Morbidity and Mortality Weekly Report(CDC MMWR)からのカンピロバクター関連情報
https://www.cdc.gov/mmwr/


主に食品を介して伝播する病原体による感染症の罹患率が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に減少 − 食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワークの米国内10カ所のサイトでのデータ(2017〜2020年)
Decreased Incidence of Infections Caused by Pathogens Transmitted Commonly Through Food During the COVID-19 Pandemic - Foodborne Diseases Active Surveillance Network, 10 U.S. Sites, 2017-2020
MMWR Weekly, September 24, 2021 / 70(38);1332-1336
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7038a4-H.pdf(報告書PDF)
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7038a4.htm

(食品安全情報2022年7号(2022/03/30)収載)


 食品由来疾患は米国において主要な健康問題となっている。米国疾病予防管理センター(US CDC)の新興感染症プログラム(EIP:Emerging Infections Program)による食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)は、主に食品を介して伝播する8種類の病原体の検査機関確定感染症例数を米国内10カ所のサイトにおいて監視している。今回の報告書は、2018年の暫定データおよび2015年以降の変動をまとめたものである。2018年にFoodNetは、感染患者25,606人、入院患者5,893人および死亡者120人を確認した。2018年は、カンピロバクターやサルモネラを始めとするほとんどの病原体による感染症の罹患率が上昇しており、これは培養非依存的診断検査(CIDT)法の使用の増加が一因である可能性がある。2018年はまた、サイクロスポラ感染の罹患率が2015〜2017年と比べて著しく上昇しており、これは、農産物により発生した複数の大規模アウトブレイクに一部関連している。食品の安全性を高め、ヒトの疾患を減少させるためには、農産物農場、食糧生産動物農場および食肉・家禽肉加工施設において、対象を限定した予防対策が今後も必要である。


要約

〇 主に食品を介して伝播する感染症について現在わかっていることは何か。

 主に食品を介して伝播する感染症の罹患率は、2020年までは長年にわたって低下が見られなかった。

〇 本報告書による新規情報は何か。

 食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)によると、2020年の感染患者数は、国外旅行に関連する患者数の減少も含めて2017〜2019年の年間平均患者数より26%減少した。

〇 公衆衛生上の業務にとってどのような意味があるか。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとこれに対する公衆衛生上の対応によって食品由来感染症の罹患率変動を説明することは容易ではない。COVID-19パンデミックが食品由来疾患に及ぼす影響を明らかにし食品由来疾患対策を特定するには、サーベイランスを継続することが有用と考えられる。食品由来感染症の発生を減らすには、農場から加工施設、飲食店、家庭にわたる総合的な取り組みが必要である。消費者は、食品の安全な取り扱いと調理に関する推奨事項を守ることで食品由来疾患のリスクを低下させることができる。


 食品由来疾患は、公衆衛生において非常に重要であり多くの場合で予防可能な疾患である。主に食品を介して伝播する感染症の罹患率は、2020年まで長年にわたって低下が見られなかった。米国における食品由来疾患の予防対策の効果を評価するため、米国疾病予防管理センター(US CDC)の新興感染症プログラム(Emerging Infections Program)によるFoodNetは、主に食品を介して伝播する8種類の病原体の検査機関確定感染症例数を米国内10カ所のサイトにおいて監視している。FoodNetは、CDC、10州の保健局、米国農務省食品安全検査局(USDA FSIS)および米国食品医薬品局(US FDA)の協力事業である。本報告書は2020年の暫定データおよび2017〜2019年のデータとの比較をまとめたものである。2020年、腸管病原体による感染患者数は2017〜2019年より26%減少し、特に国外旅行関連の患者の減少が顕著であった。この減少に、実際の患者の減少または患者検出の減少がどの程度反映されているかは不明である。2020年3月13日、米国はCOVID-19パンデミックへの対応として国家非常事態を宣言した。この宣言により、各州・地域の当局は、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の拡散を遅らせるために、外出自粛/禁止命令(stay-at-home orders)、飲食店の営業停止、学校・保育施設の閉鎖およびその他の公衆衛生対策を実施した。また、連邦政府により渡航規制が宣言された。このような様々な介入や、高頻度の手洗い励行などの日常生活や衛生慣行が変わったことにより、食品由来病原体への曝露状況に変化が生じたと考えられる。さらに、医療提供の形態、医療機関の受診行動、検査機関の業務などが変化したことにより、腸管病原体の検出件数が減少したと考えられる。パンデミックが続いていることから、2020年に大きな変化が生じた要因を明らかにするには、疾患サーベイランスと他の情報源のデータを合わせて考察することが有用と考えられる。そして、この要因を把握することが疾患予防戦略の向上につながる。食品由来感染症の発生を減らすには、農場から加工施設、飲食店、家庭にわたって総合的な取り組みが必要である。消費者は、食品の安全な取り扱いと調理に関する推奨事項を守ることで食品由来疾患のリスクを低下させることができる。

