環境保健クライテリア 173
Environmental Health Criteria 173


トリスおよびビス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩Tris-and Bis(2,3-dibromo- propyl)Phosphate

(難  燃  剤)

(原著129頁,1995年発行)

-目次-
T.トリス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩
  1.要約および評価
  2.結   論
  3.勧   告
  4.国際機関によるこれまでの評価
U.ビス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩

T.トリス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩
1.要約および評価
1.1 生産および用途
トリス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩(TBPP)は、1950年頃に最初に製造され、市販品の生産は1959年に報告されている。1975年における米国でのTBPPの生産は、4,100〜5,400トンの間と推算されている。わかっている範囲では、現在、TBPPは世界において織物中の難燃剤としては生産・使用されておらず、他の目的のために重合体に添加されている。TBPPは、特に幼児の寝巻でセルローズ(繊維素)、トリアセテートおよびポリエステル生地の重要な難燃剤であったが、これらの使用は欧州の数カ国、米国(1977)、日本(1978)においては禁止された。

TBPPは、織物の内部と表面の両方に存在する。それが繊維内部にある場合には、溶媒では抽出できないため、経皮吸収はないであろう。しかし、それが繊維の表面にある場合には、洗濯中に、また、酢酸、その他の溶媒、唾液により抽出され経皮吸収が起こる。この場合には、TBPP処理製品の使用および/または洗濯中に、繊維表面からのTBPPの実質的な消失が起こり、環境を汚染するであろう。さらに、環境内へのTBPPの放出は、繊維処理工場およびTBPP含有の固形廃棄物の最終処分からも報告されている。

1.2 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
TBPPは、少なくとも2等級の品質で入手できる。高純度のものは、透明で淡黄色の粘性のある液体で、1.5%以下の揮発成分を含む。低純度品は10%までの揮発成分が含まれることがある。

TBPP(純度>97%)は、390℃の沸点と、5.5℃の融点を有し、蒸気圧は25℃において1.9×10-4mmHgである。TBPPの水中での溶解性は低い(8mg/l)

加熱分解の場合には、260〜300℃以上で、TBPPは臭素およびリンを含む化合物を排出する。n-オクタノール/水分配係数(log POW)は3.02である。

生物的試料およびその他の媒体中のTBPPとその代謝生成物を測定するための分析方法は入手できる。

トリス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩
化学式C9H15Br6O4P
化学構造  3次元
分子量697.7
CAS化学名2,3-dibromo-1-propanol-phosphate(3:1)
その他の名称tris(2,3-dibromopropyl)phosphate;
tris(2,3-dibromopropyl)phosphoric acid ester;
phosphoric acid, tris(2,3-dibromopropyl)ester;
tris(dibromopropyl)phosphate
商品名T23P;TP-69;DBP-TP;Apex(emulsion)462-5;
Hamcogard FR;Fyrol59;Tanotard PN-2;
Cav Gard FR1811;Cav Gard FR1812;Pyrosan497;
Firemaster LV-T23P;Firemaster T23P-LV;
Firemaster200;Glotard PE-2;PE10;
Anfram3PB;Bromkal P67-6HP;ES685;
Firemaster T23;Firemaster T23P;Flacavon R;
Flamex T23P;Flammex AP;Zetofex ZN;
Fyrol HB-32;NCICO3270;PhosconPE60;
Phoscon UFS;RCRA waste number U235;
USAF-DO-41(以上は文献a)
FR2406;Berkflam T23P;Flammex LVT23P;
3PBR;TDBP;TDBPP;TRIS;TRIS-BP;
Zetifex ZN(以上は文献b)
CAS登録番号126-72-7
RTECS番号UB0350000

