平成10年度厚生科学研究費補助金(生活安全総合研究事業)

(総括・分担・総合)研究報告書

おもちゃからのフタル酸エステルの溶出に関する調査研究

協力研究者 松木容彦 食品薬品安全センター秦野研究所研究部長

研究要旨

 近年、野生動物において様々な化学物質による生殖機能への影響等が多数報告されており、その作用から外因性内分泌かくらん物質(環境ホルモン)として人体に対する影響に社会的関心が高まり、国をあげての調査研究が進められている。本研究は、これら内分泌かくらん物質と称される化学物質のうち、プラスチック製品の可塑剤として多用されているフタル酸エステル類について、特に、乳幼児が種々のプラスチック製おもちゃをおしゃぶりした時におもちゃから溶出する可塑剤による曝露量を推定するためのin vitro試験法を確立することを目的に、フタル酸ジイソノニル(DINP)を例に基礎的検討を行った。

まず最初に、DINPを測定するために高速液体クロマトグラフ法による分析条件の検討を行い、定量範囲50〜1000ngの測定法を確立した。また、実際のおしゃぶり行為により唾液中へ溶出するDINP量を推定するため、成人男子被験者による予備試験を行った結果、DINP溶出量は約2μg/mL(24.5μg/5min)であった。

次に、おもちゃ試料を用いてDINPの抽出方法について種々検討した結果、抽出方法としては縦振邊抽出法が最も抽出量のバラヅキも少なく、かつ、効率が良かった。そこで縦振藍抽出法により抽出条件を検討したところ、振盈時間については、振盈開始直後からDINPの溶出量が直線的に増加しその後定常状態になること、また、抽出液については、塩濃度よりその液性(pH)によりDINP溶出量が異なることが判った。また、同一試料を繰り返し抽出したところおおよそ振盗20回を超えるとDINP溶出量は急激に減少することが明らかとなり、実際のおしゃぶり行為においても長期に亘って接するものについては同様の傾向があると推測された。以上の検討結果から、おもちゃ試料の溶出試験における抽出方法は、縦振盈抽出法(300stroke/min)を用い、振藍時間は、DINPの溶出量が定常状態とならない10分、抽出液は人工唾液とし、その液量は1p2当り2mLの割合、液性はヒト唾液と同程度のpH、すなわちpH7とした。また、抽出操作中のおもちゃ試料の動きがDINP溶出量に重大な影響を及ぼすことから、おもちゃ試料を直径3p、表面積約14p2の円形サンプルとし、抽出容器は50mのガラス製遠心管とした。本条件下、おもちゃ試料9サンプルを溶出試験した結果、DINPの溶出量は約60〜130μg/10minであり、各測定値のバラヅキは少なかった。一方、同程度の表面積を有する非円形サンプルでは、その溶出レベルが円形サンプルに比し著しく高値を示すものが見られ、両者の違いは抽出中のサンプルの動きに起因するものと推察され、これら非円形サンプルについてはその形状と抽出率等について検討を行い、おしゃぶり時の溶出との関係について精査することの必要性が示された。

以上、円形サンプル作製可能なおもちゃ試料についてさらにサンプルの大きさとDINP抽出率との関係を調整することにより、本in vitro抽出法が実際の乳幼児のおしゃぶり行為によるDINP曝露量推定の外挿法としての有用な方法となる可能性が示された。

 

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