Emerging Infectious Diseases(CDC EID)からのカンピロバクター関連情報
https://wwwnc.cdc.gov/eid/


家禽の殺処分とカンピロバクター症患者の減少(オランダ)
Poultry Culling and Campylobacteriosis Reduction among Humans, the Netherlands
Emerging Infectious Diseases, Volume 18, Number 3, 466-468 (March 2012)
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/3/pdfs/11-1024.pdf(PDF版)
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/3/11-1024_article

(食品安全情報2012年7号(2012/04/04)収載)


 2003年3〜5月、オランダで家禽に鳥インフルエンザ(H7N7)ウイルスのアウトブレイクが発生し、3,000万羽以上が殺処分された。このアウトブレイクおよび殺処分は、オランダ中部の50×30 kmの比較的狭い地域に限定されていた。この鳥インフルエンザアウトブレイクの数年後に、ヒトのカンピロバクター症の罹患率が2003年に低下していたことと、その低下のレベルが地域によって異なっていたことが明らかになった。2003年の鳥インフルエンザアウトブレイクは家禽生産に大きな影響を与えたものであったことから、ヒトのカンピロバクター症の罹患率の低下との関連が示唆された。

 オランダでは、1987年に胃腸疾患病原体に関する検査機関サーベイランスネットワークが発足し、現在15の地域公衆衛生検査機関がこれに参加している。カンピロバクター属菌は1995年4月にサーベイランスの対象に加えられた。

 オランダのカンピロバクター症罹患率は、1996年の人口10万人当り46.4から1999年には38.7に低下したが、その後2001年に44.3、2002年には40.8に上昇した。2003年は33.3に低下したが、2004〜2008年は再び40.0〜43.8へと上昇した。

 オランダのカンピロバクター症報告患者数は2003年3月には予測値に比べ30%減少し、同12月には19%減少していた(図1)。

図1:カンピロバクター症患者の週ごとの報告数(オランダ、2002〜2004年)


 2003年3〜12月の間のカンピロバクター症報告患者数の減少の程度は地域公衆衛生検査機関によって著しく異なっており(10〜70%減少)、最も減少幅が大きかったのは家禽の殺処分が行われたオランダ中部地域の検査機関においてであった(図2、3)。殺処分が行われた地域の検査機関の結果をまとめると、2003年5〜12月にこれらの検査機関から報告されたカンピロバクター症患者の数は、予測より44〜50%低い値であった。

図2:公衆衛生検査機関の管轄地域別に表示したカンピロバクター症報告患者数の減少(オランダ、2003年3〜12月)

図3:オランダの全民間家禽農場(5,360カ所)。2003年の鳥インフルエンザアウトブレイクでの汚染農場は黒点で、非汚染農場は黄色の点で示す。


 殺処分が実施された地域には大規模および小規模の食鳥処理場が1社ずつあり(前者は2カ所に施設を保有)、これら2社合計のブロイラー処理能力はオランダ全体の15%を占めていたが、殺処分の実施中(3〜6月)は施設を閉鎖せざるを得なかった。

 家畜・食肉・鶏卵生産者委員会(Product Boards for Livestock, Meat and Eggs)から提供された全国および4地方別の家禽肉販売データを用いて、2002年と2003年のブロイラー肉の販売量を比較すると、2003年3〜10月の販売量は2002年に比べて全国的に減少しており、5〜6月(-9%)の減少幅が最も大きかった(表)。地方別での減少幅は-12%以内に収まり、最も大きな減少幅を示した地方は殺処分が行われた地域と概ね一致するかその近隣であった。販売量は2004年には通常レベル(85,165 トン【編者注:原文にはkgと記載されているが、表からトンの間違いと思われる】)に戻った。

表:オランダ全国および4地方別のブロイラー肉販売量の推移(2002〜2003年)


 ヒトへのカンピロバクター属菌の散発的感染では、一般に家禽肉の喫食と家禽への直接接触が主要なリスク因子であると考えられている。今回のオランダの調査では、カンピロバクター症患者数の減少が最も大きかった地域は、殺処分が実施され食鳥処理場が閉鎖された地域とほぼ一致していた。これらの地域はまた、家禽肉の販売量の落ち込みが最も大きい地域でもあった。しかし、販売量の落ち込みはカンピロバクター症患者数の減少に比例しておらず、また、カンピロバクター症患者数の減少は少なくとも2003年末まで続いたにもかかわらず、販売量の落ち込みは6月を過ぎると急速に回復した。さらに、殺処分は主に産卵鶏(54%)で実施され、ブロイラーの殺処分は殺処分全体の8%のみであった。オランダでは、廃鶏(生産能力がなくなった産卵鶏)は生鮮食肉として喫食されることはない。

 ヒトのカンピロバクター属菌感染の環境由来の経路についてはまだよく分かっていないが、農村地域ではこれが主要な経路となっている可能性がある。種々の情報を総合すると、家禽農場や食鳥処理場による環境汚染の減少と、当該地域におけるカンピロバクター症患者数の減少との間に因果関係が存在するという仮説が考えられる。本事例においては、食鳥処理場が閉鎖され、また、家禽農場も消毒後、閉鎖され、厳格な衛生管理下にある者を除いて立ち入り禁止であったため、カンピロバクター属菌の環境負荷に関して一時的にその低減が達成されていたと考えられる。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部