はじめに -合成ピレスロイドの概説-
1. |
天然のピレトリンの化学構造を改変する研究を通して、物理的および化学的特性が改善され、より強力な生物学的活性を有する数々の合成ピレスロイドが製造された。初期の合成ピレスロイドのうちいくつかは商品化に成功し、主として衛生害虫の駆除に用いられた。他のより最近開発されたピレスロイドは、広範囲の害虫に対する優れた効果と、環境中での残留性が低いことから農業用の殺虫剤として導入されてきた。
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2. |
ピレスロイドは、有機塩素、有機リン、カーバメート、その他の化合物に加えて、別の殺虫剤のグループを構成する。現在商品化されているピレスロイドとして、アレスリン、レスメトリン、d-フェノトリン、テトラメトリン(公衆衛生上重要な害虫用)およびシペルメトリン、デルタメトリン、フェンバレレート、ペルメトリン(主として農業害虫用)がある。そのほかにピレスロイドとしては、フラメトリン、カデトリン(kadethrin)、テラレトリン(tellallethrin)(通常は家庭害虫用)、フェンプロパトリン、トラロメトリン、シハロトリン、ラムダ-シハロトリン、テフルトリン、シフルトリン、フルシトリネート、フルバリネート、バイフェネート(biphenate)(農業害虫用)が含まれる。
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3. |
いくつかの合成ピレスロイドの毒性学的評価は、食糧農業機関(FAO)/世界保健機関(WHO)の合同の残留農薬専門家会議(JMPR)により行われている。シペルメトリン、デルタメトリン、フェンバレレート、ペルメトリン、d-フェノトリン、シフルトリン、シハロトリン、フルシトリネートの一日許容摂取量(ADI)はJMPRにより見積もられている。
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4. |
合成ピレスロイドは、化学的には特定の酸(例えば、菊酸、ハロゲン置換の菊酸、2-(4-クロロフェニル)-3-メチル酪酸)とアルコール(例えば、アレスロロン、3-フェノキシベンジルアルコール)のエステルである。ある種のピレスロイドでは、酸および/またはアルコール部分に不斉センターが存在し、製品はしばしば光学(1R/1Sまたはd/l)および幾何(cis/trans)双方の異性体の混合物から構成されている。しかし、それらの製品の殺虫作用の大部分は1種あるいは2種の異性体中に存在する。一部の製品(d-フェノトリン、デルタメトリン)は、このような効果を有する異性体のみから構成されている。
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5. |
合成ピレスロイドは、哺乳類および/または昆虫類のナトリウムチャネルを作用点として、末梢および中枢神経系の軸索に作用する神経毒である。単回投与により、哺乳類では、振戦(ふるえ)、異常興奮、流涎、舞踏病様アテトーシス(訳者注:無定位運動症ともいい、指や手の屈曲、進展などの、緩慢な、ねじるような運動が常に連続している状態)、麻痺などの毒性徴候を生じさせた。この徴候はかなり速やかに消失し、動物は一般的には一週間以内に回復する。合成ピレスロイドは、致死量に近い投与量では、軸索の腫脹および/または傷害座骨神経のミエリン(髄素)の変質などの神経系における一過性の変化を生じさせる。それらは、ある種の有機リン化合物により誘発される種類の遅発性神経毒性を発症させる、とは見なされていない。合成ピレスロイドの毒性メカニズムと、それらの2種のタイプの分類については付属資料で説明されている。
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6. |
一部のピレスロイド(デルタメトリン、フェンバレレート、シハロトリン、ラムダ-シハロトリン、フルシトリネート、シペルメトリン)は暴露されたヒトの皮膚に一過性のかゆみおよび/または灼熱感を生じさせる。
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7. |
合成ピレスロイドは、一般には、哺乳類においては、エステル加水分解、酸化作用、抱合により代謝され、体組織に蓄積する傾向はない。環境中では、合成ピレスロイドは土壌、植物中でかなり速やかに分解される。エステル加水分解と分子の種々の部位における酸化作用は主要な分解過程である。このピレスロイドは土壌および底質に強く吸着され、水により溶出されることはほとんどない。生物中における生物濃縮の傾向はほとんどない。
