環境保健クライテリア 153
Environmental Health Criteria 153

カルバリル Carbaryl

(原著358頁,1994年発行)

更新日: 1997年1月7日
1. 物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
2. 用途および暴露発生源
3. 環境中における移動および分布
4. 環境中の濃度およびヒトの暴露
5. 体内動態および代謝
6. 環境中の生物への影響
7. 実験動物およびin vitro試験系に対する影響
8. ヒトへの影響
9. 結論
10. 勧告
11. 国際機関によるこれまでの評価

→目 次



1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法
a 物質の同定
 化学式	C12H11NO2
 化学構造
3次元の化学構造の図の利用
図の枠内でマウスの左ボタンをクリック → 分子の向きを回転、拡大縮小 右ボタンをクリック → 3次元化学構造の表示変更

 分子量 201  一般名 Carbaryl(BSI)  その他の名称 alpha-naftyl-N-methylkarbamat, alpha-naphthalenyl   methylcarbamate, alpha-naphthyl methylcarbamate, alpha-naphthyl N-methylcarbamate, carbamic acid, methyl-,1-naphthylester, N-methyl-alpha-naphthyl-urethan, N-methyl-1-naftyl-carbamaat, N-methyl-1-naphthyl-naphthyl carbamate, N-methyl-1-naphthyl-carbamat, N-methylcarbamatede 1-naphtyle, N-metil-1-naftil-carbammato,1-naphthol N-methyl- carbamate, 1-naphthyl methylcarbamate, 1-naphthyl-N-methyl- carbamat 最も一般的な化学名は 1-naphthyl-N-methyl-carbamate  商品名 Arilat, Arilate, Arylam, Atoxan, Bercema, Caprolin,   Carbacine, Carbatox, Carbavur, Carbomate, Carpolin,   Denapon, Dicarbam, Dyna-carbyl, Karbaryl, Karbatox,   Karbosep, Menaphtam, Monsur, Mugan, Murvin, Oltitox,   Panam, Pomex, Prosevor, Ravyon, Seffein, Sevimol,   Sevin, Vioxan   最も一般的な商品名は Sevin  CAS名 1-naphthalenylmethylcarbamate(9CI)  CAS登録番号 63-25-2  RTECS登録番号 FC5950000 b 物理的・化学的特性 表 カルバリルの物理的・化学的特性  沸点 分解する  融点 142℃  比重(20゜) 1.23  蒸気密度 −  蒸気圧(24-25℃) 1.17 ×10-6〜3.1 ×10-7mmHg  水溶解性(30℃) 40 mg/l  オクタノール/水分配係数 1.59 〜 2.3  (log Kow)  引火点 193℃  可燃(爆発)限界 −  カルバリルは、カルバミド酸誘導体1−ナフチルN−カルバミン酸メチルの一般名 である。工業製品原体(訳者注:多少の不純物を含む)の製品は白色結晶質の固体で、 揮発性は低く、水に溶けにくく、光線および熱には安定であるが、アルカリ性の溶媒 中では容易に加水分解する。FAO(国連食料農業機関)は、β−ナフチルN−カルバ ミン酸メチルに対する0.05%の不純物限界による純度98%の最低規格を確立してい る。  カルバリルおよびその代謝産物は、薄層クロマトグラフィー法、分光光度法、ガス クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、化学イオン化質量分析法な ど多数の手法により分析される。1ナノグラム以下の検出限界も達成されており、回 収率は通常80%以上である。


