欧州疾病予防管理センター(ECDC)・欧州食品安全機関(EFSA)からのカンピロバクター関連情報
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欧州連合(EU)域内のヒト、動物および食品由来の人獣共通感染症細菌と指標細菌の抗菌剤耐性に関する年次要約報告書(2018/2019年)
The European Union Summary Report on Antimicrobial Resistance in zoonotic and indicator bacteria from humans, animals and food in 2018/2019
8 April 2021
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/ECDC-EFSA-joint-FWD-AMR.pdf(ECDC報告書PDF)
https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/EU-summary-report-antimicrobial-resistance-zoonoses-2018-2019(ECDCサイト)
https://www.efsa.europa.eu/sites/default/files/2021-04/6490.pdf(EFSA報告書PDF)
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/6490(EFSAサイト)

(食品安全情報2021年15号(2021/07/21)収載)


 報告書の概要部分を以下に紹介する。

 欧州食品安全機関(EFSA)および欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、人獣共通感染症細菌と指標菌の抗菌剤耐性(AMR)について、欧州連合(EU)加盟28カ国から提出された2018〜2019年のデータの解析を共同で行った。ヒト・動物・食品由来の人獣共通感染性のサルモネラおよびカンピロバクター、また動物・食品由来の指標大腸菌およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)について、抗菌剤耐性の解析が行われた。微生物学的耐性の評価には疫学的カットオフ値(ECOFF:epidemiological cut-off values)が使用されたが、一部の加盟国のヒト由来株については、定性的データをECOFFに相当する方法で解釈することによって微生物学的耐性の評価が行われた。

 2019年のヒト由来のサルモネラ属菌ではアンピシリン、スルホンアミドおよびテトラサイクリンへの耐性率が全体的に高かったが、第三世代セファロスポリン系抗菌剤への耐性率は全体的に低く、セフォタキシムは1.8%、セフタジジムは1.2%であった。2015〜2019年には、ヒト由来株のアンピシリン耐性率およびテトラサイクリン耐性率の低下傾向がそれぞれ8カ国と11カ国で認められ、ブタおよび子牛から頻繁に検出される血清型であるSalmonella Typhimurium株とその単相性変異株でこの傾向は特に顕著であった。2018〜2019年の通常モニタリングで動物・食品から分離されたサルモネラ属菌株および指標大腸菌株では、アンピシリン、テトラサイクリンおよびスルホンアミドへの耐性は高頻度で、第三世代セファロスポリン系抗菌剤への耐性はヒト由来のサルモネラ株と同じく稀であった。また、2018年のブロイラー、肥育七面鳥および家禽とたい/肉由来のサルモネラ属菌株および指標大腸菌株では、(フルオロ)キノロン系抗菌剤への耐性率は「非常に高い」〜「高い」レベルであった。2019年にヒトから分離されたサルモネラ属菌株のシプロフロキサシン耐性率は中程度であったが、S. Kentucky株の耐性率は82.1%と極めて高く、S. Enteritidis株の耐性率は2015〜2019年に8カ国で上昇傾向がみられた。これら2種類の血清型は主に家禽に関連している。

 このモニタリングでは、ヒト・食料生産動物・動物とたい由来のサルモネラ属菌株および食料生産動物由来の指標大腸菌株について、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)/AmpC/カルバペネマーゼ産生推定株の評価が行われている。報告を行っている加盟国全体でのESBL/AmpC産生推定株の割合は、動物(肥育ブタ、子牛、ブロイラー、肥育七面鳥)由来のすべての指標大腸菌株の中では「低い」レベルで、動物/とたい(ブロイラー、産卵鶏、肥育七面鳥、肥育ブタ、ブロイラーと肥育ブタのとたい)由来およびヒト由来のサルモネラ属菌株では「非常に低い」〜「低い」レベルであったが、一部の血清型のサルモネラでは比較的高かった。通常(非選択培地)および特別(選択培地)のモニタリングで、ESBL/AmpC産生推定株の出現率/汚染率は報告国によって様々であった。2019年、カルバペネマーゼ産生性大腸菌が、加盟4カ国の肥育ブタ由来の5検体、加盟1カ国のブタ由来食肉の1検体および非加盟1カ国のウシ科動物由来食肉の1検体から検出されたが、2株は確認が必要であるため暫定的結果である。2018年は、カルバペネマーゼ産生性が推定または確定のいずれの大腸菌もブロイラーとその食肉から検出されなかった。カルバペネマーゼ産生性のサルモネラ株は、2019年は複数のヒト患者から確認された1株(国内感染患者1人から分離され、blaOXA-48を保有しているS. Typhimurium var. O5-)のみで、2018年は5株であった。

