環境保健クライテリア 162
Environmental Health Criteria 162

臭素化ジフェニルエーテル(難燃・防炎剤) Brominated Diphenyl Ethers

(原著347頁,1994年発行)

更新日: 1997年1月7日
1. 臭素化ジフェニルエーテル類につぃての一般事項
2. デカブロモジフェニルエーテル(DeBDE)
3. ノナブロモジフェニルエーテル(NBDE)
4. オクタブロモジフェニルエーテル(OBDE)
5. ヘプタブロモジフェニルエーテル(HpBDE)
6. ヘキサブロモジフェニルエーテル(HxBDE)
7. ペンタブロモジフェニルエーテル(PeBDE)
8. テトラブロモジフェニルエーテル(TeBDE)
9. トリブロモジフェニルエーテル(TrBDE)
10. ジブロモジフェニルエーテル(DiBDE)
11. モノブロモジフェニルエーテル(MBDE)

→目 次

→ 2次元および3次元の化学構造




1.臭素化ジフェニルエーテル類(BDE)
  についての一般事項

 この臭化ジフェニルエーテル類の環境保健クライテリアは、多数の難燃剤(防炎剤)
のヒトの健康および環境に対する影響の総括の一部として作成された。ポリ臭素化ジ
フェニルエーテル類(PBDE)のグループは、最近関心がもたれているため、優先的
に選定された。それらの中で、ペンタ−、オクタ−、デカブロモジフェニルエーテル
による製品のみが市販品として重要である。
 臭素化ジフェニルエーテル類の一般的な構造式は次の通りである。


 ポリ臭素化ジフェニルエーテル類は、2個のフェニル環上の臭素原子の数と位置に
よって多数の同族体を有する。存在が可能な同族体の総数は209種類であり、モノ−、
ジ−、トリ−からデカブロモジフェニルの異性体の数は、それぞれ、3、12、24、42、
46、42、24、12、3、1である。
 市販のPBDEは、ある条件下での酸化ジフェニルの臭素化により製造される(そ
れぞれのPBDE参照)臭素化ジフェニルエーテル混合物である。。市販品のDeBDE、
OBDE、PeDBEの組成を次表に示す。

表.市販品臭素化ジフェニルエーテルの組成
製 品              組 成
 	PBDEa 	TrBDE 	TeBDE	 PeBDE 	HxBDE HpBDE	OBDE 	NBDE 	DeBDE

DeBDE 								0.3-3%	97-98%
OBDE 					10-12% 	43-44% 	31-35%	9-11%	 0-1%
PeBDE		0-1%	 24-38% 	 50-62%	 4-8%
TeBDEb 	7.6%		 41-41.7% 44.4-45%	 6-7%
 a 構造不明。
 b 商業生産中止。1サンプルのみの分析。
     ────────────────────────
 ジブロモ−、トリブロモ−、ヘキサブロモ−、ヘプタブロモ−、ノナブロモジフェ
ニルエーテル(それぞれ、DiBDE、TrBDE、HxBDE、HpBDE、NBDE)について
のデータはないか、あるいは実質的にはないのに等しい。商業的には、主として、ペ
ンタ−、オクタ−、デカブロモジフェニルエーテルを含む難燃剤が生産されている(主
にペンタブロモジフェニルエーテルの製品に混在するテトラブロモジフェニルエー
テルとあわせて)。
 市販品のPBDEは、310〜425℃の範囲の沸点と、低い蒸気圧、例えば20 〜25℃
において3.85 〜13.3 Pa(訳者注:パスカル,国際単位系の圧力単位)を有する比較
的安定な化合物で、それらは親油性である。それらの水への溶解性は極めて低く、高
度に臭素化されたジフェニルエーテル類では特にその傾向が強く、そのn−オクタノ
ール/水分配係数(log Pow)の範囲は4.28 〜9.9である。
 ポリ臭素化ジフェニルエーテル類は環境中での天然の存在は報告されていないが、
その他の種類の臭素化ジフェニル類は海洋生物類の体中で発見されている(Carte & 
Faulkner, 1981; Faulkner,1990)。
 一部の臭素化ジフェニルエーテルの環境中での存在が報告されており、その最高濃
度は製造工場近くの河川または湖沼の底質中で1g/kgであった。
 MBDE、DiBDE、DeBDEの環境中での運命(fate)のデータは限られており、PBDE
にとって生分解は重要な分解経路ではないことが示唆されているが、光分解が重大な
役割を果すであろう。
 熱分解の条件下での臭素化難燃・防炎剤の挙動については多くの報告が見られる。
一般に、これらの報告ではポリ臭素化ジベンゾフラン(polybrominated 
dibenzofurans:PBDF)および/またはポリ臭素化ジベンゾダイオキシン
(polybrominated dibenzodioxins:PBDD)の最高生成比率は400〜800℃の温度にお
いて認められ、PBDDの2,3,7,8置換体の生成濃度は極めて低いことを示してい
る。
 このポリマー(重合体)は異常な条件あるいは極端な条件下で試験した場合には、
より高い濃度のPBDFが生じるが、その濃度は以前に報じられた熱分解実験の数値
より著しく低い。2,3,7,8臭素化化合物の異性体は、異常な条件下で試験された
サンプル中にのみ低濃度で発見される。毒性学および規制上の理由により関心のもた
れている2,3,7,8臭素化化合物の異性体は、通常の試験条件下では検出されてい
ない。PBDEの実験室熱分解の結果では、PBDFおよびPBDDは、PBDEの種類、
ポリマーの構造、特定の処理条件(温度、酸素の存在等)、使用設備、Sb2 O3
(三酸化二アンチモン)の存在などに依存して、種々の濃度で生成されることを示し
ている。PBDEの挙動は、ポリマーの構造および上記の特定の処理条件に強く影響さ
れるため、実験室の熱分解実験の結果は、ポリマー製型工程時における挙動を予測す
るための信頼し得るモデルとしては使用できそうにない。


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2.デカブロモジフェニルエーテル(DeBDE) (化学式:C12Br10O)  2.1 物質の同定、物理的・化学的特性 化学構造