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2.製造および用途 カルバリルは、ある種の浸透特性(systemic properties)(訳者注:全身性ともい う)を有し、有害生物の防除に、接触性および摂取性の殺虫剤として約30年以上使 用されてきた。主要な製造プラントは米国にある。カルバリルは290社以上の製剤会 社により、1,500種以上の製品が調製されている。
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3.環境中の移動・分布・変質  多くの条件下で、カルバリルは環境中では持続性はない。水中においては、その加 水分解半減期は、温度、pH、最初の濃度に左右され、数分から数週間までの間を変 化する。主要な分解産物は1−ナフトールである。  カルバリルの蓄積性は、水生環境において生物濃縮係数として表現され、淡水魚 の研究でその範囲は14〜75であることが見出された。カルバリルは、有機物含量の 多い土壌には砂の多い土壌よりも容易に吸着される。通常の施用比率において、農作 業規範(good agricultural practice)の遵守下では、速やかに消失し、正常の条件下 では、その半減期は8日から1ヵ月である。カルバリルは、時には降雨や土壌耕作に より、表土から下層土(地表から1メートル)に運ばれる。  カルバリルは、噴霧あるいは汚染された土壌から植物への移動により植生を汚染す る。  環境中のカルバリルの分解は、蒸発、光分解、土壌中・水中、植物中における化学 的および微生物分解の程度により決定される。その分解率は暑い気候条件下ではより 早い。
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4.環境中濃度およびヒトの暴露  一般集団にとって、カルバリルの主要な摂取源は食品である。  食事サンプルの総量中の残留は比較的少なく、痕跡程度の量から0.05mg/kgである。 米国においては、カルバリル施用の第一年目の1日摂取量は0.15 mg/日/人(合成 物の7.4%)であったが、これは1969年には0.003mg/日/人(合成物のわずか0.8%) に減少した。施用期間中には、カルバリルは表層水および貯水池で見出されるであろ う。  一般集団は有害生物の防除作業期間中に、家庭およびリクリエーション地域の双方 で、カルバリルに暴露されることがあり得る。  作業者は、その製造、製剤、包装、輸送、施用期間中およびその前後において、カ ルバリルに暴露されることがあり得る。製造時の作業環境の空気中濃度は1mg/m3  以下から30mg/m3 まで変化する。防護方法が不適切な場合には、工場および農業 作業者において、重大な皮膚暴露がおこるであろう。
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5.体内動態および代謝  カルバリルは、肺および消化管内において速やかに吸収される。ヒトのボランティ アにおいては、適用されたアセトン中の用量の45%が8時間以内に経皮吸収された。 しかし、in vitro(試験管内)の皮膚浸透データおよび毒性データは、経皮吸収では、 通常は、ずっと低い割合であることを示している。  カルバリルの主要な代謝経路は、環ヒドロキシル化および加水分解である。その結 果、多数の代謝産物が生成され、水溶性の硫酸塩、グルクロニド、メルカプチュレー トの構造と結合し易く、尿中に排泄される。加水分解は、1−ナフトール、二酸化炭 素、メチルアミンを生成する。ヒドロキシル化は、4−ヒドロキシメチルカルバリル、 5−ヒドロキシカルバリル、N−ヒドロキシメチルカルバリル、5−6−ジヒドロ− 5−6−ジヒドロキシカルバリル、1,4−ナフタレンジオルを生成する。ヒトにおけ る主要な代謝産物は1−ナフトールである。  正常な暴露条件下では、カルバリルの動物における蓄積は起こらないようである。 カルバリルは、その加水分解産物の1−ナフトールの大部分は水溶性化合物となり解 毒されるため、主として尿より排泄される。カルバリル代謝産物の腸肝循環も、とく に経口投与後では無視できない。  カルバリルの代謝産物は、吸収された用量の小部分が唾液および乳汁中に存在する。
