フランス国立衛生監視研究所(InVS)からのカンピロバクター関連情報
http://www.invs.sante.fr/


動物由来食品における微生物学的ハザードのモニタリングと評価
Special issue - Microbiological hazards in food products of animal origin: monitoring and evaluation
Bulletin épidémiologique hebdomadaire
9 May 2012
http://www.invs.sante.fr/content/download/36107/174711/version/3/file/beh_hors-serie_2012.pdf(PDF)
http://www.invs.sante.fr/Publications-et-outils/BEH-Bulletin-epidemiologique-hebdomadaire/Derniers-numeros-et-archives/Archives/2012/BEH-Hors-serie-2012

(食品安全情報2012年12号(2012/06/13)収載)


 フランス国立衛生監視研究所(InVS)が発行している疫学週報(BEH)の2012年5月9日号は「動物由来食品における微生物学的ハザードのモニタリングと評価(Microbiological hazards in food products of animal origin: monitoring and evaluation)」を特集しており、これよりカンピロバクターおよびリステリアに関する一部の論文の要旨(英文)を以下に紹介する。


○フランスのカンピロバクター感染症のサーベイランス(2003〜2010年)
Surveillance of human Campylobacter infection in France, 2003-2010

<序論>
 フランスでは、任意参加の検査機関からなるネットワークによりヒトのカンピロバクター感染症のサーベイランスが行われている。このサーベイランスにより、カンピロバクター感染症の疫学的特徴の追跡、アウトブレイクの検出、およびカンピロバクターの抗生物質耐性の把握が可能となっている。

<方法>
 カンピロバクター症例は、生物学的サンプルからカンピロバクターが分離された症例と定義される。任意参加の検査機関は、種の同定および抗菌剤感受性の評価のためにカンピロバクター分離株をカンピロバクターおよびヘリコバクターのためのフランス国立リファレンスセンター(NRC)に送付する。

<結果>
 NRCが1年間に受け付けた分離株数は、2003〜2010年に97%増加した。症例の年齢中央値は24歳(年齢範囲は1カ月未満〜100歳)であった。平均すると、毎年、症例の25%が6歳未満の小児で、分離株の45%が6〜9月に分離されていた。分離株のキノロン系抗生物質への2010年の耐性率は、Campylobacter jejuniで49%、C. coliでは79%であった。

<結論>
 2003〜2010年のサーベイランスデータから、カンピロバクター症例の2003年以降の増加、症例数の夏季における顕著なピーク、およびキノロン系抗生物質への高い耐性率とその上昇傾向が明らかになった。


○フランスの家禽、ブタおよびウシから分離されたカンピロバクター株の抗菌剤耐性
Antimicrobial resistance of Campylobacter strains isolated from animals (poultry, pig, cattle) in France: major trends

 動物由来のカンピロバクターの抗菌剤耐性のモニタリングは、2000年以降、フランス農業省(Ministry of Agriculture)の食品総局(General Directorate for Food)が主導し、食品環境労働衛生安全庁(ANSES)の検査機関が家禽類、ブタおよびウシで実施している。Campylobacter jejuniおよびC. coliがとちく場で動物検体から分離・同定され、重要な抗菌剤に対する最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration)が測定される。家禽由来株では、マクロライド系抗菌剤への耐性はC. jejuniではほとんど見られず、C. coliでも耐性率は各年20%未満であるが、フルオロキノロン系への耐性率は単調増加し、2010年にC. jejuniでは51%、C. coliでは70%近くにまで達した。ブタ由来株では、2009年にC. coli分離株のシプロフロキサシンおよびエリスロマイシン耐性率がそれぞれ34%および45%であった。ウシ由来株では、2002〜2006年にフルオロキノロン系への耐性率が29.7%から70.4%へと急激に上昇した。ゲンタマイシン耐性はこれらのいずれの動物由来株でもほとんど見られていない。本モニタリングデータの詳細は、人獣共通感染症細菌と指標細菌の抗菌剤耐性に関する欧州の年次報告書に収載されている。


○フランスのリステリア症サーベイランスの結果(1999〜2011年)
Surveillance of human listeriosis in France, 1999-2011

 ヒトのリステリア症は届出義務のある細菌性食品由来疾患である。地域の公衆衛生当局によって食品喫食歴に関する聞き取り調査が実施され、その結果がフランス国立衛生監視研究所(InVS)に送られる。パリのパスツール研究所にある国立リステリアリファレンスセンター(NRCL)も、病院の検査部門から送付された分離株について性状解析や遺伝子タイピングを行うことによってサーベイランスに貢献している。このタイピングの結果は、同じ遺伝子型の株に感染した患者の迅速な特定や、それらの患者への聞き取り調査の結果の分析によりInVSが共通の原因食品を探索するのに役立つ。疑いのある共通の原因食品については、フランス農業省(Ministry of Agriculture)の担当部局が調査を行う。2001年以降、調査により共通の原因食品が特定されアウトブレイクの拡大が阻止された事例が6件あった。2006年以降、フランスのリステリア症の罹患率は人口10万人あたり約0.5で比較的安定しており、リステリア症による年間の平均の死亡者数は50人、死産は約12件である。母親から新生児への感染(maternoneonatal)の患者はリステリア症全患者の15%を占め、年間の発生率は新生児10万人あたり5人であった。大多数の欧州諸国のリステリア症罹患率は2007年以降ほぼ一定の水準を保っているが、フランスのリステリア症罹患率もこれらの国と同レベルである。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部