C12Br10Oの2次元および3次元の化学構造

3次元の化学構造の図の利用

図の枠内でマウスの左ボタンをクリック → 分子の向きを回転、拡大縮小 右ボタンをクリック → 3次元化学構造の表示変更  一般的には、市販のDeBDEは97〜98%の純度と、0.3〜3.0%のノナおよび/また はオクタブロモジフェニルエーテル類を含んでいる。ノナブロモジフェニルエーテル (NBDE)は主要な不純物である。他のポリ臭素化ジフェニルエーテル類とは異なり、 DeBDEには臭素化の位置による異性体はない。  DeBDEの融点は約300℃であり、分解は約400℃で起こる。水での溶解性は20 〜 30μg/lで、そのn−オクタノール/水分配係数の対数は5より大きい。蒸気圧は20℃ において10―6 mmHg以下である。  2.2 生産と用途  臭素化ジフェニルエーテル類(モノ−からデカ−まで)の中で、生産と用途に関し てはデカブロモジフェニルエーテルは最も重要な市販製品である。  市販のDeBDEは、1970年代末期以来、純度を向上させつつ生産されてきた。 DeBDEの世界中での生産量は年間約30,000トンである。それは多くのプラスチッ ク、特にハイインパクト・ポリスチレンへの添加難燃剤として、また繊維製品の柔軟 仕上げ処理、自動車用織物、テントに使用されている。  2.3 環境中の移動・分布・変質  DeBDEの光分解は、有機溶剤中で紫外線あるいは日光の照射下において起おこり、 臭素化の程度の低いジフェニルエーテル類および臭素化ジベンゾフラン類が生成さ れる。水中においても、程度は低いが光分解は起こるが、低臭素化のジフェニルエー テル類および臭素化ジベンゾフラン類は見出されていない。  ポリマーより抽出されたDeBDEの濃度は、ポリマーのタイプおよび抽出溶剤に左 右されて、検出限界に近いか、あるいはそれ以下である。  その著しく低い水溶性と蒸気圧のため、DeBDEは主として粒子状物質への吸着に より移動するようである。それは難分解性で、堆積物および土壌中に蓄積される。  堆積物および土壌からの、その生物学的利用能(bioavailability)についてのデー タはない。ニジマスを用いた研究では、48時間以上において、皮膚、内臓中に生物 濃縮は示されなかった。DeBDEは、その高い相対分子質量(分子量)のため、生 物濃縮されないようである。  市販のDeDBEを含む製品は、最後には埋め立てあるいは焼却により廃棄される。 DeDBEは最終的には埋立地から洗脱される可能性がある。ポリ臭素化ジベンゾフ ラン類(PBDF)およびハロゲン化ジベンゾフラン類とハロゲン化ジベンゾダイオキ シン類は、埋立地の火災および不完全燃焼より発生すると考えられる。市販のDeDBE を含む製品は、これらの排出に寄与するであろう。  市販のDeBDEそのものとポリマー類(ハイインパクト・ポリスチレン、ポリブチ レン・テレフタル酸エステル、工業用ポリプロピレン)の双方の熱分解により、酸素 の存在下で少量のPBDF、ポリ臭素化ジベンゾダイオキシン類(PBDD)の発生が確 認されている。PBDFの生成は400〜500℃で最大となるが、800℃においても発生 が認められ、ここでは三酸化二アンチモンがPBDFおよびPBDDの生成に触媒の役 割を果す。  PBDFおよびPBDDの生成およびその量は、温度、酸素含量、熱分解の長さに依 存する。酸素のない場合には、主としてポリ臭素化ベンゼン類およびポリ臭素化ナフ タレン類が生成される。  2.4 環境中濃度およびヒトの暴露  DeBDEは大気中および製造工場の近くで25μg/m3 までの濃度において検出 されている。日本において1977〜91年の期間に採取された水のサンプル中に、 DeBDEは検出されなかった。しかし、日本で同期間中に採取された河川および河口 堆積物中では、約12mg/kg乾燥重量までの濃度で検出された。DeBDEは米国でも、 製造工場に近い河川の堆積物中で検出されている(1g/kg以下)。日本で採取され た魚類のサンプルではDeBDEは検出されなかったが、ムラサキガイのサンプルでは、 検出限界レベルの濃度が見出された。  DeBDEは、日本で採取されたヒトの脂肪組織サンプル中には認められなかったが、 米国では5点のヒトの脂肪組織サンプル中の3点でDeBDEが検出された。  DeBDEのヒトへの暴露は、ポリマー類の製造および製剤の過程でおこり得る。一 般集団へのDeBDEの暴露は少ない。  DeBDEの製造・製剤・使用中の分解産物への職業暴露の測定では、射出ノズル近 くの空気サンプルからは高濃度のPBDFが検出された。作業場の空気では、より低 濃度が見出された。拭き取りサンプル中においてもPBDFは検出された。適切な製 造技術の適用によりPBDFの職業暴露を減少させ得ることが示された。  一般集団に対するPBDF不純物への暴露は重大な問題ではないと考えられる。  2.5 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  DeBDEは消化管からの吸収は少なく、注射投与後は速やかに排泄される。  ラットにおいて、14C標識のDeBDEを用いた代謝研究では、生体から排泄される 半減期は24時間以内であり、経口摂取後の排出の主要経路は糞便経由であった。認 め得るような14Cの放射能は尿中あるいは呼気中には見出せなかった(1%以下)。  0.1mg/kg体重/日で2年間食餌投与されたラットでは、全臭素量の測定値から推 定されたように、DeBDEの蓄積は血清、腎臓、筋肉、精巣において認められなかっ た。肝臓における臭素の蓄積量は30日で高原状態(プラトー)に達し、投与後10 日以内には排泄された。投与180日後において、投与されたラットの肝臓の臭素濃度 は対照のラットより高値を示すことはなかった。脂肪組織は低濃度の臭素を蓄積し、 投与が終了しDeBDEの混入のない食餌に切り替えた後の90日間においても持続し た。この残留した「臭素」の特性は不明である。DeBDEは市販混合物のわずか77% であるため、この「臭素」はNBDEあるいはOBDEからの派生もあり得る。  2.6 実験用哺乳類および     in vitro(試験管内)試験系への影響  実験動物に対するDeBDEの急性毒性は低い。本物質はウサギの皮膚および眼に対 する刺激物質ではない。また、これはウサギの皮膚に対し塩素ざ瘡(にきび)(クロ ールアクネ)を発生させず、ヒトの皮膚の感作(訳者注:過敏状態の誘発)物質でも ない。  DeDBEとSb2O3を含む難燃性ポリスチレンの燃焼生成物について、急性毒性 と面皰発症性(訳者注:にきびを発生させる特性)が試験された。その煤(すす)と 炭化物(char)によるラットの経口試験結果、LD50(訳者注:50%致死量)は 2,000mg/kg体重以上であった。  