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6.環境中の生物への影響  甲殻類に対するLC50(50%致死濃度)は、5〜9μg/l(ミジンコ、mysidエビ) から8〜25μg/l(scud)、500〜2,500μg/l(イセエビ)まで変化する。水生昆虫 も同程度の感受性の範囲を有する。Plectoptera(カワゲラ)およびEphemeroptera (カゲロウ)は最も感受性の高いグループである。軟体動物のEC50(50%影響発現 濃度)は数mg/lで、影響は受けにくい。魚類のLC50の大多数は1〜30 mg/lである。 サケ科は最も感受性の高いグループである。  鳥類に対する急性毒性は低い。水鳥および猟鳥のLD50(50%致死量)は 1,000mg/kg以上である。試験された鳥の中で最も影響を受けやすいのは、ハゴロモ カラスであった(LD50 = 56 mg/ kg)。カルバリル1.1 kg/haを噴霧した森林地区 内において、鳥類に対するフィールド影響の証拠はない。  カルバリルはミツバチおよびミミズに対して強い毒性を示す。ミツバチに対する LD50は1匹当り0.18 μg(約1〜2mg/kg)である。  カルバリルは、陸生および水生生態系の双方の生物種の構成に対し、一時的な影響 を与えるとの徴候が存在する。例えば、1件の研究では、特定の無脊椎動物の集団へ の影響は、1回の施用後少なくとも10ヵ月間持続することを示している。
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7.実験動物および   in vitro(試験管内)試験系への影響  LD50で表される急性毒性は、生物種、製剤、施用手段(vehicle)により大幅に変 わる。ラットに対する経口投与のLD50は200〜850mg/kgと算定されている。ネコ の場合はより敏感でLD50は150mg/kgである。ブタおよびサルではLD50は1,000 mg/kg以上で感受性はより低い。カルバリル・エアロゾルの最高達成濃度は、792mg 有効成分/m3 であり5匹のラットのうち1匹を死亡させる。ネコにおける 20mg/m3 の濃度のカルバリル・エアロゾルの1回4時間の暴露はコリンエステラ ーゼ活性(ChEA)を低下させたが、この濃度ではラットにおいては認められるよう な影響はなかった。  カルバリルは眼に対する軽度の刺激物質であり、感作作用は殆どない、あるいは全 く認められない。長期研究におけるNOEL(無影響量:no-observed-effect level)は、 ラットに対しては10mg/kg体重(200mg/kg食餌)、イヌに対しては1.8 mg/kg体重 (100 mg/kg食餌)であった。ネコに対する長期吸入のNOELは1.6mg/m3であ る。カルバリルの蓄積性は低い。  7.1 生 殖  カルバリルは、多種類の哺乳類の生殖と分娩前後の発育に有害影響を示す。生殖へ の影響には、受(授)精能力の障害、仔獣のサイズの減少、出産直後の産仔の生育力 の低下が含まれる。発生毒性(developmental  toxicity)は、子宮内死亡の増加、 奇形の出現として認められる。少数の研究を例外として、生殖および発育へのすべて の有害影響は、母獣に明白な毒性を発生させる用量においてのみ認められ、多くの場 合、母獣はカルバリルに対し妊娠時よりも高い感受性を示した。母獣への毒性には、 致死性、発育低下、難産が含まれる。哺乳類の生殖および発生プロセスのデータは、 成体(adult)の生物類の「影響の受けやすさ」(susceptability)と比較して,カル バリルに対して特に敏感ではないことを示している。  7.2 変異原性  カルバリルは、その変異原性について、細菌、酵母、植物、昆虫、哺乳類システム の、in vitro(試験管内)およびin vivo(生体内)の試験類により評価されてきた。  入手できた証拠は、カルバリルにはDNA損傷特性のないことを示している。有糸 分裂組み替え、遺伝子変換の誘発、原核生物(インフルエンザ菌・枯草菌)および真 核生物[酵母・チャダイゴケ目(腹菌類)、培養ヒト白血球、ラット肝細胞]のin vitro における不定期DNA合成を確認した報告はない。  2例を除き、多数の細菌試験による遺伝子突然変異試験において陰性の結果が得ら れている。in  vitroにおける哺乳類の遺伝子突然変異の数件の研究において、カ ルバリルは細胞培養研究でわずか1件の不明確な陽性の結果を示した。しかし、この 研究にはいくつかの欠陥があり、その結果は他の同類の研究により確認されていない。  カルバリルの高用量による染色体損傷は、in vitroで、ヒト、ラット、ハムスタ、 植物の細胞において報告されている。しかし、そのような影響はin vivoの哺乳類 の試験においては、1,000mg/kgの高用量においても認められていない。  カルバリルは、植物および哺乳類においてin vitroで紡垂糸メカニズムの阻害を 誘発することが示されている。植物試験のヒトへの外挿の妥当性は明らかではない。  