a LeBlanc(1976);IARC(1979);Ulsamer et al.(1980);IRPTC(1987)
b Andersen(1977)
b 物理的・化学的特性
表 トリス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩の物理的・化学的特性a
密度 (25℃) 2.27(2.2〜2.3)g/mlb
沸点 390℃a
融点 5.5℃a
蒸気圧 (25℃)b 1.9×10-4mmHg
     (45℃)1.2×10-3mmHg
     (65℃)4.8×10-3mmHg
溶解性 水 (20℃)b 6.3mg/l ほとんど溶解しない
     有機溶媒b ヘキサン ほとんど溶解しない
四塩化炭素、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、メタノール、キシレン、ベンゼン、トルエンと酢酸エチルに混和する
n-オクタノール/水分配係数
(log POW)
3.02c
安定性 熱安定性d 加熱すると、260〜300℃で主な分解が始まり、TBPPは有毒なBr-とPOxの煙霧を放出する
     光安定性 日光に対して安定
     その他の安定性e 酸と塩基により加水分解する

aDybing et al.(1989)よりbKerst(1974)よりcIARC(1979)より
dSax(1984)よりeIRPTC(1987)より
表 トリス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩の構成成分(工業用)a
不純物 2,3-ジブロモプロパノール <0.2%
1,2,3-トリブロモプロパン <0.2%
1,2-ジブロモ-3-クロロプロパン(DBCP) <0.2%

a Blum & Ames(1977);Van Duuren et al.(1978);Ulsamer et al.(1980)より
表 米国では、二つの純度のTBPPが入手可能であるa
高純度
物理的状態透明淡黄色粘性の液体
比重 (25℃)2.20〜2.26
臭素含有率68.7%
リン含有率4.0%
酸価最大0.05(mg KOH/g)
揮発性最大1.5%
粘性率 (25℃)3,900〜4,200cSt
屈折率 (25℃)1.576〜1.577

低純度
比重 (25℃)2.2〜2.3
酸価最大0.05(mg KOH/g)
揮発性最大10%
粘性率 (25℃)1,400〜1,700cSt

a US EPA(1976);IARC(1979)より

純度99.76%のTBPPの粘性率 (25℃)9,200cPa
Firemaster LVT23Pの粘性率9,200cPb

a Osterberg et al.(1977)
b Kerst(1974)
1.3 環境中の移動・分布・変質
入手し得る限られた情報では、TBPPは環境中で比較的持続性を示すことが示唆されている。酸化と光分解は、環境中の運命(fate)の過程では重大ではないようである。プロピル基の臭素原子を含む加水分解が、特にアルカリ性の条件下では起こる。水からの蒸発が起こることがあるが、実際のデータは入手できない。活性汚泥中でTBPPの生分解(半減期は19.7時間)が起こることが報告されているが、自然界での土壌や水中においては重要な作用ではないと考えられている。滅菌汚泥中では、その分解はほとんど起こらない。主要な分解産物として、ビス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩(BBPP)が見出されている。TBPPは実質的に水に不溶であるため、粒子状物質上および堆積物への吸着は、重要な過程であろう。

算定されたKOC(3.29)は土壌への強い吸着を示唆している。このKOC値と低い水溶解性測定値に基づいた場合、TBPPの地下水への浸出はきわめて遅いと考えられる。TBPPは廃物投棄場やその他の処分場に蓄積する傾向があり、生物濃縮を発生するであろう。コイ(fat head minnow)による生物濃縮試験では、2.7という低い生物濃縮係数が示され、一方、n-オクタノール/水分配係数(Log POW)は3.02であった。TBPPの蒸気圧は低いため、その大部分は空気中の粒子状物質に吸着されていると考えられる。TBPPの370℃における加熱酸化分解では、臭化水素と、ブロモプロペン類、ジブロモプロペン類、ジ-およびトリブロモプロパン類などのC3-臭素化化合物の生成が見られた。

1.4 環境中濃度およびヒトの暴露
環境中濃度およびヒトの暴露についてのデータは限られている。1975年に日本で実施された研究では、水、土壌、魚類の20試料にはTBPPは含まれていなかった。TBPPは工場の周辺の大気中粒子で確認されたが定量はされなかった。