ラットおよびマウスの短期毒性研究において、DeBDE(純度97%以上)を食餌中 100g/kg(4週間)および50 g/kg(13週間、ラットについては2,500 mg/kg体重に 相当)与えた場合、有害な影響の誘発はなかった。100mg/kg体重を投与したラット の1世代生殖試験においては有害影響は示されなかった。DeBDEは、100mg/kg体 重の投与により、ラットの胎児にいかなる催奇形性をも示すことはなかった。 100mg/kg体重の用量では骨形成作用の遅滞のような奇形が認められた。DeBDEは 多数の試験において変異原性を示すことはなかった。  ラットおよびマウスにおける発がん性試験において、DeBDE(純度94 〜99%) が食餌中に50 g/kgまでの用量濃度が投与された。25 g/kgのDeBDEを与えられた オスのラットおよび50g/kgを投与されたメスのラットの肝臓において、腺腫(がん 腫ではない)の発生率の増加が見出された。オスのマウスでは肝細胞腺腫および/ま たはがん腫(複合の)の発生の増加が25g/kgにおいて、また双方の用量レベルで甲 状腺胞状細胞腺腫/がん腫(複合)の増加が認められた。メスのマウスでは腫瘍発生 率の増加は示されなかった。オスおよびメスのラットとオスのマウスにおいてのみ、 25〜50 g DeBDE/kg食餌の用量レベルでの発がん性の証拠は不明確であった。す べての変異原性試験の結果は陰性であるため、DeBDEは遺伝毒性を有する発がん物 質ではない、との結論を下すことができる。IARC(国際がん研究機関)(1990)は、 DeBDEの発がん性について、実験動物においては限定的な証拠が存在する、との結 論を出した。その極めて高い用量レベル、遺伝毒性のないこと、発がん性のわずかな 証拠から、現在の暴露濃度においては、ヒトに対する発がんリスクはないと考えられ る。  2.7 ヒトへの影響  DeBDEに暴露された200名のヒトの被験者による感作試験においては、皮膚感作 性の証拠は見出せなかった。  結果的にはPBDDおよびPBDFに暴露されることになるDeBDE含有のポリブチ レンテレフタル酸エステル混合物の型製造作業に13年間従事した者の罹患研究では、 2,3,7,8-TeBDFおよびTeBDDが血液中で検出されたが、何の有害影響も発現しなか った。免疫研究の結果は、暴露作業者の免疫システムは13年間の間、有害影響を受 けなかったことを示した。  2.8 実験室および野外の他の生物類への影響  3種類の海産単細胞藻類の成長に対するEC50s(50%影響発現濃度)は、1mg  DeBDE/lより高い数値であった。この他、実験室および野外における他の生物への 影響についての情報は入手できない。  2.9 結   論  2.9.1 DeBDE  DeBDEはポリマー類に難燃添加剤として混合されて広く使用されている。一般集 団の人々は、これらのポリマーを用いた製品と接触する。DeBDEはポリマーから容 易に抽出出来ないため、その暴露は極めて少ない。DeBDEの急性毒性は非常に低く、 消化管よりの吸収もほとんどない。従って、DeBDEの一般集団へのリスクは重大と は考えられない。  DeBDEの職業暴露は微粒子の形態をとる。製造および使用中の粉塵対策により、 作業者のリスクは十分に低減させ得るであろう。  DeBDEは難分解性で、環境中の粒子状物質と結合し堆積物中に蓄積すると考えら れる。また、生物濃縮はしないようである。これまでの証拠では、水中における環境 内光分解は、低濃度の臭素化ジフェニルエーテル類あるいは臭素化ジベンゾフラン類 の生成に導くことはないことを示唆しているが、他の媒体中での分解について知られ ていることは少ない。環境中の生物類に対するDeBDEの毒性についての情報は極め て少ない。  2.9.2 分解生成物  DeBDEあるいはそれを含む製品を300〜800℃に加熱した場合、ポリ臭素化ジベ ンゾフラン(PBDF)と、ある程度のポリ臭素化ジベンゾダイオキシン(PBDD)が 生成される。これらに関連する有害性への対応が必要である。  適切に制御された焼却においては、多量の臭素化ダイオキシン類びフラン類を排出 することはない。DeBDEを含有する製品の無制御の焼却は、定量困難な PBDF/PBDDの発生をもたらすであろう。これら両物質のヒトおよび環境に対する 重要性については、環境保健クライテリア(Environmental Health Criteria, WHO) において今後取り上げられるであろう。  PBDFは、DeBDE含有プラスチックの生産に従事していた作業員の血液中で検出 されているが、この暴露に関連する健康への有害影響はなかった。適切な技術的制御 は、PBDFへの作業者の暴露を防止することができる。  2.10 勧   告  2.10.1 一 般  ・DeBDEとそれを含む製品の製造に従事する作業者は、適切な産業衛生対策、職 業暴露のモニタリング、制御技術の適用により、その暴露より防護されねばならない。  ・その化合物および製品を使用する企業内においては、その排水あるいは排気に対 する適切な処理を通じて環境暴露を最小にすべきである。この難分解性の物質とその 分解生成物による環境汚染を最小にするため、産業廃棄物および消費者用商品の投棄 を規制しなければならない。  ・生産者は、用い得る最善の技術により、市販DeBDE製品の不純物の濃度を最小 にすべきであり、97%以上の純度が勧告される。  ・焼却は、常に最良の状態で運転されるよう適切に建設された焼却施設においての み実施されるべきである。これ以外の方法による焼却はPBDFおよびPBDDの生成 を招くであろう。  2.10.2 今後の研究  ・堆積物に結合したDeBDEの生物学的利用能(bioavailability)および毒性につ いて、適当な生物種により、今後研究すべきである。  ・環境中濃度の継続的モニタリングが必要である。  ・実際の火災条件下でのポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)の発生について研究 すべきである。  ・水中以外の環境媒体中での生分解、光分解について研究すべきである。  ・DeBDE含有ポリマーの再利用の方法と影響についての研究を実施すべきである。  ・種々の物質中のDeBDEの分析手法の有効性を確認すべきである。  2.11 国際機関によるこれまでの評価  国際がん研究機関(IARC)(1990)による評価では、実験動物におけるDeBDE の発がん性については限定的な証拠が存在する、との結論が下された。ヒトにおける DeBDEの発がん性の研究からのデータは入手できない。総合評価:DeBDEはヒト に対する発がん性を有するとはいえない(グループ3)。


