1 乳製品中のブドウ球菌エンテロトキシン検査法

          大阪府立公衆衛生研究所  浅尾 努

                      大阪市立環境科学研究所  小笠原 準

エンテロトキシン取り扱いの注意点

1.遠心チューブ等は有機溶剤耐性でタンパクの吸着が少ないポリプロピレン製のものを使用する。低濃度 の毒素はガラス製やポリスチレン製のチューブに吸着する。

2.  陽性コントロールとして使用する精製毒素溶液は、なるべく高濃度で小分けしてスクリューキャップチューブで凍結保存する。

3.  毒素の容器への吸着を防ぐ目的で、希釈液には0.5%程度のBSAを添加する。SET-RPLA(デンカ生研)添付の希釈液でもよい。日常検査に使用する毒素は冷蔵保存し、凍結融解の繰り返しを避ける。 

4.  毒素が付着した可能性のある器具は12%次亜塩素酸ナトリウム溶液に1時間以上浸漬して毒素を不活化するか、121℃で20分以上高圧滅菌する。      

エンテロトキシン検査に使用する試薬と器具機材

1. 緩衝液の作製(参考) 

  0.01 M リン酸緩衝液、pH 6.0 50倍濃縮液)

        Na2HPO412H20 (MW 358.14) ………11.65 g

        NaH2PO42H2O (MW 156.01) ……… 72.95 g

           蒸留水で1,000 mlにメスアップする

    0.1 M リン酸緩衝液、pH 7.5-0.2 M NaCl

        Na2HPO412H20 (MW 358.14) ………………… 15.042 g

        NaH2PO42H2O (MW 156.01) …………………… 1.248 g

        NaCl ……………………………………………… 5.844 g

          蒸留水で500 mlにメスアップする            

2.  イオン交換樹脂

      1) 500 ml0.01 Mリン酸緩衝液(pH 6.0)にCM-Sephadex C-50 (膨潤率20-40 ml/g dry)又は      SP-Sephadex C-50(膨潤率20-40 ml/g dry)を5gの割合で加える。

 2) 室温で数時間以上放置して十分に膨潤させる。

3) 0.01 Mリン酸緩衝液(pH 6.03回交換し、同時に沈降スピードの遅い微粒子をデカント或いはアスピレータで吸引除去する。

4) 水分を可能な限り除去し、冷蔵庫で保存する。

3. 入手可能なエンテロトキシン検出キット

1) SET-RPLA(デンカ生研):A型毒素の検出感度は0.30.5 ng/mlである(私達の結果)。

2) VIDAS Staph EnterotoxinbioMerieux、代理店日本ビオメリュー):A型毒素の検出感度が最も高く、検出限界は約0.25 ng/ml或いはそれ以下である(私達の結果)。

3) Transia PlateDiffchamb、代理店メルクジャパン

4) TECRA SETR-Biopharm、代理店セテ カンパニー リミテッド)

5) RIDASCREENR-Biopharm、代理店セテ カンパニー リミテッド)

*上記のキットのうち、エンテロトキシンの型別ができるのは、SET-RPLARIDASCREENのみである。前者はE型が同定できないし、後者は特に高価であるのが欠点である。RPLAは半定量できるが他の市販キットは定量性を保証していない。しかしTSANSIAPLATEVIDAS Staph Enterotoxinでも定量は可能である。

4. その他の試薬と器具

  試薬

   2M HCl2M NaOH、クロロホルム

  器具

   透析チューブ、スターラー、グラスフィルター、アスピレータと吸引ビ 

   ン、パスツールピッペト、10 mlピッペト、PD-10カラム、PD-10

   ンプテカラム(使用済みPD-10カラを再使用してもよい)

  機材

   冷却遠心器、スターラー、ハンデイタイプpHメータ、ロータリーエバ 

   ポレータ

種々のエンテロトキシン濃縮法

 通常の食中毒では、食品中に数10 ng/g以上のエンテロトキシンが検出できるので濃縮する必要がない事例が殆どである。臨床症状等からブドウ球菌食中毒が疑えるにも拘わらずエンテロトキシンが検出できない場合、エンテロトキシンを濃縮する方法として以下の方法が考えられる。この場合濃縮前に食品を後述するような方法で前処理する必要がある。

