1.物質の同定、物理的・化学的特性、分析方法 a 物質の同定 化学式 C12H(10-x-y)Br(x+y)(xと y=1〜5) 化学構造C12Br10 の2次元および3次元の化学構造
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一般名 polybrominated biphenyls(PBBs) ──────────────────────── ポリ臭素化ビフェニルあるいはポリ臭化ビフェニル(PBBs)は、ハロゲン化され た炭化水素類のグループを意味し、ビフェニルにおいて水素の臭素への置換により生 成される。PBBsが天然産物として存在することは知られていない。それらの有する 分子式はC12H(10-x-y)Br(x+y)であり、xおよびyの双方は1〜5である。理 論的には209種類の同族体の存在が可能である。それらのごく一部が個別に合成され、 特性が解明されている。商業的用途のために製造されたPBBsは主として、ヘキサ−、 オクタ−、ノナ−、デカ−ブロモビフェニルから構成されているが、その他の同族体 も含まれる。それらは添加タイプの難燃剤であり、乾燥した固体あるいは液状ポリマ ー材料と混合された場合には、発火の際に臭化水素を化学的に放出し、難燃作用を示 すフィルタ・タイプの難燃剤となる。 PBBsは、ビフェニルを臭素と反応させて、有機溶媒の有無いずれかの条件下で、 例えば塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、鉄を触媒としたフリーデル―クラフ ツ・タイプの反応を用いて製造される。 大多数の研究は、動物の飼料に酸化マグネシウムの代わりに加えられ、ミシガン州 において惨事を引き起こしたファイアマスター(Fire Master)BP−6およびFF− 1(商品名)について実施された。この農場家畜の汚染の結果、数千頭の畜牛、豚、 羊、数百万羽の鶏の死亡が発生した。 ファイアマスターの組成はバッチ(製造単位)毎で違うが、主な成分は2,2',4,4',5,5' −ヘキサブロモビフェニル(60〜80%)および2,2',3,4,4',5,5'−ヘプタブロモビフェ ニル(12〜25%)と、不完全な臭素化反応による低級臭化化合物である。ブロモクロ ロビフェニルとポリ臭素化ナフタレンの混合物もファイアマスターの少量の成分と して認められる。ファイアマスターFF−1(白色粉末)はファイアマスターBP−6 (褐色薄片)に抗粘結剤として2%のケイ酸カルシウムを添加したものである。 PBBsは、臭素数の増加に伴い蒸発性が低下する固体である。PBBsは水にはほと んど不溶で、脂肪には溶け、各種の有機溶媒には低濃度から高濃度まで溶解し、その 溶解性も臭素数の増加に伴い低下する。これらは比較的安定しており、化学的に不活 性であるが、高度に臭素化されたPBB混合物は紫外線への暴露による還元的脱臭素 化のため光分解される。 PBBsの実験的な熱分解の生成物は、温度、使用される酸素量など多くの因子に左 右される。無酸素状態(600〜900℃)におけるファイアマスターBP−6の熱分解の 研究ではブロモベンゼン類および低級ビフェニル類が生成されたが、ポリ臭素化フラ ン類は認められなかった。これとは対照的に、酸素の存在下(700〜900℃)におい ては、ある程度のジ(di)およびヘプタブロモジベンゾフラン類が発生した。ポリス チレンおよびポリエチレンの存在下では、それらは高濃度で見出された。ファイアマ スターBP−6の800℃におけるPVC(ポリ塩化ビニル)との熱分解では、ブロモク ロロビフェニル類を生じた。PBB含有材料の燃焼産物の特性についての情報はない。 臭素化および臭素化/塩化ダイオキシン類およびフラン類の毒性についてはわずか に知られているが、それらは塩化ダイオキシン類およびフラン類とほぼ同程度と推定 されている。 環境中サンプルおよび生物学的組織、体液中のPBBsの生物学的モニタリングに用 いられる主要な分析手法は、ミシガン事故以後においては、電子捕獲検出器付き (ECD)のガスクロマトグラフィーである。個々の同族体はキャピラリー・ガスクロ マトグラフィーにより測定でき、より特殊な検出は特定イオン・モニタリング(SIM) 質量分析法により得られる。多数の同族体の存在が可能のため、研究は適切な合成標 準品がないため制約を受けている。生物学的サンプルからのPBBsの抽出方法は、農 薬の方法に基づいている。PBBsは脂肪と共に抽出され、次いで精製される。 環境中のPBBs同族体の最近の知見では、生物学的のバックグランドの濃度は必ずし も増加しているとは言えない。負イオン化学イオン化質量分析法(negative ion chemical ionization mass spectrometry)のような、より鋭敏な分析手法の開発がそ れを説明するであろう。従って、以前の研究における不足部分が特に求められている。。 クリーンアップ方法の改善によって、有害なコプラナ(co-planar、共平面性)PBB 同族体の特殊な分析が実施でき、そのようなデータも必要とされている。