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3.ノナブロモジフェニルエーテル(NBDE) (化学式:C12HB9O)    ノナブロモジフェニルエーテルは、製造も使用もされていない。次の事項について のデータは入手できない。  ・環境中の移動、分布、変質。  ・環境中の濃度およびヒトの暴露。  ・実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝。  ・実験用哺乳類およびin vitro(試験管内)試験系への影響。  ・ヒトへの影響。  ・実験室および野外における他の生物類への影響。  ・国際機関によるこれまでの評価。  3.1 要約および評価  評価を実施するためのデータベースは存在しない。  3.2 勧   告  環境汚染とヒトの暴露を避けるため、臭素化難燃剤・防炎剤製品中へのノナブロモ ジフェニルエーテルの混入を極力少なくすべきである。
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4.オクタブロモジフェニルエーテル(OBDE) (化学式:C12H2Br8O)   純品のオクタブロモジフェニルエーテルは、製造も使用もされていない。次の事項 についてのデータは入手できない。  ・実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝。  ・ヒトへの影響。  ・実験室および野外における他の生物類への影響。  ・国際機関によるこれまでの評価。  4.1 物質の同定、物理的・化学的特性  市販のOBDEは、約11%のPeBDE/HxBDE、44%のHpBDE、31〜35%のOBDE、 10%のNBDE、0.5%のDeBDEの混合物である。化学構造に基づくと、OBDAには 12種類の異性体が、またHpBDEには24種の異性体が存在する。  融点は、約80℃から200℃以下までに分布する。蒸気圧は10−7 mmHg以上で ある。水中における溶解性は低く、n−オクタノール/水分配係数(log Pow)は5.5 以下である。上記の物理的データにおける変動は、試験された混合物の組成の差異に よって説明されよう。  4.2 生産と用途  世界における市販のOBDEの年間消費量は6,000トンで、その70%はコンピュー ターおよび事務用キャビネット生産のためのABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジ エン・スチレン樹脂)中の難燃剤として用いられる。OBDEは2番目に広く使用され るポリ臭素化ビフェニルエーテル(PBDE)難燃剤である。  4.3 環境中の移動・分布・変質  市販OBDEの成分は、水中堆積物およびヒトの脂肪内において見出されている。 市販OBDEの一部の低臭素化合物(HxBDEおよびPeBDE)は、自然界の生物相 (biota)内においても見出されている。OBDEは検出されていないが、HpBDEお よびNBDEは一般には調べられていない。市販OBDE成分は難分解性のように見え るが、臭素化がHxBDEを越えると生物濃縮は増加しないように見える。市販OBDE 製品のコイにおける生物濃縮係数は2以下である。OBDEおよび難燃剤としてOBDE を含むポリマーの600℃における熱分解(Sb2O3の共存の有無にかかわらず)で は、ポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)およびかなり低い濃度のポリ臭素化ジベン ゾダイオキシン(PBDD)の生成が示された。OBDE/Sb2O3を含むABSの種々 の条件下の試験において、通常の条件下では極めて低濃度のPBDFが生成された。 異常条件下では、その濃度はずっと高い濃度が示された。これら双方の場合における PBDD濃度は低いことが認められた。  4.4 環境中濃度およびヒトの暴露  1987〜1988年に日本で採取された水のサンプルからは、市販OBDE中のOBDE および低臭素化成分は検出されなかった。堆積物サンプルの分析も実施され、サンプ ルの2〜6%において濃度範囲8〜22μg/kg乾燥重量のOBDEが検出された。低 臭素化合物も堆積物中から検出された。  OBDEは、1987〜1988年に日本で採取された魚類サンプル中には検出されなかっ た。  米国においては、1987年にヒトの脂肪サンプル中のポリ臭素化ジベンゾフラン (PBDF)およびポリ臭素化ジベンゾダイオキシン(PBDD)の存在が調査された。 ここでは、865の標本から48組の混成サンプルが作られた。この混成デザインは9 の人口調査区分と3歳毎のグループに基づいている。これらのサンプル中において、 PBDEも同定され、予備的な試験結果では60%の頻度で、また8,000 ng/kg以上の 濃度のOBDEの存在が見出された。  4.5 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  入手し得るデータはない。  4.6 実験用哺乳類および     in vitro(試験管内)試験系への影響  市販OBDEの実験用哺乳類に対する急性毒性は低い。本物質は皮膚に対して刺激 性を示さず、ウサギの眼への刺激もごく軽微である。ラットでの短期毒性試験(4週 間および13週間)では、100mg/kg食餌の投与において、肝重量の増加と、顆粒構 造を含む小葉中心付近と中間帯の肝実質細胞の拡張によって判定された顕微鏡的変 化が認められた。これらの肝臓の変化は、1,000および10,000mg/kg食餌のような高 用量において顕著であった。さらに、甲状腺の肥厚も見られた。組織中の臭素の含有 総量は試験期間中に増加し回復期には徐々に減少した。この肝臓の変化は可逆性であ った。OBDEの微粒子粉塵の吸入試験(8時間/日、連続14日間)において、1.2mg/m 3 の暴露による影響はなかったが、12 mg/m3 の濃度では経口投与試験において 見られ肝臓の変化が生じた。  比較的低用量の市販OBDEは、ラットにおいてチトクロームP450を増加させ、 ウリジンニリン酸(UDP)グルクロン酸トランスフェラーゼ(転移酵素)およびベン ツピレン・ヒドロキシラーゼのような肝臓ミクロソーム酵素類を誘発させた。また、 市販OBDEは、ヒナ胎芽肝細胞の培養においてポルフィリン生成作用を誘発させた。  ラットにおけるOBDEの催奇形性においては、高用量(25.0および50.0mg/kg体 重)では骨吸収(訳者注:骨組織の除去)、種々の骨形成の遅滞、胎児奇形が観察さ れた。この奇形は25mg/kg体重以上の用量において認められ、母獣の毒性に最も大 きく関連するようである。これらの変化は15.0mg/kg体重以下では見られなかった。 ウサギについては催奇形性の証拠はなかったが、胎児毒性は母獣毒性濃度を示した 15mg/kg体重において認められた。催奇形性研究では2.5 mg/kg体重の濃度で影響は なかった。  ラットによる28日および90日の研究では、100 mg/kg食餌のOBDE(5mg/kg 体重に相当)は肝臓に最小の影響を誘発した。無影響量は確立されていない。  不定期DNA合成試験、in vitro(試験管内)細菌試験、チャイニーズハムスター卵 巣細胞の姉妹染色分体交換を含む変異原性試験の結果は、すべて陰性であった。  長期発がん性試験の結果は入手できない。  4.7 ヒトへの影響  データは入手できない。  