ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)からのカンピロバクター関連情報
https://www.bfr.bund.de/


PAC-CAMPYプロジェクト:実際の農場環境におけるカンピロバクター低減のための戦略
Project PAC-CAMPY: Strategies to combat Campylobacter in a practical test setting
30 March 2021
https://www.bfr.bund.de/cm/349/project-pac-campy-strategies-to-combat-campylobacter-in-a-practical-test-setting.pdf

(食品安全情報2021年15号(2021/07/21)収載)


 カンピロバクター(Campylobacter jejuni)は、ヒトの腸管感染症で依然として最も多く報告される病原細菌である。カンピロバクター感染の予防、管理および治療のためには新たな戦略が必要である。One Healthアプローチによるカンピロバクター感染の予防・制圧のための研究プロジェクト「PAC-CAMPY(Preventing and Combating Campylobacter Infections: a One Health Approach)」(http://www.pac-campy.de/index.html)は、この新たな戦略に焦点を置くものであり、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)はこれに参加している。本プロジェクトでは、実際の環境を重視した第二段階の調査がすでに始まっている。前段階では、カンピロバクターの定着・適応性および可能な低減戦略について2017〜2020年に調査が行われており、今段階ではこの活動が引き継がれる。この第二段階では、第一段階の調査で得られた知見が2022年末までに検証され、一部は「in vivo(生体内で)」の調査が行われる予定である。

 PAC-CAMPYプロジェクトは、家禽生産チェーンの各段階で対策を講じ、カンピロバクターへの曝露機会を減らすことで感染患者数を減少させるという包括的目標を追求するものである。このプロジェクトは、家禽群内および食鳥処理時のカンピロバクターの定着・拡散を抑えることでヒトの感染を低減させることに特に重点を置いている。このため、可能な低減戦略を検討し、環境中での生残を含めたカンピロバクターの耐性を調査する。また、モデル動物としてマウスおよび鶏を使用し、全ゲノムシークエンシング(WGS)法によりカンピロバクターの宿主特異性の解析を行い、C. jejuniが誘発する免疫反応に化学物質が及ぼす影響について調査する。この包括的な「One Healthアプローチ」は、食品由来病原菌としてのカンピロバクターをより深く理解し、動物・環境・ヒトでの汚染率および罹患率をより正確に把握するために大きく寄与することが想定されている。

 本プロジェクトにはドイツ連邦教育研究省(BMBF)が資金提供し、分野横断的なアプローチが用いられる。種々の任務が含まれるワークパッケージに、様々なプロジェクト協力機関が取り組む。BfRの研究者は、カンピロバクターの遺伝的多様性への遺伝子伝播の影響を調査しており、この遺伝的多様性を抑制することでカンピロバクターの生残性を低下させるための戦略を策定する。遺伝的多様性に関する調査から得られた知見は抗生物質耐性の低減に役立つ可能性がある。また、適応能力による診断方法への影響について、規格基準設定機関に重要な情報が提供される可能性もある。遺伝的多様性が高まっているカンピロバクターについても、カンピロバクターのための国立リファレンス検査機関およびその他の検査機関において確実に正確な遺伝子タイピングを将来的に可能にするため、この情報提供は重要である。

 PAC-CAMPYでの実際の環境で調査を行う段階では、鶏肉中のカンピロバクター定着の低減戦略として認定された手法が検証される。そのためには、持続感染しており感染性は持つものの鶏の体内で定着するほどの増殖能力はないレベルのカンピロバクターを検査する必要がある。協力機関の専門家は、抗微生物物質およびバクテリオファージがカンピロバクターの定着をどの程度低減できるかについても調査している。

 このプロジェクトには、BfRの他に、ベルリン自由大学、シャリテ・ベルリン医科大学(Charité University Medicine Berlin)、ハノーバー獣医科大学、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク、ロベルト・コッホ研究所(RKI)、バイエルン州保健食品安全局などが参加している。

 この調査プロジェクトと並行して、PAC-CAMPYコンソーシアムは、カンピロバクターの生残、ヒトのカンピロバクター症の発現・進行、およびカンピロバクターの制圧が可能な戦略について現時点で得られている知見の状況を書籍としてまとめた。この刊行物は「カンピロバクター感染症への取り組み―One Healthアプローチに向けた戦略(Fighting Campylobacter Infections - Towards a One Health Approach)」というタイトルでシュプリンガー・ネイチャー社から出版されている(以下Webページ参照)。
https://www.springer.com/gp/book/9783030654801



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部