 FoodNetは、カンピロバクター、サイクロスポラ、リステリア、サルモネラ、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)、赤痢菌、ビブリオおよびエルシニアの検査機関確定症例を対象に、合わせて全米人口の約15%(2019年の国勢調査では推定5,000万人)をカバーする国内10カ所のサイトで住民ベースのアクティブサーベイランスを実施している。細菌感染の定義は、培養によって臨床検体から細菌が分離されること、または培養非依存的診断検査(CIDT)によって病原体の抗原や核酸配列が、STECについては志賀毒素または志賀毒素遺伝子が検出されることとされている。リステリア感染の定義は、Listeria monocytogenesが分離されること、または通常は無菌の部位から、そして流産や死産の場合は胎盤組織か胎生組織からL. monocytogenesの核酸配列が検出されることである。サイクロスポラ感染の定義は、紫外線蛍光顕微鏡、特異的染色法またはPCRによってサイクロスポラが検出されることである。

 今回の解析では、国外旅行歴のない患者または旅行歴不明の患者は国内感染とみなされた。「当該感染症を原因とする死亡」の定義は、入院中の死亡、または入院しなかった場合は検体採取後7日間以内の死亡とした。罹患率(人口10万人あたりの患者数)は、サーベイランス対象地域について2020年の感染者数を2019年の米国国勢調査での推定人口で割ったものである。罹患率の算出では、検査機関で感染と診断された患者全員を対象とした。2020年と2017〜2019年の罹患率の変動を推定する際には、人口の経年変動を調整のうえで95%信頼区間(CI)での負の二項分布モデルが使用された。

 STEC感染症の合併症である下痢症後の溶血性尿毒症症候群(HUS)と診断された患者については、腎臓専門医と感染予防専門医のネットワークデータを介し退院情報の調査によってサーベイランスが行われた。本報告書には2019年の18歳未満のHUS患者のデータが収載されており、これが入手可能な最も新しい年のデータである。FoodNetのサーベイランス活動はCDCによって精査され、関連する連邦法およびCDCの方針に従って行われた。

 2020年にFoodNetは、感染患者18,462人、入院患者4,788人および死亡者118人を確認した(表)。人口10万人あたりの罹患率が最も高かった病原体はカンピロバクター(14.4)で、次いでサルモネラ(13.3)、STEC(3.6)、赤痢菌(3.1)、エルシニア(0.9)、ビブリオ(0.7)、サイクロスポラ(0.6)およびリステリア(0.2)の順であった。2020年の感染患者数は、2017〜2019年の年間平均患者数より26%少なかった。2020年の患者数は、エルシニアとサイクロスポラを除くすべての病原体で大幅に減少した。入院率は2017〜2019年より2%上昇した。2020年の感染患者のうち国外旅行に関連する患者の割合は5%(958人)で、2017〜2019年は14%であった。2020年の国外旅行関連の感染患者では、多く(798人、83%)が1〜3月に感染した。

表:細菌・寄生虫感染の検査機関確定患者数、入院患者数、死亡者数、アウトブレイク関連患者数、罹患率、および2017〜2019年の平均と比較した罹患率の変動(病原体別、FoodNet、米国内10カ所のサイト*、2017〜2020年

