平成10年度 厚生科学研究費補助(生活安全総合事業)

分担研究報告書

内分泌かく乱物質の人体影響に関する調査研究事業
28日間反復投与試験等に関する調査研究、OECDテストガイドライン国際共同バージョンプロジェクト)

主任研究者 広瀬雅雄 国立医薬品食品衛生研究所 病理部長

研究要旨 

化学物質の内分泌系への影響を高感度に検出し得る新しい試験法として"OECD Test Guideline 407 enhanced"案が提案された。今回我々は、この試験法の有用性を検証する目的で、"OECD Test Guideline 407 enhanced"案を基礎としたラット28日間反復投与毒性試験を実施した。被験物質は、ホルモンレベルや内分泌系組織に影響を与え得る陽性対照として、非ステロイド性の抗アンドロゲン作用物質として知られるFlutamideおよび合成男性ホルモンであるMethyltestosterone (MT)を用いた。実験は、1群10匹の雌雄の6週齢Crj:CD(SD)IGS系ラットにFlutamideは4、1、0.25mg/kg体重、MTは80、20、5mg/kg体重の投与量で連日強制経口投与し、雄は投与回数を28回とし、最終投与の翌日に全生存動物を屠殺した。雌は28回投与の翌日から4日の間で、性周期が発情静止期に相当する日に屠殺することとし、屠殺前日まで投与を継続した。性周期の観察は膣スメア法により投与開始の20日後から屠殺当日まで実施した。また、持続発情等の性周期の異常を認めた動物は全て28回投与の翌日に屠殺することとした。主な検査項目として、性周期観察の他、体重、臓器重量、血液、血清生化学、血清ホルモン、精子および病理組織学的検査を行った。その結果、体重はMT投与群では雄80mg/kg投与群で対照群と比較して減少傾向がみられたが、逆に20mg/kgおよび5mg/kg投与群では増加傾向がみられた。雌は各群ともに対照群と比較して増加し、20および80mg/kg投与群で明らかな増加が認められた。 

雌の性周期は80mg/kgMT投与群では正常の周期は全く観察されなかった。血中ホルモンレベルは、4mg/kgFlutamideを投与した雄では、対照群に比べ、テストステロンとエストラジオールの増加が統計学的有意に認められた。MT投与群では雌の最高用量で卵胞刺激ホルモンが有意に高かったが、それ以外の項目では雌雄各群とも有意差は認められなかった。臓器重量は、4mg/kgFlutamide投与群で精巣上体の絶対重量と性嚢の絶対重量及び相対重量の減少、1mg/kg投与群で精巣上体の絶対重量と相対重量の減少が有意に認められた。80mg/kgMT投与群で精巣と精巣上体の絶対重量および相対重量の有意な減少が認められた。副腎と卵巣の絶対重量および相対重量は、全てのMT投与群で有意に減少した。また20mg/kg投与群の子宮の絶対重量および相対重量では有意な減少が認められた。病理組織学的検査では、Flutamide 4mg/kg投与群で精上皮細胞の定量的解析の結果、ステージIX〜XIのグループにおいて4mg/kg投与群のレプトテン期精母細胞数の増加が、軽度ながら対照群に比べて統計学的有意に認められた。MT投与群では精細管の萎縮、ライディッヒ細胞の萎縮、パキテン期精母細胞の変性、精巣上体管内の変性細胞の増加がいずれも80mg/kg投与群で有意に増加した。雌では卵巣の多卵胞性卵胞が全てのMT投与群で有意に増加した。子宮では内腔拡張および子宮腺細胞の空胞変性が80mg/kg投与群で有意に増加した。膣では上皮が淡明な円柱状の細胞で構成された異常な性周期変化が80mg/kg投与群で全例に認められた。乳腺では乳管の過形成が20mg/kg投与群で3例みられ、80mg/kg投与群では10例で程度も強く、有意差が認められた。また、副腎皮質網状帯細胞の軽度の萎縮が20mg/kg以上の投与群で認められた。以上、臓器重量、血清ホルモンレベル、病理組織学的所見がホルモン作用を検出する有効な指標であり、なかでも雌ではスメア検査、雄では精子形成サイクルを考慮した精上皮の定量的解析がすぐれた指標になり得ると考えられた。一方、用量設定基準、設定方法、測定項目など今後検討を加えるべき課題も残されている。 

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