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8. |
施用濃度の低いことと環境中での速やかな分解により、食品中の残留は一般的には低い。
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9. |
合成ピレスロイドは、実験室での試験において、魚類・水生節足動物類・ミツバチに対し毒性を示す。しかし、実際の使用においては、低い施用濃度と環境中での残留性がないことにより、重大な有害影響は認められていない。鳥類および家畜における合成ピレスロイド類の毒性は低い。
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10. |
FAO/WHOの評価資料のほか、合成ピレスロイド類の化学的特性、代謝、哺乳類毒性、環境影響その他について、いくつかの優れたレビューと成書が刊行されており、これらには、Elliot(1977)、Miyamoto(1981)、Miyamoto & Kearney(1983)、Leahey(1985)が含まれる。
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(訳者注:合成ピレスロイドの名称のうち、日本で農薬登録のない殺虫剤(kadethrin、tellallethrin、biphenate)には英語原名を付記した。)
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1.要約および評価
1.1 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
テトラメトリンは、最初に1964年に合成され、1965年に初めて市場で販売された。
化学的には、菊酸(2,2-ジメチル-3-(2,2-ジメチルビニル)シクロプロパンカルボン酸)と
3,4,5,6-テトラハイドロフタルイミドメチルアルコールのエステルである。
テトラメトリンは、[1R, trans]、[1R, cis]、[1S, trans]、
[1S, cis]の4種の異性体の混合物である。工業製品原体においては、
その構成比はほぼ4:1:4:1である。これらの異性体中で、生物学的活性が最も高いのは
[1R, trans]であり、次いで[1R, cis]である。[1R, cis]と
[1R, trans]との混合物は、「ネオピナミン・フォルテ」の商品名で販売されている
(本モノグラフ中では1R, cis/trans-テトラメトリンと呼ばれる)。
工業製品原体のテトラメトリンは、融点65〜80℃を有する無色の固体である。
その比重は20℃において1.11、蒸気圧は30℃において0.946mPa(7.1×10-6mmHg)である。
水にはわずかに溶ける(30℃において4.6mg/l)のみであるが、ヘキサン、
メタノール、キシレンなどの有機溶剤には溶解する。また、熱には安定であるが、
光と空気には不安定である。テトラメトリンの[1R, cis/trans]
異性体は黄色の粘性のある液体であるが、その他の点ではテトラメトリンに似た物理的・化学的特性を有している。
定量的な残留分析は、二波長吸光分析(370〜230nm)により行われる。
工業製品原体の分析には、フレームイオン化検出器付きのガスクロマトグラフィーが用いられる。
製剤の分析は赤外線検出器付きの高速液体クロマトグラフィーにより実施される。
テトラメトリン―4種の光学異性体の混合物
a 物質の同定
化学式 |
C19H25NO4 |
化学構造 |
(1) (+)-トランス-テトラメトリン
3次元
(2) (+)-テトラメトリン-2種の光学異性体の混合物
3次元
(3)
3次元
(4)
3次元
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分子量 |
331.45 |
一般名a |
Tetramethrin |
CAS化学名 |
Cyclopropanecarboxylic acid,2,2-dimethyl-3-(2-methyl-1-propenyl)-
(1,3,4,5,6,7-hexahydro-1,3-dioxo-2H-isoindol-2-yl)methyl ester |
その他の名称および商品名 |
Tetramethrine, Phthalthrin, Neo-Pynamin, FMC-9260 |
CAS登録番号 |
7696-12-0 |
RTECS番号 |
GZ1730000b |
立体特異的名称c,d |