1. 30%ポリエチレングリコールによる透析濃縮

  ヨーロッパや米国で広く利用されているが、濃縮には1日間位は要する。

2. 凍結乾燥

エンテロトキシンは脱水にも安定なので可能ではあるが、設備と時間を要する。

3. 簡易型限外濾過(遠心式)

ULTRAFREEMILLIPORE)やVIVASPINVIVASCIENCE)はエンテロトキシンの濃縮と同時にバッファ交換が可能である。膜への吸着がなく、エンテロトキシンの検査には有用な器材の一つである。

4. イオン交換樹脂

Amberlite CG 50CM-SephadexQAE-SephadexDEAE-celluloseSP-Sephadex等が毒素の精製に使用されているが、検査法としてはあまり利用されていない。

5. トリクロロ酢酸(TCA)沈殿法

古くは毒素精製に使用されたが、活性が失活するために毒素の精製の目的としては現在使われていない。最近カマンベールチーズ中の毒素濃縮法に有用であるとの報告がある。試料に最終濃度約5%の割合にTCAを氷冷下で加える。

6. ロータリーエバポレータ

毒素の耐熱性を利用したもので、エンテロトキシン以外の易熱性タン  パクを変性させる効果もあると考えられる。

ロータリーエバポレータによるエンテロトキシンの濃縮 

          (牛乳、加工乳、脱脂粉乳で可能)

 脱脂粉乳の溶解:脱脂粉乳は10%の割合で滅菌蒸留水に溶解する(スターラ

 ーで撹拌)。可能であれば4℃で一夜保存後に以下の方法を実施する。

1. 酸処理とクロロホルム処理

 1)試料10 15 ml2M塩酸を加え、pH 3.8に調整する。

   少しづつ加えると完全に凝固しない場合がある(失敗の可能性が高い)。

   予め加える2M塩酸量を検討し、一気に塩酸を加え、直ちに撹拌するの 

   がよい。

 2)撹拌後、室温に10分間放置。   

 3)生じた白色の凝集塊を4℃、3,000回転で20分間遠心する。

    透明な上清が得られる。そうでないものは再試験する。

 4)上清に2M水酸化ナトリウムを加えてpH6.8(中性)にする。

    白濁する。

 5)等量のクロロホルムを加えて振とうする(約20秒)。

 64℃で3,000回転20分間遠心する。上清が混濁したものは再試験する。 

2. ゲル濾過による塩類等の低分子物質の除去

  PD-10カラム(アマシャム バイオサイエンス)を使用する。

  カラムは洗浄すれば再使用可能であるが、流速が低下したものは捨てるほ

  うが効率がよい。

3. 濃縮

 1)ロータリーエバポレータ(約50℃)で蒸発乾固する(真空度10 mmHg)。

    突沸させないよう気を付ける。約15分間で終了する。

 2)ラテックスキット添付希釈液0.5 mlで溶解する(20倍濃縮)。

    原液から測定するためにこの希釈液を使用する。

4. ラテックス凝集反応(SET-RPLA

   エンテロトキシンA0.05 ng/mlの濃度に添加した時の回収率は約50

  である。他のキットでも測定が可能であるが、その場合はキット添付の希釈

 液で溶解する。

バッチ法によるエンテロトキシン高度濃縮法

(牛乳の場合)

   3.5牛乳、エンテロトキシンA0.05 ng/mlの濃度に添加  

1. 牛乳100 mlを遠心管に採取。2M塩酸を加えてpH4.0に調整する。室温で30分間静置。

2. 7,000回転、20分間、4℃で遠心する。

3. 上清に2M水酸化ナトリウムを加えてpH6.8に調整する。

4. 10%の割合にクロロホルムを加え振とうする(約20秒)。

5. 3,000回転、20分間、4℃で遠心する。中間層を吸わないように水層をピペットで採取し、ワットマン5A 濾紙で濾過する。

6. 水層を透析チューブに入れ、流水中で一夜透析する。

7. 透析処理した水層のpH2M 塩酸で6.0に調整する。

8.  0.01 M リン酸緩衝液(pH 6.0)で平衡化したCM-Sephadex C-50を水層に4 ml (ベッドボリューム)加え、スターラーで30分間、間欠的に低速で撹拌する。

