国際食品微生物規格委員会(ICMSF)からの新型コロナウイルス(COVID-19)関連情報
https://www.icmsf.org


国際食品微生物規格委員会(ICMSF)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)およびその食品安全との関連性に関する見解を発表
ICMSF opinion on SARS-CoV-2 and its relationship to food safety
03 September 2020
https://www.icmsf.org/wp-content/uploads/2020/09/ICMSF2020-Letterhead-COVID-19-opinion-final-03-Sept-2020.BF_.pdf (報告書PDF)
https://www.icmsf.org/publications/papers/

(食品安全情報2020年19号(2020/09/16)収載)


 国際食品微生物規格委員会(ICMSF)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)およびその食品安全との関連性について見解を発表した。その中から食品安全関連の部分を紹介する。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と食品安全

 本来の食品安全ハザードは、食品と共に消化管を介して体内に侵入することにより人体のいずれかの器官・組織に感染し得るものを意味するため、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は食品安全ハザードと考えるべきではない。食品安全ハザードのわかりやすい一例として、A型肝炎ウイルスは、ヒトの腸管上皮細胞に感染後、血流中に侵入し、最終的に肝臓での感染を成立させることで、食品由来疾患の原因となる。また、食品ハザードと食品安全リスクは区別して考えることが重要である。つまり、食品中に感染性病原体が存在しているだけでは、必ずしもヒトへの感染が成立するとは限らない。

 COVID-19がパンデミックの状態になった初期から、何十億食もの食事が喫食され、食品包装が取り扱われてきたにもかかわらず、食品・食品包装・食品取り扱いなどがSARS-CoV-2の感染源または重要な伝播経路となりCOVID-19の罹患につながったことを示すエビデンスは現時点では存在しない。

 食品の喫食によりCOVID-19に罹患した症例、および食品の喫食とCOVID-19の科学的関連性について現時点で確証が得られていないことを考慮すると、SARS-CoV-2が食品安全リスクとなる可能性は非常に考えにくい。食品原材料、食品および食品包装材からのSARS-CoV-2の検出例は、比較的まれにしか報告されていない。また、これらの報告の多くは、検出したとされるSARS-CoV-2の同定方法、検出されたウイルス量、ウイルスが生存していて感染性があったかについて詳細を明らかにしていない。ウイルスの同定には主に遺伝子レベルでの解析法が用いられるため、これらの報告の大多数が明らかにしているのはSARS-CoV-2のRNAの存在である。この場合、ヒトに対するハザードが存在する可能性があることは示しているものの、実際にそれがハザード(生存しているウイルス)であること、およびその食品の喫食や取扱いによりヒトに健康リスクが生じることについては示していない。食品や食品包装に存在するウイルスは、時間とともに生存能力を失うと考えられる。リスクベースのアプローチ(risk-based approach)に基づくと、このような汚染が感染につながる可能性は非常に考えにくい。

 しかしながら、交差汚染による接触感染の感染源として食品や食品包装が関連することを示すエビデンスは現時点では存在しないとはいえ、食品の生産・製造・取り扱い業者に対しては、食品や食品接触面がSARS-CoV-2を媒介するいかなる可能性も最小限に抑えるために適正な食品衛生規範を適用する重要性を強調することが賢明である。

 SARS-CoV-2のRNAは下水から検出することができ、COVID-19の地域別増加傾向の早期検知のために各国で利用されている(Peccia et al., 2020、WHO, 2020b)。SARS-CoV-2およびその構成物質(タンパク質または遺伝物質)は、COVID-19患者の便検体から検出されるが、現時点では、ヒトの胃を通過したSARS-CoV-2が生残する可能性があることを証明する文献は存在しない。


COVID-19と貿易

 食品安全を脅かす懸念および食品が感染経路となる懸念を理由に、一部の国で食品の輸入制限、輸入製品の検査、COVID-19非汚染申告書・証明書の提出要請などが行われている。食品がSARS-CoV-2の重要な感染源または感染媒介物であることを証明する正式な文献は存在しないため、ICMSFは、上記の措置を科学的に正当化できないと判断している。食品事業者は、ヒトからヒトへの伝播によるSARS-CoV-2感染から食品関連従事者、消費者、レストランの顧客などを保護することに注力すべきである。

 食品中からSARS-CoV-2の遺伝子の痕跡が検出された場合、食品安全に関する懸念が生じる可能性があるが、遺伝子の検出が公衆衛生リスクを示すわけではないため、食品貿易の制限や食品回収の開始の根拠とすべきではない。


【2020年9月24日にILSI Japanより全文の日本語仮訳が公開されました。以下Webサイトよりご参照ください】

「SARS-CoV-2と食品安全との関係に関する国際食品微生物規格委員会の意見書について」(ILSI Japan Webサイト内)
2020年9月24日
http://www.ilsijapan.org/ILSIJapan/COM/TF/sm/SARS-CoV-2.php

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国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部