平成11年度 厚生科学研究費補助(生活安全総合事業)

分担研究報告書

内分泌撹乱化学物質(有機溶剤・スチレン)の次世代影響に関する研究
−スチレンへの妊娠中曝露のラット脳内神経化学物質への影響−

主任研究者  岸 玲子 (北海道大学医学部予防学講座公衆衛生学分野教授)
研究協力者  片倉 洋子、池田 聡子、三宅 浩次

研究要旨

  内分泌撹乱物質の一種とされている有機溶剤スチレンは産業的にも大型機器など種々の用途に広範囲に使用され、日常生活的にも食品トレー、ポリスチレン製食器など多量に使用されている。職業上でスチレンを取り扱い作業を行う者の数も多く、最近は女性労働者の多職場への進出により、妊娠中も職場で働く女性も増加する傾向にある。スチレンは変異原性や催奇形性についての疑いがあり、ひとの疫学でも女性労働者の月経障害や低体重児出産などの影響について検討されている。実験的に発生の初期から、成長後までそれぞれの時期に対応した鋭敏な次世代影響の検出方法の開発、生殖毒性の検討、次世代の神経発達、行動障害の多様性の検討、次世代影響を引き起こすメカニズムを検討する目的で、今回妊娠中スチレン曝露による生殖と胎仔への影響を曝露中の摂食条件を考慮してラットを用いて実験、検討を行った。特に脳内神経化学物質の濃度に影響が出ているかどうかは、生後発達にも関与すると思われるセロトニン系で生後直後にセロトニンの減少が見られた。また生後離乳期の21日目ではセロトニンの代謝物5-HIAAの減少が有意であった。5-HIAA/5-HT比も有意に低くなっていた。妊娠中の胎仔脳の発達にとって鋭敏な時期における神経障害作用のある化学物質の暴露は仔の生後発達に影響を与える可能性があると思われる。今回の実験で使用された濃度50ppmは日本でのスチレン許容濃度でもあり、産業現場で使用される化学物質の許容濃度等の検討には生殖毒性、発達毒性も考慮した討論が必要と思われる。
  これからは母ラットのエストロゲン、黄体ホルモン等の測定などを見ることでより早期での内分泌撹乱物質の生殖内分泌系への影響を検出していく方法等も実験的な仔ラットへの影響などとあわせて検討していきたいと考えている。

戻る

内分泌かく乱物質ホームページに戻る
平成11年度 厚生科学研究報告書のページにもどる