米国農務省経済研究局(USDA ERS)からのカンピロバクター関連情報
https://www.ers.usda.gov


米国のカンピロバクター症の原因となる食品、季節および気温を特定するための新しい調査方法
Attributing U.S. Campylobacteriosis Cases to Food Sources, Season, and Temperature
Economic Research Report No. (ERR-284) 56 pp, FEBRUARY 2021
May 12, 2015
https://www.ers.usda.gov/webdocs/publications/100501/err-284.pdf (報告書PDF)
https://www.ers.usda.gov/webdocs/publications/100501/err-284_summary.pdf (概要PDF)
https://www.ers.usda.gov/publications/pub-details/?pubid=100500

(食品安全情報2021年12号(2021/06/09)収載)


 米国農務省経済調査局(USDA ERS)は、米国の個々の食品由来疾患について原因食品を把握するための新たな調査方法を提案し、散発性の食品由来カンピロバクター症に関する調査によりこの方法を検証した。調査報告書から概要部分を以下に紹介する。


何が問題か

 米国では、食品由来病原体により毎年およそ4,800万人(国民の6人に1人)の患者および155億ドル(2013年ドル換算)を超える経済的損失が発生している。この状況を防ぐ対策を効率的に遂行するため、政府および業界は食品由来疾患の原因食品に関する情報を必要としており、これらの情報が得られる研究分野は「原因食品特定(food source attribution)」と呼ばれる。食品安全・公衆衛生当局は「原因食品特定」のアプローチについて、より広範なポートフォリオを作成するための新しい方法の開発を呼びかけており、これにより、食品由来疾患における個々の食品曝露の経路の重要性をより正確に把握できるようになる。特に連邦政府機関は、既存のデータを最大限に活用して散発性患者に焦点を絞る新たな方法が必要であることを強調している。散発性患者は、大規模なアウトブレイクとは関連していない患者であり、米国の食品由来疾患患者全体の90%以上を占めている。本研究ではHomescan©の消費者の食品購入履歴データを使用し、米国における散発性カンピロバクター症の「原因食品特定」のための新たなアプローチを展開する。このタイプのデータは、これまでに「原因食品特定」の研究で使用されたことはない。食品由来カンピロバクター症の散発性患者の食品曝露の経路はアウトブレイクの患者の曝露経路とは異なる可能性が研究から示されているため、この新しいアプローチをカンピロバクター症の調査で検証することにした。


調査で何が明らかになったか

 消費者の日常の購入品に関する購入履歴データの使用は、個々の食品由来疾患の原因食品の究明に役立つことが明らかになった。

  • 日常の食品購入に関するデータの使用によりカンピロバクター症と食品との関連の推定が可能であることが分かった。
  • 特定の食品の喫食と食品由来疾患との関連を研究する様々な方法により、確証や新しい仮説に繋がる結果などの補完的な情報の提供が期待できる。
 この新しい原因食品特定法による結果は、過去に実施された研究の結果と一致するものとそうでないものがあった。

  • 今回の調査の結果によれば、家庭で調理された鶏肉はカンピロバクター症のリスク因子ではなかった。過去に実施された全米症例対照研究では、飲食店で調理された鶏肉の喫食により散発性の食品由来カンピロバクター症発症リスクが上昇するが、家庭で調理された鶏肉の喫食では同リスクが上昇しないことが明らかになっており、今回の研究結果と一致している。
  • 今回の研究結果では、家庭での喫食用に購入された牛ひき肉およびベリー類はカンピロバクター症発症リスクの上昇に関連する可能性が示唆されており、過去に実施された米国の研究結果とは異なっている。
  • 米国では、気温および季節がそれぞれ独立して散発性カンピロバクター症発症リスクの上昇に関連している。
  • 散発性カンピロバクター症の地理的な偏りは、食品購入・気温・季節性の影響における差異等による調整を行った後も変わらない。

研究はどのように実施されたか

 地域、気温、通年性および季節性効果と併せて、説明変数としてNielsen社のHomescan©パネル登録者による特定食品の世帯別購入データを使用し、食品由来疾患アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)の疾患データについて横断的時系列回帰分析(cross-sectional time-series regression analysis)を実施した。FoodNetは、米国疾病予防管理センター(US CDC)および地理的に異なる代表的な地域10州の州政府によるアクティブサーベイランスプログラムである。FoodNetは、米国内に潜在的に存在する散発性の食品由来疾患に関するデータを得るために最適なデータソースであり、食品由来疾患の症例対照研究で広く利用されている。Homescan©は、米国全域の都市部および農村部に居住する双方の世帯パネルから、自宅用に購入する食品に関するデータを収集している。本調査では、FoodNetおよびHomescan©の両データセットに含まれている行政区の消費者が購入する食品を対象とした。購入されたすべての食品は、カンピロバクター症に関連した食品について過去に実施された調査に基づいて分類した。結果は、カンピロバクター症の日ごとの発生率比(IRRs:incidence rate ratios)として報告された。

 Homescan©は、様々な重量で販売される食肉や生鮮農産物などの食品の購入量に関する情報の収集を2006年に中止したため、本調査は2000〜2006年までのデータのみを使用して実施せざるを得なかった。現在は、Homescan©の後継調査としてIRIが、これらの食品に関しては購入量ではなく支出額についてデータを収集している。ERSは、この支出額データから購入量を推定する方法の開発に取り組んでいる。本研究の主な目的は、食品安全上のリスクに関する理解を深めるために新しいデータソースがどのように役立つかを検討することである。しかし、データの収集時期を考慮すると、最近の食品由来カンピロバクター症のリスク因子を把握するためには本研究の実質的な結果が最も有用であると考えられる。これらの結果は、米国のカンピロバクター症における個々の食品曝露の経路、地域性、季節性および気温の相対的重要性に関する持続的な問題に更なる見識を提供するものである。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部