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2.ヒトおよび環境の暴露源 ファイアマスターの商業生産は米国において1970年に開始された。しかしミシガ ン事件以後、その生産は中止された(1974年11月)。1970年から1976年までの 間の米国におけるPBBsの推定生産量は6,000トンである(商業用)。オクタブロモ ビフェニルとデカブロモビフェニルは、1979年まで米国で生産されていた。ブロム カル(Bromkal)80−9Dと呼ばれる高度に臭素化されたPBBsの混合物は1985 年の中頃までドイツで生産されていた。デカブロモビフェニルの工業原体(訳者注: 多少の不純物を含む)(Adine 0102)は、現在フランスで生産されている。知る限り では、これが唯一のPBBsの生産である。 PBBsは難燃剤として1970年初期に導入された。1974年11月以前は、ヘキサブ ロモビフェニルは米国において最も商業的に重要なPBBsであり、アクリロ・ブタジ エン・スチレン(ABS)プラスチックに混合され(PBB含量は10%)、主として小 型器材、自動車用塗料・コーティング・ラッカー、ポリウレタン・フォームに用いら れた。その他のPBBs難燃剤も同様の用途を持っていた。 正常な生産中のPBBsの環境中でのロスは、空気・廃水中への排出、土壌へのロス、 埋め立てを通じて起こり、それらは一般に少ないことが知られている。 これらの化学物質は、輸送および取り扱いの際にも環境中に入り、ミシガン事件の ように偶発的に起こる。 それらが環境中に入る可能性は、ポリブロモジベンゾフラン類あるいはブロモクロ ロ誘導体類混合物のような他の有害化学物質を生成させる火災事故の際のように、 PBBs含有材料の燃焼の結果としても生じる。 これらの化合物の総量の大部分は、このようにして、あるいは分解産物として、最終 的には環境中に入る。
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3.環境中の移動・分布・変質 大気中におけるPBBsの長距離移動は立証されていないが、これらの化合物が北極 アザラシの体内に存在していることは、その地理的分布が広範囲であることを示して いる。 PBBsの水生環境への既知の主要経路は、産業廃棄物投棄場所の浸出液の貯水池へ の流入と汚染土壌の侵食である。PBBsは水にはほとんど不溶で、それらは主として 汚染された湖沼や河川の底質中で見出される。 土壌汚染は、PBBsプラント地区および廃棄物投棄場所などの点発生源(point source)からはじまる。一度土壌中に入ると、PBBsは容易に移動するようには見え ない。PBBsは埋立場の浸出液には蒸留水の200倍もの溶解性を示すことが知られて いるため、環境中ではより広範囲の分布を生じさせるであろう。 PBBsのこの疎水性により、それらは水中から土壌中に容易に吸着される。PBB同 族体の選択的な吸着は、土壌の特性(例えば、有機物含有量)および臭素置換の程度 と位置に依存することが認められている。 PBBsは、安定性、持続性、親油性があり、水にはわずかにしか溶けず、同族体の 一部の代謝は少ないため、生物相の脂肪部分に蓄積される。ひとたび、それらが環境 中に放出されると、食物連鎖に達し、そこで濃縮される。 PBBsは、いくつかの地方の魚類から検出されてきた。魚類の摂取は、哺乳類およ び鳥類にとってPBB移動の原因となっている。 純粋に無生物的な化学反応(光化学反応を除く)によるPBBsの分解は起こらない と考えられる。フィールド条件下のPBBsの持続性が報告されてきた。以前にPBB が生産されていた場所や、ミシガン事件の数年後の土壌サンプルの分析では、PBB 同族体の構成は違っていたが、依然としてPBBsに汚染されており、土壌サンプル中 のPBB残滓の部分的分解を示している。 実験室の条件下では、PBBsは紫外線により容易に分解される。市販品のファイア マスター混合物の光分解は、高度に置換されたPBB同族体の濃度を減少させた。環 境中における光分解反応の割合と範囲は、フィールド観察では当初のPBBsの高度の 持続性と臭素化数の低い同族体の部分的分解を示しているが、その詳細は測定されて いない。 実験室研究においては、PBBs混合物は微生物分解にはかなりの抵抗性をもつ (resistant)ように見える。 植物によるPBBsの取り込みおよび分解の報告はない。これとは対照的に、PBBS は動物により容易に吸収され、極めて持続的であることが見出されており、少量の PBB代謝物が検出されている。主要な代謝産物はヒドロキシ誘導体であり、一部の 事例では、PBBsの部分的な脱臭素化の証拠がある。PBBsのイオウ含有代謝物の研 究報告はない。 PBBsの魚類における生物濃縮が研究されている。PBBsの陸生動物における生 物濃縮は、鳥類および哺乳類により研究されている。それらのデータは、野外観察、 ミシガン事件の評価、食餌のコントロール研究を通して得られた。一般的に、PBBs の体内脂肪への蓄積は、用量と暴露期間に依存する。 個々のPBB同族体の生物濃縮では、少なくともテトラブロモビフェニル類までは、 臭素化の程度に伴う増加が認められた。より高度に臭素化された同族体は一層より高 い濃度にまで蓄積される。しかし、デカブロモビフェニルについての情報は入手でき ないが、その吸収はわずかであることがあり得る。 臭素化ジベンゾフラン類あるいは部分的に脱臭素化されたPBBsは、PBBsの熱分解 の生成物として報告されている。それらの生成は、いくつかの変数(例えば、温度、 酸素)に左右される。
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4.環境中濃度およびヒトの暴露 空気中におけるPBB濃度については、わずか1件のリポートしか入手できない。 この研究では、米国における3カ所のPBB生産あるいは加工プラントの付近におけ る濃度が測定された。 前記と同じ場所と、1971年から1973年までの間に、PBBsを60〜70%を含む10 万トン以上の廃棄物を受け入れたグラティオット郡埋立地(米国ミシガン州)の濃度 がモニタリングの対象とされた。 グラティオット郡埋立地の地下水モニタリング・データでは、埋立地の外側におい てもPBBsは痕跡程度であることを示したが、PBBsは同地区の飲料水用の井戸から は検出されなかった。 PBBsによる土壌汚染は、PBBsの生産・使用・投棄の地区およびPBBに汚染され たミシガン州の農場の土壌において見られた。 ミシガン事件においては、ファイアマスターが不注意により動物飼料に加えられた。 