アイルランド保健サーベイランスセンター(HPSC Ireland)からのカンピロバクター関連情報
https://www.hpsc.ie


アイルランドの2010年の感染症年次報告書:多くの感染症で患者数が減少
Infectious disease figures for 2010 show decline in many common infections (Annual Report 2010)
19 December 2011
http://www.hpsc.ie/hpsc/News/MainBody,13095,en.aspx
https://www.hpsc.ie/abouthpsc/annualreports/annualepidemiologicalreports1999-2016/File,13092,en.pdf(報告書PDF)

(食品安全情報2012年1号(2012/01/11)収載)


 アイルランドの感染症に関する2010年の年次報告書が発表された。そのうち胃腸炎疾患に関する部分を紹介する。

カンピロバクター

 2010年のカンピロバクター症の報告患者数は1,661人、粗発生率(CIR)は人口10万人当たり39.2で、2009年(患者数1,807人、CIR:42.6)より減少した。欧州疾病予防管理センター(ECDC)の感染症年次報告書によると、2008年の欧州のカンピロバクター症のCIRは44.1で、2007年より3%低下した。

 2010年に発生したカンピロバクター症アウトブレイクは2件で、患者20人のうち1人が入院した。1件はホテルで発生した一般アウトブレイクで、食品由来と報告された。もう1件は親戚を含めた家族で発生し、ヒト−ヒト感染と報告された。


クリプトスポリジウム症

 2010年のクリプトスポリジウム症の報告患者数は294人、CIRは6.9で、報告患者の34%が入院した。患者数は2009年より34%減少した。2008年のECDCの報告(最新のデータ)によると、欧州連合(EU)全体での発生率は人口10万人当たり2.44で、クリプトスポリジウム症について報告した国のうちではアイルランドの発生率が最も高かった。2番目は英国で8.1であった。


ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)

 2010年のVTEC確定患者数および疑い患者数は合計199人で、CIRは4.7であった。確定患者数のみでは197人で(CIRは4.7、95% 信頼区間(CI) [4.0〜5.3])、2009年の確定患者数より17%減少した。2010年はnon-O157 VTECの患者が41%を占めた。2009年と比べてVTEC患者数が全体で減少したのは、VTEC O157患者数が30%減少したためであり、non-O157 VTECの患者数は11%増加した。

 2010年に報告されたVTECアウトブレイクは45件で、VTEC患者総数199人のうちアウトブレイク関連患者数は103人であった。アウトブレイクの大部分(96%)は家族アウトブレイクで、一般アウトブレイクは2件のみであった。一般アウトブレイクの2件ともそれぞれ一般家庭および保育施設で発生し、患者数は合計5人であった。1件の感染経路はヒト−ヒト感染で、もう1件は不明と報告された。

 原因株の血清群は全アウトブレイクのうち24件(53%)がO157、16件(36%)がO26、4件(9%)がその他のnon-O157で、1件(2%)は複数のVTECの混合であった。

 ヒト−ヒト感染は特に低年齢の小児の重要なVTEC感染経路である。2010年のVTECアウトブレイクのうち30件(67%)がヒト−ヒト感染によると考えられ、65人がこれによって感染した。

 通常と異なり、2010年のVTECアウトブレイクで2番目に多かった感染経路は動物との接触であり、アウトブレイク4件(9%)に関与したと報告された。

 過去には感染経路として私設井戸の水が多く報告されていたが、2010年に水由来と報告されたVTECアウトブレイクは家族アウトブレイクの1件のみであった。疑われた水からはVTECは検出されなかった。

 これとは別に、その後の調査で水由来であることが示されたアウトブレイクが1件あった。英国のアウトブレイク報告システムに報告された家族アウトブレイクで、アイルランドを訪問して帰国した英国在住の家族2人がVTECに感染した。患者が宿泊した施設の私設井戸の水検体が検査でVTEC陽性となり、その株は患者由来のものと同一であった。

 前年までと異なり、2010年には食品由来のVTECアウトブレイクは報告されなかった。しかしVTECアウトブレイクの1/4以上(n=12)は感染経路が不明であると報告されている。

 2010年には検査機関の職員で、就業中にVTECに暴露した散発性VTEC患者1人が報告された。


A型肝炎

 近年、アイルランドのA型肝炎患者数は少なく、2010年も46人で、50人が報告された2009年と同程度である。粗報告率は人口10万人当たり1.1であった。検査機関確定患者が40人、高度疑い患者が3人および可能性患者が3人であった。


ロタウイルス

 2010年に報告された急性感染性胃腸炎(AIG)の患者数は4,288人であり、CIRは101.2で2009年より1.5%低下した。4,288人のうち2,501人(58.3%)がロタウイルス感染であった。ロタウイルス感染患者のCIRは59.0であり、2009年より5.9%上昇した。


