国際簡潔評価文書: Concise International Chemical Assessment Documentの紹介


  国際簡潔評価文書(Concise International Chemical Assessment Document: CICAD)は、世界保健機関(WHO)国際労働機関(ILO)、国連環境計画(UNEP)の共同計画である。
国際化学物質安全性計画(International Programme on Chemical Safety: IPCS)の出版物のうち、最も新しいシリーズである。
CICADは、化学物質のリスク評価についてはIPCSの環境保健クライテリア(Environmental Health Criteria: EHC)の姉妹シリーズである。

  CICADは、化学物質によるヒトの健康と環境への影響の可能性に関連する科学的な情報の簡潔な要約を提供する。
CICADは、各国、地域が作る評価文書のうちから選ばれたもの、あるいは既存のEHCに基づいて作成される。
IPCSがCICADの出版を了承する前に、データの要約とCICADによる結論の正当性につき、その十分さと正確さを保証する目的で選ばれた専門家による国際的に、厳密な批判的な検討を受ける。

  CICADの主要な目的は、化学物質の曝露による有害性の解析と、量―影響の定量的な記述である。
CICADは、ある化学物質について入手可能なすべてのデータの要約ではなく、その物質によるリスク解析に最も重要な情報のみをを提供する。
ただし最も重要な情報については、それから導かれる結論を保証できるように詳細に記述される。
その他の詳細な情報については、CICADが典拠として用いた前述の各国による評価資料などを参照することになる。

  ヒトの健康と、環境への影響のリスクは、曝露の仕方と程度により大きく異なる。
CICADを利用する当局やリスク管理者は、その地域について測定、または予測された曝露のあり方を元に、当該する地域のリスクの解析を行うことを強く推奨する。
この作業を支援するために、CICADでは可能なかぎり、曝露の推定とリスクの解析の実例を提示している。
これらの実例はすべての可能な曝露状況を代表していると考えるべきでなく、それぞれが行う解析の参考としてほしい。
EHC170巻(注)には、健康影響についての指針値を算出するための助言が記されている。

  CICADは最新の知識をベースにできるよう最善を図っているが、新しい知見はたえず作られている。
特に断らないかぎり、CICADはその「要約と結論」部分に記された期日までの科学文献の検索結果に基づいて作られている。
もし読者が、CICADに記されている結論を変更する必要があるような新しい情報に気づいた時は、その情報をIPCSにお知らせ願いたい。

  作成手順

  CICADの作成手順をフローチャートに示した。
この手順は、ヒトの健康と環境への影響のリスクを評価するために必要な毒性、曝露、その他のデータについてレベルの高い評価を行うため、専門家の能力を世界中から結集するできるように考えられた。

  第一次原案は、既存の各国、地域、あるいは国際機関のレビューを基に作る。
通常、元となったレビューを作成した機関の専門家がこの原案の著者となるが、必須ではない。
作成方法における一貫性を保証するために、標準的な枠組みを記している。第一次原案がCICADとしての要件を満たしていることを保証するために、IPCSと同様な評価資料を作成している一人以上の専門家による予備的なレビューを受ける。

  第二のステップは、各分野の専門家として知られる科学者、および各国のIPCS窓口機関、あるいはIPCS協力機関がそのような専門家として推薦した科学者による国際的な批判的検討を受ける。
この検討に必要な適切な期間が保証される。
第一次原案の著者は、レビューコメントを検討し、必要に応じて原案を修正する。
修正後の原稿は、第二次原案としてレビューコメントとともに、最終検討委員会(Final Review Board)に
提出される。

  CICADの最終検討委員会は、いくつかの重要な役割を担っている。
*それぞれのCICADが適切かつ十分な批判的検討を経ていることを確認する。
*レビューコメントが適切に検討されたことを確認する。
* レビューコメントが適切に検討されなかったと最終検討委員会が判断した時には、課題として残された問題について、CICAD原案の著者に問題解決の指針を与える。
* 委員会で検討後の最終案について、国際的な評価によるCICADとして了承する。

  委員会のメンバーは、いずれかの機関、政府、あるいは業界の代表としてではなく、個人的な能力において作業に参加する。
彼らはヒトと環境中生物への影響の専門家あるいは、化学物質の管理における専門家として選ばれる。委員会は、必要とされる専門分野をカバーし、世界の各地域を適切に代表するようにバランスを考慮して構成される。

  委員会のメンバー、CICAD原案の著者、CICADの作成に係わったレビューア、コンサルタント、助言者は、本プロセス中のいずれにおいても討議のテーマとなった事柄について、現実にあるいは潜在的に有する利害関係について報告することが要求される。
NGO(非政府機関)の代表は、最終検討委員会のプロセスを監視するために招待される。
オブザーバーは、最終検討委員会の議長が認めた時にのみ、委員会の討議に参加し、委員会の最終決定には参加できない。