その混入のエラーが発見されたのはほとんど1年後であり、分析によりPBBsが原因 であることが示された。この期間中(1973年夏〜1974年5月)、汚染された動物と その加工品はヒトの食物供給システムおよびミシガン州の環境にも入った。数百戸の 農家が影響を受け、数千匹の家畜が屠殺され、数千トンの農産物も廃棄処分のために 埋められた。 米国およびヨーロッパにおいては、魚類および鳥類などの野生生物に関する多くの PBB汚染のデータの入手が可能であり、それらは主として産業施設の付近における 水鳥および海洋哺乳類である。 米国およびヨーロッパにおける魚類、陸生および海洋哺乳類、鳥類のPBB汚染に ついての最近のリポートは、これらの化合物の広範囲の分布を示している。魚類サン プルで見出される同族体のパターンは、市販製品中のそれとはまったく異なっている。 主要なピークの多くはデカブロモビフェニル(BB 209)の光化学的脱臭素化の結果 と考えられるが、これは確認されてはいない。 職業暴露は、米国内の化学プラントの従業員、農場作業員、ミシガンPBB事件の 結果として知られている。正中動脈血清および脂肪組織中のPBB濃度は、化学工場 作業者の間ではより高かった。PBBの製造・製剤・商業的利用に関連する職業暴露 について、その他の国・会社からの情報は入手できていない。 大多数のヒトの集団について、各種の発生源からのPBBs暴露の直接的なデータは 記録されていない。汚染された飼料との直接接触、また主として肉類、鶏卵、乳製品 中のPBBsの摂取により、ヒトにおける広範囲の暴露が発生している。少なくとも 2,000家族(主として農家と隣人達)は著しい暴露を受けた。最近、ドイツでにおい ては、PBBsは牛乳およびヒトの乳汁から検出されている。 これらのサンプル中の同族体のパターンは魚類の場合とは異なっている。BB153 の濃度は魚類よりもヒトの乳汁中で高い。 一般集団へのPBBsの暴露経路は十分には知られていない。現在の知見では、大気 中および水には高濃度には含まれていないことを示している。高脂質食品、特に汚染 水を用いて製造された食品は深刻であろう。PBB難燃剤含有の資材による室内空気 および皮膚暴露の濃度についての情報はない。 ドイツで収集された母乳中から検出されたPBB同族体のパターンは、同地区の牛 乳のものと似ていたが、ヒトのサンプルの方がかなり高い値を示した。 一般集団による、食物を通してのPBBの1日摂取量の算定は、極めて少ないデー タに準拠しなければならない。もし魚類が体重の5%の脂肪を有し、PBBを20μg /kg脂肪の割合で含むとすれば、体重60 kgの人間が1日に100 gの魚を食べた場合 には、PBBの摂取量は0.002μg/kg体重/日となる。また、牛乳中のPBB濃度を 0.05μg/kg脂肪とし(脂肪は4%の場合)、1日に500ml飲むとすれば、PBBの 摂取量は約0.00002μg/kg体重/日と推算される。 体重6kgの乳児が1日に800mlの母乳(脂肪3.5%)を飲む場合、母乳が2μg PBB/kg脂肪とすれば、その摂取量は0.01μg/kg体重/日となる。
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5.体内動態および代謝 PBBsの消化管による吸収は、臭素化の程度により変化し、臭素化の低い化合物の 方が吸収され易い。 デカブロモビフェニル(DeBB)およびオクタブロモビフェニル(OcBB)/ノナ ブロモビフェニル(NoBB)の吸収についての情報は不十分である。 PBBsは各動物種およびヒトに分布しており、その最高平衡濃度は脂肪組織中に存 在する。それは肝臓において比較的高い濃度で検出され、とくに毒性の強い同族体で 顕著であり、肝臓中で濃縮されると考えられている。種々のPBB同族体の分配比率 は、組織の間において異なるように見える。一般的には、その生物濃縮については顕 著な傾向が存在する。哺乳類においては、PBBsの胎仔への移動は胎盤と母乳の経路 で行われる。母乳中の2,2',4,4', 5,5'−ヘキサブロモビフェニルでは、母親の血清濃度 の100倍以上の含有量が発見されている。ラットにおける数世代に亘る研究では、 PBBsの初代への投与は後続の2世代以降においてもPBBsが検出される。鳥類の卵 も母鳥のPBB生体負荷により影響を受ける。 PBB同族体の多くは生体内において持続性を示す。ファイアマスター混合物の主 要成分、オクタおよびデカブロモビフェニルの重要な代謝あるいは排泄についての証 拠は存在していない。in vitro(試験管内)代謝研究においては、PBBsの代謝につい て、構造活性相関の存在が示された。PBBsは、それらが非臭素化炭素を少なくとも 一個の環(ring)のビフェニル・ブリッジのメタおよびパラの近くに有する場合のみ は、PB(フェノバルビタール)誘発のミクロソームにより代謝される。MC(3−メ チルコラントレン)誘発のミクロソームによる代謝には、低置換同族体では、少なく とも一個の環の非臭素化のオルトおよびメタに近い位置が必要であり、高度に臭素化 されている場合には、代謝を妨げるように見える。ヒドロキシ化された誘導体は、低 臭素化ビフェニルのin vitroおよびin vivo(生体内)の主要代謝産物として脊椎動物 において確認されている。ヒドロキシ化反応は、酸化アレン中間体および直接ヒドロ キシ化の双方の経由に先行するのであろう。 ヒト、ラット、アカゲザル、ブタ、ウシ、ニワトリは、PBBsを主として糞便中に 排出する。多くの場合において、排泄率は遅いように見える。ヒトの胆汁および糞便 中で見られる2,2',4,4',5,5',−ヘキサブロモビフェニルの濃度は、血清濃度の約1/ 2〜7/10で、脂肪中濃度の約0.5%であった。動物あるいはヒトにおいて、PPBs の除去を高めるための治療はほとんど成功していない。