Emerging Infectious Diseases(CDC EID)からのカンピロバクター関連情報
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カンピロバクター症対策の実施後にギラン・バレー症候群の患者数が減少(ニュージーランド、1988〜2010年)
Declining Guillain-Barré Syndrome after Campylobacteriosis Control, New Zealand, 1988-2010
Emerging Infectious Diseases, Volume 18, Number 2 - February 2012
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/2/pdfs/11-1126.pdf(PDF版)
https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/18/2/11-1126_article

(食品安全情報2012年4号(2012/02/22)収載)


概要

 ギラン・バレー症候群(GBS:Guillain-Barré syndrome)の発症前には、カンピロバクター属菌の感染が見られることが多い。そこで、ニュージーランドで、カンピロバクター症罹患率の明らかな上昇とその後の下降に伴ってGBSの罹患率が推移してきたという仮説を立て、GBS入院患者、カンピロバクター症入院患者、およびカンピロバクター症届出患者についての1988〜2010年のデータをレビューした。

 1980〜2006年の間、ニュージーランドのカンピロバクター症罹患率は徐々に上昇した。2006年のカンピロバクター症の届出率(人口10万人当たり379)は、ニュージーランド全国を対象とした届出率として文献に報告された最も高い値である。この高い罹患率を受けて、家禽肉のカンピロバクター属菌汚染を低減するため、2006年にニュージーランド当局は自主的および強制的な数々の対策を導入した。その結果、カンピロバクター症の届出率は2008年に人口10万人当たり157に低下し(2年間で59%低下)、この低下傾向はその後も継続している。

 GBSの入院率は、カンピロバクター症届出率と有意な正の相関を示した。またカンピロバクター症の入院患者は、その入院の翌月にGBSで再入院するリスクが他の疾患と比較して大幅に高かった。生鮮家禽肉のカンピロバクター属菌汚染の低減対策が成功裏に実施された後の3年間(2008〜2010年)では、カンピロバクター症届出率は2002〜2006年に比べ52%低下し、GBSの入院率は13%低下していた。


結果

GBS罹患率

 GBSは重篤な疾患で、ほとんどの場合入院を必要とするので、ここではGBS罹患率の推定のために利用し得る最も正確な手段として入院データを用いた。

 1988〜2010年に記録されたGBSによる初回入院は2,056件で、人口10万人・年当たりの平均入院率は2.32であった。調査対象期間を通して入院率は一定ではなかった(図)。入院率の最低は1989年の1.53で、最高は2005年の2.93であった。1989〜2008年に記録されたGBSによる死亡者数は計56人で、致命率は3.0%(患者1,873人中 死亡者56人)であった。

図:ギラン・バレー症候群(GBS:Guillain-Barré syndrome)の入院率とカンピロバクター症の届出率の推移(ニュージーランド、1988〜2010年)

* 人口10万人当たり


GBSおよびカンピロバクター症の罹患率の推移

 ニュージーランドでは1980年以降、カンピロバクター症は届出義務疾患の1つとなっている。診察した医師は、カンピロバクター症のすべての確定および疑い患者を地域の保健医務官に届け出なければならない。 

 1988〜2010年にわたり、GBSの年間入院率とカンピロバクター症の年間届出率との間には有意な正の相関が見られた(Spearmanの順位相関係数[・] = 0.52、p = 0.012)。1988〜2006年の間は、カンピロバクター症届出率およびGBS入院率が共に上昇した(図)。その後、カンピロバクター症届出率は顕著に低下し、GBS入院率も小幅ながら低下した。カンピロバクター症届出率の低下は、生鮮家禽肉の汚染レベル低減に重点を置いた全国的なカンピロバクター症対策の導入の後に見られた。

 表1は、期間1)カンピロバクター症の罹患率の上昇が公衆衛生上の緊急課題となった2002〜2006年(ベースライン期間)と、期間2)幅広い対策を実施した後の2008〜2010年(対策後期間)の間の変化をまとめたものである。移行期である2007年は除外した。

 対策後期間においては、ベースライン期間に比べカンピロバクター症の届出率および入院率は約50%低下し、GBS入院率は統計学的に有意な13%の低下を示した(率比(RR)=0.87、95%信頼区間(CI)[ 0.81〜0.93])。これよりGBSの約25%がカンピロバクター症の先行発症を原因とするものであることが示唆された。

表1:家禽肉に対するカンピロバクター汚染低減対策の実施前後でのカンピロバクター症とGBSの罹患率(ニュージーランド、2002〜2010年)


カンピロバクター症およびその他の疾患で入院した患者におけるGBS

 1995〜2008年にカンピロバクター症で入院した患者8,448人のうち35人はGBSでも入院していた。35人のうち29人については、退院記録にGBSとカンピロバクター症の両方の診断名が記載されていた。残りのうち5人は、カンピロバクター症で入院後4週以内にGBSで再入院していた。このデータはニュージーランドでのカンピロバクター症とGBSの因果関係をさらに裏付けるものである。

 カンピロバクター症で入院した患者のコホートとその他の感染性疾患で入院した患者のコホートでGBS入院率をそれぞれ算出し、相互に比較した(表3)。この分析では、ニュージーランドの全人口についてのGBS入院率を年齢標準化率比(age-standardized rate ratio)の算出のための参照値として使用した。

 カンピロバクター症入院患者で、入院後1カ月以内にGBSで再入院した患者についての年齢標準化入院率は10万人・年当たり810.0(95% CI [41.4〜1,578.7])であった。ニュージーランドの全人口についてのGBS入院率を参照値とした時の率比は319.4(95% CI [201.5〜506.4])で、この値はその他の感染性疾患の患者コホートでの値と比べると著しく高かった(表3)。

 GBS患者(年齢中央値52.5歳)は、カンピロバクター症の入院患者(同41歳)やカンピロバクター症の届出患者(同31歳)と比較して年齢層が有意に高かった。カンピロバクター症に関連するGBS患者サブグループの年齢中央値(54歳)は、全GBS患者のそれと類似していた。

表3:カンピロバクター症およびその他の感染性疾患による入院患者で、GBS発症により1カ月以内に再入院した患者の初期疾患別の再入院率と、ニュージーランドの全人口についてのGBS入院率との比較(ニュージーランド、1995年7月〜2008年12月)


考察

 本調査研究により、カンピロバクター症の罹患率低下に成功した食品安全プログラムが、GBS予防という付加的な恩恵をもたらした可能性があることが明らかになった。今回の知見は、食品安全に関わる管理対策に関して、公衆衛生および経済的な観点からの議論を深めることにつながる。



国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部