アイルランド保健サーベイランスセンター(HPSC Ireland)からのカンピロバクター関連情報
https://www.hpsc.ie


2011年のカンピロバクター症届出数の増加:データの初期分析結果
Increase in Campylobacter notifications during 2011: preliminary analysis of data
Epi-Insight, volume 13 issue 3, March 2012
http://ndsc.newsweaver.ie/epiinsight/3knwjwjlmu3?a=2&p=21897265&t=17517804

(食品安全情報2012年6号(2012/03/21)収載)


 アイルランドでは、感染症に関する法令にもとづいて2004年にカンピロバクター症が届出義務疾患となった。それ以前には、欧州連合(EU)の人獣共通感染症についての規則に従って、検査機関で確定したカンピロバクター感染患者のデータがアイルランド全国から収集されていた(一部の患者は「食中毒(サルモネラ以外の細菌による)」の旧カテゴリーに分類)。

 2011年には、2,440人のカンピロバクター症届出患者がアイルランド保健サーベイランスセンター(HPSC)に報告され、これより粗発生率(CIR: crude incidence rate)は人口10万人あたり57.5であった。この値は2010年から46.9%上昇しており、2009年の欧州全体の粗発生率(人口10万人あたり53.1)を上回っていた。アイルランドでは2010年まで、カンピロバクター症届出患者数の前年比は-8.1〜+6.6%の範囲内で推移していた。

 他の欧州諸国においても最近、カンピロバクター症患者数が増加している。英国では、2004年に44,544人であったカンピロバクター症届出数が2010年には62,684人に増加した。スコットランドでも、届出数が2004年の4,365人から2010年は6,601人に増加している。しかし、EU全体ではカンピロバクター症の粗発生率はほとんど変化していない。

 カンピロバクター症のこの急激な増加を説明するような季節的または地理的な特徴が存在するかどうかを調査するため、アイルランドの届出データの分析を行った。


季節性

 カンピロバクター症の季節変動性はよく知られており、夏季に発生のピークが見られる。アイルランドのカンピロバクター症届出数のピークは通常6〜7月である。2011年では、ピークは例年通り7月にあったが、これ以外の月にもカンピロバクター症届出数の大幅な増加が見られた。

 2004〜2010年の月別届出数の平均値と2011年の月別届出数を比較すると、2011年は2月(54.9%)、3月(72.9%)、6月(76.1%)、8月(52.2%)および11月(52.1%)に50%以上増加していた。

 図は、2004〜2011年のそれぞれの年の月別カンピロバクター症届出数(実線の折れ線グラフ)を2004〜2010年の月別届出数の平均値(点線の折れ線グラフ)と比較したものである。また、2004〜2010年の月別届出数の平均値に対する2011年の月別届出数の増減の割合(棒グラフ)も示してある。

図:月別および年別のカンピロバクター症届出数


年齢および性別分布

 カンピロバクター症はあらゆる年齢グループに発生するが、最も発生率が高いのは0〜4歳のグループである。低年齢小児グループの患者が圧倒的に多いことは本疾患の一般的な特徴であり、欧州全体でも観察されている。欧州で2009年にカンピロバクター症の届出率が最も高かったのは0〜4歳の男児(人口10万人あたり144.3)で、次いで0〜4歳の女児(114.7)であった。

 表は、アイルランドでの2004〜2011年のそれぞれの年の年齢グループ別カンピロバクター症粗発生率(ASIR: age specific incidence rate)を2004〜2010年のASIRの平均値と比較したものである。表には、2004〜2010年のASIRの平均値に対する2011年のASIRの上昇/低下の割合も示してある。

 2004〜2010年のASIRの平均値は0〜4歳のグループ(人口10万人あたり149.1(編者注:原文に誤りの可能性があるため、表の値を使用した。))で最も高く、25〜34歳のグループ(同39.41)がこれに続いた。しかし、2004〜2010年のASIRの平均値と2011年のASIRを比較すると、2011年は5〜14歳(56.3%)、45〜54歳(52.9%)および55〜64歳(59.8%)の各グループで50%以上上昇していた(表)。性別にみると、女性では5〜14歳(59.0%)、45〜54歳(63.3%)および65歳以上のグループ(53.3%)、男性では5〜14歳(56.0%)および55〜64歳のグループ(67.4%)で50%以上の上昇が認められた。

表:年ごとの年齢グループ別カンピロバクター症粗発生率


 2011年にアイルランドで届出があったカンピロバクター症患者の99.9%は検査機関確定患者であった。しかし、現時点ではカンピロバクター分離株のタイピングを日常的に行う国立リファレンス機関が存在しないため、カンピロバクターの種に関する情報は極めて不十分である。2011年は分離株の34.0%(n=830)について種が同定された。同定された830株の内訳は、C. jejuni(93.1%)、C. coli(6.4%)、C. fetus(0.2%)、C. lari(0.1%)、C. laridis(0.1%)であった。全分離株の66.0%(n=1,610)については種が同定されなかった。これは、2009年に欧州で欧州疾病予防管理センター(ECDC)に報告されたカンピロバクター分離株のうち51.8%の種が不明であったのとほぼ同レベルであった。

 2011年にHPSCに報告されたカンピロバクター症アウトブレイクは7件で、患者は全部で16人であり、1人が入院した。この件数は、2004〜2010年の平均的な年間発生件数と同じであった。7件すべてが一般家庭での家族内アウトブレイクであった。このうち3件はヒト−ヒト感染により伝播したと報告されたが、残りの4件は感染経路が不明であった。2009年には欧州16カ国から333件の食品由来カンピロバクター症アウトブレイク(患者1,421人、入院患者97人、死者1人)が報告され、これらは欧州食品安全機関(EFSA)に報告されたすべての食品由来アウトブレイクの6%を占めた。


結論

 カンピロバクター症の増加についてはこれまでいくつかの国で調査が行われてきたが、極めて少ないエビデンスにもとづく仮説(加熱不十分な家禽肉の喫食による説明)以外に増加の説明はされていない。カンピロバクター症発生数の漸進的な増加を説明するために、気候変動から野鳥の渡り経路の変更までさまざまな潜在的な要因が特定されてきた。

 アイルランドでのカンピロバクター症届出数の増加は全般的な現象であり、集団や地域の特定のサブセットに限定的なものでも、それらにおける増加によって説明されるものでもない。特定の人口統計学的グループや特定の地域のみにカンピロバクター症発生率の重要な変化があったというわけではない。

 以前に北アイルランドとアイルランド共和国が共同で実施した症例対照研究では、カンピロバクター症発症に関連する最も重要なリスク因子は、鶏肉の喫食(オッズ比(OR):6.8)、レタスの喫食(OR:3.3)および持ち帰り料理の喫食(OR:3.1)であった。アイルランドの全国レベルで現在見られるカンピロバクター症の持続的で顕著な増加については、これらのリスク因子の少なくとも1つが原因となっている可能性がある。しかし、さらなるエビデンスが得られない限り、原因の明確な特定は不可能であろう。



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部