9.  バッチしたCM-Sephadex C-50をグラスフィルターに移しSephadexを回収する。100 ml0.01 Mリン酸緩衝液(pH 6.0)で3回に洗浄する。最後はアスピレータで吸引して水分を可能な限り除く。

10.  4 ml0.2 M NaCl0.1M リン酸緩衝液(pH 7.5)で3回溶出する。

11.  限外ろ過(ULTRAFREE-15MILLIPORE)で溶出液を0.5 mlまで濃縮する。

12.  SET-RPLAによりエンテロトキシンの型別と定量。VIDASで定量して回収率を測定。                        

*牛乳、加工乳、脱脂粉乳では回収率は約70%である。後述するように、前処理を工夫すれば、ほとんどの乳製品で使用可能と考えられる。

 

簡易型バッチ法による多検体処理

  必要な器具、試薬等

1. 器具器材

 1)冷却遠心器(3,000回転)

  (可能であれば96穴マイクロタイタートレイ遠心用アダプター)

 2)ブレンダー

 3)ロータリーミキサー(タイテック等):バッチ用

 4)吸引装置:カラム洗浄後の水分除去用

 5)プレートミキサー:マイクロタイタートレイの撹拌用

 6)ハンデイタイプpHメータ

 7)マイクロタイタートレイ

 8)ポリプロピレン製遠心チューブ(50 ml15 ml

 9)エッペンドルフチューブ(1.5 ml

10PD-10カラム(アマシャム バイオサイエンス)

11PD-10エンプティカラム(アマシャム バイオサイエンス)

12)カラム立て(試験管立てを利用して作成)

13PD-10カラム用リザーバ

  SeP-PaK Reservoir或いはVARIAN BOND ELUTE RESERVOIR

    を工夫して取り付ける。

14)ピペットマン

15)パスツールピペット

16)ディスポーザブル注射筒:カラムの溶出用

17)噴射ビン:洗浄バッファ用

2. 試薬

 1CM-Sephadex C-50或いはSP-Sephadex C-50(アマシャム バイ 

  オサイエンス)

 2)クロロホルム

 32M 塩酸、2M水酸化ナトリウム

 4)洗浄液:0.01Mリン酸緩衝液(pH 6.0   

  大量に使用するので50倍濃縮液を作製し、適時希釈するのが便利である。

 5)溶出液:0.2 M食塩加0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.5

 6SET-RPLA(デンカ生研):毒素検出用逆受け身ラテックス凝集反応試薬

3. CM-Sephadex C-50の膨潤

 101Mリン酸緩衝液(pH 6.0)にCM-Sephadex C-50(膨潤率20?45 ml/g

  dry)を加え混合後、沈降スピードの遅い微粒子をデカント或いはアス

  ピレータで吸引除去する。

 2)室温で数時間以上放置して十分に膨潤させ、水分を可能な限り除く。 

  3)冷蔵庫で保存する。

 

 簡易型バッチ法の基本操作手順

1. 酸処理(カゼインの除去)

 12M塩酸でpH4.5に調整する。一気に加え激しく混合する。

 2)室温に10分間放置する。

 3)遠心(3,000回転、20分、4℃)

2. 中和(中性で不溶性物質の除去)

  2M水酸化ナトリウムを加えてpH6.8に調整する。

3. クロロホルム処理(脂質の除去とタンパク変性)

 1)上清に等量のクロロホルムを加えて20秒間激しく混合する。

 2)遠心(3,000回転、20分、4℃)

 3)上清を採取する。

4. ゲル濾過による試料のバッファ交換(イオン強度の低下、pHの調整)

 1)  PD-10カラムを25ml0.01 Mリン酸緩衝液(pH 6.0)で平衡化する。

   *リザーバを使用すると容易である。

 2)試料2.5 mlloadした後、3.5 mlの上記緩衝液で溶出する。

 3)上記の操作を3回繰り返す(計10.5 mlの濾液が得られる)。

5. バッチ(イオン交換樹脂と毒素の吸着)

 1)0.01 Mリン酸緩衝液(pH 6.0)で膨潤したCM-Sephadex C-50 0.5 ml加える(ピペットチップの先端を切断して使用)。

 2)ロータリーミキサーで緩やかに撹拌(30分)