3,4,5,6-Tetrahydrophthalimidomethyl(1RS,cis,trans)-
2,2-dimethyl-3-(2,2-dimethylvinyl)cyclopropane-carboxylate
または
3,4,5,6-Tetrahydrophthalimidomethyl(1RS,cis,trans)-
chrysanthemate |
立体異性体構成比e構造式 |
(1):(2):(3):(4)=4:1:4:1 |
b 物理的・化学的特性
表 テトラメトリンの物理的・化学的特性
物理的状態 |
結晶性固体 |
色 |
無色 |
臭気 |
除虫菊臭 |
比重 (20℃/20℃) |
1.108 |
融点 |
60〜80℃ |
蒸気圧 (20℃) |
4.67×10-3mPa(3.5×10-8mmHg) |
(30℃) |
9.46×10-1mPa(7.1×10-6mmHg) |
溶解性 水(30℃) |
4.6mg/l |
有機溶媒 |
メタノール 53g/kg |
ヘキサン 20g/kg |
キシレン 1kg/kg |
アセトン 溶解する |
トルエン 溶解する |
安定性 |
テトラメトリン工業品は熱に対しては安定(50℃で6カ月)だが、光、
空気およびアルカリ状態では不安定 |
(+)-トランス-テトラメトリン
a 物質の同定
化学式 |
C19H25NO4 |
化学構造 |
(1)
3次元
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分子量 |
331.45 |
一般名a |
(+)-trans-Tetramethrin |
その他の名称および商品名 |
(+)-trans-Phthalthrin |
CAS化学名 |
Cyclopropanecarboxylic acid,2,2-dimethyl-3-(2-methyl-1-propenyl)-
(1,3,4,5,6,7-hexahydro-1,3-dioxo-2H-isoindol-2-yl)methyl ester |
RTECS番号 |
GZ1710000b |
立体特異的名c,d |
3,4,5,6-Tetrahydrophthalimidomethyl(1R,trans)-chrysanthemate |
立体異性体e |
構造式(1) |
b 物理的・化学的特性
表 (+)-トランス-テトラメトリンの物理的・化学的特性
物理的状態 |
粘性の液体 |
色 |
黄色または褐色 |
臭気 |
除虫菊臭 |
比重 (25℃/25℃) |
1.11 |
蒸気圧 (20℃) |
3.2×10-4mPa(2.4×10-9mmHg) |
溶解性 水 (23℃) |
2〜4mg/l |
有機溶媒 |
ヘキサン >1kg/kg |
メタノール 溶解する |
キシレン 溶解する |
(+)-テトラメトリン-2種の光学異性体の混合物
a 物質の同定
化学式 |
C19H25NO4 |
化学構造 |
(1)
3次元
(2)
3次元
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分子量 |
331.45 |
一般名a |
(+)-Tetramethrin |
その他の名称および商品名 |
Neo-Pynamin Forte |
CAS化学名 |
Cyclopropanecarboxylic acid,2,2-dimethyl-3-(2-methyl-1-propenyl)-
(1,3,4,5,6,7-hexahydro-1,3-dioxo-2H-isoindol-2-yl)methyl ester |
RTECS番号 |
GZ1720000b |
立体特異的名称c,d |
3,4,5,6-Tetrahydrophthalimidomethyl(1R,cis,trans)-
chrysanthemate |
立体異性体構成比e |
構造式(1):(2)=4:1 |
a |
ISO一般名:殺虫剤および他の農業用化学物質の一般名は国際標準化機構(ISO)
の技術委員会により承認されている |
b |
RTECS(1981〜1982版) |
c |
テトラメトリンの酸の部分の(1R)、d、(+)または(1S)、l、
(-)はそれぞれ同じ立体特異的配座を表す |
d |
菊酸(Chrysanthemic acid)はテトラメトリンを構成している酸の名称 |
e |
括弧内の数字は立体異性体の化学構造式の番号に相応する |
1.2 生産と用途
テトラメトリンの世界における年間生産量は、数百トンと推定されている。
それは主として屋内害虫に用いられ、エアロゾル、乳剤、蚊取り線香として製剤化されている。