CI:信頼区間
N/A:非適用
STEC:志賀毒素産生性大腸菌
*:コネチカット、ジョージア、メリーランド、ミネソタ、ニューメキシコ、オレゴン、テネシー各州のデータと、カリフォルニア、コロラド、ニューヨーク各州の一部の郡のデータ
:2020年は暫定データ
§:細菌感染は、培養非依存的診断検査(CIDT)陽性または培養による分離、STECについては志賀毒素または志賀毒素遺伝子の検出。サイクロスポラ感染は、紫外線蛍光顕微鏡またはPCRによる検出。
:検体採取日の前後7日間以内に、入院もしくは24時間以上の救急診療科受診。2017〜2019年と比較した2020年の入院率の変動:カンピロバクター(+1)、サルモネラ(+2)、STEC(+2)、赤痢菌(+8)、エルシニア(+3)、ビブリオ(−3)、リステリア(−1)、サイクロスポラ(+2)
**:入院中の死亡、または入院しなかった場合は検体採取後7日間以内の死亡。
2017〜2019年と比較した2020年の死亡率の変動:カンピロバクター(0.0)、サルモネラ(+0.2)、STEC(0.0)、赤痢菌(+0.1)、エルシニア(+0.2)、ビブリオ(0.0)、リステリア(+2.0)、サイクロスポラ(−0.1)
††:2017〜2019年と比較した2020年のアウトブレイク関連患者の割合の変動:カンピロバクター(−0.1)、サルモネラ(+2)、STEC(−4)、赤痢菌(+6)、エルシニア(0.0)、ビブリオ(−4)、リステリア(−3)、サイクロスポラ(+8)
§§:人口10万人あたり
¶¶:上昇または低下が報告された罹患率の変動
***:罹患率の2017〜2019年との比較はSTEC O157(10万人あたり0.5)は−37%(95%CI[−49〜−22])、O157以外(1.4)は−43%(95%CI[−51〜−34])


 細菌感染者の59%はCIDTによって診断され(範囲:14%(リステリア)〜100%(STEC))、2017〜2019年より2%上昇した。2020年にCIDTのみによって診断された患者(すなわち、培養検査の結果が陰性の検体および培養検査が行われなかった検体も含まれる)の割合は、2017〜2019年より1%高かった。2020年はCIDT陽性検体の73%に追加培養(reflex culture)が実施され、2017〜2019年より2%低かった。追加培養が実施された割合は、ビブリオ(15%低下)、エルシニア(7%低下)、カンピロバクター(5%低下)およびSTEC(2%低下)が低下、サルモネラ(2%上昇)および赤痢菌(2%上昇)が上昇し、リステリアは変動がなかった。

 2020年にはサルモネラ5,336株(91%)の血清型が特定され、上位7種類はEnteritidis(人口10万人あたり1.6)、Newport(1.5)、Javiana(1.0)、Typhimurium(0.9)、I 4,[5],12:i:-(0.5)、Hadar(0.4)およびInfantis(0.3)であった。2017〜2019年との比較で、2020年に有意に低下したのはI 4,[5],12:i:-(48%低下)、Typhimurium(37%低下)、Enteritidis(36%低下)およびJaviana(31%低下)であった。罹患率は、Hadar(617%上昇、95%CI[382〜967])で大幅に上昇し、NewportおよびInfantisでは有意な変動はみられなかった。2020年のアウトブレイク関連のサルモネラ感染患者631人のうち73%は、Newport(220人、35%)、Hadar(135人、21%)およびEnteritidis(108人、17%)の3種類の血清型で占められた。アウトブレイク関連のS. Hadar感染患者は全員が、小規模飼育の家禽類との接触に関連して複数州にわたり発生したアウトブレイク1件の患者であり、47人(35%)が入院した。培養でSTEC陽性となった955株の63%が4種類の血清群であった。O157が最も多く(264株、28%)、次いでO26(148、15%)、O103(115、12%)およびO111(78、8%)の順であった。

 FoodNetは、2019年に下痢症後のHUSを発症した18歳未満の患者63人(人口10万人あたり0.6)を特定した。このうち55人(87%)にSTEC感染のエビデンスがあり、41人(65%)が5歳未満(人口10万人あたり1.4)であった。これらの罹患率は2016〜2018年と同程度であった。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部