4.8 実験室および野外の他の生物類への影響  ごくわずかのデータしか入手できない。  4.9 結   論  4.9.1 OBDE  市販のOBDEは、ヘキサ−、ヘプタ−、オクタ−、ノナブロモジフェニルエーテ ルの混合物であり、それらのすべては環境中で難分解性であり、大部分は堆積物と結 合している。  OBDEは添加難燃剤としてポリマー類中に広く混合されている。一般集団の人々は、 これらのポリマー類から作られた製品と接触するが、ポリマー類からの溶出による暴 露はないと考えられる。  OBDEの急性毒性は低い。哺乳類における本物質の取り込みと喪失についての情報 はない。OBDEには、催奇形性および変異原性はない。長期毒性および発がん性研究 の結果は入手できない。市販OBDEのいくつかの構成成分は、ヒトの脂肪組織中で 同定されている。一般集団に対する急性リスクは低いように見える。長期暴露のリス ク・アセスメントは、適切な毒性試験を欠くため不可能である。  OBDEの職業暴露あるいは影響についての結論を下すための情報は入手できない。  環境中の生物類に対するOBDEの毒性についての情報は限られている。低臭素化 の市販OBDE混合物の成分は、生物類中で生物濃縮を起こすであろう。  4.9.2 分解生成物  PBDFおよびある程度のポリ臭素化ジベンゾダイオキシン(PBDD)は、OBDEあ るいはそれを含む製品を400〜800℃に加熱した場合に生成されるであろう。これに 関連する有害性に対処しなければならない。  難燃剤を配合したポリマー中のポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)不純成分によ る一般集団の暴露は重大ではないようである。適切に管理された焼却においては、多 量の臭化ダイオキシン類およびフラン類の排出を招くことはないであろう。市販 OBDE含有製品の管理されていない燃焼は、測定不能の量のポリ臭素化ジベンゾフラ ン/ポリ臭素化ジベンゾダイオキシン(PBDF/PBDD)を発生させるであろう。ヒト と環境に対するこの重要な問題については、PBDF/PBDDについて今後発行される 将来の環境保健クライテリア(WHO: Environmental Health Criteria)により対応 されるであろう。  4.10 勧   告  4.10.1 一 般  ・ヘキサ−および低臭素化同族体の濃度を最小にし、それらの環境中における生物 濃縮を避けるために、市販OBDEの製造には用い得るベストの技術を用いなければ ならない。    ・OBDEおよびそれを含む製品の製造に従事する作業者は、適切な産業衛生的対策、 職業的暴露のモニタリング、制御技術により暴露から防護されねばならない。  ・本物質あるいは製品を使用する産業における放出と排出の適切な処理を通して、 環境中での暴露を最小にすべきである。この持続性のある物質とその分解産物による 環境汚染を最小にするため、産業廃棄物と商品の投棄を規制すべきである。  ・OBDEを含む難燃物質の焼却は、一貫して最適条件で運転され適切に建設された 焼却設備によってのみ実施すべきである。他の方法による燃焼はPBDFおよび/ま たはPBDDの生成を導くであろう。  4.10.2 今後の研究  現有の毒性データベースは、市販OBDEのヒトおよび環境に対する有害性を評価 するためには不十分であるため、その利用を助けるために、次の研究を実施しなけれ ばならない。  ・市販OBDEの堆積物との結合成分の生物学的利用能(bioavailability)および生 態学的毒性(ecotoxicity)についての適切な生物を用いた検討。  ・市販OBDE成分の環境中濃度のモニタリングの拡充。  ・市販OBDEの長期毒性および発がん性研究。  ・市販OBDEの職業暴露のモニタリング。  ・実際の火災条件下におけるポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)の発生について の追加的検討。  ・水以外の環境媒体中における生分解および光分解の追加的研究。  ・OBDE含有ポリマー類の再利用の手法と影響に関する研究。  ・各種媒体中のOBDEの分析手法の確認。  ・各種のポリマー類よりの原子(イオン)の移動(migration)の可能性の研究。
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5.ヘプタブロモジフェニルエーテル(HpBDE) (化学式:C12H3Br7O)   ヘプタブロモジフェニルエーテルは、製造あるいは使用されてはいない。 純品 のHpBDEについて、評価を行うためのデータベースは存在しない。  次の事項についてのデータは入手できない。  ・実験動物およびヒトにおける体内動態および代謝  ・ヒトへの影響  ・実験室および野外におけるその他の生物類への影響  ・国際機関によるこれまでの評価  HpBDEは市販のオクタブロモジフェニルエーテルの主要成分であるため、市販 OBDEの要約、評価、結論、勧告は「市販」HpBDEと関連を有する。 6.ヘキサブロモジフェニルエーテル(HxBDE) (化学式:C12H4Br6O)  ヘキサブロモジフェニルエーテルは製造も使用もされていないが、市販の臭素化ジ フェニルエーテルの汚染物質として存在する。環境汚染およびヒトの暴露を避けるた め、ヘキサブロモジフェニルエーテルの濃度は最低にすべきである。  評価を行うためのデータベースは存在しない。  次の事項についてのデータは入手できない。  ・実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響  ・ヒトへの影響  ・実験室および野外およびその他の生物類への影響  ・国際機関によるこれまでの評価
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7.ペンタブロモジフェニルエーテル(PeBDE) (化学式:C12H5Br5O)  ペンタブロモジフェニルエーテルは、製造も使用もされていない。  次の事項についてのデータは入手できない。  ・ヒトへの影響  ・実験室および野外におけるその他の生物類への影響  ・国際機関によるこれまでの評価  7.1 物質の同定、物理的・化学的特性  市販のペンタブロモジフェニルエーテル(PeBDE)は、テトラ−、ペンタ−、ヘ キサブロモジフェニルエーテルの混合物である。それは約50〜60%のPeBDEと24 〜38%のTeBDEを含有している。化学構造に基づくと、PeBDEには46種の、また TeBDEには42種の異性体が存在する。市販製品には、2,2',4,4',5−PeBDE、 2,2',4,4'-TeBDE、5個の臭素を有する未同定の同族体の3種類の成分を含むようであ る。  その融点は−7〜−3℃、沸点は200℃以上である。蒸気圧は低く、10−7mmHg 以下で、水への溶解性は無視し得る。n−オクタノール/水分配係数(log Pow)は6 以上である。  7.2 生産と用途  PeBDEは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、繊維 類の添加剤として用いられる。世界における消費量は年間約4,000トンである。これ は主要な市販の臭素化ジフェニルエーテル難燃剤の一つである。  7.3 環境中の移動・分布・変質  市販PeBDEの成分は、生物相、堆積物、下水汚泥サンプル中から検出されている。 