他の殺虫剤や補助剤と組み合わせた製剤も調製されている。
1.3 ヒトの暴露
一般集団は主として屋内害虫への使用を通じてテトラメトリンに暴露される。
テトラメトリンが勧告にしたがって用いられた場合には、
その1R異性体の気中濃度は0.5mg/m3を超えることはなく、
速やかに分解する。したがって、一般集団への暴露はきわめて低いと予想される。
テトラメトリンは食用農作物には使用されていない。
1.4 環境中の暴露および運命(fate)
テトラメトリンの薄膜は、日光への暴露により速やかな分解を起こす。
2時間の暴露期間中(30%が転換)での主な光反応は、イソブテニル基の二重結合におけるエポキシ化、
イソブテニル・グループのtrans-メチルのヒドロキシメチル、アルデヒド、
カルボン酸への酸化、アリル・ヒドロペルオキシドへのヒドロペルオキシド化である。
環境中におけるテトラメトリンの正確な濃度についてのデータは入手できないが、
現在の家庭での使用パターンから、勧告通りに使用された場合には、
環境暴露はきわめて低いと予測される。毒性がより低い化合物への分解は速やかである。
1.5 摂取、代謝、排泄
ラットにおける経口あるいは皮下での投与後には、酸あるいはアルコール部分に放射性標識されたテトラメトリンは、
容易に取り込まれ、代謝されて排泄される。その約95%が5〜7日以内に、尿と糞中にほぼ同量の割合で排泄される。
双方の投与経路による組織への残留はきわめて少ない。その代謝作用は、エステル開裂、
アルコール部分からのヒドロキシメチル・グループの消失、アルコール部分の1-2結合の還元、
酸のイソブテニル基のメチル部分の酸化およびアルコール部分の2、3、4の位置における酸化、
生成した酸およびアルコールのグルクロン酸による抱合、cis/trans異性化である。
1.6 環境中の生物類への影響
ごく限られた情報しか入手できない。テトラメトリンは魚類に対し高い毒性を示し、
2種類の魚への96時間のLC50(50%致死濃度)値は、19および21μg/lであった。
第三の魚種に対する48時間のLC50は200μg/lを示し、
無影響量は50μg/lであった。ミジンコへの無影響量は50μg/lであった。
テトラメトリンの鳥類に対する毒性はきわめて弱いが、ミツバチには毒性を示す。
テトラメトリンは速やかに分解するため、また、その使用が勧告通りに屋内に限定されるとすれば、
環境に対し影響を及ぼすとは考えられない。
1.7 実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響
テトラメトリンの急性経口毒性は弱い。ラセミ混合物および1R,cis/trans異性体の双方に対し、
ラットのLD50(50%致死量)は5,000mg/kg以上であり、一方、
マウスにおいては約2,000mg/kg(ラセミ化合物)と1,060mg/kg(1R,cis/trans)であった。
ラットおよびマウスの双方とウサギにおける急性経皮毒性は弱く、
そのLD50はラットとマウスでは5,000mg/kg以上、
ウサギでは2,000mg/kg以上であった(すべての試験はラセミ混合物を用いて行われた)。
急性吸入試験においては、ラットおよびマウスのLC50は、
ラセミ混合物では2,500mg/m3、1R,cis/trans異性体では1,180mg/m3以上であった。
その毒性徴候には、過剰興奮、振戦(ふるえ)、運動失調、機能低下が含まれる
(一般的な徴候はすべての急性毒性実験からのものである)。
マウスはラットよりも幾分か感受性が強いが、オスとメスの間では感受性に差は認められなかった。
テトラメトリンは、ラセミ混合物あるいは1R,cis/trans異性体のいずれも、
ウサギの眼にほとんど刺激性を示さず、また、ウサギの皮膚に対して刺激性を示さなかった。
さらに、ラセミ混合物および1R,cis/trans異性体は、
モルモットにおける感作物質とは認められなかった。
テトラメトリンはタイプTのピレスロイドである。哺乳類においては、
振戦(ふるえ)(T-症候群)はその特徴的な中毒症状である。
ラットに対するテトラメトリン5,000mg/kg食餌による91日間の飼育試験では、
5,000mg/kg食餌において体重増加の低減が認められた。
ラットにおける1R,cis/trans異性体の25〜3,000mg/kg食餌レベルを用いた3〜6カ月間の飼育試験の結果から、その無影響量はオスに対しては200mg/kg食餌、メスにおいては300mg/kg食餌であった(観察には、体重増加および最終体重の減少、腎臓・肝臓への影響が含まれる)。肝臓への影響は溶媒のコーンオイルの摂取に対する適応反応と考えられる。