その他の排泄の経路は乳汁を 通じての排出である。 ラットおよびその他の動物へのPBBの投与後の時間とPBBの組織内濃度との間の 関連性は複雑で変化し易いことが見出されている。それらは、いくつかのコンパート メント・モデルにより説明されている。ラットの体脂肪からの2,2',4,4',5,5'−ヘキサ ブロモビフェニルの排出についての半減期は約69週間と算出されている。アカゲザ ルにおける半減期は4年以上が見出されている。ヒトにおける2,2',4,4',5,5'−ヘキサ ブロモビフェニルの半減期の平均は8〜12年の間と推算されている。文献では5〜 95年の範囲が示めされている。個々のPBB同族体間の滞留と代謝回転については若 干の差異がある。農業作業者と化学工場作業者の血清中2,3',4,4',5ペンタブロモビフ ェニルについての分析結果は一致しない(inconsistent)。この不一致はおそらく暴 露源の違いによるものであろう。工場作業者はファイアマスターのすべての化合物に 暴露されており、一方、ミシガンの集団では、家畜における代謝プロセスを受けた種々 のPBB混合物を含む肉と牛乳の摂取により暴露された。ラットの脂肪組織の臭素濃 度は、工業製品のオクタブロモビフェニルを与えられた時には減少しなかった。デカ ブロモビフェニルの滞留についての情報は入手できない。 ヒトはおそらくある種のPBB同族体を実験動物よりも多く滞留する傾向があろう。 この要因は、これらの化学物質による有害性の評価においては考慮されるべきである。 結論として、すべての入手し得るデータは、PPBsの顕著な生物濃縮と持続性の傾向 を示している。その代謝はわずかで、ヒトにおける半減期は8〜12年以上である。
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6.環境中の生物類への影響 環境中の生物類への影響についてのデータはごくわずかである。ここでは微生物、 ミジンコ、水鳥、家畜についての報告を引用する。 ミシガン湖北西部の島々に営巣する水鳥について、環境汚染物質の繁殖への影響を 見るための研究が実施された。PBBsを含む17種類の汚染物質が測定されたが、繁 殖には明白な影響はないように見られた。 酸化マグネシウムの代わりにファイアマスターFF−1を含む飼料を、不注意によ り与えられた家畜は病気になった。最初に確認された高度に汚染された農家において、 牛の平均暴露は250mg/kg体重と推定された。毒性の臨床的徴候は、汚染飼料の摂取 後の数週間における飼料摂取量の50%に減少(食欲減退)と牛乳生産量の40%減少 であった。この汚染物質添加飼料は16日以内に中止されたが、牛乳生産量は回復さ れなかった。一部の牛では排尿回数と流涙の増加、血腫、膿瘍、異常なヒヅメの成長、 不具、脱毛症、過角化症、悪液質を発症させ、暴露の6カ月以内に数頭が死亡した。 これらを含めて、この農場の死亡率は24/400であった。しかし、6〜18カ月齢の若 い牛でははるかに高い死亡率を示し12頭中わずか2頭のみが5カ月後まで生存した。 それらの牛は全身性の過角化症を発症させ、種々の生殖障害もおこした。 暴露後6カ月以内に死亡した成熟牛の一部の解剖所見が報告されており、組織病理 学的研究では肝臓および腎臓に種々の変化を示した。 前記のいくつかの臨床的徴候および病理学的変化(食欲減退、脱水、流涙過度、憔 悴、過角化症、繁殖困難、一部の生化学的変化、腎臓障害)は、後に管理された混餌 試験において確認された。 低濃度汚染の牛群における牛乳生産量の減少と不妊症が報告されている。これは、 低レベル汚染群と対照群との間に著しい差異が認められなかったコントロール試験 とは対照的である。 最初に偶発的なミスにより汚染されたのは牛の飼料であったが、他の動物飼料も飼 料混合器による交叉汚染 (cross contamination)が引き起こされた。その暴露は牛 の場合のように高濃度ではないであろうが、他の動物(家禽類、豚、馬、兎、山羊、 羊)の汚染による死亡も報告されているが、その有害影響の詳細は記録されていない。 PBBsの生態系への影響についての情報は入手出来ない。
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7.実験動物およびin vitro(試験管内)試験系への影響 PBBsの市販品混合物の経口あるいは経皮投与後によるLD50値(50%致死量) (LD50は1g/kg体重以上)は、ラット・ウサギ・ウズラに対し比較的低い急性毒性 を示している。PBBの投与後における死亡および毒性の急性症状の発現は遅い。単 回投与あるいは短期間(50日まで)の反復投与とにかかわらず、投与された総用量 が毒性の程度を決定する。PBBsの毒性においては、単回投与よりも複数回投与の方 が高い。PBBsの暴露後の死亡の発生は遅い。 市販品のオクタ−およびデカブロモビフェニル混合物を用いて実施された数少な い研究では、ラットおよび魚類において死亡を生じなかった。個々のPBB同族体の うち、3種類のヘキサ異性体(HxBB)が試験され、3,3',4,4',5,5'- HxBB、2,3',4,4',5,5'- HxBBは2,2',4,4',5,5'- HxBBよりも強い毒性を示した。限定された入手し得るデー タによればオクタブロモビフェニルおよびデカブロモビフェニルの毒性はPBB混合 物よりも弱く吸収も少ないように見える。 多くの急性および短期試験において、PBB(大部分はファイアマスター)の毒性に は飼料摂取の減少が含まれている。致死量において、死亡原因は病理学的に特定臓器 に帰すことはできず、むしろ動物の最初の徴候として発現する「衰弱症候群」(wasting syndrome)と見なされる。死亡時における体重の減少は30〜40%に達した。工業用 オクタブロモビフェニルおよびデカブロモビフェニルを用いた少数の研究では、その ような影響は示されなかった。 