市販のPeBDEは、難分解性で生物濃縮性を有するようである。PeBDEのコイにお ける生物濃縮係数は10,000以上であることが見出されている。  市販PeBDEの熱分解研究では、PBDFおよびPBDDの生成が示された。PBDF およびPBDD生成の最適温度は700〜800℃であった。酸素の存在しない場合におけ るPeBDEの熱分解では、ポリブロモベンゼン類、ポリブロモフェノール類、PBDF が生成された。  7.4 環境中濃度およびヒトの暴露  日本において採取された河川および河口の底質サンプルでは、PeBDEはゼロ(検 出限界の2μg/kg以下)から28μg/kg乾燥重量までの範囲の濃度が示された。ス ウェーデンにおいては、ある河の堆積物サンプル中の濃度は1,200μg 2,2',4,4','5− PeBDE/kgであった。  1981〜1985年の間に、日本の各所の海岸で収集されたムラサキガイおよび魚類で は、5件のムラサキガイのサンプルの中で2件から0.4および2.8 μg PeBDE/kg湿 重量の濃度が発見された。PeBDEは魚類中からは検出されなかった(測定限界0.2 μg/kg)。新鮮重量ベースで1.9〜22μg/kgの濃度が、北海のタラの肝臓サンプル において報告されている。スウェーデンにおいては、濃度7.2〜 64 μg 2,2',4,4',5 −PeBDE/kg脂肪が、異なる場所で収集された淡水マスおよびニシンで見出された。  1979〜1985年に、スウェーデンにおいて収集されたリング(ringed)・アザラシ とグレー・アザラシのプールした脂肪では、それぞれ平均濃度1.7μgおよび40μg 2,2',4,4',5−PeBDE/kg脂肪が含まれていた。  1985〜1986年にスウェーデンで収集されたウサギ、アメリカヘラジカの筋肉のプ ールされたサンプルと、トナカイの硬質脂肪(suet)サンプルでは、それぞれ0.3μ g以下、0.64μg、0.26 μgの 2,2',4,4',5−PeBDE/kg脂肪が測定された。  スウェーデンで1982〜1986年に収集されたミサゴ(鳥)の筋肉では、平均濃度140 μgの2,2',4,4',5−PeBDE/kg脂肪が見出された。バルト海のウミガラス(海鳥) の卵における2種類のPeBDE異性体の濃度では、過去10年間に1桁の増加が認め られた。スウェーデン南部の湖のカワマス中のこれらの異性体の濃度も増加を示した (約4倍)。  採取年度を代表するバルト海の堆積物においても、過去10年間において相当量の 増加が示された。  ヒトの暴露についての情報は極めて少ないが、魚類の摂取を通じてのスウェーデン 人に対する概算の推定では、0.1 μg PeBDE/人/日の取り込みが示唆されている。  7.5 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  PeBDEの半減期については、ラットの腎臓周辺の脂肪について研究されているに 過ぎない。その平均の半減期は25〜47日の間であり、動物の性別と測定された異性 体に依存している。  7.6 実験動物および     in vitro(試験管内)試験系への影響  ラットに対する市販PeBDEの経口による急性毒性は低く、ウサギにおける皮膚毒 性も低い。ラットにおけるPeBDEの短期吸入暴露およびウサギの結膜嚢への暴露で は、軽微で一過性の影響を生じさせるに過ぎない。  ラットによる短期毒性研究(4週間および13週間)では、100mg/kg食餌の濃度 により肝重量の増加と軽度の組織学的変化を生じさせた。その変化は顆粒状の外見を 有する肝実質細胞の拡大と、含まれる好酸性の「円形体」(round body)より構成さ れている。用量に関連する肝臓内の総臭素含有量の増加が起こり、上昇した濃度は24 週間持続した。また、可逆性の甲状腺の軽度の肥厚が認められた。  肝酵素の誘発とチトクロームP450の増加が、PeBDE 0.78 μmol/kg体重/日の 用量の経口投与後に起こった。催奇形性および変異原性試験の結果は陰性であった。  長期/発がん性試験は報告されていない。  7.7 ヒトへの影響  データは入手できない。  7.8 実験室および野外の生物類への影響  ごくわずかのデータは入手可能である。  7.9 結   論  7.9.1  PeBDE  市販のPeBDE(24〜38%のテトラ−、50〜60%のペンタ−、4〜8%のヘキサブ ロモジフェニルエーテルの混合物)は、難分解性で環境中の生物類中に蓄積する。  市販PeBDEは、添加難燃剤としてポリマー類に混合されて、広く用いられている。 一般集団は、これらのポリマーの製品を通じて接触する。ポリマー類からの抽出はな いようである。この物質は、魚類、貝類のようなヒトの食品類となる環境中の生物類 から検出されているため、食物連鎖を通じてPeBDEのヒトへの暴露はおこるであろ う。スウェーデン産の魚類、鳥類においては、過去20年にわたり、その濃度の増加 が測定されてきた。  市販PeBDEの急性毒性は低い。哺乳類におけるこの物質の取り込みと喪失につい ての情報はない。生殖、長期毒性、発がん性試験の結果は入手できない。  一般集団へのリスクは、入手し得るデータでは決定できない。  市販PeBDEの職業暴露濃度あるいはその影響についての結論を下すための情報は 入手できない。  環境中の生物類に対する市販PeBDEの毒性についての情報は限られている。  7.9.2 分解産物  ポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)およびある程度のポリ臭素化ジベンゾダイオ キシン(PBDD)は、PeBDE(あるいはこれを含有する製品)を400〜800℃に加熱 する際に生成される。これに関係する危険についての対応が必要である。  PeBDEを用いた難燃性ポリマー中のPBDFへの一般集団の暴露は、あまり重大で はないようである。適切に管理された焼却方法では、多量の臭素化ダイオキシン類お よびフラン類を排出することはない。しかし、PeBDE含有製品の無制御の燃焼は、 PBDF/PBDDの発生を招くことになる。このヒトおよび環境にとっての重大事に対 しては、将来発行されるPBDF/PBDDのEHC(WHO:環境保健クライテイア)に より対処されるであろう。  7.10 勧   告  7.10.1 一 般  環境中における難分解性および生物類中での蓄積は、市販PeBDEは使用すべきで はないことを示唆している。しかし、もし使用が継続されるならば、次の諸点を考慮 しなければならない。  ・PeBDEおよび本化合物を含む製品の製造従事者は、適切な産業衛生対策、職業 暴露のモニタリング、制御技術の採用によって、暴露から防護されねばならない。  ・本化合物および製品を使用する産業における放出と排出の適切な処理により、環 境中での暴露を最小にすべきである。この難分解性で蓄積性の物質とその分解産物に よる環境汚染を最低にするため、産業廃棄物と商品の投棄を規制すべきである。  ・PeBDEを含む難燃物質の焼却は、一貫して最適条件で運転され、適切に建設さ れた焼却設備によってのみ実施すべきである。他の方法による燃焼は毒性分解産物の 生成を招くであろう。  7.10.2 今後の研究  ・環境中濃度の継続的モニタリングが必要である。  ・各種媒体中のPeBDEの分析手法を確認すべきである。  ・現在の毒性学的データベースは、市販PeBDEのヒトおよび環境に対する有害性 の評価には不十分であるため、その利用を助けるためには、次の研究を実施すべきで ある。  −毒性学、発がん性、生態毒性学の追加的研究  −実際の火災条件下でのPBDFの発生についての追加的検討  −PeBDE含有のポリマー類の再利用の方法と影響の研究  −難燃性製品からの原子(イオン)の移動の可能性の研究