 コリスチン耐性は、食料生産動物(肥育ブタ、子牛、ニワトリ(Gallus gallus)、肥育七面鳥)およびこれらのとたい/食肉由来のサルモネラ属菌株および大腸菌株では稀であったが、一部の血清型のサルモネラに中程度の耐性率がみられたことが注目された。

 ヒト・食料生産動物・家禽肉由来のカンピロバクター株では、シプロフロキサシンおよびテトラサイクリンへの耐性率は概して「高い」〜「極めて高い」レベルであり、ヒト・家禽・家禽肉由来のCampylobacter coliで特に高かった。エリスロマイシン耐性率はC. jejuniではかなり低かったが、ヒト・七面鳥・ブタ由来のC. coliでは中程度であった。ヒト由来C. jejuniでは、シプロフロキサシン耐性率が2015〜2019年に9カ国で上昇し、一方、エリスロマイシン耐性率が5カ国で低下した。カンピロバクター症の治療に極めて重要と考えられるシプロフロキサシンおよびエリスロマイシンへの複合耐性率は、ヒト・家禽・子牛由来のC. jejuniでは概して「稀」〜「低い」レベル、そしてヒト・家禽・ブタ由来のC. coliでは「低い」〜「中程度」レベルであった。注目すべきは、一部の国におけるシプロフロキサシンおよびエリスロマイシンへの複合耐性率が、家禽由来C. jejuniおよび家禽・ブタ由来C. coliで「中程度」〜「高い」レベル、ヒト由来C. coliで「高い」〜「極めて高い」レベルであったことである。

 極めて重要な抗菌剤への複合耐性は、ヒト・動物由来のサルモネラおよび大腸菌では稀であったが、一部の血清型のサルモネラでは多剤耐性率が「非常に高い」〜「極めて高い」レベルであった。ブロイラーとそのとたい由来の多剤耐性サルモネラ属菌の多く(それぞれ79%、75.3%)がS. Infantisであり、肥育ブタとそのとたい由来の多剤耐性サルモネラ属菌のそれぞれ56.5%と56.4%が単相性S. Typhimuriumであったことに注目すべきである。また、2019年のヒト由来と2018年の家禽由来のサルモネラ株の多く(それぞれ92/106、180/252)を占めたS. Kentuckyがシプロフロキサシンへの「高い」レベルの耐性率を示し、いくつかの株が第三世代セファロスポリン耐性を示した。

 2018〜2019年の食品および健康な動物由来のMRSAに関する任意のモニタリングにより、タイピング結果が得られたMRSA株の多くが家畜関連(LA-)MRSAであることが判明した(2018年は97.6%、2019年は98.2%)。しかし、市中関連(CA-)および医療関連(HA-)として分類されたMRSAのspa型や、mecC遺伝子(メチシリン耐性遺伝子mecAの変異型)を保有するMRSAのspa型が報告された。主にヒトと関連するCA-MRSAおよびHA-MRSAの系統が時々検出されることがあり、これはヒトと動物の間で菌株の交互の伝播が散発的に発生するためと考えられる。このモニタリングの重要な結果として、cfr遺伝子を保有するリネゾリド耐性株が2019年に肥育ブタから検出されたことが挙げられる。リネゾリドはヒトのMRSA感染症の治療に重要な薬剤であるため、リネゾリド耐性が広く存在しているか、あるいは動物のMRSAに限られているのかを確認することは非常に重要度が高い。また、2019年にブタ肉および牛肉からCA-MRSA USA300と考えられる株が検出されたが、この株はヒトの重度の感染症の原因となる可能性があり、疫学的性質がHA-MRSA株と大きく異なることから、これも重要な結果である。

 食料生産動物におけるAMRへの取り組みの成果についても、大腸菌に関する統一パネルの抗菌剤すべてに対する感受性およびESBL/AmpC産生性大腸菌の罹患率を成果指標として、2015〜2019年に詳細な解析が行われた。この2つの成果指標の値は報告国によって大きな差がある。食料生産動物におけるESBL/AmpC産生性大腸菌の罹患率については、14カ国(加盟13カ国、非加盟1カ国)で統計学的に有意な低下傾向がみられ、さらに別の加盟2カ国で2015〜2017年に比べて低下が始まっている。統一パネルの抗菌剤すべてに対する感受性については、11カ国(加盟9カ国、非加盟2カ国)で食料生産動物由来の指標大腸菌で統計学的に有意な上昇傾向がみられ、さらに別の3加盟国では2015〜2017年に比べて上昇が始まっている。これらの成果指標は、食料生産動物におけるAMRの低下が複数の加盟国でここ数年間にある程度順調に進んでいることを示している。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部