平成11年度
厚生科学研究費補助(生活安全総合事業)
分担研究報告書
缶コーティングからのビスフェノールA及び関連化合物の溶出に関する研究
分担研究者 河村葉子
(国立医薬品食品衛生研究所)
研究要旨
缶コーティングから飲料へのビスフェノールAの溶出に関連する各種ファクタ
ーの影響及び溶出原因の解明を行うため、缶入飲料の調査でビスフェノールA含有量が高
かったコーヒー及び紅茶各2銘柄の相当缶及びその改良缶を試験した。缶各部位のコーテ
ィング中のビスフェノールA含有量を測定したところ、コーヒーAではサイドシーム、コ
ーヒーBと紅茶Bでは底部で極めて高い含有量を示した。また、紅茶Aでは突出した部位
はみられなかったが、面積が広い側面の含有量がやや高いため、缶全体では高い値を示し
た。一方、改良缶では、側面及び底部はほぼ定量限界以下であり、サイドシームも大きく
減少していた。
これらの缶について食品擬似溶媒を用いた溶出試験を行ったところ、水60℃及び95℃30
分間、20%エタノール60℃30分間、n-ヘプタン25℃60分間のいずれの条件においてもビス
フェノールAの溶出はみられなかった。しかし、水120℃30分間で溶出を行うと、相当缶で
は35〜124ng/mLの溶出がみられ、缶入飲料におけるビスフェノールAにほぼ近い値であ
った。また、溶出時間の増加とともに溶出量の増加がみられた。これらのことから、ビス
フェノールAの溶出には、エポキシ樹脂のガラス転移温度である104℃以上の加熱が必要
であり、飲料を缶に封入後の加圧加熱滅菌における温度と時間が、溶出に大きく影響する
ことが示唆された。一方、改良缶では溶出量は3〜6ng/mLと大幅に減少しており、缶コー
ティング中の残存量を減少させた今回の改良は、ビスフェノールAの溶出量低減に極めて
有効であったと判断された。
次に、ビスフェノールA、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)、その四水
酸化体(BADGE-40H)及び二塩素体(BADGE-2Cl)について、LC/MSによる飲料中の分析法を開
発し、市販缶入飲料72検体中の含有量を分析した。ビスフェノールAは、紅茶、緑茶等の
茶飲料から検出されたが清涼飲料及び酒類では検出されず、前回の調査と比べて高い含有
量のものがなくなり、検出頻度、含有量ともに減少していた。一方、BADGE関連化合物に
ついては、BADGEはいずれの試料からも検出されなかったが、その加水分解物であるBADGE-
40Hは、紅茶、緑茶など茶飲料を中心に、スポーツ飲料、果汁飲料、リカー類からも検出
され、残存量もビスフェノールAより数倍〜数十倍高かった。さらに、塩化水素付加体の
BADGE-2Clもポリ塩化ビニル樹脂塗装缶の一部飲料から検出された。BADGE関連化合物に
ついては、EUの暫定基準値1ppmを超える試料はみられなかったが、今後注視していく必
要があると考える。
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