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神経剤 (Nerve Agents)


 構造的には有機リン酸エステルであり、化学剤の中で最も毒性が強い。神経剤は、いずれも液体である。普通の衣服は速やかに浸透し、体内に吸収される。神経剤は一般に、G剤 (タブン、サリン、ソマン、シクロサリン等) とV剤 (VX、VG、VE等) に分けられる。G剤は揮発性が高く、V剤は揮発性が低い。
 サリンやソマンは揮発しやすく、主に蒸気やエアロゾルの吸入によって体内に吸収され、毒性を発揮する。タブンはサリンやソマンより揮発性が低い。V剤はイオウを含む有機リン化合物で、一般に揮発性が低く、主に液体の形で皮膚等に接触し体内に吸収されて急速に毒性を発揮する。V剤は化学剤の中でももっとも毒性が強い。
 毒性はいずれの神経剤もほぼ同じであるので、一括して記載する。

(※物性値等は資料によって異なる。)


1 神経剤の物理的化学的性質
 一般に神経剤は水への溶解性は中程度であり、徐々に分解する。強アルカリや塩素化物によって急速に不活性化する。

(1) サリン
  Sarin
  Isopropyl methylphosphonofluoridate
  Isopropoxymethylphosphoryl fluoride

(2) タブン   Tabun
  Ethyl N,N-dimethylphosphoramidocyanidate
  Dimethylamidoethoxyphosphoryl cyanide

(3) ソマン   Soman
  1,2,2-Trimethylpropyl methylphosphonofluoridate
  Pinacolyl methylphosphonofluoridate

(4) シクロサリン
  Cyclosarin
  Cyclohexyl methylphosphonofluoridate
  Methyl cyclohexylfluorophosphonate

(5) VX
  S-(2-Diisopropylaminoethyl) O-ethyl methyl phosphonothiolate
  Ethyl-S-diisopropylaminoethyl methylthiophosphonate

2 神経剤の毒性および症状

(1) 作用機序と毒性
 神経剤の毒性作用は、主にアセチルコリンエステラーゼの阻害による。神経剤はアセチルコリンエステラーゼに強く結合してその活性を阻害する。その結果、コリン作動性受容体部位での神経伝達物質であるアセチルコリンは加水分解されず、体内のさまざまな部位において過剰のアセチルコリンが蓄積し毒性作用をもたらす。

暴露経路:吸入(エアロゾル、蒸気)、眼、皮膚、経口

 神経剤は体表のどこからも吸収される。スプレーやエアロゾルで拡散すると小滴が皮膚、眼、気道から吸収される。実戦で用いられる濃度の蒸気の場合は主に気道から吸収される。十分量の薬剤が吸収されると局所作用に続いて全身作用が現れる。
 身体所見は暴露の経路や量、時間に依存する。作用の時間経過としては、神経剤は暴露後数分以内に作用が現れる。Ct(空気中の蒸気やエアロゾルの濃度(mg/m3) × 個人の暴露時間(min))が高ければ、意識消失や痙攣は1分以内に生じる。Ctが非常に低い場合は、縮瞳や他の作用が暴露後数分経ても始まらず、また、蒸気を除去してもすぐにはおさまらないことがある。

(2) 徴候、症状
・眼: 流涙、縮瞳、眼の痛み、かすみ眼
・呼吸器系: 鼻汁、気管支漏、喘鳴、胸部圧迫感、呼吸数の増加または減少
・消化器系: 下痢、排尿増加、吐き気、嘔吐、腹痛
・神経系: 流涎、大量発汗、混乱、眠気、脱力、頭痛
・循環器系: 心拍数の減少または増加、血圧の異常な低下または上昇
(大量の神経剤に暴露した場合、さらに)
・意識喪失、痙攣、麻痺、呼吸不全(死に至ることがある)



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