平成10年度 厚生科学研究費補助(生活安全総合事業) 報告書

ノニルフェノールのラットを用いる2世代繁殖試験

財団法人食品薬品安全センター秦野研究所

研究要約

  Sprague-Dawley系[Crj:CD (SD) IGS,SPF]雌雄ラットの交配前(雄では12週間、雌では2週間)および交配期間(2週間)ならびに雄では交配期間終了後3週間、雌では妊娠期間を通して分娩後21日まで、さらにF1出生児では生後22日(離乳日)から剖検前日まで、ノニルフェノール(以下NPと略記)の0、2、10、50および250mg/kgを経口投与し、親動物およびF1動物に対する生殖発生毒性について検討した。成績は、以下のように要約される。
  なお、250mg/kg投与群では交配前の投与期間中に全身状態の悪化を示す動物が多数認められたため、交配を中止し、剖検した。したがって、250mg/kg投与群については交配前までの一般状態、体重、摂餌量および性周期について記載した。

1.親動物所見(250mg/kg 投与)
  250mg/kg投与群の雄では、交配前の投与期間中に排便量減少、削痩、活動性低下、体温低下、立毛等の全身状態の悪化が認められ、5匹を切迫屠殺した。同群の雌でも、投与1週に上記と同様の全身状態の悪化が認められ、4匹が死亡し、12匹を切迫屠殺した。このため、250mg/kg投与群の動物は。交配を中止し、生存動物もすべて剖検した。体重については、雄では投与期間中増加抑制が認められた。摂餌量では、250mg/kg投与群の雌雄において低下した。雌の性周期については、250mg/kg投与群において、投与開始後、全例(25匹)が変化し、うち23例が単発情あるいは無発情となった。

2.親動物所見(50mg/kg以下の投与群)
  50mg/kg以下の投与群には雌雄とも死亡動物は認められなかった。一般状態の変化としては、投与直後に一過性の流涎が50mg/kg投与群の雌雄で観察された。体重は、50mg/kg投与群において雄では増加抑制が認められたが、雌にはいずれの時期にもNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。摂餌量には、雌雄ともにNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。
  器官重量では、50mg/kg投与群の雄では肝臓および腎臓重量の高値、胸腺重量の低下が、雌では卵巣重量の低値が認められた。組織学検査では、50mg/kg投与群において雌雄ともに小葉中心性の肝細胞肥大が認められ、雄ではeosinophilic bodyの出現頻度が軽減した。
  雌雄の血中ホルモン濃度、精子検査、性周期、交配、妊娠、着床および分娩・哺育に関しては、NP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。

3.F1出生児の哺育期所見
  F1出生児の生存性、発育、形態、生後0日の肛門生殖突起間距離、行動発達および身体分化には、NPの投与に起因したと考えられる変化は認められなかった。生後22日の剖検、生殖器官の重量、血中ホルモン濃度および生殖器官の病理組織検査には、雌雄ともNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。

4.F1出生児離乳後の所見
  離乳後の一般状態の変化として、50mg/kg投与群で雌雄とも投与直後の流涎が観察された。
  体重については50mg/kg投与群の雌で育成期に体重増加抑制が認められた。雄の体重にはNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。摂餌量には雌雄ともにNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。
  膣開口の時期が、50mg/kg投与群で早期化が認められたが、包皮分離の時期にはNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。
  行動試験、10週齢時の剖検、器官重量には、NP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。

5.F1動物の生殖能力所見
  性周期および交配成績に、NP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。
  50mg/kg投与群において、妊娠期の体重および増加量が低値を示したが、哺育期の体重ならびに摂餌量にNP投与の影響を示唆する変化は認められなかった。妊娠期間、出産率にはNP投与の影響を示唆する変化は認められなかったが、着床数が50mg/kg投与群で低値を示した。
  器官重量では、50mg/kg投与群において、雌では卵巣重量が低値を示し、雄では肝臓および腎臓重量が高値を示した。組織学検査では、50mg/kg投与群において、雌雄ともに小葉中心性の肝細胞肥大が認められた。
  精子検査、雌雄の血中ホルモン濃度には、NP投与の影響を示唆する変化は認めれなかった。

6.F2出生児所見
  50mg/kg投与群において、F1母動物の着床数の低下に伴い、産児数、出産生児数および生後4日の生児数が低値を示したが、生存性、発育および形態には影響は認められなかった。

7.無影響量
  本試験条件下におけるノニルフェノールの親動物に対する一般毒性学的無影響量は、雄では50mg/kg投与群において、投与後の流涎、体重増加抑制、肝臓および腎臓重量の高値、胸腺重量の低値、小葉中心性の肝細胞肥大の発現頻度の増加、eosinophilic bodyの出現程度の軽減、雌では50mg/kg投与群において、投与後の流涎、卵巣重量の低値が認められたことから、雌雄ともに10mg/kg/day、親動物に対する生殖発生毒性学的無影響量は、50mg/kg以下の投与群に影響は認められなかったことから、雌雄ともに50mg/kg/dayと判断される。
  F1出生児に対する一般毒性学的無影響量は、50mg/kg投与群の雌雄に投与後の流涎および小葉中心性び肝細胞肥大が、雌では体重増加抑制、卵巣重量の低値が認められたことから、10mg/kg/day、F1出生児に対する生殖発生毒性学的無影響量は、50mg/kg投与群において膣開口日の早期化、F1母動物の着床数の低下が認められたことから、10mg/kg/dayと判断される。
  F2出生児に対する生殖発生毒性学的無影響量は、生存性、発育、形態にNP投与の影響を示唆する変化は認められなかったことから、50mg/kg/dayと判断される。

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