6. 洗浄(非吸着物質の除去)

  0.01  Mリン酸緩衝液 pH 6.0(噴射ビン入)約10 mlをカラムに流し込み

2回 洗浄する。洗浄液は可能な限りアスピレータで除去するのが重要である。

7. 溶出(イオン強度及びpHを上げ毒素を遊離させる)

 10.2 M食塩加0.1 M リン酸緩衝液(pH 7.5)を0.5 ml加える。

 2)室温に10分間放置する(時々軽く混和)。

 3)カラムの内径に合うディスポーザブルの注射筒(5 ml)を装着する。

 4)圧をかけて溶出液を1.5 mlエッペンドルフチューブに採取する。

8. SET-RPLA(デンカ生研)による毒素の型別と濃度の測定

 1) 取り扱い説明書では試料の希釈列は25μlとなっているが、50μl或いは100μlでは、それぞれ検出感度は2倍、4倍に上昇する(デンカ生研の情報、私達も確認した)。

2) U型のマイクロタイタープレートはV型よりも1管高くでる。

 3)  プレートを30分間ミキサーで撹拌、1,500回転で15分間遠心、斜めにすれば凝集の有無が直ちに判定可能である(デンカ生研の情報)。

 *エンプティカラムには使用済みPD-10カラムを蒸留水で洗浄すればよい。

 *操作が簡単で多検体処理に都合がよく、所用時間は3〜4時間である。

検体の前処理法

1. 牛乳、乳飲料:そのまま使用

  脱脂粉乳:10%乳剤にする(スターラー等で溶解)。

  チーズ:等量の蒸留水を加えてブレンダーで処理する。

  粘稠性のある乳飲料:蒸留水で1.5倍位に希釈する。

  酸処理〜中和〜クロロホルム処理〜ゲル濾過   

    *必要に応じて濾紙(5A)で濾過する。

2. アイスクリーム類:等量の蒸留水を加えて良く混合する。

  バター:等量の蒸留水を加えて約50℃で加温溶解する。

  クロロホルム処理〜酸処理〜ゲル濾過

   *必要に応じて濾紙(5A)で濾過する。

3. pHが低い乳製品(酸処理の必要はない)

  固形ヨーグルト:蒸留水を加えて良く混合する。

  発酵乳;蒸留水で1.5倍位に希釈する。

遠心〜中和〜クロロホルム処理〜ゲル濾過

   *必要に応じて濾紙(5A)で濾過する。

4. クリーム類(植物性、動物性)

  10%脱脂粉乳を1/3量〜等量加えて2. と同様の前処理をする。

       (更に検討の余地あり)

エンテロトキシン検査上の問題点

1. 国際標準の毒素がないので、トキシンテクノロジー社(米国)の毒素を使用せざるを得ない。A〜EH型が入手可能(代理店コスモバイオ)。100μg47,00073,000円と高価である。

2.  地方衛生研究所の検査では毒素量と型別が要求される。特に毒素が単一でない場合の定量は困難である。日本で入手可能で、型別と定量或いは半定量できるキットはRIDASCREENSET-RPLAである。VIDASTransia Plateは単一の毒素であれば定量できるが型別はできない。2種類以上の毒素が混在すると、型別も定量もできない。

3.  各キットの検出限界は毒素型により異なる。キットのロット差にも注意が必要である。

4.  検出限界付近で毒素陽性と判定するのは危険である。バッチ法で高度に濃縮(例えば100倍濃縮)し、希釈しても陽性になることを確認するのが安全である。

如何なる前処理法を採用しても、いずれの検出キットを使用しても、免疫学的検出法にはfalse negativefalse positive反応が起こり得ることを念頭におく必要がある。食品中のプロテインA、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ等が凝集反応或いは酵素反応を妨害する。これらはウサギ血清での処理(IgGとの結合)或いは加熱処理で防止できると思われる。しかし、未知の妨害物質があるのは当然予想される。経験のない食品の検査では、1)一定量の毒素を添加した試料で回収試験を行う。2)複数の検査オプションを用意しておく。3)異なる検出キットの併用(例えばRPLAELISA)等により、非特異反応による検査ミスを防止するのが重要と考えられる。

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