PBB暴露による生じる組織病理学的変化は、肝臓において最も顕著であった。肝 臓肥大は、体重変化に必要な用量以下においてもしばしば起こった。齧歯類における 主要な組織病理学的変化は、肝細胞の広範囲の膨張と空胞形成、滑面小胞体の増殖、 単細胞性壊死などである。損傷の程度は、投与されたPBB試料の用量とその構成成 分に依存する。 胸腺重量の減少はファイアマスターの投与後に認められたが、オクタブロモビフェ ニルおよびデカブロモビフェニルの場合には起こらなかった。 低濃度において、ラットの甲状腺重量の増加と組織学的変化が報告されている。 個々のPBB同族体の毒性パターンが異なるということは明らかである。毒性の強 い異性体および同族体は、胸腺および/または体重の減少と、肝臓および胸腺の組織 学的変化を生じさせる。ハロゲン化ビフェニルの分類は化学構造に基づいて行われて 来た。第1のカテゴリはオルト置換基を欠く異性体および同族体(コプラナPBBs) で構成されている。モノおよびオルト置換の誘導体は第2のカテゴリを構成する。そ の他のPBBs(主として2個以上のオルト−臭素を有する)は第3のカテゴリに整理 される。第1カテゴリの同族体は最も強い影響を誘発する傾向がある、一方、第2、 第3のカテゴリでは毒性学的変化の減少を示す。 同一カテゴリ内においては、臭素化の程度も毒性に影響するであろう。 試験されたすべての組み合わせの中で、3,3',4,4',5,5'- HxBBが最も毒性の強いPBB であることが見出された。この同族体は、ファイアマスターの構成成分として低濃度 で存在している。ファイアマスターの主要な構成成分の中では2,3,3',4,4',5−HxBB が最も毒性が強く、2,3',4,4',5,5'-HxBBおよび2,3',4,4',5−PeBB(ペンタブロモビフ ェニル)がこれに次ぐ。ファイアマスター混合物の主要成分2,2',4,4',5,5'-HxBBは、 第2に多い構成成分の2,2',3,4,4',5,5' - HpBB(ヘプタブロモビフェニル)と比較し低 毒性であった。 各種のPBB同族体(および不純物)の含有量に関連して、工業用OcBB(オクタ ブロモビフェニル)とDeBB(デカブロモビフェニル)の混合物の毒性は、十分には 説明されていない。 一般的な皮膚および眼の刺激および感作(訳者注:過敏状態の誘発)性試験では、 工業用PBB(OcBBおよびDeBB)の反応はないか、あってもごくわずかであった。 しかし、ファイアマスター混合物の摂取後には過角化症と脱毛がウシに見られ、塩素 ざ瘡(にきび)に類似した傷害がアカゲザルに認められた。ファイアマスターにより ウサギの耳の内側の表面に過角化症が発生したが、その主成分(2,2',4,4',5,5'-HxBB および2,2',3,4,4',5,5'-HpBB)によっては生じなかった。ファイアマスターの分留で は最も高い活性は小成分を含む極性の高い留分に関連することが示された。日光光線 照射処理されたHxBBは、ウサギの耳に重症の過角化症を生じさせた。 工業用OcBBのラットに対する低濃度の長期間混餌投与においては、飼料摂取量お よび体重への影響はなかったが、2.5mg/kg体重に7カ月間暴露したラットでは、肝 臓の相対重量の増加が見出された。ラットにファイアマスターの用量10mg/kg体重 の6カ月間の長期混餌投与では、飼料摂取量に影響を及ぼさなかった。1mg/kg体 重を6カ月以上投与した場合には、肝臓重量に影響を与えた。胸腺重量は、メスのラ ットにおいて0.3mg/kg体重の用量により減少し、組織病理学的変化も認められた。 低用量のファイアマスターに暴露されたウシのコントロールされた長期混餌投与試 験では、飼料摂取、臨床徴候、臨床病理学的変化、行動により示される悪影響は発現 しなかった。ミンク、モルモット、サルは、PBBの毒性に対する感受性がより高い ように見えた。 胎児期(出生前の)あるいは出産時における高用量のファイアマスターの暴露によ り投与されたPBBsの滞留に関連する長期影響が、ラットにおいて記録されている。 生殖についての最も一般的な有害影響は、胎児の衰弱および仔獣の生育力の低下で ある。ミンクにおいては、1mg/kg飼料の濃度においてその影響が認められている。 ファイアマスター(0.3mg/kg飼料)への12.5カ月間の暴露後に、アカゲザルの仔 獣に生育力の低下が観察された。それらのサルは、毎日0.01mg/kg体重の用量を与え られ、総投与量は3.8mg/kg体重であった。低濃度暴露のサルとラットによる生殖お よびニューロビヘイビアの研究においては、その研究の実験デザインについての既刊 文献の情報が不十分のため、評価はできなかった。高用量投与の齧歯類では、母体毒 性により生じたと考えられる弱い催奇形性が見られた。 PBBsは内分泌システムと相互に作用する。ラットおよびブタにおいては、用量相 関性の血清チロキシンおよびトリヨードチロニンの減少を示した。また、PBBsは多 くの場合で、ステロイド・ホルモンの濃度に影響を与えると報告されている。その程 度は、動物の種類、用量、投与時期に左右される。 PBBsは、ラットおよびオスのマウスにおいて0.3mg/kg体重/日によりポルフィ リン症を起こす。その無影響量は0.1 mg/kg体重/日である。PBBsは、ビタミン Aの貯蔵とその中間段階の代謝に著しい影響を及ぼす。 胸腺の萎縮はPBB暴露後にしばしば観察され、他のリンパ腺関連組織への影響も 示されている。さらに、ファイアマスターについては、免疫機能低下の徴候も立証さ れている。OcBB、NoBB、DeBBあるいは個々のPBB同族体についてのデータは欠 如している。 最も集中的に研究されたPBBsの影響は、それらの混合機能オキシダーゼ(mixed function oxidase: MFO)酵素の誘導である。