TBPP処理の寝巻を着用している小児は、この難燃剤に特に暴露されているグループである。米国において、TBPP処理の寝巻を着ている小児の経皮摂取は9μg/kg体重/日と推算されている。米国政府の消費者製品安全委員会(CPSC:The Consumer Product Safety Commission of the USA)は、TBPP処理の衣服を6年以上着用した小児では、総量として体重1kg当り2〜77mg以上のTBPPを吸収すると算出している。

1.5 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝
TBPPはラットおよびウサギにおいては、消化管から容易に、また経皮的には中程度の割合で吸収される。ラットでは、TBPPあるいはその代謝物は5日以内に排出される。その約50%は尿を介して、10%は糞に、10〜20%はCO2として呼気により排出される。

ラットに標識TBPPを経口投与して1日後には、放射能は血液、肝臓、腎臓、筋肉、脂肪、皮膚において0.2〜6.6%の範囲で見出された。これらの臓器からの放射能除去の半減期は約2〜4日であった。8時間後には、ビス(2,3-ジブロモプロピル)(BBPP)リン酸塩のみが、大多数の組織内にかなりの濃度でなお存在していた。

TBPPのラットへの経口投与後においては、尿および胆汁中で6種の代謝生成物が確認された。尿、糞、胆汁、体組織内での主な代謝産物はBBPPであった。2,3-ジブロモプロパノール(DBP)も、ラットとTBPP処理の衣服着用の小児で確認された。

肝ミクロソームは、NADPH(訳者注:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)と酸素の存在下でTBPPを代謝する。主な代謝生成物はBBPPと2,3-ジブロモプロパノール(DBP)である。BBPPはTBPPのC3の酸化による生成が示されているが、おそらくC2の位置の場合も同じであろう。さらに、BBPPのほかに、2-ブロモアクロレイン、2-ブロモアクリル酸、プロピル水酸化化合物およびグルタチオン抱合代謝産物が見出されている。

ラットの胆汁中でS-(2,3-ジヒドロキシプロピル)グルタチオンが確認されていることは、TBPPおよび/またはBBPPはエピスルホニウムイオン代謝産物の生成をともないながらグルタチオンS-トランスフェラーゼ(転移酵素)により、グルタチオンと直接抱合していることを示している。

TBPPは活性化されて、in vivo(生体内)およびin vitro(試験管内)でタンパク質やDNAに共有結合する物質を生成することが示されている。三重水素化TBPPの腹腔内投与後、TBPP誘発腎毒性への感受性がラットより低いオス・マウス、ハムスター、モルモットで、肝臓および腎臓中のタンパク質への共有結合が同程度であることが示された。TBPP誘発腎毒性に対しきわめて感受性の高いオス・ラットでは、肝タンパク質とよりもずっと多量の放射能標識物質が腎タンパク質と結合していた。

マウス、モルモット、ハムスター、ヒトの肝ミクロソームのすべては、TBPPを代謝して遺伝毒性物質中間体を生成する。しかし、ヒトの肝ミクロソームによる反応性のTBPP代謝産物の生成率は、齧歯類の肝ミクロソームによる場合よりも低い。

腎毒性を示す用量を投与したラットでの、標識TBPPと類縁物質の結合は、タンパク質共有結合が腎臓において最大であり、肝臓、精巣がこれに次ぐことを示した。腎臓DNA損傷についてのin vitroおよびin vivo比較試験の結果は、BBPPはTBPPのC2あるいはC3においてP-450介在の酸化作用により生成されることを示唆している。BBPPは肝臓に運ばれ、代謝されて活性の中間体になりDNA損傷を生じさせ、腎タンパク質と結合する。腎臓内での活性化にはP-450は関与しないように見えるが、グルタチオン(GSH)依存の代謝により媒介されるようである。標識TBPPと類縁物質のin vitroの研究では、TBPPの酸化が水の酸素の1原子を取り込むことを示している。これは、プロピル部分のC2における酸化がタンパク質を直接アルキル化、あるいはBBPPを加水分解し得る活性α-ブロモケトン、および反応性ブロモ-α-ヒドロキシケトンを生成することを示している。