入手し得るデータベースは、カルバリルはヒトの体細胞あるいは生殖組織の何れに おいても、遺伝的な変化を誘発するリスクをもたらすとの推定を支持するものではな い、との結論を下すことができる。  カルバリルのニトロソ化物のN−ニトロソカルバリルは、遺伝子原核生物(インフ ルエンザ菌・枯草菌)および真核生物(酵母)の遺伝子変換を、in vitroにおいて誘 発する能力を有し、大腸菌スポット試験において陽性の結果を示した。  さらに実験的結果では、N−ニトロソカルバリルはDNAと結合し、アルカリに鋭 敏な結合と一本鎖破損(single strand breakage)を生じさせる。  ニトロソカルバリルは、高い毒性用量においても、in vivoにおける染色体異常誘 発物質(骨髄および生殖細胞)としては確定されていない。  7.3 発がん性  カルバリルの発がん性については、ラットおよびマウスによる多数の研究において 検討されてきた。これらの研究の大多数の結果は陰性であったが、それらの研究は古 く、現在の基準に適合していない。しかし、マウスおよびラットを用いた最近の基準 による研究が実施中であるa)。  最新の国際がん研究機関(IARC)の評価(IARC,1987)では、ヒトにおけるがん のデータはなく、実験動物における発がん性の証拠は不十分である、との結論を下し た。カルバリルはヒトに対し発がん性を有する物質とは分類できない(グループ3)。  N−ニトロソカルバリルは、ラットの部位における腫瘍の誘発(注射部位における 肉腫あるいは経口経路により投与された場合には前胃の扁平上皮がん)を示した。ヒ トにおけるカルバリルの化学的変化では、ヒトに対するカルバリル暴露の発がん性は 無視し得るとの判断ができる。  7.4 各種の臓器およびシステムへの影響 (a)神経システム  カルバリルの神経系に対する影響は、主としてコリンエステラーゼ阻害に関連して いるが、通常は一過性である。中枢神経系への影響は、ラットおよびサルにより研究 されている。カルバリル10〜20mg/kgの用量による50日間経口投与では、学習や作 業能力が崩壊状態に陥ることが報じられている。  ブタによる小規模の研究では、カルバリル(食餌中に150mg/kg体重の用量を72 〜82日間投与)による多種類の神経筋肉上の影響発生が報告されている。高用量の カルバリルを与えられたニワトリでは、可逆性の脚の衰弱が認められた。顕微鏡検査 では、脳、座骨神経、脊髄部における髄鞘脱落の証拠は観察されなかった。同様の影 響は齧歯類の長期研究においても認められなかった。 (b)免疫システム  カルバリルは、明らかな臨床上の徴候を発生させる用量においては、免疫系に種々 の影響をもたらすことが報告されている。この影響の多くはLD50に近い用量におい て検出された。ウサギおよびマウスによる研究の大多数では、生存が許される程度の 用量において、免疫系に重大な影響は生じなかった。これらの研究のいくつかの欠陥 は、一貫性の欠如と、時には、結果の相互間に、明確な免疫毒性メカニズムの解明を 妨げるような明白な矛盾を有する点にある。 (c)血液  カルバリルは、血液の凝固作用に影響すると報告されているが、その影響の方向 (direction)については不一致(conflicts)が認められる。グルコース−6−リン酸 脱水素酵素不足のヒツジの赤血球においては、メトヘモグロビン(Met-Hb)の形成 はカルバリルの用量依存性の増加をもたらす。ヒトの血清アルブミンはin  vitro で、カルバリルのエステル・グループと反応する。カルバリルは遊離の血中アミノ酸 と結合する。 (d)肝臓  哺乳類において、炭水化物の代謝およびタンパク質合成、肝臓における解毒機能の 障害が報告されている。カルバリルは肝臓ミクロソームの薬物代謝作用の弱い誘発物 質である。フェノバルビタールによる睡眠時間は短縮される。チトクロームP-450お よびb5の肝臓内濃度は上昇する。カルバリルを事前に投与されたラットにおける肝 臓代謝の変化の一部は、カルバリルLD50の3倍の増加によるのであろう。 (e)生殖腺刺激機能  カルバリルは、ラットの脳下垂体の生殖腺刺激機能を増強すると報告されている。  7.5 毒性の主要メカニズム  カルバリルはコリンエステラーゼ活性を阻害する。この影響は用量に依存し、急速 な可逆性を示す。カルバリル化されたコリンエステラーゼには時間効果(aging)は ない。カルバリルのすべての同定された代謝産物のコリンエステラーゼ阻害作用は、 カルバリルそのものよりも多少弱い。
