平成11年度 厚生科学研究費補助(生活安全総合事業)

総括研究報告書

内分泌かく乱物質の生殖機能と次世代への影響
特に生殖泌尿器系・先天異常の成因に関する疫学的研究

主任研究者  岸 玲子 (北海道大学医学部 教授 予防医学講座公衆衛生学分野)

研究要旨

  内分泌かく乱化学物質の多くは、催奇形性と神経発達の異常等の次世代影響が大きいのが特長である。本実験では、内分泌かく乱物質の生殖機能と次世代への影響、特に生殖泌尿器系・先天異常の成因を明らかにするために、尿道下裂、停留精巣等の先天異常、不育症、不妊・子宮内膜症等に関する疫学調査と実験動物を用いた曝露実験を行う。尿道下裂、停留精巣等の先天異常の疫学研究では、まずpopulation-basedで発生動向を把握し、ついで症例対照研究で患児の生殖器が分化形成する時期の親の内分泌かく乱化学物質への曝露状況を調査する。同時に臍帯血など生体試料中の内分泌かく乱化学物質の濃度の測定を行う。また、不育症、不妊・子宮内膜症に関しては、症例対照研究を行い、内分泌かく乱化学物質との関連を検討する。内分泌かく乱化学物質を用いた曝露実験も同時に行い、次世代の神経内分泌系の影響とそのメカニズムを検討する。
  現在、疫学研究および動物実験を継続中であるが、初年度に行った研究から若干の知見が得られた。尿道下裂症例では、LH-RHに対し過剰反応を示したが、hCG刺激に対してテストステロンの反応は乏しかった。これらの結果から、尿道下裂症例では思春期前の段階から既に何らか精巣機能障害、特にライディヒ細胞の機能障害が存在することが示唆された。また、不育症例では、グルタチオン転移酵素遺伝子のM1型の機能欠損型の頻度が高く、妊娠6-7週における抹消血NK細胞の高活性と染色体正常流産とに関連がみられるなど新しい知見が得られた。スチレンの妊娠ラットへの曝露実験からは、生後直後の仔にセロトニンの減少がみられ、また生後離乳期の21日目ではセロトニンの代謝物5-HIAAの減少と5-HIAA/5-HT比の低下がみられた。これらより妊娠中の胎仔脳の発達にとって鋭敏な時期における神経障害作用のある化学物質の曝露は、仔の生後発達に影響を与える可能性が示唆された。
  今後、population-basedの疫学研究、症例対照研究および動物実験を継続し、内分泌かく乱物質の生殖機能と次世代への影響を詳細に検討する予定である。

戻る

内分泌かく乱物質ホームページに戻る
平成11年度 厚生科学研究報告書のページにもどる