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8.テトラブロモジフェニルエーテル(TeBDE) (化学式:C12H6Br4O)  テトラブロモジフェニルエーテルは製造も使用もされていない。  次の事項についてのデータは入手できない。  ・実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響。  ・ヒトへの影響。  ・実験室および野外におけるその他の生物類への影響。  ・国際機関によるこれまでの評価。  8.1 物質の同定、物理的・化学的特性  市販のテトラブロモジフェニルエーテルは、41%のテトラ−、45%のペンタ−、7% のヘキサブロモジフェニルエーテル、7%の未知の構造のPBDEより構成されてい る。化学構造に基づくと、テトラブロモジフェニルエーテルには42種類の異性体が 存在する。物理的・化学的特性については、n−オクタノール/水分配係数(log Pow) の5.87 〜 6.16以外のデータはない。  8.2 生産と用途  日本におけるTeBDEの1987年の生産(使用)量は約1,000トンとの報告がある。 テトラブロモジフェニルエーテルの名での現在の生産量は不明であるが、TeBDEは 市販ペンタブロモジフェニルエーテルの24〜38%の量を占めている。  8.3 環境中の移動・分布・変質  市販TeBDEの成分は、生物相、堆積物、下水汚泥サンプル中で発見されている。 市販のTeBDE成分(ほぼ同量のPeBDEを含む)は難分解性で生物濃縮されるよう である。  市販TeBDEの熱分解試験においては、ポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)およ びポリ臭素化ジベンゾダイオキシン(PBDD)は800℃での生成が示された。より高 温ではPBDFおよびPBDDは見出されなかった。  8.4 環境中濃度およびヒトの暴露  TeBDEは、日本の川の堆積物中で12〜31μg/kg乾燥重量の濃度が、またスウェ ーデンでは840 μg/kg熱灼減量(ign. loss)(訳者注:物質を強熱した場合の質量 の減少量)以上の濃度が検出されている。また、TeBDEはスウェーデンの下水汚泥 中でも15 μg/kgの濃度で検出されている。  日本の各所で採集されたムラサキガイおよび魚類では、0.1〜14.6μg 2,2',4,4'- TeBDE/kg湿重量の濃度範囲のTeBDEが含まれていた。スウェーデンにおいては、 種々の魚類が河川から採集され、2,2',4,4'-TeBDEについて分析された。平均濃度は、 不検出(ND)(0.1 mg/kg以下)から110 mg/kg脂肪の範囲であった。この分析は、 特定の河川において少なくとも1ヵ所の汚染発生源の存在を示している。スウェーデ ンの各所において、1986〜87年に採取されたマス、北極イワナ、ニシンには、それ ぞれ15、400、59〜450μg 2,2',4,4'-TeBDE/kg脂肪の濃度で含まれていた。ドイツ の河で採取された魚類では1mg TeBDE/kg脂肪以上が含まれていた。  1983〜89年の期間に、北海の南部・中央部・北部において収集されたニシンおよ びタラの肝臓において、TeBDE濃度の減少傾向が南部から北部にかけて見出された。 ニシンにおいては、8.4〜100μg 2,2',4,4'- TeBDE/kg脂肪が検出された。  バルト海、北海、スピッツベルゲン諸島(訳者注:北極海のノルウェー領の群島) において営巣越冬する鳥類の筋肉組織は、80〜370 μg 2,2',4,4'- TeBDE/kg脂肪を 含有していた。スウェーデンで1982〜86年の間に採取されたミサゴ(鳥)には、平 均濃度で1,800μg/kg脂肪が含まれていた。バルト海の堆積物、スウェーデンの淡 水魚類および海鳥の卵においては、2,2',4,4'- TeBDEの濃度の増加傾向が示されてい る。  バルト海およびスピッツベルゲン諸島において採取されたアザラシの脂肪では、10 〜730 μg 2,2',4,4'-TeBDE/kgの濃度が示された。PBDEのクロマトグラムのパター ンはBromkal 70−5(訳者注:難燃剤の商品名)に類似していた。スウェーデンで 1979〜85年に収集されたリング(ringed)・アザラシおよびグレ−・アザラシのプ ールされた脂肪サンプルでは、それぞれ47μgおよび650μg  2,2’,4,4'- TeBDE/kg脂肪の濃度を示した。  スウェーデンにおいて1985〜86年に採取されたウサギ、アメリカヘラジカ、トナ カイなどの陸生哺乳類のプールされた筋肉サンプルでは、平均濃度として2以下で、 それぞれ、0.82、0.18μgの2,2',4,4'-TeBDE/kg脂肪が示された。  Bromkal 70DEとして測定された2.5〜4.5 μg/kg脂肪の濃度が、ドイツにおける 牛乳の4サンプル中で発見された。Bromkal 70DEとしてのPBDEは、ドイツの25 名の女性の母乳中に0.62〜11.1μg/kg脂肪の範囲の濃度で見出された。スウェーデ ン人の魚類消費を通じての暴露のラフな推算では、0.3 μg TeBDE/人/日の取り 込み量が示唆されている。  8.5 実験用哺乳類および     in vitro(試験管内)試験系へ の影響  TeBDEそのものについてのデータはないが、41%のTeBDEを含む市販のPeBDE についての急性および短期試験のデータは入手できる。  8.6 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  最小限の(minimal)データしか入手できない。  8.7 ヒトへの影響  データは入手できない。  8.8 実験室および野外の生物類への影響  データは入手できない。  8.9 結   論  8.9.1 TeBDE  TeBDEの成分類(41%の2,2',4,4'−テトラ、45%の2,2',4,4',5'−ペンタ、7%の ヘキサ、未知の構造物質を含む7〜8%のポリ臭素化ジフェニルエーテル類の混合 物)は難分解性で環境中の生物類に蓄積される。  ペンタブロモジフェニルエーテルの構成成分としてのTeBDEは、添加難燃剤とし てポリマー類に広く混合されている。一般集団はこれらのポリマー類から作られた製 品と接触する。ポリマー類からの溶出はないと考えられる。この物質は、魚類・貝類 などのヒトの食品となる環境中の生物類から検出されているため、食物連鎖を通じて のTeBDEのヒトへの暴露は起こるであろう。スウェーデンの魚類および鳥類におい ては、過去20年間にわたりその濃度の上昇が測定されている。  短期、長期毒性/発がん性、生殖への影響に関する情報は欠けている。さらに、実 験動物およびヒトにおける体内動態についての情報も入手できない。  一般集団に対するリスクは、入手し得るデータをベースとしては決定できない。  TeBDEの職業暴露あるいはその影響について、その結論を下すための情報は入手 できない。  