サルモネラ

 2010年のサルモネラ症の報告患者数は356人であった。このうち349人が検査機関での確定患者であり、検査機関で確定されていない疑い患者が7人であった。CIRは8.4で、2009年(7.9)よりやや上昇した。

 2010年のアウトブレイクは16件で2009年と同程度である。アウトブレイクによる患者は87人、死亡者は1人で、入院率は41.4%(n=36)であった。

 家族アウトブレイクは11件で、このうち一般家庭での発生が6件、親戚も含めた家族が3件、旅行関連が2件であった。この旅行関連2件の旅行先はスペインとバハマであった。家族アウトブレイクの感染経路は食品由来が4件、ヒト−ヒト感染が4件、動物との接触が2件で、残りは不明であった。食品由来の4件で疑われた原因食品は未殺菌乳、輸入卵およびケータリング食品であった。動物との接触による2件は両方とも爬虫類との接触であった。

 一般アウトブレイクは5件で、コミュニティ施設での全国的アウトブレイクが2件、旅行関連の全国的アウトブレイクが1件、一般家庭とコミュニティ施設で発生した地域的アウトブレイクが2件であった。

 アヒルの卵に関連してS. Typhimurium DT8の全国的な一般アウトブレイク1件の発生が報告された。患者数は35人で、このうち18人(51%)が入院し、1人が死亡した。この死亡者についてはサルモネラ症が死因とはみなされなかった。患者は、アイルランド健康福祉庁(HSE)が所管する8地域中7地域で広く発生しており、発症日は2009年8月中旬〜2011年2月末であった。記述疫学的および微生物学的エビデンスにより、最も可能性の高い感染源としてアヒルの卵が示唆された。患者の72%がアヒルの卵に暴露していた。追跡調査で複数の産卵アヒル群からS. Typhimuriumが検出され、分子タイピングによると患者由来の株と同じか近縁の株であった。アヒルの卵の小売業者には販売に関する注意事項が配布され、消費者向けの報道発表ではアヒルの卵の適切な取り扱いと調理に関する助言が提供された。農務省は、感染したアヒルの卵に対する販売制限、アヒルの卵の生産業者向けの実施規範の作成、新たな規制の導入(S.I. No. 565 of 2010)、動物疾患法(「Diseases of Animals Act 1966(Control of Salmonella in Ducks)Order 2010」)の導入など様々な対策を実施した。この動物疾患法にはアヒルおよびアヒルの卵のサルモネラ汚染対策の法的根拠が規定されている。

 サルモネラ、赤痢菌およびリステリアに関する国立リファレンス検査機関(NSSLRL)によりS. Javaの一般アウトブレイク1件が検出された。このアウトブレイクでは、2週間に患者4人が発生していた。患者に発症前の旅行歴はなく、感染経路は不明である。

 S. Typhimuriumの一般アウトブレイク1件が発生し、患者は4人でこのうち2人が入院した。患者全員に発症前のスペインへの旅行歴があった。

 S. Montevideoの一般アウトブレイク1件が発生し、確定患者5人のうち2人が入院し、2人が死亡した。1人の死因はサルモネラ症ではなく、もう1人の死因は不明である。このアウトブレイクの感染経路は不明である。

 S. Infantisの一般アウトブレイク1件が発生し、患者15人のうち2人が入院した。このアウトブレイクは、一般家庭のパーティにおけるケータリングの食事が関連した食品由来感染であると報告された。


リステリア

 2010年に報告されたリステリア症の患者数は2009年と同じ10人であり、CIRは0.24(95% CI [0.09〜0.38])で、2009年のEU平均の0.36を下回っていた。


ジアルジア

 2010年に報告されたジアルジア症の患者数は57人であり2009年の61人、2008年の71人より若干減少した。CIRは1.34(95% CI [1.00〜1.69])であった。


エルシニア

 2010年に報告されたエルシニア症の患者数は2009年および2008年と同じ3人であり、全員成人男性であった。うち2人がYersinia enterocolitica感染であり、1人がY. pseudotuberculosis感染であった。


赤痢

 2010年に報告された赤痢感染の確定患者数は60人で、2009年の70人、2008人の75人と同様であった。CIRは1.42であった。入院の有無の記録が得られた45人のうち12人(27%)が入院していた。Shigella sonnei(53%)が最も多く、次いでS. flexneri(35%)が2番目に多く報告された。S. boydiiは2人(3%)、菌種が報告されなかった確定患者は5人(8%)であった。



国立医薬品食品衛生研究所安全情報部