ファイアマスターは、ラットおよび試 験されたすべての動物種において、肝臓ミクロソーム酵素の混合タイプの誘導因子で あることが発見された。誘発は他の組織においても、多少低い程度で見出された。肝 臓ミクロソーム酵素の誘導能力は、個々のPBB同族体により異なる。化学構造とミ クロソーム酵素誘導能力との関連性は立証されている。 いくつかの研究においては、PBBsは種々の薬剤および毒性物質の生物学的活性を 変化させ得ることを示した。これは部分的には、PBBsが体外異物(xenobiotics)(化 学物質)の活性化あるいは不活性化に関与するミクロソーム酵素の誘導能力によるた めであろう。 ファイアマスター混合物およびその主要成分の一部は、 in vitroにおいて細胞間 コミュニケーションの阻害能力を有することが発見された。この阻害は細胞毒性を発 現しない濃度において起こる。PBB同族体の細胞毒性と代謝共同阻害特性は、それ らの化学構造すなわちオルト−置換の存在あるいは欠如に関連しているように見え る。 in vitroおよびin vivoの試験(微生物および哺乳類細胞の変異原性、哺乳類細胞染 色体損傷、哺乳類細胞変質、DNA損傷および修復)においては、PBB同族体あるい はその市販品混合物のそれぞれは変異原性あるいは遺伝毒性を示すことはなかった。 長期毒性試験は、PBBの発がん作用の主要部位は肝臓であることを示している。 ファイアマスター(FM)混合物の経口投与を受けたオスのメスのマウスおよびラッ トの双方において肝細胞がんの発生率は有意に増加した。肝臓における発がん作用は、 ブロムカル80−9D(工業用ノナブロモビフェニル)を100mg/kg(5mg/kg体重 /日)以上含む飼料を18カ月間与えられたマウスにおいて報告されている。齧歯類 において、腫瘍(大多数は腺腫)を発生させるPBBの最低用量は、0.5 mg/kg体重 /日による2年間の投与であった。出生前および分娩前後の暴露のほかに0.15 mg/kg 体重を投与されたラットでは、何の有害影響も見られなかった。工業用オクタブロモ ビフェニルおよびデカブロモビフェニルの発がん性については研究されていない。フ ァイアマスターBP−6および2,2',4,4',5,5',−ヘキサブロモビフェニルは、マウスの 皮膚バイオアッセイ(訳者注:生物学的定量試験)において、いずれも腫瘍のイニシ エーション[TPA(12-O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート)をプロ モーターとして使用]あるいは腫瘍のプロモーション[DMBA(9,10−ジメチル−1、 2−ベンツアントラセン)をイニシエーターとして使用]作用を示すことはなかった。 しかし、他のマウス皮膚モデル[DMBAあるいはMNNG(N−メチル−N'−ニトロ −N−ニトロソグアニジン)をイニシエーターとして使用]においては、ファイアマ スターEF-1,3,3',4,4',5,5'−ヘキサブロモビフェニルでは腫瘍プロモーション作用を 示したが、2,2',4,4',5,5',−ヘキサブロモビフェニルではその作用は認められなかっ た。フェノバルビタールをプロモーターとして使用したラットの二段階肝臓バイオア ッセイ*において、3,3',4,4'−テトラブロモビフェニルは弱いイニシエーション作用 を示した。ジエチルニトロソアミンおよび肝臓部分切除を用いたラットの二段階肝臓 モデルにおいて、ファイアマスター3,3',4,4'−テトラブロモビフェニルと2,2',4,4',5,5' −ヘキサブロモビフェニルは腫瘍プロモーション作用を示したが、3,3',4,4',5,5'−ヘ キサブロモビフェニルではその作用は見られなかった。 細胞コミュニケーションに関する研究結果、遺伝毒性および変異原性についての陰 性の研究結果、腫瘍のプロモーション・アッセイの結果は、この研究された混合物お よび同族体は後成メカニズムによりがんを発生させることを意味している。工業用 の、オクタ−、ノナ−、デカブロモビフェニルについての情報は入手できない。 PBBsおよび関連化合物の毒性の多くの発現の根底に存在する作用メカニズムにつ いては知られていない。しかし、消耗性疾患、胸腺萎縮、肝毒性、皮膚障害、生殖毒 性などの影響の一部は、多数の遺伝子発現に変化を与えるいわゆるAh−あるいは TCDD−レセプターとの相互作用に関連しているのであろう。種々のPBB同族体の レセプターとの相互作用は異なり、コプラナ同族体はより高い反応性を示す。 PBBの影響の多くは、長期暴露後において認められる。この理由は、一部のPBB 同族体の著しい蓄積と、それらを代謝し排出する生体の能力の低さにある。これは、 悪影響をもたらす代償メカニズムを弱らせる化学物質を体内に増加させることにな る。 ファイアマスターの不純物として知られるポリ臭素化ナフタレン類(PBNs)の一 部は有害物質であり催奇形性が知られている。PBNsはファイアマスター混合物中に 低濃度でしか存在しないが、それらは毒性に寄与するであろう。 ファイアマスター混合物およびその主要成分の2,2',4,4',5,5'-HxBBの研究では、それ らの光分解物は、もとのPBBよりも毒性が強いことが示された。ファイアマスター (FM)の熱分解産物は、混合機能オキシダーゼ(MFO)酵素誘発、体重減少、胸腺 萎縮を生じさせる。また、工業用OcBBの熱分解物質による肝臓肥大が観察された。
