平成11年度
厚生科学研究費補助(生活安全総合事業)
分担研究報告書
ビスフェノールAの塩素処理による反応生成物の同定とエストロゲン様作用の評価
分担研究者 相澤 貴子
(国立公衆衛生員水道工学部水質管理室長)
研究要旨
昨年度、水道水を対象に実施した33種類の内分泌撹乱化学物質実態調査において検出
された物質は主としてフェノール化合物であった。また、水道用資機材からの溶出試験に
おいてもフェノール化合物が溶出することが確認された。フェノール化合物は化学反応性
が高い特性があることから、水道におけるフェノール化合物が引き起こす内分泌攪乱作用
を正確に評価し、制御するのには、塩素処理による反応生成物を同定し、そのエストロゲ
ン様活性の寄与を考慮しなければならない。
反応生成物の同定にはGC/MS法やLC/MS法等の分析手段が用いられているが、反
応メカニズムが明らかにされていない反応では、これらの分析手段のみではすべての副生
成物を同定するのには多大な時間を要する。水道の塩素処理副生成物の生成メカニズム解
明では、フェノール類と塩素との反応経路がモデルとなって研究されているケースが多い
が、これらの反応メカニズムに関する研究は簡単な構造のフェノール類が扱われている。
ビスフェノールAのような若干複雑な構造では、フェノール類と塩素との反応メカニズム
は明らかにされておらず、GC/MS法やLC/MS法のみでは完全な塩素分解生成物の同
定は不可能であり、LC/NMR法などの導入も必要になってくる。
一方、有機合成分野で化学反応経路を予測するには分子軌道法がよく使われている。分
子軌道法は有機反応化学を“経験則”から脱却させ、有機反応を統一的に理解することが
できる。環境分野では処理プロセスや環境中における化学物質の分解経路に関する研究も
実験に基づく経験則で論議されており、分子軌道法の応用は殆ど行われていないのが現状
である。
上記の背景に踏まえて、本研究では水道原水からの検出頻度が高いビスフェノールAを
モデル物質とし、塩素との反応メカニズムを理論計算から推定し、LC/MSによる塩素
処理分解物の測定結果に基づき理論値と実験値を比較、解釈することとした。また、ビス
フェノールAの塩素処理によってエストロゲン様活性が変化する可能性があるので、エ
ストロゲンレセプター結合活性で評価することとした。
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