研究要旨
ポリ塩化ビニル製おもちゃからのフタル酸エステル類の溶出について,上記6研究機関で検討項目を分担した.すなわち乳児MOUTHING行動の実体調査は国立小児病院の谷村氏が担当し,フタル酸エステル類の分析法の検討,おもちゃ中のフタル酸エステル類の残存量の調査及びおもちゃからのフタル酸エステルの溶出等については5機関で実施し,以下の結果を得た.
1.乳児MOUTHING行動の実体調査では,3〜10ヶ月児50名を対象として母親による観察記録調査を実施したところ,1日のMOUTHING時間は平均180分(活動時間の32%)であった.6〜12ヶ月児数名のビデオによる観察ではオランダの報告よりもMOUTHING時間が長いことが解った.
II.フタル酸エステル類の分析法の検討は5機関で行ったところ,材質中の残存量の定量はGC法が適しており,入手した15種類のフタル酸エステル及び2種類のアジピン酸エステルの定量が可能であった.溶出試験溶液の定量はHPLC法が適した.
III.おもちゃ中のフタル酸エステル類の残存量の結果を表1にまとめた.試料は乳幼児が口に入れることを目的としたおしやぶり,歯がため,ストローの他,口に入れる可能性があるおもちゃ等57種類を測定した.フタル酸エステル類のうち,フタル酸ジイソノニル(DINP)が36試料で,フタル酸ジー2一エチルヘキシル(DEHP)が16試料で,フタル酸ジブチル(DBP)が13試料で, アジピン酸ジー2一エチルヘキシル(DEHA)が4試料で,またフタル酸ジノニル(DNP)が2試料で検出された.DINPの残存量は14〜58%であり,ほとんどの場合単独で用いられていた.ボール類からはDEHP,DBP及びDEHAが検出されたが,DINPが検出されたのは1試料であった.やや堅めのストローではDEHP及びDBPが検出されたが,残存量は比較的少なかった.
IV.フタル酸エステルの溶出に関する研究は,ボランティアによるヒト口腔内でのチューイングの予備的試験を実施するとともに,研究室で各種振とう機器を用いて溶出試験を実施し,ヒト口腔内でのチューイング試験の代替えとなる溶出試験法を検討した.
1)ヒトボランティア3名による口腔内におけるおもちゃ試験片からDINPの唾液 への移行試験 おしゃぶり,ガラガラ及び歯がための各試験片からのDINPの平均総移行量はそれ ぞれ,300,341及び182μgであった.唾液量は25.0m1〜39.9m1であり,唾液中 の濃度はおしゃぶりで5.8〜11.2μg/ml,ガラガラでは8-4及び11.6μg/m1,また 歯がためでは4.4及び6.0μg/m1であった.
2)各種振とう機器を用いたおもちゃ試験片からのDINPの溶出試験 縦(上下)振とう,水平方向の8の字振とう及び往復振とう,超音波振とう等によ る溶出試験を検討したところ,縦(上下)振とう法が最も溶出量のバラヅキが少なく, また,試験片の形状や重量等の影響も小さく,振とう効率が良いことが明らかとな った.DINPの溶出量は溶出用器具の中でのおもちゃ試験片の動きが大きいほど多 くなり,ビー玉を加えると,試験片の動きが妨げられDINPの溶出量は低下した. 縦(上下)振とう法は,溶出時間等のさらなる検討を要するが,乳幼児のおしゃぶりによるDINP曝露量推定の外挿法として有用な方法となる可能性が示唆された. |