016年は14,872人であった。この急増は、新規変異株が既存の流行株に対するヒト集団免疫を回避する能力を持つことに由来する可能性がある。本研究では、新規のノロウイルス株が今回の患者数急増の原因であるかを検討するため、現在流行しているノロウイルス株の系統発生学的解析を行った。


図1: 2016年第26週〜2017年第2週の週ごとのノロウイルス感染検査機関確定患者数(ドイツ、n=56,384)および過去の年の同期間との比較

方法

○検体採取および分子生物学的解析

 コンサルタント検査機関(CL)および国立リファレンスセンター(NRC)はドイツ連邦保健省(BMG)により公式に指名され資金援助を受けている機関で、ドイツ国内の感染症の検出・予防において中心的な役割を果たしている。CLとNRCとの間の調整はロベルト・コッホ研究所(RKI)が担っている。RKIのノロウイルスCLは、ノロウイルスを中心とした胃腸病原性ウイルスの分子サーベイランスに重点を置いている。遺伝子型解析を行うため、臨床検査機関、医師、および地域の公衆衛生当局からノロウイルスアウトブレイク関連の便検体がこのCLに送付される。2016年9〜12月に、急性胃腸炎(AGE)患者由来のノロウイルス陽性便検体240検体がドイツの13連邦州から当該CLに送付され解析が行われた。計175検体がドイツ連邦全16州のうち11州の主に保育施設(39件)および介護施設(12件)で発生したアウトブレイク69件に関連していた。残りの計65検体は散発性AGE患者由来で、6州の病院および臨床検査機関により採取・送付された。

 遺伝子型の決定は、ORF1およびORF2配列の系統発生学的解析により行われた。また組換え位置を特定するために、新規の組換えノロウイルス14検体について、ORF1の3´末端およびORF2のP2ドメインをカバーする新しいsemi-nested RT-PCR法を用いた解析が行われた。


分子遺伝学的解析の結果

 ドイツのAGEアウトブレイクや散発性患者で過去に記載されたことがない新規の組換えノロウイルス株が複数特定された。全240検体の遺伝子型解析の結果が以下の表に示されている。


表:ロベルト・コッホ研究所のノロウイルスコンサルタント検査機関(CL)に送付された検体から検出されたノロウイルスの遺伝子型分布(散発性患者由来65検体、急性胃腸炎アウトブレイク69件由来175検体、2016年9〜12月、ドイツ)


 ORF1およびORF2配列の系統発生学的解析により、ORF1領域がGII.P16型で、ORF2領域がGII.2型の組換えノロウイルスの存在が明らかになった(図2、3)。SimPlot解析により、これらの組換えノロウイルスで組換えポイントはORF1/ORF2接合領域(ヌクレオチド番号732-734)にあることがわかった。GII.P16-GII.2組換えノロウイルスは、11連邦州で発生した69件のアウトブレイクのうち、9州で発生した29件のアウトブレイクで検出された。また散発性AGE患者65人のうち4州の病院から検体が送付された31人の病因物質と考えられた。GII.P16-GII.2組換え株に加え、よく知られたGI.P3-GI.3株やGII.P17-GII.17株、また、GII.Pe-GII.4 2012株やGII.P4 2009-GII.4 2012株などの組換え株も低レベルながら流行していることがわかった。


図2:GIIノロウイルスのORF1 357 bp領域の塩基配列にもとづく系統発生学的解析(ドイツ、2016/17(代表検体n=14))

解析対象配列:GenBank登録番号AY772730のヌクレオチド番号4,332〜4,689に対応する配列。本研究で解析を実施した株には●を表示した。



図3: GIIノロウイルスのORF2 P2 628 bp領域の塩基配列にもとづく系統発生学的解析(ドイツ、2016/17(代表検体n=14))

本研究で解析を実施した株には●を表示した。



考察

 ドイツ9連邦州の散発性AGE患者およびノロウイルスアウトブレイク患者に由来する検体から、新型のノロウイルス株GII.P16-GII.2が検出された。最近、遺伝子型GII.4の新しい変異株の出現がノロウイルス感染報告数の増加の原因となる可能性があることが示された。このことはすでに、ノロウイルス感染届け出数の早期の増加および累計数の多さを特徴とした2007/08年のシーズンにドイツで観察されており、このシーズンでは調査が実施されたアウトブレイクのほとんどが新規の流行株であるGII.4 2006b株によるものであった。同様の例としては、2014/15年のシーズンにおける新型株GII.P17-GII.17の出現が挙げられる。この株は最初、中国および日本で遺伝子型が決定され、より多くのアウトブレイクの原因となる能力を有し、それまで優勢であったGII.Pe-GII.4 2012株に取って代わるものであった。新規の2016 GII.P16-GII.2組換え株は、国際的な分子サーベイランスデータベースであるNoroNetにオーストラリア、フィンランド、フランスおよびロシアから、また過去には日本や中国から散発的に報告されていることから、世界的な蔓延が示唆される。

 現時点では、今回の新規の組換え株が疾患の重症化に関連するかどうかは不明である。



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部