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8.ヒトへの影響 1973年の米国ミシガン州における中毒事件後の低濃度暴露の影響に匹敵するよう な、ヒトにおける急性のPBB中毒症の例はない。主要な疫学的研究は、ミシガン州 公衆衛生局(MDPH)およびニューヨーク市マウントサイナイ医科大学環境科学ラボ ラトリー(ESL)により実施された。 最も高濃度の暴露を受けた人は、ミルクを通して230日間に、5〜15gのPBBを 摂取したものと推算された。一部の追加的な暴露は食肉の摂取を通しておこった。ミ シガン州の一部の農業従事者と大多数の一般集団の暴露濃度はずっと低く、全暴露量 は9〜10mgであった。しかし、このグループの中でも一部の人々は、約800〜900mg を摂取していた可能性がある。(9mgの全用量は0.15mg/kg体重に、また平均体重 60kgの成人については900mg〜15mg/kg体重に相当し、小児の用量/kg体重はよ り高いであろう。) 1974年、最初のMDPHの研究では、同一地区の汚染農場と非汚染農場の人々の健 康状態が比較された。種々の症状が双方のグループにより報告されたが、グループ間 に差異は認められなかった。心臓、肝臓、脾臓、神経系、尿分析、血球数、その他の 医学的状態についての特異的な異常は発見できなかった。種々の暴露濃度のグループ を含む次の総合的なMDPH研究では、血清中のPBB濃度と報告された症状あるい は病気発生頻度との間には明確な関連性はなかった。ESL研究では、約990名の農 場居住者と55名の化学工場作業者を含み、ウイスコンシン州の酪農作業者のグルー プが対照群として用いられた。ミシガン州農民の症状発生率は、ウイスコンシン州農 民よりも大きかった。最大の差異は、神経学的および筋肉骨格系症状として大きく分 類された。ミシガン州農民の、ある種の肝臓酵素の血清中濃度の上昇および胎児性が ん抗原(carcinoembryonic antigen)は、ウイスコンシン州農民よりも多く見られた。 化学工場作業者では、農民と比較して、胸部および皮膚の症状は多かったが、筋肉骨 格系症状の出現は少なかった。 ESL研究の結果は、時には他の同種類の研究結果とは異なる解釈がされているが、 一つの分野においては矛盾なく一致している。どの研究においても、血清あるいは脂 肪組織中のPBB濃度と症状の発現あるいは異常な臨床的測定値との間に、明確な用 量−反応関係は立証されなかった。いくつかの臨床的領域については、さらに集約的 な特別の研究を用いて検討された。客観的な機能試験を用いた神経学的検査では、血 清PBB濃度と機能テスト・スコアとの間の関連性は陰性であり、とくに高齢者グル ープにおいてはこの傾向が強かった。他の研究では、血清および脂肪中のPBB濃度 と、記憶、運動力、協調、皮質感覚の認知、性格、高濃度の認識機能、その他の機能 を測定する組み合わせテスト(a battery test)の結果との間に関連性のないことを示 した。 ESL研究において、PBB暴露影響が家族内の小児について検討された。多くの症 状が報告されているが、身体検査ではPBBに起因する客観的な変化は発見できなか った。子孫における、より鋭敏な神経心理学的な影響および発育能の検討結果につい ても種々の見解があり、依然論議を残している。リンパ球および免疫機能についても 同様である。ある研究グループは、血清PBB濃度の高低両グループ間に、リンパ球 数あるいはその機能についての差異はないことを発見している。その他の研究者は、 非暴露群と比較した場合、ミシガン・グループではTおよびBリンパ球数の約40% の有意の減少と、リンパ球の機能即ち有糸分裂促進剤(mitogen)への反応の減少を 見出した。 レビューした疫学研究では、PBB暴露と、行動および主観的愁訴を含む多数の悪 影響との間の評価に対して努力が注がれた。しかし、大多数の研究では、PBB暴露 と健康影響との間の関連性を結論づけるのを困難にするか、あるいは不可能にする交 絡因子(訳者注:混乱を引き起こす撹乱因子)により、研究計画段階での失敗に苦し んでいる。発がん作用を評価するための追跡期間は十分長くはない。 PBBs混合物、あるいはDeBBおよびDBBOに職業上で暴露された2つの作業者の 小グループが確認された。塩素ざ瘡(にきび)に似た傷害はPBB混合物に暴露され た作業者の13%に認められたが、DeBB暴露の作業者では見られなかった。しかし、 この後者のグループでは甲状腺機能低下症の有意に高い発生率が認められた。
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9.毒性および発がん性の総合評価 PBB混合物に対するラットおよびマウスを用いた唯一の生涯研究(lifetime study) が最近のNTP(National Toxicology Program)(訳者注:米国政府による国家毒性 プログラム)により実施された。発がん性(齧歯類における肝臓腫瘍)を示す最低用 量は0.5mg/kg体重/日であった。その他の発がん性研究では、3mg/kg体重の6カ 月間投与により発がん性が確認された。この6カ月試験では、ライフタイムより短い 期間における同用量の投与により、類似した有害影響を生じさせることを立証した。 ヒトに近い霊長類およびミンクにおける生殖への影響は低用量濃度において起こる であろう。 さらに、ラットを用いたNTPの研究においては、用量0.15mg/kg体重/日の投与 および出生前・分娩前後の母獣への0.05mg/kg体重/日の投与では何の悪影響も生じ させなかった。これらの化合物は後成(epigenic)メカニズムによる発がんが推定さ れるため、発がん性陽性の試験によるNOAEL(無有害影響濃度)から、不確定性(安 全)係数[uncertainty(safety)factor]の1,000を用いて外挿すると、食餌、飲料 水、土壌よりの安全な全摂取量/日は0.15 μg/kg体重/日以下となる。 ミシガン州における集団が摂取した全用量の範囲は、230日間で0.15〜15 mg/kg 体重と推算される。この集団について、この用量を平均的なヒトの生涯に割り振ると、 1日量は6ng 〜0.6μg/kg体重/日の範囲に相当する。 一般集団の成人における既知の発生源からの全摂取量は2ngPBB/kg体重/日と 推定されており、幼児については母乳から10ng/kg体重/日を摂取していたことにな る。しかし、これらは極めて限定された、また一地方のデータベースに基づいた推算 であることに留意しなければならない。 これらの算定はPBBsの安定状態のため生涯を通じて到達されそうもなく、また、 これらの化合物の代謝と排泄は極めてわずかであるため、短期の高濃度暴露は長期の 低濃度暴露に代わり得るであろう。 有害影響を生じない1日当りの全摂取量を算出するためのOcBB、NoBB、DeBBの 十分な情報は入手できない。