1.6 実験用哺乳動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響
TBPPの急性および短期経口毒性および急性経皮毒性は低い。ラットでの経口LD50(50%致死量)は>2g/kg体重、ウサギの経皮LD50は>8g/kg体重である。広範の腎病変(近位の腎細管細胞の壊死)は、オス・ラットにおけるTBPP100mg/kg体重の単回腹腔内注射後に認められた。

ラットにおけるTBPPの4週間および90日の経口毒性試験(強制経口投与法あるいは食餌混合法による)では、25mg/kg体重以上の投与量において、用量に依存した慢性腎炎発生率の増加と症状の悪化を示した。

ウサギでのTBPP2.2g/kg体重/日以上の4週間にわたる皮膚塗布は、肝臓および腎臓に変質性変化を生じさせ、すべてのウサギは4週間以内に死亡した。250mg/kg体重以下の用量による他の研究では、死亡は発生しなかった。

ウサギによる90日の試験において、2.27g/kg体重/週の皮膚塗布は、腎臓の変化、精巣の萎縮、精液形成欠如を生じさせた。

TBPPの1.1gあるいは0.22gの用量では、ウサギの皮膚および眼への刺激は認められず、モルモットにおいては皮膚感作(訳者注:過敏状態の誘発)は見られなかった。

2件の催奇形性実験がラットについて実施されている。125mg/kg体重以下の投与量の実験において催奇形性は認められなかった。他の200mg/kg体重の用量を用いた実験では、胎仔に骨格の奇形の有意の増加が観察され、50および100mg/kg体重の投与では、生育性指標の有意の低下が見られた。報告者は、この観察された影響は母体毒性から生じた、との結論を下した。

TBPPを投与されたラットにおいては、種々の臓器において、広範のDNA損傷が見出されている。In vitroにおいて、TBPPはヒトのKB細胞においてDNAストランドの破損を誘発することが示された。また、ラットの肝細胞において不定期DNA合成を誘発したが、ヒトの包皮上皮細胞では認められなかった。

TBPPは、サルモネラチフィムリウム菌(Salmonella typhimurium)を用いた数種の試験、特に塩基対置換の株で、代謝活性化の有無いずれの場合にも、変異原性を示した。

チャイニーズハムスターV79細胞を用いた遺伝子の正突然変異試験では、代謝活性の有無いずれの場合でも陰性を示した。しかし、フェノバルビタールにより前処理を受けたラットの肝ミクロソームの存在下では、陽性の影響が得られた。マウスのリンパ腫細胞(遺伝子座L5178YTK)の場合には、弱い陽性の影響が示された。

TBPPは、チャイニーズハムスターV79細胞における姉妹染色分体交換(SCEs)の数を増加させたが、チャイニーズハムスター細胞、マウス骨髄細胞、ヒトの培養リンパ細胞では染色体異常は誘発されなかった。ヒトの線維芽細胞二倍体(HE2144系統)では、代謝活性のない場合、SCEsは認められたが染色体異常は見出されなかった。しかし、チャイニーズハムスター細胞系統(CHL)を用いたin vitroの染色体異常試験では、TBPPは陽性を示した。

チャイニーズハムスターの骨髄細胞における小核試験では、TBPPは陽性の結果が得られた。マウスを用いた他の小核試験は、弱い陽性を示した。

キイロショウジョウバエ(Drosophia melanogaster)による研究では、TBPPは雄性生殖細胞および成熟体のオスにおいて伴性劣性致死の増加を示し、相互転座が誘発された。TBPPはw/w+眼モザイク試験において強い陽性反応を示した。