イヌにおける26週間の無影響量は1,250mg/kg食餌であった。
マウスおよびラットに対し、エアロゾル化した200mg/m3の濃度のテトラメトリンを3〜4時間/日、
4週間まで吸入暴露した場合、化合物に関連した有意の変化は認められなかった。ラットを、
脱臭ケロシン(灯油)中の濃度87mg/m3までの1R,cis/trans異性体のミスト(霧)(1.2〜1.5μmの直径の小滴)に3時間/日、7日/週、28週間暴露した追加的な吸入試験では、無影響量は49mg/m3であった。毒性症候は暴露期間中のみに認められた。
テトラメトリンおよびその1R,cis/trans異性体は、遺伝子突然変異、
DNA損傷、DNA修復、染色体への影響を検討する各種のin vivo(生体内)
およびin vitroの試験系において、いずれも変異原性を示さなかった。
3件の104週間の慢性/発がん性飼育実験がテトラメトリンについて実施され、
そのうちの2件はラット、あとの1件はマウスであった。マウスでは、
1,500mg/kg食餌までの用量レベルで飼育されたが、発がん作用は認められなかった。
60mg/kg食餌以上において脳下垂体および甲状腺/上皮小体の重量減少が観察された。
マウスの全身的作用への無影響量は12mg/kg食餌であった。ラットの胎児期暴露の実験では、
5,000mg/kg食餌までの用量のテトラメトリンが長期間にわたり投与された。
ラットによる双方の実験においては、3,000mg/kg食餌以上に暴露された動物の体重増加は有意の減少を示した。
さらに、これらのレベルにおいて肝臓重量の増加が認められた。
双方の実験における全身影響へのラットの無影響量は1,000mg/kg食餌であった。
これら双方の実験では、3,000mg/kg食餌以上における精巣間質細胞の腫瘍発生率は、
対照群と比較して高い数値を示した。精巣間質細胞の腫瘍は高齢のラットにおいて自然発生し、
その発生率は対照群の間で大きく変化し得る。また、この腫瘍はホルモンの介在によると考えられる。
この腫瘍が悪性であるとの証拠はなく、マウスにおいてはこのタイプの腫瘍発生は立証されていない。
したがって、もしこの催腫瘍性が事実だとしても、ヒトの暴露に関連して発生するとは到底考えられない。
テトラメトリンは、ラットに対しては1,000mg/kg体重まで、また、
ウサギでは500mg/kg体重までの投与量(これらは試験された最高用量レベルである)において、
催奇形性も胚毒性も示されなかった。
ラットを用いたテトラメトリン1,000mg/kg体重/日までの投与量レベルによる繁殖試験においては、
両親獣の生殖能力および胎仔の成長に対する無影響量は300mg/kg体重/日であった。
ラットの分娩前後の生殖試験では、無影響量として100mg/kg体重/日(試験された最高量)が見出された。
ラットによるテトラメトリンの一世代生殖試験において、1,000〜6,000mg/kg食餌が投与され、
無影響量として1,000mg/kg食餌が示された。また、
100〜3,000mg/kgのレベルの1R,cis/trans異性体の二世代生殖試験では、
500mg/kg食餌の無影響量が得られた。
1.8 ヒトへの影響
テトラメトリンおよびその1R異性体は、長年の間使用されてきたが、
ヒトにおける中毒あるいは有害影響は報告されていない。
テトラメトリンおよびその1R異性体は、もし低濃度での使用が継続し、
屋内害虫の駆除のみに限られれば、有害影響を有するとの徴候は認められない。
2.結 論
(a) |
一般集団: |
一般集団のテトラメトリンへの暴露は、現在のように使用されるならば、
低いと予測される。それは、推奨通りでの使用では、危険性を示すことはないであろう。 |
(b) |
職業暴露: |
テトラメトリンは、職業上で暴露される人々に対し、適正な作業規範、
衛生対策、安全予防措置の実施により、危害を招くことはないであろう。 |
(c) |
環境: |
テトラメトリンおよびその分解生成物は、
環境に悪影響を生じさせるレベルに到達することは到底あり得ないであろう。 |
3.勧 告
テトラメトリンおよびその1R異性体は、ヒトへの有害影響が報告されることなく多年にわたり使用されてきたが、
ヒトの暴露の観察は継続すべきである。
4.国際機関によるこれまでの評価
世界保健機関(WHO)の「有害性による農薬の分類勧告」においては、工業製品原体のテトラメトリンは、
正常な使用において急性の有害性を発現することはないであろう、と分類されている。
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