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10.結 論 市販の難燃剤PBB同族体の大多数は、親油性、持続性、生物濃縮性がある。これ らの化合物は環境中の食物網で濃縮され、それはとくに高等生物において脅威となる。 さらに、一部のPBBは燃焼段階において、有毒なポリ臭素化ジベンゾフラン類を生 成する。 PBBは、その製造および使用中の排出物に加えて、難燃剤製品の広範囲の使用に より環境中に入る。これらの化合物は高度の安定性を有するため、製造されたPBB の大部分が究極的には環境に到達する。 既知の点発生源から遠く離れた環境中およびヒトのサンプル中からも、PBBsは発 見されている。環境中のサンプルの同族体パターンは工業用のものとはマッチせず、 これは環境中での変化し、光化学脱臭素化の可能性を示している。 現時点では、一般集団のPBBsへの暴露程度についての情報は極めて少ない。しか し、測定が実施された少数例では、痕跡量のPBBsが同定されている。この暴露は、 現在は問題化してはいないが、将来の上昇は避けるべきである。ミシガン州の事故か らのヒトのデータは、一般集団の暴露よりも数桁高い数値を示唆している。がん発生 までの追跡期間は十分ではないが、ミシガン州の集団におけるPBB暴露に関連する 明確な健康影響は確定されていない。ミシガン州の人口集団における脂肪組織および 血清中のPBB濃度は依然として高く、それらの内部的暴露は継続している。これと は対照的に、ミシガン州の牛においては毒性が観察される。この不一致は牛との暴露 程度の差異により説明される。 職業上の暴露は、米国における2カ所のプラントにおいて検討されたのみである。 それによれば、PBB生産作業者において塩素ざ瘡(にきび)類似の病変が発生し、 DeBB暴露の作業者に甲状腺機能低下症が見られた。市販製品中の、デカ−、オクタ −・ノナ−ブロモビフェニル関係の作業者についての研究は実施されていない。 PBBsは生物中において極めて持続的であり、慢性毒性を示し、動物においてがんを 発生させる。急性毒性は低いが、がんは用量0.5mg/kg体重/日において誘発され、 影響の観察されない摂取量は0.15mg/kg体重/日である。実験動物における多数の慢 性毒性影響は用量1mg/kg体重の程度の長期暴露後において観察された。
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11.勧 告 11.1 一 般 タスク・グループの意見は、PBBsの高度の持続性と生物濃縮、極めて低濃度の長 期暴露後の有害影響に鑑み、ヒトおよび環境はそれらに暴露されるべきではない、と いうことである。従って、PBBsはもはや商業的に使用すべきではない。 DeBBおよびOcBBについては、それらの限られた毒性データ、極度の持続性と環 境中での分解、燃焼中に生成されるさらに有毒な持続性化合物のため、その安全性が 立証されない限り、商業的に使用すべきではない。 ミシガン州のコホート(訳者注:疫学研究における特定の集団)についての観察は 継続中であることが知られている。これらのデータの公表が必要である。 11.2 今後の研究 PBB生産工場の作業場とそれを使用する産業を含む、ヒトおよび環境のPBBモニ タリングを拡大すべきである。また、特定の同族体としてOcBB/NoBBおよびDeBB を含めるべきである。これらの化合物には、他のハロゲン化合成物も包含すべきであ る。環境中におけるPBB濃度の時間的傾向および地理的分布のモニタリングを継続 すべきである。廃棄物投棄場におけるPBBsの環境中への放出の調査が必要である。 火災事故および自治体による焼却の状態を想定した熱解離実験を実施すべきであ る。PBBsおよび関連化合物の毒性と発がん性のメカニズムについて、さらに研究を 継続すべきである。PBBsは、そのようなメカニズムの研究に対するモデル化合物と して役立つであろう。これらの研究には精製された同族体を用いるべきである。PBBs の生殖に対する影響は十分には説明されていない。そのため適切にデザインされた長 期の低用量における生殖毒性試験を、感受性の高い動物種を用いて実施すべきである。 OcBB/NoBB、DeBBおよび特定の同族体について、生物学的利用能(bioavailability) と体内毒性動態(toxicokinetics)についての情報もさらに必要である。
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12.国際機関によるこれまでの評価 国際がん研究機関(IARC)(1986, 1987)はポリ臭素化ビフェニル類を評価し、 ヘキサブロモビフェニルを主成分とし、少量のペンタ−およびヘプタ臭化異性体で構 成されるPBBs(各種ロットのファイアマスターFF−1)の市販製品の実験動物にお ける発がん性については十分な証拠がある、との結論を下した。それらのヒトにおけ る発がん性についての証拠は不十分であると見なされた。これらより、PBBsの市販 混合品は、ヒトに対する発がん性の可能性を有する2Bに分類された。 欧州共同体は、それらのヒトの健康および環境への影響により、PBBsを禁止、ある いは特定の使用のみに限定する厳しい措置を取った(CEC, 1988)。