TBPP誘発の変異原性および/または遺伝毒性に含まれるメカニズムの解明を指向して、いくつかの研究が実施された。TBPPの細菌変異原性は、ミクロソームのモノオキシゲナーゼ系により媒介される。TBPPはNADPHおよび酸素に依存する反応中でチトクロームP450により活性化される。フェノバルビタールあるいはPCBs処理した動物の肝臓から調製されたミクロソームは変異原性を増強する。モノ-およびビス-(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩の変異原性はTBPPよりも弱い。In vitro研究では、TBPP分子のC3の部位の酸化によって、DNAとも結合する強力な直接変異原性物質である2-ブロモアクロレインが生成することを示した。

サルモネラチフィムリウム菌(Salmonella typhimurium)TA100に変異原性を示す代謝生成物へのTBPPの生物学的活性化において、動物種間の差異が報告されている。マウスからの肝ミクロソームは、モルモット、ハムスター、ラットのものよりも作用は強い。

C3H/10T1/2細胞を用いた3件の細胞形質転換の研究が実施された。1件の研究では陽性の影響が認められたが、他の2件の結果は陰性であった。

TBPPについて、マウスおよびラットへの経口投与、メス・マウスへの皮膚塗布による長期試験が行われた。マウスへの経口投与後には、TBPPは、両性の動物において前胃と肺に腫瘍を、メスでは良性・悪性の肝腫瘍、オスでは良性・悪性の腎腫瘍を発生させた。ラットでは、TBPPはオスに良性・悪性の腎腫瘍を、またメスには良性の腎腫瘍を発生させた。メス・マウスへの皮膚塗布後には、皮膚、肺、前胃、口腔に腫瘍を発生させた。これらの実験から、TBPPはマウスおよびラットに対して発がんを起こし得る、と結論づけることができる。

TBPPの代謝生成物のBBPPを経口的にラットに与えた場合、両性の消化管に腫瘍が発生した。腫瘍には、舌部、食道、前胃の乳頭腫と腺がん、腸の腺がん、肝細胞の腺腫とがん腫が含まれることを見出した。

TBPPの別の代謝産物のDBTが皮膚塗布によりラットとマウスで試験された。オス・ラットでは、皮膚、鼻部、口腔内粘膜、食道、前胃、小腸、大腸、ジンバル腺、肝臓、腎臓、鞘膜、脾臓における新生物(訳者注:腫瘍のような異常組織の発生)の発生率が増加した。メス・ラットでは、皮膚、鼻部、口腔内粘膜、食道、前胃、小腸、大腸、ジンバル腺、肝臓、腎臓、陰核腺、乳腺における新生物の発生率の増加が見られた。オス・マウスでは、皮膚、前胃、肝臓、肺において、またメス・マウスでは皮膚、前胃において、新生物の発生が増加した。

1.7 ヒトへの影響
TBPPのヒトへの影響について入手し得るデータは限られている。

TBPPのヒトにおける皮膚感作の可能性については少数の試験が行われた。これらの試験結果は、TBPPの皮膚感作性は低く、刺激作用はないことを示唆したが、純品のTBPPに強い感作反応を示した人々では、TBPP処理の生地に暴露された場合にも反応した。

1.8 実験室および自然界のその他の生物類への影響
その他の生物類に対するTBPPの影響データはほとんどない。TBPP1mg/lに暴露された6尾の金魚(Carassius auratus)は、5日以内に死亡した。

カラスムギの種子の発育阻止に対するEC50(50%効果濃度)は1,000mg/kg土壌であった。この濃度は、カブラの種子(Brassica rapa種)においては100%の成育阻害を生じさせた。




2.結   論
TBPPは生地、特に小児の寝巻の難燃剤として用いられてきたが、その他の用途での使用についての情報は不十分である。一般集団の暴露は、主として、TBPP処理の生地との接触を通じてである。

