平成10年度 厚生科学研究費補助(生活安全総合事業) 報告書

ブチルベンジルフタレートのラットを用いる2世代繁殖試験

財団法人食品薬品安全センター秦野研究所

研究要約

  Sprague-Dawley[Crj:CD (SD) IGS,SPF]雌雄ラットの交配(雄では12週間、雌では2週間)および交配期間(2週間)ならびに雄では交配期間終了後3週間、雌では妊娠期間を通して分娩後21日まで、さらにF1出生児は生後22日(離乳日)から剖検前日まで、ブチルベンジルフタレート(以下BBPと略記)の0、20、100および500mg/kgを経口投与し、親動物およびF1動物に対する生殖発生毒性について検討した。
  成績は、以下のように要約される。

1.親動物の所見
  いずれの投与群においても死亡例はみられなかった。一般状態の変化としては、投与直後に一過性の流涎が100mg/kg以上の投与群で観察された。500mg/kg投与群の雄においては軽度な体重増加抑制が認められたが、雌の体重推移および雌雄の摂量には、BBPの影響は認められなかった。その他、性周期、交配成績、妊娠、着床および分娩に関しては、BBPの影響を示唆する変化はなかった。剖検時の器官重量測定では、肝臓重量の増加が雄の500mg/kg投与群で、腎臓重量の増加が雄の500mg/kg投与群および雌の100mg/kg以上の投与群で、卵巣重量の低下が500mg/kg投与群でそれぞれ認められた。しかし、病理組織検査では、BBPの投与に起因したと考えられる変化は認められなかった。剖検時に実施した精子検査では、異常値は認められなかったが、剖検時に採取した血液のホルモン濃度測定では、テストステロン濃度の低下が500mg/kg投与群で、FSH濃度の増加が100mg/kg以上の雄および500mg/kg投与群の雌で、T3およびT4濃度の低下が500mg/kg投与群の雄でそれぞれ認められた。

2.F1動物所見
  出生児の体重低下が、100mg/kg以上の投与群で認められた。また、500mg/kg投与群の哺育児体重は、哺育期間を通して対照群より低値であったが、哺育児の生存率にはBBPの影響を示唆する変化は認められなかった。哺育0日に測定した肛門生殖突起間距離は、500mg/kg投与群の雄で短縮し、500mg/kg投与群の雌で延長した。行動発達および身体発達の検査では、BBPの投与に起因したと考えられる変化はなかった。生後22日の器官重量測定では、精巣および卵巣重量の低下が500mg/kg投与群で認められたが、血中ホルモン濃度測定ではBBPの影響を示唆する変化はなかった。離乳後は、一般状態の変化として投与直後の流涎が500mg/kg投与群で観察され、体重の増加抑制が雄の100mg/kg以上の投与群および雌の500mg/kg投与群で認められ、雄の500mg/kg投与群では摂餌量の低下もみられた。性成熟の指標とした膣開口の時期にBBPの影響は認められなかったが、包皮分離の時期は500mg/kg投与群で遅延した。10週齢の剖検では、雄の生殖器および副生殖器の萎縮が500mg/kg投与群で散見され、同群では精巣上体、精嚢および卵巣重量が低下した。その他、回転ケージにより測定した自発運動量の増加が雌の500mg/kg投与群で認められたが、オープン・フィールド試験および水迷路学習試験においては、BBPの投与に起因したと考えられる変化は認められなかった。
  性周期の観察では、BBP投与群で不規則周期を示した動物が少数例認められたが、交尾率、交尾までの日数およびその間の回帰発情数に、対照群とBBP各投与群との間に差はなかった。受胎率については、対照群、20および500mg/kg投与群で72.7〜77.8%と低値であった。妊娠動物の出産率は、全投与群とも100%であり、妊娠期間および着床数、さらには分娩および哺育状態に関しても、BBPの影響を示唆する変化は認められなかった。
  交配終了雄の剖検では、精巣の小型化が500mg/kg投与群で観察され、精巣および副生殖器の重量が低下した。病理組織検査では、精細管の片側性萎縮および清掃上体管内の精子数減少が500mg/kg投与群で増加したが、卵巣および子宮には異常は認められなかった。剖検時の運動精子率および前進精子率は500mg/kg投与群でやや低下したが、対照群とBBP各投与群との間に有意差は認められなかった。また、精巣上体尾部の重量当たりの精子数に関しても、対照群とBBP各投与群との間に有意差はなかった。剖検時に採取した血液のホルモン濃度測定では、テストステロン、LHおよびT4の各濃度が、雄の500mg/kg投与群で低下したが、雌においては各ホルモン濃度に対照群とBBP各投与群との間に有意差は認められなかった。

3.F2動物所見
  総産児数および児の生存率には、BBPの影響を示唆する変化は認められなかった。哺育児体重は、500mg/kg投与群において低下傾向を示したが、対照群との間に有意差は認められなかった。出生児の形態観察では、生後21日の剖検で精巣の小型化が500mg/kg投与群の1例に認められたが、BBPの影響を示唆する異常はなかった。

4.無影響量
  以上の成績から、本試験条件下におけるブチルベンジルフタレートの親動物およびF1動物に対する生殖発生毒性に係わる無影響量はいずれも20mg/kg/dayと判断される。

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