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8.ヒトへの影響  カルバリルは、吸入および経口経路では容易に吸収され、また皮膚経路での吸収性 はやや低い。カルバリルの作用の基本的なメカニズムは、コリンエステラーゼ(ChE) の阻害であるため、その中毒の臨床像は、気管支分泌の増加、発汗過多、流涎、流涙、 瞳孔縮小(pinpoint pupils)、気管支収縮、急激な腹痛(嘔吐および下痢)、徐脈、 微小筋肉の線維束攣縮(重症の場合は横隔膜および呼吸器筋をも含む)、頻脈、頭痛、 目まい、不安、精神混乱、痙攣、昏睡、呼吸中枢の低下などのChE阻害症状が顕著 である。中毒の徴候は吸収後迅速に発現し、暴露中止後速やかに消失する。  ヒトのボランティアによるコントロール・スタディでは、2mg/kg以下の単回用 量には十分に耐えられた。250 mg(2.8 mg/kg)の単回投与では、20分以内に中等度 のChE阻害症状(心窩部痛および発汗)を示したが、硫酸アトロピンによる治療で 症状は2時間以内には完全に回復した。  カルバリルの職業上の中毒の重症のケ−スは稀であり、危険な用量の吸収以外では 軽度の症状が観察された。農業における施用中では、皮膚暴露が重要な役割を持つで あろう。身体部位の刺激作用は通常見られないが、カルバリル製剤の偶発的な飛散の 後に皮膚発疹の発症が報告されている。  農作業者において、精子数および精子の形態変化に対するカルバリルの影響につい ては、矛盾するデータが存在する。生殖に対する有害影響は報告されていない。  カルバリル暴露の最も鋭敏な生物学的指標は、尿中の1−ナフトールの出現と、血 液中のChE活性の低下である。尿中の1−ナフトールの濃度は、もし作業環境中に 1−ナフトールが存在しない場合には、生物学的指標として利用できる。職業暴露の 場合、尿サンプルの40%が10mg以上の1−ナフトール/lを含んでいた。急性中毒 の1例では尿中に31mg/lが見出された。その危険濃度は10mg/l、症状発現濃度は 30mg1−ナフトール/l尿である(カルバリルに関するデータ・シート、WHO, 1973, VBC/DS/75.3)。  ChE活性の測定は、暴露直後に測定が実施された場合には、モニタリングの極めて 感度のよい試験として利用できる。
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9.結   論  カルバリルのヒトに対する危険性は低いと判断されるのは、低い蒸気圧、迅速な分 解、阻害されたコリンエステラーゼの自発的な回復、症状が通常体内に危険用量が蓄 積されるずっと以前に出現する事実が挙げられる。最新の基準に適合した良質の発が ん試験はいまだ入手に至っていない。  9.1 一般集団の暴露  農業において正常に使用された後に残留するカルバリルの食品および飲料水中の 残留濃度は、1日摂取許容量(ADI:acceptable daily intake)(0.01 mg/kg体重/日) よりはるかに低く、一般集団に健康上の危険を生じることはないであろう。  9.2 リスクの高い小集団  カルバリルの施用についての規則が無視された場合、家庭およびリクリエーション 地域での、公衆衛生の目的での使用は過剰暴露をもたらすであろう。  9.3 職業上の暴露  安全の予防措置、個人防護、適切な監督を含む合理的な作業規範の実施により、カ ルバリルの製造・製剤・施用の期間中の職業的暴露は危険を生じないであろう。未希 釈の濃度の場合は、不適切な作業は皮膚汚染の原因となるため、十分な注意をもって 取り扱わねばならない。作業場の空気中濃度は5mg/m3を越えてはならない。  9.4 環境への影響  カルバリルはミツバチやミミズには有害である。農作物の開花期には施用すべきで はない。  通常の使用方法では、カルバリルは環境影響をもたらさない。カルバリルは、土壌 で大部分が吸収され、地下水へは容易に浸透せず、環境中で速やかに分解され、持続 性がないため、その使用は生態系に短期的な有害な影響を生じさせることはない。
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10.勧   告  ・カルバリルの取り扱いと施用に関して、すべての農薬に課せられている留意事項 を遵守すべきである。  ・カルバリルの製造・製剤・使用・廃棄は、環境汚染を最小にすべく慎重に管理さ れるべきである。  ・日常的に暴露される作業者は定期的な健康診断を受けるべきである。  ・カルバリルの施用は、標的外の生物種への影響を避けるため、時期を選ぶべきで ある。  ・最新の基準に適合した発がん試験を実施すべきである。
