研究要約

  OECD内分泌撹乱物質検査及び評価ワーキンググループ（EDTA)の検討を踏まえて実施される国際共同バリデーションプロジェクトの一環として、タモキシフェンの28日間反復経口投与毒性試験を、「EMSG Proposal for Testing of Adequacy of an enhanced OECD 407 Protocol」（1998年10月15日）に従って、雌雄のSprague-Dawley系[Crj：CD (SD) IGS，SPF]ラットを用いて実施した。投与量は、雌雄とも０（溶媒対照群、0.5％CMC-Na水溶液）、12.5、50、および200μg/kgとし、１群10例で雄については28回投与の翌日に剖検した。雌については、投与期間の末期に性周期を観察し、28回以上の投与の後、発情休止時に剖検した。結果は以下の様に要約される。

１．雌雄とも全投与期間を通じて、死亡ならびに一般状態の異常は認められなかった。

２．体重は雄において50μg/kg以上の投与群で、雌においては200μg/kg投与群で抑制された。

３．性周期観察の結果、12.5μg/kg以上の投与群で性周期の延長が観察された。さらに、50μg/kg以上の投与群では発情期の認められない動物が観察された。

４．血中ホルモンの濃度は、雄では50μg/kg以上の投与群で黄体形成ホルモンならびにプロラクチンの増加とテストステロンの低下が、雌ではエストラジオールの低下と、卵胞刺激ホルモンならびにプロラクチンの増加がそれぞれ認められた。雄のプロラクチン濃度の増加は、12.5μg/kg投与群においてもみられた。

５．血液学的検査の結果、雌の200μg/kg投与群においてプロトロンビン時間の延長が認められた以外、雌雄ともいずれの投与群においても、被験物質投与によると考えられえる変化は認められなかった。

６．血液生化学的検査の結果、雄においては12.μg/kg以上の投与群で、雌においては50μg/kg以上の投与群で、総コレステロール濃度の低下がみられた。雌においては12.5μg/kg以上の投与群で、トリグリセライド濃度の低下も認められた。
  雌においては、50μg/kg以上の投与群でアルブミン濃度、総蛋白濃度およびA/G比の低下が認められ、200μg/kg投与群においてはALP活性の有意な増加が認められた。

７．剖検の結果、200μg/kg投与群の雄では精嚢ならびに前立腺の小型化が、雌では卵巣ならびに子宮の小型化が、いずれもそれぞれ少数例で認められた。

８．器官重量測定の結果、精巣上体重量ならびに凝固腺を含む精嚢重量は200μg/kg投与群において低下した。精嚢と前立腺を合わせた副生殖腺重量は50μg/kg以上の投与群で有意な低下がみられたが、体重あたりの重量を求めると200μg/kg投与群においてのみ低下が認められた。卵巣重量は200μg/kg投与群で、子宮重量は50μg/kg以上の投与群で、いずれも低下が認められた。

９．病理組織検査の結果、雄では前立腺における形質細胞の浸潤が各被験物質投与群の少数例に認められた。一方、雌では卵巣の黄体数の減少が12.5μg/kg以上の投与群でみられ、200μg/kg投与群では閉鎖卵胞および間質腺の増加も認められた。子宮は内膜上皮細胞の肥大が12.5μg/kg以上の投与群で、内膜の萎縮が50μg/kg以上の投与群で観察され、200μg/kg投与群では子宮腺の減少、子宮内毛細血管の増加、子宮内膜上皮細胞の細胞破砕を伴う空胞化も認められた。子宮内膜上皮細胞の分裂像は12.5μg/kg以上の投与群で減少する傾向が認められた。膣は、粘液分泌期の上皮が用量依存的に増加する傾向を示し、膣内腔の好酸性の細胞破砕の程度が12.5μg/kg以上の投与群で用量に依存して増強した。さらに、膣上皮細胞の分裂像が12.5μg/kg以上の投与群で減少した。

10．精子の運動能ならびに精巣内の精子頭部の数には変化は認められなかった。

11．強化TG407プロトコールに従った今回の試験によって、既に報告されているタモキシフェンの影響を再現することが可能であった。低用量から認められた変化は、性周期の以上、血液中の脂質の変化、雌性生殖器における病理組織学的変化であった。