平成10年度厚生科学研究費補助金(生活安全総合研究事業)

総括研究報告書

主任研究者  今井 清 (食品薬品安全センター 秦野研究所)

 

研究要旨

  本研究は、内分泌かく乱化学物質の諸課題の内、試験法の開発を中心とした研究を促進し、経済開発協力機構(OECD)や米国環境防護庁関係機関(EPA・EDSTAC)から提案されている諸試験法の試行的実施と必要に応じたそれらの改良、ならびに新規試験法の開発等を総合的に推進することを目的として実施された。
  研究の1年目にあたる本年度は、1)試験管内試験法、2)代謝薬理作用に関する試験法、3)動物を用いた試験法、4)健康影響への情報収集の4分野に分けて研究を行った。試験管内試験法に関しては、数種の内分泌かく乱化学物質(EDCs)のヒトαエストロジェン受容体に対する親和性は、ラットの子宮から得たエストロジェン受容体に対する親和性とほぼ同程度であったが、ヒトβエストロジェン受容体はgenistein対し約10倍強い親和性を示すこと、ステロイドホルモン受容体遺伝子に属するNOR-1遺伝子あるいは膜受容体を介した転写活性の変化を、ラット副腎髄質由来のPC12細胞に、適切なレポーター遺伝子を結合して導入することにより検出可能なことを明らかにした。代謝薬理作用に関する試験法の検討では、ヒトフェノール硫酸転移酵素分子種SULT1A1が、ビスフェノールAの硫酸抱合反応を触媒すること、本酵素の変異型213His、223Valでは触媒活性が非常に低いことを確認したほか、エストロジェン発癌のリスクマーカーと考えられているカテコールエストロジェンおよびその代謝物の尿試料を用いた同時分析法の開発、実験動物の血液中の各種ホルモンの測定法の改良を行った。
  動物を用いた試験法の改良あるいは新しい試験法の開発のための研究では、dibuthylphthalate(DBP)を2%含有する飼料を妊娠動物に与えると多くの胚が死亡し、母体の卵巣重量、子宮重量、血中プロジェステロン濃度が低下していること、雄ラット新生児に17β-estradiol、nonylphenol、estradiol benzoate、bisphenol Aを投与すると性的二型核あるいは第3脳室周囲層にある前腹側脳室周囲核の容積が減少し(雄の雌化)、成熟すると交尾行動の異常など生殖機能障害が起こること、マウスの全胚培養胎児にglufosinate(除草剤)を作用させると中枢神経にアポトーシスが起こり、前脳、鰓弓び低形成、神経管の開存が起きることを明らかにした。さらに、雄ラット肝で特異的に産生されるα2U-グロブリンの血清中濃度が、DESの投与により用量依存的に減少することが確認された。
  一方、EDCsと考えられている14化合物中10物質(alachlor、aldrin、DDT、permethrin、triflualin、vinclozolin、DES、PCBsなど)が肝発癌に促進的に作用することが明らかとなったが、methoxychlor、atrazine、bisphenol A、17β-estradiol、は、甲状腺発癌に対しては促進効果を示さなかった。さらに、内分泌かく乱化学物質を検出するための各試験法を比較検討して、その有用性量的点を整理する作業を開始したほか、3D-QSARによりダイオキシン類の3次元構造を予測し、エストロジェン受容体との結合様式を分子モデルを用いて推測した。また、いわゆる植物由来ホルモンおよび有機すずについて定量的なデータを収集し、人に対するリスク・ベネフィットの検討を行うとともに、内分泌かく乱化学物質に関するエンサイクロペディアの集大成を目標にして、キーワードの選択作業を開始した。本研究により、OECDなどで提案されている内分泌かく乱化学物質検索のための試験法に加えて、生体内で起きる現象をより正確に反映した簡便なスクリーニング法あるいは胎児、新生児を含む実験動物を用いた内分泌かく乱物質の神経系、免疫系、および発癌性に対する影響を検討するための新たな試験法の開発が必要であることが確認され、そのための基礎的な情報を得ることが出来た。

 

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