(食品安全情報2021年3号(2021/02/03)収載)
背景
カンピロバクターは世界各地での細菌性胃腸炎の主要な原因であり、このことがヒトへの感染源を特定する研究の動機となっている。感染源の特定に集団遺伝学的手法が用いられることが増えており、主に多座塩基配列タイピング(MLST)法によるデータが使用されている。
目的
今回の文献レビューの目的は、MLSTを用いたカンピロバクター感染源特定に関する研究の手法および結果をまとめ、この方式のゲノム疫学に関する最良の実施方法を明らかにすることである。
方法
患者由来カンピロバクター分離株からの感染源特定にMLSTデータを利用している文献の系統的レビューを行った。文献は、この手法の使用が始まった2001年1月以降のものから検索した。検索には、Scopus、Web of ScienceおよびPubMedのデータベースを利用した。文献からは、使用した検体および分離株のデータセット、MLSTスキーム、そして使用した感染源特定アルゴリズムに関する情報を抽出した。主要な情報の他に、結果検証によって特定されたバイアスの補正に関する情報がある場合も抽出対象とした。データの不均一性が高かったことから、メタ解析については報告していない。
結果
検索で抽出された世界各国からの研究報告2,109報のうち、選別された25報を対象として系統的レビューを行った結果、ヒト感染の主要な感染源として家禽肉、特に鶏肉が特定された。反芻動物(ウシ、ヒツジ)の肉は、かなりの割合の患者の感染源として継続的に報告されていた。データ収集および解析手法はそれぞれ異なっており、使用されていた感染源特定アルゴリズムは5種類あった。アルゴリズムの正確度を測定するために、感染源が分かっている分離株の結果がその同じ感染源に帰属(self-attribution)する割合などの検証が報告されていたのは5報であった。検出されたバイアスの補正が報告されていた文献はなかった。
結論
検証と補正に課題があることは、ゲノム情報を利用する将来の感染源特定調査において感染源推定の精度が向上する可能性があることを示している。方法の違いに関係なく、高所得国ではヒトのカンピロバクター感染の主要な感染源は依然として鶏肉であり、公衆衛生における鶏肉への対策の重要性が浮き彫りになっている。