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11.国際機関によるこれまでの評価  カルバリルに対する最新の国際がん研究機関(IARC)の評価は1987年に行われ た(IARC, 1987)。そこでは、ヒトにおけるがんのデータは存在せず、実験動物の 発がん性の証拠は不十分である、との結論が下された。カルバリルはヒトに対し発が ん性を有する物質には分類できない(グループ3)。  FAO/WHOの残留農薬委員会(JMPR)は、1963、1965、1966、1967、1968、 1969、1970、1971、1973、1975、1976、1977、1979、1984年の会合において、 カルバリルの評価を実施した(FAO/WHO,1964、1965、1967、1968、1969、1970、 1971、1972、1974、1976、1977、1978、1980、1985)。1973年以降、1日許容 摂取量(ADI)の0〜0.01mg/kg体重が確立されている。この算定は、次の実験デー タに基づいている。それは、ラットにおける無影響量:200 mg/kg食餌=10 mg/kg /日、イヌの場合100 mg/kg食餌=1.8 mg/kg/日、ヒトの場合0.06 mg/kg/日 (FAO/WHO, 1965, 1967, 1974)である。  カルバリルに対する最大残留量(maximum residue levels: MRLs)は、FAO/WHO により勧告されている(FAO/WHO, 1986b)(末尾の表参照)。この数値は、遊離 のカルバリル、結合カルバリル、結合ナフトール、結合メチルカルバリルの合計で表 される耐容量(tolerance level)について勧告され、カルバリルのトータルの毒性残 留物として表現されている。  WHOの労働衛生のスタディ・グループは、作業環境における暫定的な、健康準拠 の最大許容濃度として、カルバリル5mg/m3 を勧告している。暴露以前の全血、 血漿、赤血球中におけるChE活性レベルの30%阻害の生物学的限界より、この濃度 を越えるべきレベルではないとしている(WHO, 1982)。  WHOは危険性(hazard)による農薬類の分類として、正常な施用における工業製 品のカルバリルに対して中等度に危険なクラスを勧告している(WHO, 1992)。 WHO/FAO(1975)はカルバリルに関するデータ・シートを発行している(No.3)。 国際有害化学物質登録制度(International Register of Potentially Toxic Chemicals: IRPTC)は、そのシリーズ「化学物質の毒性と危険性に関するソビエト文献の科学的 レビュー」の中で、カルバリルについてのレビューを発行している (IRPTC,1982, 1989)。
表 栄養規定集(Codex Alimentaurius)により確立された
         最大残留限界(MRLs)a
          品      名	  MRL(mg/kg)
 動物飼料(グリーン・ウマゴヤシ、クローバ、トウモロコシ、	 100
 ササゲ葉、牧草、落花生干草、モロコシ・マグサ、大豆つる、
 テンサイ地上部、マメ、エンドウのつる)
 ヌカ・フスマ(小麦)	   					 20
 アンズ、キイチゴ、ボイゼンベリイ、ネクタリン、モモ、アス 	 10
 パラカス、オクラ、葉菜類(アブラナを除く)、ナッツ(まるごと)、
 オリーブの実(新鮮)、モロコシ穀物、サクランボ、プラム、
 キウイ・フルーツ
 コケモモ、ミカン果実、ツルコケモモ、イチゴ             7
 リンゴ、バナナ(果肉)、ブドウ、マメ、エンドウ(さやを含む)、  5
 アブラナ、トマト、コショウ、ナス、西洋ナシ、家禽の皮、
 大麦、オート麦、コメ(籾および玄米)、ライ麦、小麦
 キウリ、メロン(キャンタロープ種)、カボチャ           3
 根菜類(砂糖大根、ニンジン、ハツカダイコン、カブハボタン、    2
 アメリカ・ボウフウ)、落花生(ナッツ、まるごと)、
 完全小麦粉(フスマを除かず)
 綿実(まるごと)、サトウモロコシ(穀粒)、ナッツ(むきみ)、   1
 オリーブの実(加工)、大豆(成熟乾燥種子)、ササゲ
 家禽の肉、鶏卵(中身)	   				  0.5
 ジャガイモ、牛肉、ヒツジ・ヤギの肉、テンサイ、小麦粉(白)	 0.2
 牛乳および乳製品 	>				  	 0.1
 a 出典:FAO/WHO(1986b).

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Last Updated :10 August 2000
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