TBPPの商業生産と、多種類の製品の使用による作業者の暴露と危険性についての情報はほとんどない。

データ不足のため、ヒト以外の環境中の生物類に対するTBPPの暴露濃度と危険性に対して、はっきりした結論を下すことはできない。

動物実験では、TBPPは消化管から吸収され、少量は経皮的に吸収されることを示している。TBPPはヒトの皮膚からも吸収されることがある。ラットにおいては、TBPPは肝臓内で広範に代謝され、尿中で検出される主要代謝産物のBBPPとなり、少量はDBPになるように見える。さらに、その他の臭素化代謝生成物が少量見出されている。また、DBPはTBPP処理の生地を着用するヒトにおいても検出されている。排出の主な経路は尿であり、ごく少量が親化合物として排泄される。主要代謝経路は、チトクロームP450とグルタチオンS-トランスフェラーゼ(転移酵素)による代謝作用を介してのように見える。

入手し得るデータから、TBPPは実験動物に対し低い急性毒性を有する、との結論を下すことができる。比較的高用量のTBPPの反復投与は、ラットにおいて腎臓および肝臓の障害を、また、ウサギでは精巣毒性をも発現した。TBPPは数種類の試験系、in vitroおよびin vivoの双方において明らかな遺伝毒性を誘発した。発がん作用はラットおよびマウスにおいて見出されている。また、代謝生成物のBBPPおよびDBPも、実験動物で発がん性を示す。動物における刺激作用は見出されず、ヒトでは低い感作性が認められている。

1977年、米国政府消費者製品安全委員会は、本化学物質がヒトに対する発がん物質になるであろうとの懸念から、また、処理済の生地との接触を通じてのヒトへの重大な暴露の可能性を理由として、小児用衣類へのTBPP処理を禁止した。それ以後、他の数カ国において、難燃剤としての本物質の使用は厳重に制限され、織物への使用は禁止されている。




3.勧   告
TBPPは、その毒性作用のため、もはや商業的に使用すべきではない。

TBPPのより危険の少ない代替物がないために、その使用が確認された場合には、ヒトおよび環境への暴露と、危険性がないことを立証する研究を実施すべきである。




4.国際機関によるこれまでの評価
IARC(国際がん研究機関)は、1979年、TBPPはマウスおよびラットにおいて発がん性を示す十分な証拠が存在する、との結論を下した。ヒトについての十分なデータは存在しないため、TBPPはヒトに発がんリスクをもたらすと見なすのは、実際目的のためには合理的である(IARC,1979)。1987年、短期試験において、オス・ラットの結腸腫瘍が報告された。IARCによる総合的な評価は、TBPPはヒトに対しておそらく発がん性を示す(pro-bably carcinogenic to humans)(グループ2A)、とされた(IARC,1987)。



U.ビス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩
要約と評価、結論と勧告
ビス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩(BBPP)およびその塩類についてのデータベースは、その評価と商業的使用を支持するためには不十分である。

入手し得るデータからは、本物質には変異原性と発がん性を示すある程度の徴候が存在する。

本物質は、物理的・化学的特性、生産と用途、環境内の移動・分布・変質、環境中濃度とヒトの暴露、動物およびヒトにおける体内動態と代謝、実験動物・ヒト・in vitro試験系への影響、実験室および自然界の他の生物類への影響に関する追加データがなければ評価できない。さらに、少なくとも2種類の影響(end point)についての変異原性データも必要である。

ビス(2,3-ジブロモプロピル)リン酸塩
a 物質の同定
化学式C6H11Br4O4P
化学構造  3次元
分子量497.8
一般名bis(2,3-dibromopropyl)phosphate
CAS化学名2,3-dibromo-1-propanol-hydrogen phosphate
その他の名称bis(2,3-dibromopropyl)hydrogen phosphate;
bis(2,3-dibromopropyl)phosphoric acid
CAS登録番号5412-25-9