環境中の生物類に対する市販TeBDEの毒性データは入手できない。  8.9.2 分解生成物  ポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)およびポリ臭素化ジベンゾダイオキシン (PBDD)は、TeBDEが800℃までに加熱される場合に生成される。これに関連す る有害性に対処しなければならない。  難燃剤TeBDE混合のポリマー類中のPBDFによる一般集団の暴露は重大ではない ようである。適正に管理された焼却施設では、多量の臭素化ダイオキシン類およびフ ラン類を排出することはない。TeBDE含有製品は管理されない燃焼施設は、定量不 能の量のPBDF/PBDDを発生させる。ヒトおよび環境の双方に対するこの重要問題 については、将来発行される環境保健クライテリア(WHO: Environmental Health Criteria)において取り上げられるであろう。  8.10 勧   告  8.10.1 一 般  TeBDEは、環境中で難分解性を示し、生物類中で蓄積されるため、使用すべきで はないと勧告する。しかし、その使用が継続されるならば、次の諸点を考慮に入れな ければならない。  ・TeBDEおよび本化合物を含む製品の製造従事者は、適切な産業衛生対策、職業 暴露のモニタリング、制御技術の採用により、暴露から防護されねばならない。  ・本化合物および製品を使用する産業における放出と排出の適切な処理により、環 境中での暴露を最小にすべきである。この難分解性と蓄積性のある物質とその分解産 物による環境汚染を最低にするため、産業廃棄物と商品の投棄を規制すべきである。  ・TeBDEを含む難燃物質の焼却は、一貫して最適条件で運転され、適切な焼却設 備によってのみ実施すべきである。他の方法による燃焼は、フラン分解産物の生成を 招くであろう。  8.10.2 今後の研究  ・環境中濃度の継続的モニタリングが必要である。  ・各種媒体中のTeBDEの分析手法を確認すべきである。  ・現在の毒性学的データベースは、市販TeBDEのヒトおよび環境に対する有害性 の評価には不十分であるため、もしその使用が継続されるならば、次の研究を実施し なければならない。    −毒性学、発がん性、生態毒性学の追加的研究    −実際の火災条件下でのPBDFの発生についての追加的研究    −TeBDE含有ポリマー類のリサイクルの方法と影響の研究    −難燃性製品よりの原子(イオン)の移動の可能性の研究
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9.トリブロモジフェニルエーテル(TrBDE) (化学式:C12H7Br3O)  トリブロモジフェニルエーテルは、製造も使用もされていない。  次の事項についてのデータは入手できない。  ・環境中の移動・分布・変質  ・実験動物およトにおける体内動態と代謝  ・実験用哺乳類およびin vitro(試験管内)試験系への影響  ・ヒトへの影響  ・実験室および野外におけるその他の生物類への影響  ・国際機関によるこれまでの評価  9.1 要約および評価  評価を行うためのデータベースは存在しない。  9.2 勧   告  環境汚染およびヒトヘの暴露を避けるため、トリブロモビフェニルエーテルを含む 市販製品の汚染濃度を最低にすべきである。  環境汚染を招く、このような市販製品の使用は避けなければならない。 10.ジブロモジフェニルエーテル(DiBDE) (化学式:C12H8BrO)  ジブロモジフェニルエーテルは、製造も使用もされていない。  次の事項についてのデータは入手できない。  ・実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  ・ヒトへの影響  ・実験室および野外におけるその他の生物類への影響  ・国際機関によるこれまでの評価  10.1 要約および評価  評価を行うためのデータベースは存在しない。  10.2 勧   告  環境汚染およびヒトへの暴露を避けるため、ジブロモジフェニルエーテルを含む市 販製品の汚染は最小にすべきである。  環境汚染を招く、このような市販製品の使用は避けなければならない。
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11.モノブロモジフェニルエーテル(MBDE) (化学式:C12H9BrO)  次の事項についてのデータは入手できない。  ・実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  ・ヒトへの影響  ・国際機関によるこれまでの評価  11.1 物理的・化学的特性  モノブロモジフェニルエーテルには3種類の異性体が存在する。  p−ブロモジフェニルエーテルは、沸点305〜310℃を有し、常温においては液体で ある。その水における溶解度は48mg/lと算定されている。そのlog n−オクタノール /水分配係数は4〜5である。20℃における蒸気圧は0.0015 mmHgである。  11.2 生産と用途  MBDEは難燃・防炎剤としては用いられていない。その生産は1977年に報告され ているが、その用途については不明である。  11.3 環境中の移動・分布・変質  水からの蒸発の半減期は数百日の範囲内である。  MBDEは、家庭排水中の微生物との7日間の培養においては十分には生分解され なかった。しかし、下水活性汚泥においては95%の分解が報告されている。1件の 研究では、ある系統の土壌細菌は単独の炭素源として、MBDEの分解能力がないこ とを示した。  11.4 環境中濃度およびヒトの暴露  MBDEは、米国の工業地帯近辺で採取された表層水のサンプルから検出されたが、 日本における同様な調査では発見されなかった。米国の工業プラント近くの土壌水か らも検出された。MBDEは、米国の水生堆積物、水生生物相においても検出されて いる。  11.5 実験動物およびヒトにおける体内動態と代謝  データは入手できない。  11.6 実験用哺乳類および     in vitro(試験管内)試験系への影響  MBDEには催奇形性は認められないが、急性・短期・長期毒性についてのデータ はないため、評価はできない。  11.7 ヒトへの影響  データは入手できない。  11.8 実験室および野外におけるその他の生物類     への影響  クロマス科スズキに対する96時間のLC50(50%致死濃度)は4.9mg/l、影響の認 められない濃度(NOEC)は2.8mg/lである。ミジンコに対する48時間のLC50は 0.36mg/l、NOECは0.046 mg/lであった。  11.9 結論および勧告  モノブロモジフェニルエーテルは難燃・防炎特性をもっていない。それは環境中の 生物類に蓄積し、種々の環境媒体中において検出されており、分解の証拠が存在する。  MBDEについての情報は限られているため、一般集団と環境中の生物類への暴露 濃度と影響についての結論を下すことはできない。  この物質の使用を支持する毒性学的データは存在しない。  環境汚染を招来するMBDEの使用は避けるべきである。 
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Last Updated :10 August 2000
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